のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

ハリー・ポッターと呪いの子 学生時代となんら変わらん

こんにちは!

 

インフルエンザにかかってしまい、療養中です。

なので、具合が悪くなる一日前に買った

ハリー・ポッターと呪いの子を読みました。

 

ハーマイオニーは頭が切れるし、

ロンはいい感じに空気を緩めてくれるし、

ハリーは悩んでるし、

ドラコは相変わらずハリーにネチネチ言ってるし、

学生の頃とまるで変わらない(笑)

 

しかもだぜ? 変わらないのは性格だけじゃなく、展開もだった。

 

何か問題が起こって、マクゴナガル先生を困らせて、

禁じられた森へ行くというハリー・ポッターシリーズの

王道パターンを見事に披露していた。

 

こいつら……40代になって何やってんだ……。

 

マクゴナガル先生ももう御年94歳なんだから、

いいかげんいたわってあげてよ。

 

特に今回のハリーのマクゴナガル先生に対する仕打ちは

ひどいものがあった。

 

ハリーの息子であり、主人公のアルバス・セブルス・ポッター

(すごい豪華な名前)

は、ドラコの息子のスコーピウス・マルフォイと仲良し。

 

でも、ハリーとしては自分の息子がドラコの息子と仲がいいことが

面白くない。

 

そこで、忍びの地図をマクゴナガル先生に渡して、

24時間ふたりを監視してください。

もし会っていたら、すぐに引き離して知らせてください。

もしイヤだというなら、魔法省は全力を挙げてホグワーツに圧力をかけます。

 

ハリィィィィィ! マクゴナガル先生をイジめないで!

 

ハリーも魔法法執行部の部長となり、けっこうな権力を持ってるから

恐ろしい。でも息子のことで頭がいっぱいでも、もうちょっと

考えてっ!

 

94歳にもなって元教え子から脅されないといけないとは、

マクゴナガル先生が不憫で仕方なかったよ。

 

 

物語としてはタイムスリップものなので、

オールスター大集合。あの人も「あの人」も出る。

出て欲しいところで出て欲しいキャラが出てくるから気持ちよかった。

 

訳に関しては……

 

ときには代償は支払わねばならぬものだ

 *1

 

ハリーたちがいつまでも変わらないように、

訳者もまた、変わらないのであった。

 

なかなかいいオチでしょう?(笑)

 

最後に、私が作中で一番心に響いた言葉を紹介します。

 

不思議ではないか? 内なるものから何が出るかは

 

リリーと同じ雌鹿の守護霊を出した時の、スネイプ先生の言葉。

スネイプ大好き!!

*1:セブルス・スネイプの言葉から引用

もっとヘミったりスピりたいですね

今週のお題「新しく始めたいこと」

 

新しくってわけじゃないですけど、

もっと自分の霊感を高めて、いろんなアイディアに刺激されて、

物語を作っていきます。はい。(説得力なし)

 

後いま私インフルエンザにかかっています。

読む時はマスクしてください。

最近のインフルエンザはすごいですからね~(精いっぱいのギャグ)

 

 

 

大人になって念願の神棚を設置してからというもの、

いろんなものを視る機会が増えました。

(神棚ってパソコンみたいだと割と思う。失礼かしら)

 

ヘミシンクCDを聴くようになってからはさらにその頻度も多くなり、

ぼくの霊感も少しは上がったようです。

 

人の守護霊が視えたり、生霊というか念に抱きつかれたり、

なんかモフモフしたものに襲われたり、

天使の歌が大音量で聞こえて起こされたり。

 

世の中って、実は思っているよりもずっとずっとファンタジーなんだなって

感じて。

 

こういう風にスピスピ言っていると

まだまだ変な目で見られがちな世の中ですが、

もっとみんなにも視えればいいのに、そう思う。

 

だってさ、日本なんてこんなに神社やお寺がたくさんある国なのに、

なんでみんな視える人には冷たいんだろう?

もっと視える人が増えればいいのにねえ。

 

たまに私も、全部私の妄想なんじゃないかな?

って思ったりするけど、う~ん。

でも体に病気の予兆はないしねえ(じゃ頭の病気か――って失礼な!)

 

とゆわけで! お金に余裕ができたら

ヘミシンクCDのゲートウェイ・エクスペリエンスの続きを買って、

あとは、ラベンダーさんを書いていくということで!

 

なんだ、いつも通りじゃん。

新しい訳じゃないって前置きしましたから!(逆切れ)

Paper Love Story ピアノオリジナル 弾いちゃった♪


Paper Love Story piano original

 

夢なんかどこにあるんだよ! いつもいつも、絶望しかないよ。

ジャンヌ!

 

    ――ラベンダー

 

高校生の時、まだ音楽を先生に習ってもいない時に作った曲です。

ねえラベンダー、ぼくが小説を書くことになるって、君は知っていたの?

歌詞の内容、特に2番の歌詞なんて、もろ『ラベンダーさん』の内容だよね?

今のぼくのためにあるような音楽だと思う。

これってすごい奇跡だよ。

 

 

 

ペーパーラブストーリー

 

偶然手にした本のように 突然現れたきみ

見るものすべての形を変えて はじまるよ物語

 

第1章 きみと出会って 恋に落ちます

第2章 もだえ苦しみ 時が過ぎます

 

甘美なセリフ 叙情的な文章

ただの言葉の羅列じゃないみたいだわ

同じとこを何度も 読み返し次を予想

オチはまだまだ先みたいね

 

薄っぺらい紙のように 今にも破れそうな恋(泣)

いつしかぶ厚い愛になるように めくるめく ページ

 

 

 

にじんで 文字が読めない 何が起こったの?

上げた顔 暗い部屋の中 ひとり取り残され

 

強制送還 立体的な世界

感情を消して決められたことに打ちこむ 来る日も

 

 

 

第3章 白いカラスに カボチャのオバケ

第4章 結ばれますよ 感動のフィナーレ

 

オーケストラの 魔笛が響く

いよいよ舞台も佳境に来たみたいね

森、海、砂漠の先の 社交界へ行くの

そーゆう壮大なスケールなの!

 

全世界が待ち望んでいる 完全無欠の大長編

続きを書くのはいつでも私! 思い通りのはず!!

 

 

 

大事なところが白紙なの ここから先がわからない

行き詰った時思い出すキャラは いつも きみ

だから!

 

起承転結を超えて今 新たに始まるラブストーリー

ハラハラドキドキワクワクするよ フィクション じゃあありません

作者の 実体験

第22輪 ペパーミント

だいたい、なんであんな柑橘野郎が人気なんだ?

すぐにでもこのイングランドで一番の精霊になってやるさ!

 

           ――ペパーミント

 

スーツ姿のペパーミントの写真

 

意識を取り戻すと、オレは炎の海の中に沈んでいた。

原子爆弾とまではいかずとも、ダイナマイトの火力でこの威力。

火のエネルギーは好物だが、こんなネガティブなエネルギーは

食えたものじゃない。

霊体がそわそわする。

消えかけのホログラムのように不安定なオレの体は、

上の次元まで飛んで行ってしまいそうな浮遊感を持っていた。

おそらく魂に少し傷が入っている。

辛い。息がしづらい。不快な振動数で体が震えている。

とっさに香りと念で防御できたから良かったが、

もっと傷が深かったら死んでいた。

最悪転生ができなくなっていたかもしれない。

 

(魂に深い傷ができたり壊れたりすると、

転生自体が難しくなってしまう。魂を破壊するエネルギーは

いろいろあるが、代表的なエネルギーは

核やマイナデスアルコール、深い怨念だな。

死んでまで魂の治療に苦労したくはないし、死ぬときは健康に死にたい

by オレンジ)

 

周りを見ると、サンタたちは……。いなくなっていた。

オレの周りでは黒いドロドロした液状のものがいくつも動いている。

いや、まて。……もしやアレか?

サンタたちはもともと、だいぶ体をマイナデスアルコールに侵されていた。

霊として体が半分機能していない状態で、あんな大爆発に

巻き込まれたら、モロにダメージを食らう。

それにしても……おぞましい光景だ。あれは、おそらく生きてはいるだろうが、

ちゃんと転生できるのだろうか?

あのまま死ぬこともできず生きながらえるのだとしたら、

かなり酷だ。

 

オレは考えるのをやめた。あの黒い液状のものに意思や思考があるとは思えない。

もしかろうじて感情があったとしても、あまり考えたくはない。

ただ、自分がああならなくてホッとする。

 

――三太は!?

 

まさか三太もあのどろどろに!?

「三太ァ! 生きてるか!」

炎の中で三太に呼びかけるが、返事はない。

この炎はキツい、今の調子だと持ってあと数分が限界だろう。

それまでに三太を見つけられるか……?

 

アロマ連合のナイトとしての立場。残りわずかな体力。サンタ界の現状。

いまサンタ界の現状を知っていて、ジジイに連絡できるのはオレだけだ……。

 

オレは姿を変えた。残りのわずかな体力を振りしぼって、ハヤブサになった。

ハヤブサは炎の海の中を突っ切って、薄暗い森に出た。

オレは三太を見捨てたとは思わなかった。

しょうがない。

いま一番マズいのは、このサンタ界の現状を外に伝えられないことだ。

三太を助けてオレもおだぶつじゃ、それこそ敵の思うツボだ。

 

そもそも三太は頭がおかしい。

だってサンタ界がこんな悲惨なことになっちゃっているのにもかかわらず、

いまだ世界機密の情報が知られたらマズいなんて言って、救援を求めないのだから。

頭がおかしい。

読者のみんなもそう思うだろ?

さっき見たところ、もう正気を保ったサンタはいなさそうだ。

このマイナデスアルコールの濃度から、おそらく全員頭がおかしく

なっているにちがいない。

こんなサンタ界だったらいくらでも情報や機密文書なんて盗み放題だろ?

それだったらとっとと救援を呼んで、サンタ界を早く立て直して

ガードを強くしたほうがいいだろうに。

今の時点で情報が盗み放題なのに、救援を呼ばないなんておかしすぎる。

ひょっとしたら、三太自身が植物至上主義者だったりしてな。

だれが根でつながっているかなんてわからないし、もしこれが

ミステリーだったら、ありがちな展開だろ?

 

オレはハヤブサの姿から元の姿に戻り、

スマホを取り出してジジイに連絡しようとしたが、

呼び出しボタンを押そうとしたところで……。

 

(ジジイというのはアロマ連合のお偉いさんで、

オレの師匠をふてぶてしく名乗る傲慢な青年だ。

一見若々しい姿をしているが、その実老成していて、

第六文明期でかの『ガソリンツリー』との雌雄を決した戦いは

映画化もされている。会うたびに決闘を申しこんでいるが、

いまだに勝てた試しがない。おいぼれのくせに。

ちなみに部屋のドアを破壊されるとものすごく怒る

by オレンジ)

 

指に、力が入らない。押そうとしても、見えない壁に

ジャマされているみたいに指が進まない。

 

……。

 

そうだ! 礼名契約だ! あの厄介な契約を解除しない限り――

あるいは三太に許可をもらわないと、救援を呼ぶことができない!

いや――もし三太が死ねば……。

契約自体が反古になる。

 

オレだってできることなら三太を助けたい。

結局オレたちはニンゲンの奴隷だ。

精霊として、大人ぶって好き勝手やっているニンゲン共を導く役割を持ってはいるが、

どう生きるのかなんてニンゲンの勝手だ。オレたちは強制はできない。

サンタ共だって、心の中では反ニンゲン派のやつなんてたくさんいるだろう。

それなのに、欲しがるばかりで何も還元しないニンゲン共にせっせと

プレゼントを作って渡さないといけないなんて……。

オレだったら、維管束が煮えくりかえる想いだ。

三太なんて見た目からしてマジメだから、きっと苦労が絶えないだろうな。

ニンゲンの奴隷としてあと何千年も働くぐらいだったら、

いまここで死んだほうが幸せだろう。

それに、契約も反古になる。そうすれば救援を呼べるし、オレが

ラベンダーの部屋に侵入した事実もバレない。

 

……いかん。オレは手で額を押さえた。

どうやらオレも、マイナデスアルコールに体が蝕まれてきているようだ。

三太をいますぐ探しに行こう。 

 

オレは炎の中に飛びこんだ。三太はどこにいる?

 

そもそも、こんな魔界みたいになったサンタの国を

オレと三太とマノンの3人だけで救うこと自体、最初から無理がある。

サンタ共は全員半狂乱状態で、敵みたいなもんだ。

おまけに不気味な生き物もいるし、いろいろとヤバそうな次元だ。

 

サンタ界がこんな事態になっていると知っていたら、絶対に来なかった。

ラベンダーに変態扱いされたほうがまだ楽だ。

 

頭が痛い、視界がかすんで霊視もうまくできないし、何より体がブレる。

自分が動かそうと思っていない方向に、時々手足が動いてしまうことに、

マイナデスアルコールのヤバさを実感した。

 

炎の中やみくもに走っていると、オレは三太を発見した。

三太は仰向けになって倒れていた。

また子供の姿になっている。直撃を喰らったようだった。

「おい、三太」

ひどい傷だ。皮膚は赤黒く焼けただれ、顔が顔の形をしていない。

体が少し溶けている。

三太を見つけて安心したせいか、オレのひざはガクリと崩れた。

力が入らない。呼吸をする度に体内にマイナデスアルコールが

入ってきて、体を蝕んでいく。

もう、三太を背負ってここから脱出するのも無理なようだ。

 

オレと三太はここで死ぬことになるだろうが、

かわいそうなのはマノンだ。

自力で人間界に帰っていくのは難しいだろう。

さっきから姿が見えないが、無事だろうか。

だいぶ離れたところで様子をうかがっていたのは覚えているが、

爆発後はどうなったんだ?

 

オレは自分の選択のミスに気づいた。

三太を助けようと炎の海に飛びこむよりも、

マノンにスマホを渡しておくべきだった。

 

あぁ、もっといっぱい女を抱くべきだった。

あの子もあの子もあの子も、まだ落としていない子が

たくさんいたのになぁ。

 

死ぬ間際に後悔すると、たいていロクなことにならない。

オレは最期の体力を使ってオレンジの香りを空間に

響かせた。

 

暖かくて、冷たい心を溶かすような甘い香りだ。

 

不安が少しだけ薄らぐと、オレは目をつむった。

奴隷仲間同士、仲良く行こうぜ。

小さなサンタよ。

 

頭に歌が聞こえた。メロディーが流れてくる。

どうやら、死後の次元がオレたちを受け入れようと

門を開けたらしい。

 

 

 

冥府の門は開かれた。

湯を沸かせ、料理を運べよ彼の地へと

針が12を刺した時

赤いザクロは地に落ちる

行く年くる年四季折々

 

ちがう、これは詠唱だ!! 誰かが唱えているんだ!

 

「『社交の草』の名において命ず――整えよ」

 

緑色の風が颯爽と新鮮な空気と霊気を運ぶと、

大火事は消え、荒れた土地に命が芽吹いた。枯れ木は花を彩り始める。

 

オレの体と三太の体に霊気が入り、良質なエネルギーが体内で循環を始めた。

助かった! もう少しで宇宙に召されるとこだった!

周りの魔界みたいな世界が、人間界程度にはマシな光景になった。

 

「どうしたオレンジ、らしくないね。

オレンジ伝説はもうおしまいかな?」

 

この嫌味の効いた上流階級風の香りは、間違いない。

やつだ!

 

「ちょっと見ない間にずいぶんと力をつけたな」

「君はちょっと衰えたんじゃない?

これでナイトなんでしょ? 僕がアロマ連合のマスターになる日も

そう遠くないね」

「おい、年上に向かって失礼だぞ!」

「僕のほうが年上だ」

「嘘つけ!」

「僕は大人だけど、君は子供じゃないか」

「姿の話だろ!」

 

まったく、相変わらず口が減らない……。

頭に草冠を被った薄緑色の髪の男性は、

高級なスーツで身を包んでいた。

 

「ペパーミント、どうしておまえがここにいるんだ?」

第21輪 不穏な影

ねえ君たち、その話くわしく教えてくれない?

ぼくのおじいさまが、本物のハーデスじゃないって?

 

          ――ペパーミント

 

休暇中のハーデス

 

魂が燃え上がるような轟音が鳴り、大爆発が森を飲みこんだ。

マノンは爆風で吹き飛ばされていた。

 

体が熱い! 心が痛い!

 

乱れる大気の中、

マノンは落ちないように翼を広げて気流に乗ろうとしたが、できなかった。

激しい風の中では無理に翼を広げようとすれば折れてしまう。

 

そのまま弧を描いて落下したマノンは運悪く背中から

大木の幹にぶつかった。背骨から全身に激痛がと痺れが走り、目がかすむ。

それでもなんとか枝にしがみつくことができたのは、

奇跡だった。

 

マノンが痛みと身体にたまった熱でぐったりしている間も、

森の遠くでは炎が大英帝国のように領地を広げていた。

 

だが、いまのマノンにはそんなことはどうだってよかった。

森が燃えようが、オレンジや三太がどうなろうが、関係ない。興味がない。

 

マノンはやる気が急速になくなるのを感じた。

生きる気力がなくなっていくのが自分でもよくわかった。

 

人間界を救うため、第一次世界大戦のような事態を防ぐために、

こうして幽体離脱をしてサンタ界へやって来たのに

自分は役に立つどころか、足手まといになっていることが悔しかった。

いまだって、オレンジと三太の戦いを空から見ていただけで、

何もできなかった。

ラベンダーとの秘密の特訓中、ラベンダーはわたしにこう言った。

――あなたには才能がある

あのときは浮かれていた。いい気になっていた。

でも、嘘だった。

わたしには才能なんかない。才能ってなに?

霊が視えたり、幽体離脱ができるニンゲンは少ないけど、

上の次元じゃみんな当たり前にできる。

素晴らしい才能があると思ってた。

でも、実際はオレンジの役に立つどころか、足を引っ張ってばかり。

敵が襲ってきたとき、人質に取られたりしたら?

わたしのせいでオレンジが死んでしまったら?

ニンゲンだって差別されたくないよ!

ヤダ! しょせんニンゲンだったって、オレンジに思われたくないけど、

でももうオレンジ死んじゃったしなあ。

どうやって家に帰ろうかなー。

 

マイナデスアルコールのネガティブなエネルギーで、

自分の周波数が下がっていることには気づいてるけど、

このままでもいいかなって思う。

だってわたしがいてもいなくても世界は変わらないもん。

マノンはどんどん自分の世界へと引きこもっていった。

森を燃やす炎が愛おしく感じ、きれいだと思った。

葉っぱのついてない枯れ木ばかりの青白い森は、

OBAKEが出そうで不気味だけど、なんだか美しい。

鳥のさえずりの代わりに、音として聞き取れない程のゆがんだギターみたいな

叫び声が酸素みたいに空気に含まれている世界は、

なんだかとっても刺激的で、うっとりする。

空は赤くて、何かの鳴き声がして、胸が冷たく熱い。

ここで暮らせたら、幸せだろうなぁ。

 

マノンがそう思って目をつむったとき、

強い不快感を感じた。

とてもクサイニオイを嗅いでしまったからだ。

魂から虫唾が走る。なんだこのニオイはと、マノンは咳こみだした。

気分はたしかに最悪だった。

しかし、鼻にまとわりついて中々離れないこのしつこいニオイは、

どこかで嗅いだような、ことが――あるような。

記憶の白い海にはひとつの点があるが、小さすぎて見えない。

もどかしいと思う間も、マノンはこのクサイニオイの正体が分からず

イライラした。

木の枝を強く叩きすぎて、マノンの手から血が出た。

鼻からは鼻血も出ていた。

だめ、どうしても思い出せない。思い出さないといけない気がするのに。

とうとう疲れてマノンは思い出すことをあきらめた。

枝の上に寝そべり、遠くで燃える炎をみつめて、

燃やされるって、どんな感じなんだろう。あったかいし、

もしかしたら気持ちいいかもしれないと思ったとき、

 

――オレンジの香りだ!

 

思いだした。

なんでクサいと思ってしまったんだろうと思ったら、

マノンの目から涙が出ていた。

良い香りのはずなのに。クサいと感じてしまった自分の心が恥ずかしい。

生きなきゃとマノンは思った。

自殺願望に駆られる人を見るように、

ニンゲンとして生きるなんてとっても恥ずかしいことだと本気で思った。

でもどうしてか、恥ずかしくても、蔑まれても、生きなきゃと思った。

ラベンダーに会いたい! オレンジに会いたい! パパに会いたい。 

生きる! 生きる! 生きる!

マノンはがんばって念じたが、数回でやめてしまった。

疲れた。メンドくさい。

 

マノンは目をつむった。

息を深く吸えば、とっても気持ちいい空気が肺を満たしてくれる。

オレンジがいなくても、ラベンダーがいなくても、わたしは幸せ。

あの炎に燃やされるって、どんな気分なんだろうな。

オレンジも炎のエネルギーは気持ちがいいって言ってたし、

わたしも燃やされてみたい。

 

マノンは鳥に変身した。

その姿はとても鳥と言えるものではなかったが。

マノンが変身したそれは、

ギリシャ神話に出てくるキマイラのように、いろいろな動物が混ざり合った

よくわからない姿だった。

 

うなり声をあげて大木の枝から飛び立った魔獣は

重々しい動きで炎の海へと飛んだが、

体があまりにも重すぎて、だんだんと降下していった。

地面を歩く姿にはその土地の主のような威厳があり、

途中、顔のない灰色の人間に囲まれて襲われたりしたが、

何でもできる気分になっていたマノンの敵ではなかった。

自分でも驚くほどのパワーを発揮し、マノンは灰色の人間たちをなぎ倒した。

顔のない灰色の人間は身長が2メートル以上あり、全身が灰色の毛むくじゃらだった。

マノンは最後の一体の首を嚙みちぎって頭を投げると、

ふたたび炎の海に向かって歩き始めた。

 

やっと、さっきの大木から歩いて半分ぐらいのところまで来ると、

後ろから何かが飛んでくるのに気づいたが構えた時には時すでに

遅く、緑色の旋風にマノンは吹き飛ばされた。

変身が解けて人間の姿に戻ったマノンは薄れゆく意識の中で、

だれかに後ろから口をふさがれて、ひどくニガい香りを体内にムリヤリ

吸引させられた。

夢の中の養成所。ヘミシンク ナイトスクール

今日わたしはヘミシンクのCDを聞かずに寝たが、

気づいたときにはあるホールの中にいた。

フォーカスレベルだと、どれぐらいなんだろう?

ま、どこでもいっか。

 

ぼんやりとだが、夢の中だとわかった。

ホールの中にはふつうの野球場ぐらい人が多くおり、

みんな紙を持っていた。

 

わたしは列に並んだ。

紙を見ると、

H-324

F-174

C-HGDY

O-F6GH5

 

と数字やアルファベットが書いてあり、意味はよくわからなかった。

しかし、なぜか頭に情報が入ってきて、紙に書いてある一文は

自分のカテゴリーが俳優だと示していることがわかった。

そして、この建物はどうやら養成所のようなところで、

いろんなジャンルの人がそれぞれの教室に行って

指導を受けていることがわかった。

後ろを振り向いていると、ホールの2階以上に

B’zのライブ会場が如く人がいっぱいいて、

わたしの後ろにも人がいっぱい並んでいた。

そして案内係のヒトが、なんと上野くんだった。

上野くんとは中学時代の同級生で、特に仲良しというわけではない、

同じクラスの知り合いぐらいの関係だったのだが、

たまにフッとわたしの夢にひょっこり現れるのだ。

上野くん……。

なんでここで案内係をしているんだろう?

でも彼は3次元でも優秀な人だから、たぶん上でも

見込まれて案内係をしているにちがいない。

 

3次元であまり接点のないヒトでも、上の次元だと意外と

会っていたりするもんなんだな。へ~。

 

そしてわたしの順番がきて、上野くんはわたしに

わたしが行くべき教室の場所を口頭で説明してくれた。

わたしの持つ紙には204~244と書いあった。

どうやらこれが成績らしい。

この成績に見合ったところへ行くらしく、

700以上のヒトもいたので、わたしの成績は低いようだった。残念。

 

わたしは上野くんに何かを質問した。

(起きた直後は覚えていたのだが、忘れた)

 

上野くんは「あー、めんどくせー」とちょっと焦っていた。

このときの雰囲気は険悪ではなく、ほんのちょっとだけ

フレンドリーな言い方で、「あー、めんどくせー」

と言っていた。

いろんな対応に追われ、案内係も楽じゃないなとわたしは思った。

 

それにしても、どうしてわたしは今回、俳優の養成所に行ったんだろうか?

音楽や小説じゃないのかな?

いや、音楽と小説はもうわかるから、演技のやり方を教わりに行ったのかな?

あ! ここがもしかして、ヘミシンクでいうナイト・スクールなのか!!

 

初ナイトスクールだ、ひゃっほ~。

とハシャいでみたけれど、覚えていないだけでたぶん学校自体は

何度も行っているかもしれない。

 

もしかして上野くんは、わたしがこの建物に来ていたことを忘れて

また同じ質問をしたから、「あー、めんどくせー」

と笑っていたのかも。

 

でも、わたしが俳優か~。

ありえないな、と思うけど、もしかしたらあり得るかもしれない。

 

わたしが高校生の頃に作った曲で

『ペーパーラブストーリー』という曲がある。

本が大好きで、小説家を夢見る女の子の曲なのだが、

その曲の歌詞が『ラベンダーさん』シリーズと見事にマッチしているのだ。

 

おまけに、仕事にはなっていないがわたしはあの小説を

短期間で書き上げてしまった。小説なんて書いたこともないド素人だったのに。

誰かが側にいて、ここはこう、あそこはこう、と指導してくれているみたいに

簡単に。

 

『ペーパーラブストーリー』を書いた当時も、

自分にまさか物語が書けるなんて当然思っているわけもなく。

だから、すごい奇跡だと本当に思う。

近いうちに録音して動画サイトにあげようと思う。

そしたら歌詞もこのブログに上げるから、気になる方はぜひ。

 

というわけで、『ペーパーラヴストーリー』は見事に

未来のわたしを一部予知していたわけだ。

(どうせなら全部現実になってほしい……)

 

なのでひょっとすると、未来でわたしは、

何かの形で演技をするのかもしれないなぁ。

 

わっはっはっはっは。

いや、ただの偶然、ただの夢なんて、わたしはもう言えないほど

経験しちゃってるからなぁ……。

 

まあ、楽しいなら、俳優もいいけどね。

第20輪 狂気のサンタ界

連れていってくれるって約束したのになぁ

 

      ――マノン・ガトフォセ

 

ナポレオンの写真

 

血で真っ赤に染まったような服を着たサンタ共が三太を襲っている!

 

なんてこった! マイナデスアルコールが充満してサンタ界は堕ちたんだから、

中にいるサンタだって正気を失っているに決まっているのに。

どうして気づかなかったんだ!

 

三太は現在、サンタ――マイナスサンタとでも命名しようか――に

襲われて、拳や剣を避けるのに精いっぱいだ。

ギリギリのところでかわしてはいるが、三太はまだ大人の姿に変身できるほど

体力が回復していないはずだ。

相手は大人のサンタ共。それも十数人。子供の姿では圧倒的に不利だ。

 

オレは急いで飛んでいき、三太の頭上でナポ公の姿になった。

 

(ナポ公とはもちろん、ナポレオン・ボナパルトのことだ。

なつかしいな、あいつ元気にしてるかな。

昔はピーピー泣いてたひよっこだったのに、

あっという間に立派になって。あいつにレディの扱い方を教えてやったのは

このオレだ。やつはオレさまの女性に対する心得を

みるみるうちに吸収してゆき、見事、オレンジ勲章準2級を受章した。

ニワトリぐらいには成長したんじゃないか。

だがやつは慢心した。最後はケンカ別れになっちまったが、

根は……うーn、人間だな。

ちなみに妻のジョセフィーヌが飼っていたフォーチュンというパグは、

オレと会話ができるほど霊感が強く、いけ好かないヤツだった。

あいつは犬の中でもかなりの悪たれだ! もし人間だったらその悪名は

後世に語り継がれただろうに、残念だ by オレンジ)

 

下降中に火炎玉を作ろうと手のひらにエネルギーを送り込んだが、

途中で気づく。

そうだった、いまこの世界で火はマズい。

ナポレオン・ボナパルトはタッと着地した。

ちょうど三太に殴りかかろうとしていたサンタを踏み倒し

少し背が高くなった皇帝は、無心で隣の三太と目が合った。

 

「……」

「……何してんの?」

「おまえを助けようと思って」

「上から攻撃して蹴散らせば――」

「危ない!」

ナポレオン・ボナパルトの皇帝パンチだ!

喰らえ! 三太の背後から襲い掛かってきたハダカのサンタの

ほおに命中した皇帝パンチ。しかし俺のイメージとはむなしく、

ハダカのサンタはダウンせずそのままオレにつかみかかってきた。

おぉ、こんにゃろ!

倒されたオレはサンタの腹に足を入れ、後ろへ蹴り飛ばした。

 

急いで起き上がると、三太は大人の姿に戻っていた。

7人に囲まれているが、ふたりは仲間割れして殴り合っているので、

5人のサンタとやり合っている。

いまふたりを日本刀で気絶させたが、残りの3人は難しそうだ。

3人のサンタが持っているのはチェーンソー、札束、RPGーTだ。

全員ゾンビのように不規則な動きをしており、三太は苦戦していた。

特に厄介なのがRPGーTを持ったやつだ。

RPGーTはトト社という非物質界の有名企業が開発した対UFO携帯兵器で、

肩に担げるサイズなのにもかかわらずUFOを撃ち落とす威力を

持っている。

 

三太は必死でRPGーTの軌道から外れようと、躍起になって

暴れている。

助けに行きたいが、こっちもそれどころじゃない。

10人ほどのサンタ共が次々に

このナポレオン・ボナパルトに襲いかかってくるのだ。

半分ぐらいは素手だが、銃口を向けるやつ、スタンガンを持つやつ、

槍を持つやつ、スマホを持つやつ、帽子をくるくる回すやつ、

赤い帽子をパンツの中に入れ、犬みたいに四つん這いでくるくる回っているやつ、

自分の顔を殴りまくっているやつ、いろいろいる。

 

(まったく、もし人間だったら不敬罪だぞ!)

 

悲しいことに、オレの実力で真正面からこのサンタたちを倒すのは難しい。

だが、オレは機転を利かせた。

相手は酔っている。正気じゃないならなんとかなるはずだ。

オレは元の姿に戻ると自分の香りと念で分身を作った。

そしてオレ自身は体のエネルギーの流れや動きを止め、

がんばって気配を消した。

 

(呼吸を止めているとイメージしてくれれば、

どれだけ苦しいか分かるだろ? 

エネルギーの流れや動きを止めるということは、

裸のように無防備だから、いま攻撃されたらオレはおしまいだ)

 

オレの予想通り、サンタ共は分身を攻撃し始めた。

オレとそっくりというわけではないが、

等身大のオレンジ色の光はオレと同じ周波数のエネルギーの塊だ。

まともに霊視できないやつには、オレと同じように見えてるだろう。

 

よし、三太を助けよう!

 

見ると三太は、チェーンソーを日本刀で真っ二つにしたものの、

後ろから襲ってきたボコボコ顔の黒い服を着たサンタに

羽交い絞めにされて、札束でビンタされていた。

いまちょうどRPGーTは発射準備が完了した!

マズい!

そんなものヒトに打ったらどうなると思ってるんだ!

オレは携帯空間から銃を取り出してRPGーTを持つサンタに狙いを定めた。

間に合ってくれ!

指に力を入れるが、耳に不穏な音が聞こえたせいで

引き金を最後までしぼることができなかった。

 

シュボっという音が気になって、オレは後ろを振り向いた。

オレの視線の先では、人差し指から火を出したイカれたサンタが、

手に持ったダイナマイトの導火線に火をつけようとしていた。

 

おい、やめろ!!!

 

 

 

マノン・ガトフォセは小さな火炎が森から噴出したのを見た。

なんか火が出たなと思っていると、

瞬く間に太陽のように丸くて巨大なオレンジ色の光になり

熱風を全身に受け吹き飛ばされた。

第19輪 静寂のサンタ界

 

ビュッシュ・ド・ノエルもオススメだけど、

この店のラズベリーケーキが 最っ高に美味しいの!

 

     ――ラベンダー

 

カラフルなラズベリーケーキの写真

 

オレンジと三太とマノンの三人は、陽の光がまったく届かないほど

地下深くまでやってきた。

いまマノンは、オレンジの体から出るわずかな光を頼りに

下へ飛んでいる。

 

どこを見ても真っ暗で何も見えない。

オレンジも三太もいつどこで襲ってくるかわからない敵に

神経を張り詰めていた。

 

慣れないニワトリの体を動かすことで必死なので、

会話をしていない時に感じる気まずさをいまは感じることはなかった。

 

思い返すと、今日だけでいろんなことがあった。

(本当はそんな余裕はないんだけど、がんばるわ by マノン)

ラベンダーが帰ってきたと思い部屋に入ったら本物のサンタがいて、

サンタの現実を教えられ、学校のみんなよりも早く大人にさせられたこと。

サンタの世界がなくなったかもしれないこと。

もしかしたら人間界の危機かもしれないこと。

 

さまざまな感情がマノンの中で忙しく動きまわる。

あのサンタの言うとおり、わたしは――。

 

そこでマノンは考えるのをやめて、体を動かすことに集中した。

またふたりに自分の思っていることを読まれたら……たまらない。

いまは飛ぶことに集中しよう。

 

真っ暗闇の中、自分たちがいまどこにいるのかもわからないまま

マノンと三太はオレンジについていった。

 

どれぐらい飛んだだろうか。

やがて灰色の霧が出てきて、黒色だけの世界が灰色だけの世界に変わっていった。

 

「マイナデスアルコールの悪臭がだいぶ強くなってきた。

気分は大丈夫か?」

先頭を飛ぶオレンジが訊いてきた。

「うぇ、吐きそう」

「そんなに? わたしはちょっとだけ」

具合の悪そうな三太にマノンは顔をしかめた。

「こういうのって、人間のわたしのほうが具合が悪くなるものじゃないの?」

かわいそうなものを見る目で三太を見たオレンジは、

香りを出して三太の吐き気を抑えてあげた。

「強い弱いだけで考えたらそうかもな。

非物質界で生きているやつは敏感だから、核エネルギーや他のネガティブな

エネルギーの影響をモロに喰らっちまう。

その点、肉体を持つ人間はニブいし、いまマノンは本体が別にあるから

影響を受けにくいんだよ。

タバコの副流煙とか、100ベクレルの食べ物だと思えばいいさ」

「……それってつまり、ヤバいってことだよね? オレンジ?」

「これから世界をひとつ救おうってんだ、健康なんか気にすんな」

「お肌の問題は別よ! 肉体にも影響あったらどうしよう!?」

「これぐらいならおそらく問題ない、気にすんな」

「なんだかすごく具合が悪くなってきた、わたしも吐いちゃいそう」

「オレにかまってほしいから演技しているのか?」

「オレンジ! わかるでしょ! 本当に辛いの、香りちょうだい!」

「わかったわかった」

 

やれやれと苦笑しながらも、オレンジは自分の香りと念でベールを作り、

三太とマノンの体をそれぞれ包んであげた。

 

「真夏の紫外線を防ごうとするようなものだ。

サンタ界の中へ行けば、あまり効果は期待できないだろう」

「それでもだいぶ楽になったわ、ありがとう!」

「ぼくはまだ吐きそうなんだけど」

 

オレンジはマノンだけを視界に入れると、ふたたび翼をはためかせ、

灰色の世界を飛んでいった。

 

 

 

*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ

 

 

 

灰色の霧を抜け出た先には、赤い世界が広がっていた。

マノンが霧だと思っていたのはどうやら雲のようで、

地底へ向かっていると思っていたのに上空に出たのでマノンは驚いた。

 

正直眺めがいいとは言えなかった。

 

空は雲に覆われていて、太陽が見えないのに夕焼けのように赤く染まる

不気味な世界。黒くとがった山に、高く細く響く何かの鳴き声。

ゴツゴツとした岩が目立つ荒野に人の気配はないが、

代わりに何かが潜んでいるような雰囲気がする。

 

「オレンジ、ここはゲヘナ(地獄)なの?」

「そうと言えばそうだし、そうじゃないとも言えるな。

ゲヘナの定義も人間とオレたちではちがうし。

魔界の一種でいいんじゃないか?」

「魔界……」

「よくないものの溜まり場だな」

 

「あ!」

突然声をあげた三太に驚いたマノンは、ツバが気管に入ってむせてしまった。

 「オレンジ、サンタ界だ! やっぱりあったんだよ!

消滅してなかった……みんなは生きているんだ! うぁぁぁぁぁ」

「あ、バカ、ひとりで先へ行くな!」

 

ひとり荒野を飛んでいく三太だが、オレンジには三太がいったいどこへ

向かっているのかが分からなかった。オレンジが視た限りでは

サンタ界なんてどこにも見えない。

もしや三太は、ストレスでとうとう頭がおかしくなってしまったのだろうか。

「おい! 三太、止まれ、サンタ界なんてどこにもないぞ!」

しかし三太にはオレンジの声は届かなかった。

 

三太を追いかけて飛ぶオレンジを、だいぶ遅れてマノンが追いかける。

置いてけぼりにしないで! そう叫びたくてもマノンは声が出なかった。

長時間の慣れない飛行で声も出ないほど疲れているのに、

ふたりはマノンなど眼中にないかのようにどんどん先へ行ってしまうのだ。

それもこんな得体の知れない世界で。

 

マノンは泣きたくなった。怖いと思った。

とりあえず、無我夢中で必死に翼を動かし、飛んだ。

 

マノンがふたりに追いついたとき、オレンジと三太は言い争いをしていた。

オレンジは怒鳴った。

「おい! ひとりで行動するんじゃねえ! 

公式ガイドブックにも乗ってねえ未確認の世界だぞ」

「なに言ってるんだよ! あそこにあるのがサンタ界だよ! 見えないの!?」

 

マノンはもうこのふたりと一緒にいるのがイヤになった。

「ねえ、サンタ界ってどこ?」

「ほら、マノンだって見えない! オレにだって視えないぞ」

「あ……ごめん、伝えるの忘れてた。

たぶんね、いまは緊急時用の結界が作動していて、サンタ以外には視えないように

なっているのだ。ちょっと待ってて」

「早くそれを言えよ」

「ごめん⤴、忘れてたの!」

 

息を深く胸に入れると、三太は軽やかな声で歌いはじめた。

 

「いい子のために。いい子のために。

出てこい出てこい靴下の中、私にくれた贈り物。

いつかあなたが来なくとも、だれかにあげられますように。

わたしがあなたになるように

『迷い仔の目印』の名において命ず――姿を見せろ」

 

キィンと、耳の奥から響いているように感じるほど高い音が鳴る。

オレンジとマノンは目を疑った。

殺風景な荒地の中、自分たちの眼下にいきなり

西洋風の城と雪で白く染まった森が出現したからだ。

マノンはとても驚いた。

霊感が強いこともあり、普通の人が経験しないようなことはいつも体験しているが

――現にこうして幽体離脱して、オレンジの精霊とサンタと一緒にいるし――

 世界がひとつ目の前に現れるというのは、

人間界では決して味わうことのないマジックショーを見ているようで、

一瞬感動しそうになった。

ただ、残念なことにサンタ界は怖くて不気味な城と森だったので、

呪われた遊園地がいきなり目の前に現れたように感じて、ショックだった。

 

イメージとちがう、早く帰りたい、頑張って救わなきゃ、めんどくさい、

サンタの世界って不気味だなとマノンは思った。

どうしてサンタは人の夢を壊すんだろう? とマノンは思った。

 

すると、まるでマノンの心を読んだかのように三太が答えた。

「ぼくは君の心を読んでいないけど、なんて考えているかはわかるよ。

誤解しないでね、次元の高い場所から低い場所に堕ちたから、

風景が少し変わっているんだよ。本当はもっといいところだから」

 

「三太……おまえは正しかった。サンタ界はあったんだな」

「うん」

「サンタ界が堕ちた原因はこのマイナデスアルコールで間違いないだろう。

そして、至上主義者が絡んでいる可能性も大きい。

だとしたら――」

 

三太とマノンはオレンジを見た。

 

「他の世界とゼンマイ仕掛けの騎士団に救援を要請しよう」

「ヤダだ」

「!? 何言ってるんだ、こんな状況なんだぞ!」

「こんな状況だからこそだよ。

誰が根で至上主義者と繋がっているかわからない以上、

内部に入り込まれてうっかり情報を盗まれでもしたら大変だ!

それこそやつらの思うつぼ!」

 

オレンジは頭を悩ませているようだった。

三太の言っていることは正しい。

だが、世界が丸ごと低次元まで落とされるという非常事態なのに、

そんな悠長なことを言っている場合なのだろうか。

そもそも、堕ちた世界って、元の次元の場所に戻せるのだろうか?

 

オレンジが黙ったことをいいことに、三太は気分をよくしていた。

「形はけっこう変わったけど、サンタ界がなくなってないんだから、

きっとみんなも無事だよ。救援なんかなくても――あ! ほら!!」

三太の視線の先では、赤い服を着たサンタが森の中を歩いていた。

仲間を見つけて喜んだ三太はハヤブサらしく

最初からダッシュで飛んでいるようなスピードで羽ばたいて行ってしまった。

 

オレンジは少しだけ安心した。

危険だと思ったのは自分の思い過ごしかも知れない。

三太の言うとおり、サンタは地球人類の未来と関わる精霊だ。

世界機密が下手に漏れてしまえばそれこそ危ない。

非常事態ではあるものの、サンタ界は存続していたし、こうしていまサンタの生存も

確認できた。三太だってバカではない。

あとはサンタ界の代表と各世界の代表がバランスを取り合うだろう。

 

どっちにしろ礼名契約を結んだ時点で、自分には救援要請が難しい。

訳も言わずにとにかく来てくれと電話したって、誰も来ないだろう。

もしかしたらジジイなら、信用してくれるかもしれないが……。

だが、やめておこう。サンタ界は大丈夫そうだ。あとの判断はサンタ共に任せよう。

 

オレンジは三太を見た。

十数名ほどのサンタの集団に、子供の姿に戻った三太が

元気よく飛びこんで話しかけている。

つい数時間前まで、跡形もなく消滅しちまったと思ってたんだもんな。

それでも現実を受け入れられずにあるあると騒いたりして。

オレンジには、三太のことがかわいく思えてきていた。

仲間にふたたび会うことができて、三太は本当に嬉しそうだ。

 

 「ねえオレンジ」

後ろからマノンに声をかけられ、オレンジはふりむいた。

「オレンジはサンタ界って行ったことあるの?」

「いや、ないな。観光できる場所もあるが、

サンタ界は他の世界と比べても、特に警備が厳しいんだ。

用事もないのにそうそう行ける場所じゃない」

「へ~、本当はどんなところなんだろう?」

「行ってみたいのか?」

「だって、ワクワクしない? あの風景見た時は、

ラベンダーから聞いたイメージとかなり違うからビックリしちゃったけど、

もっとステキな場所なんでしょ?」

「もし時間ができたら、今度連れてってやろうか?」

「ほんとに!? ありがとう!!」

ニワトリ姿のまま抱きついてくるマノンにコンゴウインコは困ってしまった。

ニワトリのふさもふ感が、心を満たしてくる。

オレンジは心がムズがゆくなるのを感じながら「ほら、暑いから離れろ」と言った。

「でもさ~あ、高い次元から低い次元に来ると、形ってなんで変わるの?」

「ああ、それはな、高い次元にあった物質が低い次元に来ると、

性質が変わったり、存在できなくなったりするからだ。おおざっぱに言えばな」

「へ~! でもわたしたちは変わらないのにね、不思議」

「それは……」

オレンジの思考の中に何かが芽生えた。

タバコのようにもやっとしていて、うまく形にならない不快な気持ち。

「オレが香りでおまえらの体を包んで守っているからな――!」

サンタ界は、本で見た景色とはかなり違う。

ホラーゲームに出てくるような不気味な雰囲気だ。

まるで閉鎖した呪われた遊園地みたいだった。

サンタ界自体の周波数が下がってこの次元にいるんだから、

じゃあ――中にいるヒトは……?

 

「嫌な予感がする」

 

オレンジが三太のほうを振り向いたとき、三太は襲われていた。

「うぁぁぁあぁぁああ!!?」

第18輪 サンタ界の落下地点

本当にラヴァンドゥラをやるのか? 顔色悪いぞ、大丈夫か? 

 

         ――三太(『――が悪の華』より抜粋)

 

ハロウィンの女性の写真

 

「待たせたな三太」

「遅いぞオレンジ!」

「おいおい、こっちはマノンを連れているんだぞ!」

 

反対を見れば熱帯気候の暑い空気がゆがめた背の高い木々。

もう片方を見れば、ほとんど水しぶきで下の川が見えなくなった滝。

長い半円状の滝はかなり高い所から落ちており、もくもくと宙へ舞い上がる水しぶき

がこちらまで飛んでくる。

 

「それにしてもどうしてそんなにびしょ濡れなんだ?」

「べつにいいだろ」と三太は慌てて答えた。

「なるほど、つまりこういうことか、オレが渡したアドレスのことを忘れて

あの豪雨の中を探していたな?」

「うるさい、帰れ!」

「あ、わかった、もう帰る」

「戻ってこい! サンタ界を救え!!」

「ワガママか!」

「うるさい!」

 

オレと三太のやりとりを見てあきれているマノンに、オレは

話しかける。

「マノン、サンタ界に一緒に行くか?」

「え?」

 

そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。

マノンはデメキンみたいな目でこちらを見てくる。

正直、その顔はかわいいとは思えないな。

「足手まといだけど、ぼくもそのほうがいいと思う」

三太の言葉に一瞬すごい顔を見せたマノンは、

なんとか感情を押さえてオレに訊いてきた。

 

(具体的にどういう顔かというと、目をグレイのように大きく開き、

レプティリアンのようにぎょろつかせ、今にも飛び掛かりそうだった。

女は怒らせるべきじゃない by オレンジ)

 

「どうして? 危ないからダメなんじゃないの?」

「相当危険だから、本当は帰ってほしいと思っている。

だがマノン、おまえをひとりで元の人間界に帰らすほうがいまは危険なんだ」

「どうして?」

「サンタ界の状況がわからない以上、サンタ界を見つける時間を長引かせるのは、

得策じゃない。だからオレたちはおまえにひとりで帰ってほしいんだが、

サンタ界を陥れたやつ、あるいはその仲間に人質に取られる可能性がある。

いざというとき、オレたちはおまえを見捨てなければならない」

「……」

「危ないって最初に言われただろ?」

「うん」

「おまえに拒否権はないが、

オレは紳士だから、一応おまえの顔を立てることにするよ。

オレと一緒にサンタ界へ来るか?」

 

赤い髪の未熟な小娘は、自分の無力さゆえ恥ずかしいのか、

ただ単純にうれしいのか、顔を赤らめながら、うんとうなずいた。

 

「わたし、一緒に行く。覚悟を決めるわ。

世界を救うって、そういうことよね。

女の子をやめるわ! 女になる!」

 

きょとんとしたオレと三太は互いに顔を見合わせながら、

大笑いした。

「なんで笑うのよ!!」

 

ノドが潰れそうな声でうなるマノンは不服そうだ。

将来こいつは、どんな花を咲かせるんだろうな――っと。

そういや人間だったな。惜しい逸材だ。

 

ふたたびコンゴウインコとハヤブサ、ニワトリに変身したオレたちは

この世界の出口を探してレイラインにもどることにしたが、

その途中で恐ろしい光景を目の当たりにすることになった。

 

最初オレたちは、付近で一番大きな遺跡へ向かって飛んでいた。

「オレンジ、ここはどういう世界だと思う?」三太が訊いてきた。

「そうだな、パラレルワールドか異世界だろうな。地球であることは確かだが、

地域まではわからない」

「遺跡があるってことは、原住民もいるのかな?」

次はマノンが訊いてくる。

あいかわらず翼がよれたニワトリの格好で、飛ぶのに苦労している。

やれやれ、これじゃあ、レイラインを飛んでいるうちに溶けて転生ルートだな。

マノンは次は何に生まれ変わるんだろうな?

一旦ガトフォセ家にもどってマノンを置いてきたほうが早いか?

 

時間は惜しい。

オレたちの未来も、人間界の未来も、なかなかにして不安定だ。

 

「それもわからない。あたりから人の気配を感じないからな。

ひょっとすると、すでに滅んじまったりしてな」

 

オレはイジワルに翼をひらひらさせ、笑いながら後ろのマノンを見た。

マノンは予想通り怒った顔になって目を背けた。

 

「あっはっはっはっは!」

「枯れちまえ!」

「うわ、ひどい、オレはただ、人間さまが滅んじまったって言っただけなのに」

「うるせー!」

「ま、日頃の行いが悪いから、浄化されちまったんだろうなぁ」

「死ね!! 枯れちまえ!! アンタなんかダイッキライ!!!!!」

 

ちょっとふざけただけじゃん、人間はすぐ泣くからイヤだ。

オレたちがおまえらから受けた痛みに比べたら、蚊に刺されたぐらいじゃん。

人間はおおげさ。オーバーリアクション。

 

「オレンジ!!」

三太が声を荒げている。

なんだよ、世界の危機でも、女の子といちゃいちゃするぐらい

べつにいいだろ。緊張のしすぎはパフォーマンスの低下を招くんだぞ!

わかってるのか三太!

小さなこどもサンタに逆に注意してやろうと思ったが、

三太はどうやら、ふざけている場合じゃないと注意してきたのではなかった。

心を読んだ限りでは、どちらかというとマノンが泣いて、清々しているようだった。

こんなふたりとパーティーを組まなければいけないとは、

マノンの人生は少しだけハードモードらしいな。

 

(能力のある人間の人生は、少しだけハードモードに設定されているらしい。

以前会った輪廻転生システム技術担当者から聞いたことがある。

それを乗り越えることで成功を得るとか得ないとか。

……正直なところ眠かったからあまり聞いてなかった。

悪いな。オレはいつも仕事で疲れてるんだ。寝れるときには寝たい。

人間が輪廻転生する仕組みを夢の中で見学に行ったこともあったが、

起きたら全部忘れた。寝ている時まで仕事なんて、バカらしいだろ?

なんで上の次元にわざわざ出向いて、勉強しないといけないんだか。

睡眠中ぐらい休ませてくれよ。

あ――ちなみにオレさまの人生は、宇宙レベルでメジャーリーグに行けるぐらい

過酷って、上の次元のヒトに言われた……いますぐ転生しようかなぁ by オレンジ)

 

「あれ!? あれ!!? あれェ!!」

「うるさいぞ三太、なん――」

 

だと…………

 

目的の遺跡はあった。あそこに出口のレイラインが流れている。

問題はその裏だ。

遺跡のちょうど後ろから、見える範囲すべての土地が、無くなっている。

まるで崖のように深い闇に覆われているが、問題は規模のでかさだ。

左から右まで、見える範囲すべてがぴったり遺跡の後ろからなくなっている。

 

……。

 

穴が、穴が開いているなんてレベルじゃない。

海だ。黒い海のように見渡す限り、何もない。

 

「なんだこりゃ」

 

オレの胸に思いっきり恐怖が押し寄せてきた。

しかし、オレさまはなんてったってオレンジの精霊だ。

そんなもんは効かない。

通常ならここで、読者が身をよじるような恐ろしい心情描写を

いっくんが書くだろうが――原発、原子爆弾、魔女狩り、黒死病、世界大戦、

銀河大戦、ニンゲンに対する神霊たちの不満級のストレスを読者に

ぶちかますだろうが、オレンジさまには恐怖はあまり効かないのだ。

昼ドラ大好きな諸君、残念だったな。

ラベンダーとか、ペパーのばあちゃんとか、他の精霊に期待してくれ。

 

 「どんな自然現象があったらこうなるんだよ!?」

あまりの光景に三太がパニック状態になりかけている。

 

マノンに関しては、声すら出せないほど頭が真っ白になっている。

 

オレは香りをふりまいて三太とマノンを落ち着かせると、言った。

「サンタ界だ」

 

ふたりはオレの顔をじっと見た。

「いま霊視したが、マイナデスアルコールがただよっている。

偶然にも、オレたちはサンタ界が落ちたルートを発見したわけだ」

 

そこで言葉を切り、マノンを見つめた。まだ涙を流している。

「ありがとうマノン。偶然だが、おまえのおかげでサンタ界の

行き先がはっきりわかった。おまえが来てくれて、良かった。

ありがとう」

マノンとオレは見つめ合った。

 

「いや、マイナデスアルコールの匂いをたどっていれば、

すぐわかったことじゃん」

三太はしれっと言った。

 

このガキっ……!

せっかくオレが、泣いてしまったマノンをなんとかしようとしていたのに!!

まったく余計なことを……!

そんなことはオレだってわかっている!

だが、言い方を変えればマノンを慰められるだろうが!!

女心がわからんのかい!!

 

「三太、いまおまえに対してマノンがなんて思っているか、教えてやろうか?」

「死ねばいいのに! でしょ?」

「ふたりとも、ヒトの心を勝手に読まないで!」

「すまんがマノン、オレたちは霊なんだ! 

頑張らない限り、心の情報が入ってくる」

「がんばれよ!」

「めんどうくさい」

「わたしには読めないもん!」

「そりゃだって、閉心術を使っているからな」

「なにそれ! ずるい!」

「ラベンダーに教えてもらえよ!」

「いけないことだってさっき怒ったじゃない!」

 

「ねえケンカしてないで急いでよ!! 

サンタが全滅したらおまえら全生恨むからな! この先何に生まれ変わっても!」

 

三太の言葉に我に返ったオレたちは、全速力――とはいかなかったが、

それなりの速度で降下していった。マノンがいるせいであまり急げない。

 

さあ、次回はいよいよサンタ界突入か?

サンタ共、全滅してないといいがな。

もしそうだったら、これから霊能力者にサンタはいるのかと質問されたとき、

ちょっと前に滅んだって答えなくちゃならない。

第17輪 地球人類総合支援法

やったぁぁぁぁ! ねえ、いま見た!? ねえラベンダー!

 

           ――マノン・ガトフォセ

 

 

 

YHAAAAAAAAAA ニンゲン、ニンゲン、死ねニンゲン

                ――ラヴァーレ

 

オリエント・アロマ・アカデミー文化祭、および 

富士神界――シルバーフォックス賞受賞式にて

 

ライブ会場で盛り上がる観客

 

「やっぱりラベンダーか」

 

洞窟で休んでいたマノンは、突然のオレンジの一言に息を止めた。

洞窟に戻ってからというものオレンジは、マノンのことを褒めてばかりいた。

マノンもただ純粋に、自分のことを褒めてくるオレンジに気を良くしていた。

 

「まさかここまで来ることができるとはな。幽体離脱か?」

「うん」

「マノン……おまえの年齢でそこまでできるやつは人類史の――……

いや、第七文明の中でも何百人かだぞ」

「それってすごいの?」

「すごいことだ。マノン、おまえはまちがいなく天才だ。

上の次元に来るだけでなく、変身までできる。そんな人間他にいるか?」

「えっへっへっへ」

「だが、変身が甘いな。あのニワトリはトサカや翼が変だった。

よくあんな姿でオレたちを追えたな。ちゃんと変身できれば、

オレの攻撃も避けられただろうに」

「しょうがないでしょ、まだ練習して数年よ。できるわけないわ」

 

オレンジはにやりとした。

 

「だが、霊視こそしなかったが、ひと目見てもおまえだとわからなかった。

そこはグッドだ」

「すごい?」

「すごい」

「うへへ」

「念力の解除のやり方や幽体離脱はどれぐらい練習してるんだ?

だれかに教わったのか?」

「……全部独学よ。お風呂に入っているときや眠たいとき、

頭に情報が流れてきて、こうしたらこういうことができるって、

なんとなく教えてくれるの」

「やっぱりラベンダーか」

「ちがうわ!」

「ラベンダーは、心の防御の仕方までは教えてくれなかったようだな」

「!? わたしの心を読んだのね、ズルいわ!」

「べつにズルくはない」

 

マノンは悲しい気持ちになった。

オレンジが褒めてくれたことが、本当にうれしかったからだ。

だが、嘘だった。ラベンダーとわたしの秘密を暴くために言っていたのだ。

 

「わたしをおだてて情報を引き出そうとしなくたって、

最初から心を読めばいいことだわ!」

「オレは、おまえの心を読んではいないよ」

「ウソ!」

「ああ、ウソだ。カマをかけただけだ。

あとはおまえが教えてくれた」

「あ――!?」

 

しまったという顔をしたマノンの胸に、

オレンジに裏切られた想いがこみあげてくる。

マノンは幼いころからラベンダーに指導してもらい霊能力の特訓に

励んでいたが、それはだれかを守るためだ。決して悪用するためではない。

精霊に霊能力を指導してもらうことが、

地球人類総合支援法に違反することもラベンダーに聞かされて知っていた。

 

「ラベンダーがおまえに霊能力の稽古をつけていることは、

地球人類総合支援法違反だ。むやみやたらに個人の霊能力を伸ばしてはいけない」

「どうする気?」

「……本部に報告する」

「ラベンダーはどうなるの?」

「上が決めることだ。オレにはわからない」

 

沈黙が訪れる。ただ聞こえるのは、激しい雨の音だけだ。

 

マノンは不満と怒りでいっぱいになりながら思った。

ラベンダーは地球の状況や歴史も教えてくれたわ!

それなのに、その変な法律を守れっていうの? 

こんな戦争だらけの星で自分やだれかをどうやって守れって言うの!?

 

「まってオレンジ、わたしが頼んだことなの、もっと自分の能力を伸ばしたいって。

ラベンダーは悪くないわ」

「マノン。どうして人間に霊能力を指導したらいけないかわかるか?」

「さぁ? 人間が嫌いだから?」

「ちがう。理由は挙げればキリがないが、人間はこの地球の管理者という

立場にある。いまはまだ発展途上人類として分類されているが、

やがてはこの星の代表になっていくんだ。

 

(いまは代表だなんてとてもとても……。

なんか虫ケラがいるなぁぐらいに思われているだろうな。

なので地球外部との交渉はアロマ連合、富士神界などが主に請け負っている

by オレンジ)

 

そのためには、介入しすぎてはいけないんだ!

自分たちの頭で考えて、自分たちの足で行きたい場所へ行き、その手で

夢をつかみ取らなければならない。

オレたちは間接的にいろいろ支援をするが、直接的な支援は基本NGだ。

いろいろと計画や、進行具合というものがある」

 

オレンジはいったん言葉を切り、マノンの青い瞳を見つめた。

炎のように危なげに見える赤い髪とは対照的に、水のように透きとおっている。

オレンジはマノンの心拍数、周波数、表情のひとつひとつを精査すると、続けた。

 

「それに、だれかれ構わず霊能力を伸ばすと、能力者と一般人で

戦争が始まることがわかっている。いずれその時代はやって来る予定だが、

人類の反抗期のいま、その戦争を起こしてはマズい。

だから地球人類総合支援法で厳しく取り締まられているんだ」

 

マノンはまぶたをゆっくり閉じた。

自分の息の音が聞こえる。オレンジの暖かい香りが好き。

オレンジの言っていることはきっと正しい。 

どうしていけないことなのかが理解できたし、事の重大さも

想像しやすく説明してくれた。

ラベンダーがしてくれた地球人類総合支援法の説明も似たような説明だった

と思うが、オレンジのほうがより詳しい。

本当はこういう法律があるということも、教えてはいけないことなのではないか

とマノンは直感的に思った。実際のところどうかはわからないが、

それでも詳しく教えてくれたオレンジには、とても誠意を感じた。

それに、心を読めばわかることなのに、わざわざわたしを騙すなんて

手間のかかることまでしてくれた。

その行為に納得はしていないが、それでもやっぱり誠意は感じる。

謝りたい。

オレンジの説教をしている目は、怒っていて気まずいが。

 

「……ご――」

 

マノンが何か言いかけたとき――耳が震えて心臓が悲鳴をあげた。

 

突然音楽が鳴り出したからだ。

洞窟内に響き渡る大音量の楽器とラベンダーの声に

マノンの胸の鼓動もドラムのように鳴り止まない。

びっくりした。

このロックな曲は聞いたことがある。

ラベンダーが昔やっていたケメティック・ウーマンというバンドの、

「アトラス・パンチ」という曲だ。

 

オレンジはポケットからスマートフォンを取り出した。

「おう、遅かったな三太。……そういえば雨も止んできたな。

洞窟で休んでいる。わかった、じゃあな」

 

そう言ってスマートフォンと呼ばれる機械をポケットにしまうと、

オレンジはマノンに言った。

「これからレイラインへ行く。三太と合流だ」

第16輪 豪雨の中で

オレンジはどこだ?

 

             ――三太

 

雨の中を飛ぶ鳥

 

オレンジは、体をかたむけ落ちていくニワトリの姿を見た。

「マズい!」

翼を下に向け急いで後を追うオレンジ。

後ろにいる三太に「マノンだ!」と状況を伝え、追いかけてゆく。

「オレンジ、止まれ!」

 

目の前を〈ドコドコさん〉が通り、オレンジの体が硬直する。

「――!!?」

 

しかし誰かが作った工作だとわかると、

オレンジは怒りのままに拳をにぎり爆破した。

 

マイナデスアルコールが反応して爆発する恐れがないとは言えなかったが、

この空間ではマイナデスアルコールの量はさっきの元サンタ界よりも

少ないとわかっていたので、オレンジは多少の躊躇をしながらも力を出した。

 

誰が捨てたのかわからないが、作り物の〈ドコドコさん〉に

時間を取られたオレンジはマノンを見失いかける。

「どこだ!?」

ようやく遠くに小さなニワトリを見つけたオレンジは、

レイラインを流れる物質に行く手を阻まれつつも、

徐々に距離を縮めていき――

 

「マノン!」

 

翼を伸ばしてマノンの体を――

 

確実に捕まえられる、そうオレンジが思ったとき。

 

オレンジの翼はかすった。急にマノンの体がオレンジの手をよけたのだ。

オレンジは吸引力が強くなったのを感じた。

マノンと自分の体が世界にひっぱられている。

視界がぶれ、円を描いているような、巨大な光が近づいてきた。

 

体を世界にひっぱられながら、なんとかマノンの体を捕まえると、

念力を使って後ろに思いっきり小さな箱を投げた。

とうとう白い光がふたりの体を包んだとき、

マノンを抱きこみオレンジは衝撃に備えていた。

 

 *:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ

 

一文字の光が見えるとマノンは目を覚ました。

雷の轟音が鳴り、ビクっと体を震わす。

 

豪雨の音を聞きながら、天井の棒状に垂れ下がっている岩を見つめていると

声をかけられた。

「起きたか?」顔を向けるとオレンジがいた。

 

あわいベージュのジャケットを着ており、首元のボアが暖かそうだ。

下にはデニムパンツを履いている。

「どうして洞窟に?」

言いながらマノンは段々と意識がはっきりしてきて、何があったか思いだした。

 

「オレンジ!」

 

洞窟の奥へ一歩後ずさりするマノンに、オレンジはニヤついた。

「調子はどうだ? 気分はすぐれないようだな」

「! わたしだってわかってたんじゃないの!?」

かすれたうなり声が洞窟にこだました。

ホオジロザメのように凶悪な歯がズラリと並んだコンゴウインコに

食べられた恐怖がよみがえり、マノンはオレンジを責めたてた。

「わたしがいなくなれば、オレンジはラベンダーとずっと一緒に

いられるもんね!!」

 

攻撃的に言い放つマノンにオレンジは一瞬顔を引きつらせる。

 

「オレがわかってて攻撃したっていうのか?

オレがマノンに?」

「――……」マノンは何か言いかけたが、口を半開きにしたまま黙った。

顔には後悔の色が浮かんでいた。

「おまえはオレがラベンダーと一緒にいたいから、

あの変なニワトリをマノンだと知りつつも襲ったと言いたいわけだ!

おまえにとってオレは――つまり、オレはおまえにとって、

そういうことをするヤツだと思われているわけだ!」

「ごめなさい」

マノンの顔が赤点のテスト用紙のようにくしゃくしゃになりかけていたが、

オレンジはかまわず怒りに身を任せた。

「オレはおまえのことを買いかぶっていたらしい。

人間にしては賢いと思っていた。だが、やっぱりただの14歳だ。子供だ。

サンタ界の安否が定かでない状況で、行方を探していて

後ろから誰かにつけられていたら、サンタ界を陥れた犯人だと思うのが普通だろう。

相当な手練れだ。勝てる見込みがない。

それなのに、こっちは手負いのサンタとアロマ連合の下っ端ひとり!

一瞬でもスキを作れば命取りなのに、それでもおまえは――

 

霊視にエネルギーを割いて、

あのニワトリをおまえと判断すればよかったと言うのか?」

 

空気が悲しくふるえた。

「わた、し、がっ、バカ、でした。ごめんなっさい」

 

「そもそも、オレはおまえがここにいること自体がおどろきだ。

三太に言われたことを覚えていないのか?

才能のある霊能力者は自信過剰だと三太が言っていたが、本当だな」

 

「……」

 

「いい勉強になったんじゃないか。

オレたちはおまえたち人間のためにがんばってんだ。

人間は自分のことだけ、目の前の人生だけ考えていればいい。

ジャマしないでくれ。雨が止んだら帰れよ、じゃあな」

 

「ま、まってっ」

 

洞窟から雨の中へ消えたオレンジを追い、マノンも洞窟を出たが……

滝のような豪雨に、数歩先すら見えない……

息をするのも苦しく、激しい水が、全身から出た鼻水と涙のようにマノンは感じた。

取り返しのつかないことをしてしまった。

 

どうしてオレンジにあんなことを言ってしまったんだろう。

オレンジに襲われたとき、本当に怖かった。体が動かなくて死ぬかと思った。

でも、だからといって……。わたしはひどいことを言ってしまった。

なんてバカなんだろう。

あのサンタの言うとおり、家でおとなしくしていればよかったのに、

どうして出てきてしまったんだろう。

霊体の傷だって治っている。オレンジが治してくれたのに……

オレンジに謝りたいと思っても、もうオレンジはいない。

どうやって帰ればいいんだろうとマノンが思ったとき、

ふたたび彼女を恐怖が襲った。

 

自分が住んでいる世界とは明らかに空気がちがうとわかる。

魂がそう感じている。

異世界? 異次元? ここはどこ? どうすれば帰れるの?

 

途方に暮れてしばらく立ち尽くしていると、背後に何かの気配を感じた。

雨が急に止んだと思ったら――

ガッと肩をつかまれる!

 

「キャァアアァ!?」

「ふっははは、おどろいてやんの」

 

そこにいたのはオレンジだった。

「反省したか?」

「――!?」

 

言葉を失ったマノンは瞬時に理解した。三次元を超えてから一番早い速度で。

「だましたのね!」

「怒っている割には安心してる。心は正直なようだ」

「この女ったらし!」

「そんなこと言っていいのか?

――どうしてオレンジにあんなことを言ってしまったんだろう。

オレンジに襲われたとき、本当に怖かった。体が動かなくて死ぬかと思った」

「わあああ!」

「でも、だからといって……。わたしはひどいことを言ってしまった。

なんてバカなんだろう」

「やめて!」

「あのサンタの言うとおり、家でおとなしくしていればよかったのに、

どうして出てきてしまったんだろう」

「もうっ、どうしてそういうイジワルするの!?

人の心を読まないで!」

「ふっははははは、けっこう似てんだろ?」

「似てない! このっ、このっ、このっ、このっ!」

 

バシバシとオレンジの胸を叩くマノンの顔は怒っていたが、

うれしそうにも見えた。

 

ふと胸を叩く手を止めたマノンは、にやりと笑顔になった。

オレンジがいぶかしむと。

「そうやってからかうのなら、わたしにも考えがあるわ」

「考えって?」

「ラベンダーに、オレンジが部屋に勝手に入ってたって言う」

「おい、マジでやめろ! さっきのはだな、オレなりの気づかいだよ。

オレだって感情的になってたし、言いすぎた。気まずいのはイヤだと思ったんだよ」

「わかってるよ。オーレ。反省してる。

ラベンダーには言わないし、帰るよ」

 

オレンジの顔が強張ったのを見て、マノンは不安になった。

「実はだな……オレもわからないんだ」

「は?」

「オレたちがこの世界に出たときのレイラインは、流れが速すぎて利用できない。

この世界への入り口としてしか機能していないから、他に出口を探すしかない」

「じゃあ、大変ね」

マノンの顔はなんともいえないものになっていた。

 

オレンジとマノンはオレンジ色のうすい膜に包まれており、

その膜のおかげで豪雨もしのげていたし、中は暖かかった。

 

「とりあえず、雨が止むまで洞窟にいようぜ」

ベイダー卿はやっぱりカッコよかった!

スターウォーズのローグワンを観たよ!

去年エピソード7が公開したばかりなのに、まさかもう公開とは……。

スターウォーズのエピソード7以降はベイダー卿は出ないのかなぁ。

アニメ版のスターウォーズで、エピソード1でオビワンに体を切断された

ダースモールが生きてて、しかも兄弟と一緒に出てきたからビックリ!!

だからもしかしたらベイダー様も出てきたらいいな、なんて淡い期待を

抱いている私。でも可能性は低いだろうなぁ。

新しい映画に出ないから今回、エピソード3と4の間の物語である

ローグワンでダースベイダーが出たんだろうし。

 

「次は息切れなど起こさぬよう、気をつけることだな長官」

 

野心をむき出しに、自分の功績を皇帝に報告するようベイダー卿に申し入れる

クレニック長官。

 

私は思ったよ。

バカヤロウ! せっかくベイダー様が去ろうとしているのに

なんちゅうこと言うんだ!

そこの下に落とされんぞ!

ほら、立ち止まっちゃったじゃねえか!

 

しかしベイダー様は静止している。

ふと自分のノドに違和感を感じたクレニック長官。

どうも息ができなくなり、膝をついてしまう。

そしてベイダー様は振り返り、言ったのだ。

「次は息切れなど起こさぬよう、気をつけることだな長官」

 

カッコイイ!!

 

今回は反乱軍と帝国の戦いなので、残念ながらジェダイのライトセイバー

をヴゥンヴゥン振り回すシーンは見られなかった。しかし!

 

ベイダー様の魅力が爆発的に織り込まれているので、

(ボリュームは少ないけど)

全世界のベイダーファンには、ぜひとも観て頂きたい。

 

ありきたりな言葉だけれど、よかったよ!

 

映画の最後、デススターの設計図を奪い返すために

戦艦に乗り込んだベイダー様……。

 

フォースグリップで天井に乗組員を押しつけたり、

武器をすべてフォースで取り上げて無力化した挙句、容赦なくライトセイバーで

切断してゆく。

 

アニー……。

 

あの狭い通路の中で、動かなくなった自動扉を背後に迫りくるベイダー卿は

すごい恐怖ですよ。

 

どんまい乗組員……。

 

それにしてもターキン総督とレイア姫の再現がすごかった。

あれは演じている人は別の人なんだけど、顔をすり替えているんだって。

当時ターキン総督、レイア姫を演じていた人も、まさかこの2016年に、

スターウォーズでターキン総督、レイア姫が出てくるとは思うまい。

映画の技術も日進月歩ですな。

100年後の映画はどんなものになっているんだろう?

すごい気になるけど、生きていないな~。

 

スターウォーズのエピソード4,5,6のリメイクが

公開されてたりして!!

それは生きているうちに観たいな!!

私が還暦を迎える頃には、ぜひ!

 

 

第15輪 レイラインの追手

なあラフ、霊が通るからレイラインってのはどうかな?

 

              ――『黄金のリンゴ』

 

コンゴウインコの写真

 

「おれを襲ったやつは、どんなやつだった?」

「一瞬のことだったからよく見えなかった」

「使えねー」

「うるせーよ」

 

サンタは子供の姿になっているせいか、大人の時より無邪気で素直になっていた。

さっきまで来ていたスーツとはちがい、いまは赤いサンタ服を着ている。

 

「サンタ、おまえが寝ている間にいろいろわかったことがある。

サンタ界はおまえの言うとおり、まだあるかもしれないぞ」

「どうしたの?」

「マイナデスアルコールは知っているだろう?」

「もしかして、爆弾でサンタ界を異次元かどこかへ吹き飛ばしたって

言いたいの?」

「そうだ。爆弾かどうかは知らないが、

マイナデスアルコールは周波数を下げる特性がある。

たとえばだが、それでサンタ界そのものの周波数を下げて

ここの空間と共鳴しなくなれば……どうなる?」

「サンタ界だけ堕ちていく……!」

 

サンタはオレの推測に驚いた表情になり、

今度は喜びと疑いが混ざったような顔になった。

 

「サンタ界がまだ、あるかもしれない……。

けど、世界だよ? 世界そのものの周波数を下げることなんて可能なの?

っていうかそれで世界って移動すんの?」

 

「おまえの意見はごもっともだ。だが見ろ。

爆弾で世界を丸ごと破壊したとしても、サンタ界の残骸は残るだろ?

だが、空間が丸ごとなくなっている……。

爆弾で世界を破壊できるかというのは別として、

爆破して、跡形もなく空間ごとここまできれいに破壊できるとは思えない。

周波数が下がって、この次元から下へ落下したと考えたほうが妥当だろ?」

「……」

「だから、おまえの言うとおりサンタ界は、まだあるかもしれない」

「……」

 

子供サンタは目に涙を浮かべて黙っていた。

今まではなんの根拠もなくただ自分の気持ちだけでサンタ界がある、

あって欲しいと妄信している様子だったが、

オレさまの実に具体的な推理を聞いて、

なんとも言えない気持ちになったらしい。

 

「オレンジ、ごめん」

「どうした?」

「きみにはひどいことをいっぱい、言ってしまった」

「気にするな、オレはただ、おまえと契約を結んだから手伝っているだけだ。

謝る必要はない」

「それでも、おれはきみがいなかったら、考えなしにサンタ界を探していただろう。

そもそも、オレンジはどうしてラベンダーの部屋に?」

「週刊〈ドコドコ〉を読むため」

「あれまだ書いてるの!?」

「知ってるのか!?」

「中世の頃にクリスマスプレゼントでもらったことがあるんだ。

あれは出版するしないの話もあったんだけど、諸事情で流れたんだよ。

……まだ書いてたんだ」

「おまえ、ラベンダーの彼氏なのか?」

「ふふ、そんなわけないじゃん。

おれはてっきり、オレンジがラベンダーと付き合ってるのかと思ってた。

それかストーカーだと」

「よせよ。おまえだってマノンからラベンダーのタオルをもらった時、

嬉しそうにしてたくせに」

「やめて」

「ヒュゥゥゥゥ」

「やめろって」

「あっははは」

 

オレはこの時はじめて、三太と心から打ち解けられたのかもしれない。

最初こそ木に喰わないやつだと思っていたが、

根は案外おもしろく、いいやつだ。

 

からかわれて顔を赤くしている小僧にオレは言う。

「三太、サンタ界を探すぞ」

「でも……どうやって? 周波数が下がって堕ちたからって、

単純にこの空間の下へ飛んでいけばいいってわけじゃないでしょ」

「おまえ、オレをなんの精霊だと思ってるんだ?」

「植物――あ!」

「そう。匂いには敏感だ。

マイナデスアルコールでどこかに堕ちたなら、

サンタ界自体にマイナデスアルコールの匂いが染みついているはずだ。

それをたどっていけばいい」

「オレンジぃぃ」

「ほら、抱きつくな。ガキに抱き着かれてもオレはうれしくない。

早く行くぞ」

 

オレは早速火の鳥に変身しようとして気づく。

おっと、そういえば火はマズいんだったな。

仕方ない。

コンゴウインコに変身したオレは、勢いよく雪道から飛び立ち空に舞い上がる。

後から三太もついてくる。三太はハヤブサに変身していた。

 

「こっちだ」

マイナデスアルコールの強い匂いを感知したオレは、

オーロラに向かって羽ばたき、紫色とオレンジ色のオーロラが混ざり合った

毒々しい色の渦へと飛んでいく。

 

(サンタ界は落下したんだから下へ飛んでいかないの?

と思う読者もいるかもしれないが、上の次元だとそう単純にはいかない。

下に行くにしても、いろんなルートをたどって行かなければいけないし、

場所によっては上に向かうことで下に行けるところもある by オレンジ)

 

オレたちは世界の狭間を飛んでいた。

ピンク、オレンジ、紫、茶色、緑、いろんな色が線だったり長方形だったり、

何重もの円やよくわからない複雑な図形として流れている。

 

ここは世界と世界の間にある空間。世界や次元を構成する物質を運ぶ、

血液のような場所だ。レイラインと呼ばれている。

 

(レイラインは日本語で龍脈と呼ばれている。

龍が他の世界へ行くのに利用することから、龍の通り道とも呼ばれているな。

だがオレたちは龍みたいに大きな魂やエネルギーを持っていないから、

正直キツい。レイラインにあまり長いこといると自我がなくなり、

死んで転生するハメになるから利用したくないんだが、

まさかレイラインに出るとは思わなかった。

ちなみにオレたちの言うレイラインと英語のレイラインは、意味が全然ちがうな。

三次元――人間界の英語圏にはちゃんと伝わらなかったらしい。

英語のレイラインは古代の遺跡群を結んでできた直線を指すだけの

表面的な言葉になってしまっている。もっと深い意味があるのに。

日本語の龍脈のように、

世界や次元を構成する物質を運ぶ、血液の役割という深い意味があるんだ。

それに直線だけじゃなく、曲がりくねっているのも含めてレイライン。

ちなみにレイラインという言葉を作ったのは『黄金のリンゴ』らしい。

昔ジジイから聞いたことがある。名前の由来は、

霊――物体を持たない物質が通る道だから霊Line。分かったか?

すごいものっていうのは大抵くだらない。

オレも聞いた時は肩から力が抜けた。

『黄金のリンゴ』ってけっこうおちゃめなのか?)

 

レイラインにあまり長い時間いるのは危険だ。

早いとこ出ていきたい。

しかし匂いはレイラインの奥へと続いていた。

「オレンジ、レイラインだぞ」

「わかってる」

「体がちょっと溶けてきた」

「がんばれ」

コンゴウインコとハヤブサはスピードを上げてレイラインの中を進む。

するとふと、背後に何かの気配を感じた。

少し様子を見てみたが、一定以上の距離を保ち、近づいてくることはなかった。

「オレンジ、あれ、どうするの?」

「サンタ界を襲ったやつで間違いないだろう。捕まえよう」

「レイラインでやり合うの!?」

 「静かに。向こうも条件は同じだ、レイラインでやり合いたくないと

思ってるだろう。そのスキを突いて仕掛けよう」

そう言うとオレは三太に作戦を耳打ちした。

 

どうやらサンタ界を陥れた犯人のおでましらしい。

至上主義者だかなんだかわからないが、

おまえのせいでオレはラベンダーの部屋に侵入した秘密を三太ににぎられたんだ。

この屈辱! おまえの魂をもって償ってもらう!

 

コンゴウインコとハヤブサはかなり飛行速度を落とし、

ゆったりと羽ばたきながら、言い争い始めた。

「このグズ! 能なしサンタめ! 

おまえがマヌケなせいでサンタ界は消滅したんだ」

「だまれ、ストーカーめ! ラベンダーのケツでも追いかけてろ」

 

(演技とはいえ、いまの言葉はグサッと来た。

あとで覚えてろよ)

 

いまだ! 追手の困惑した気配を察知した瞬間――

コンゴウインコは予備動作なしに近い状態で身をひるがえし

一気に最高速度に達すると、敵に向かって飛んでゆく。 

手に取るように相手がビビッているのが伝わってくる。 

 

敵はニワトリの姿に変身して飛行していた。

コンゴウインコはそのクチバシを自分の体よりも大きく伸ばし、

ホオジロザメのようなギザギザの歯が生えたクチバシを

大きく開けてニワトリの体をおおった。

 

勢いよくクチバシを閉じようとしたところで――

 

「やめてオレンジ! キャァァ――」

 

クチバシの中で嫌な味がした。

 

…………

 

コンゴウインコは急ブレーキをかけたクチバシを急いで開けて、

中のニワトリを吐き出した。

 

体が赤く染まってしまったニワトリを見て

オレの顔は驚きのあまり、少しだけ縦に長くなった。

「なんで、ここにいるんだ……?」

 

ニワトリは疲れきった表情をしている。

羽ばたきにも力がなく、弱々しい。

 

「どうしてここにいるんだと聞いているんだ、マノン!!」

第14輪 サンタとオレンジとマイナデスアルコール

ラベンダーぁ。ここ、ここすわって

 

            ――マノン・ガトフォセ

 

バーベキューの炎の写真

 

「これは大問題だ! とっとと各世界に知らせるべきだ!」

「そんなことをすればサンタ界の信用がなくなってしまうだろ!!」

 

ま、お察しのとおりオレはこの哀れなサンタと言い争いをしていた。

 

(あ、代わる? by オレンジ)

 

「何が信用だ! もうサンタ界はどこにも存在していないじゃないか!」

「世界がまるごとなくなるなんてありえない! 

きっと何か理由があるんだ、視えなくなっているとか、移動したとか、

魔術か化学か、何かで壊されたように見せかけられてるんだ」

「霊視しても変わらない、現実を受け入れろ!」

「もっとすごいヒトを呼んで、ちゃんと霊視して調査しないとわからないだろ!」

「だからアロマ連合やゼンマイ仕掛けの騎士団、冥府、各神界に連絡しろと

言ってるだろ!」

「それができないからラベンダーに頼もうとしたんだ!

“サンタ界が消滅した”なんて言ってみろ! いまにテロが起こりまくるぞ!

俺は植物界が一番信用できない。それに他の世界だってどうだ!?

植物至上主義者じゃなくても、ニンゲンを殺す霊はいっぱいいるぞ!!

もともとおまえみたいな下っ端に頼むつもりじゃなかったんだ!」

「なんだと、ラベンダーじゃなくて悪かったな! 

それにニンゲンって――差別用語だぞ!」

「ラベンダーだったら理解するのも速いし、

各世界に連絡しろなんて愚策は言わない!」

「おまえがラベンダーの何を知っているんだ!? あァ!?

あの女はうだうだ文句を言って、“わたしの仕事じゃない”って

オレと同じことを言うだろう! 世界がひとつ消滅しているんだぞ!?

周りの世界がもし同じ目に遭ったらどうするつもりだ!?」

「だから三次元じゃあるまいし、ひと目で消滅したかどうかなんてわからないだろ?

それに面倒くさがりつつも、なんだかんだ言って最後には救ってくれるのが

ラベンダーだ! おまえこそ、ラベンダーのことをわかっていない!」

「じゃあオレたちだけでなんとかするってのか!?

いったい何をどうするってんだ? えェ? 付き合いきれないね」

「だったらラベンダーにおまえのストーカー行為を言うまでだ」

「ぐぐっ――そもそも、サンタ界が消滅している時点で契約は破綻している!

契約内容は、オレがサンタ界を救ったあかつきに秘密をだれにも教えないという

ものだったはずだ」

「消滅していないと言っているだろうがァ!!

もういい、俺ひとりでサンタ界を探す! きっとどこかにあるはずなんだ。

おまえはどっか行ってろ!」

 

このっ、下衆の極みサンタがぁぁぁぁ。

こんな現実を受け入れられないイカれたサンタに付き合っていたら、

魂がいくつあっても足りない。

あの愚かしい礼名契約のせいで、オレさまはこんなトラブルに

巻きこまれてしまった!

 

冗談じゃない! 世界がひとつ消えたんだぞ!

週刊ドコドコを読んでいただけでラベンダーにストーカー扱いされるのは

我慢ならないが、こんなヤバい件に首をつっこんで枯れるのもごめんだ。

何らかの自然現象でサンタ界が消滅したということも考えられるが、

可能性としては植物至上主義者あたりが大きい。

 

そもそも、あのラベンダーに来た依頼と知った時点でとっとと降りるべきだった。

一時の恥を気にして、契約を結ぶんじゃなかった。

だが……やはり、ラベンダーにストーカー扱いされるのも嫌だ。

 

しかしサンタ界は消滅してしまった。

救いようがない。

 

つまり、オレは契約を果たすことができないから、

このサンタに協力しようとしまいとサンタはラベンダーに

秘密をばらせるのだ。

だったら……。

 

「ああそうかい、だったらオレは帰らせてもらう。

次におまえに会う時は『日の昇る評議会』か、富士神界か、冥府のどれかだろうな。

“自分の所属している世界の信用が一番大事な愚かなサンタに礼名契約を結ばされて、

報告できなかったんですぅ”と上に話したオレは解放され、晴れておまえは

オーストラリア送り! それかタルタロス送りだ!!」

 

ふははと高々に笑うオレにサンタがつかみかかってくる。

「この野郎、やるのか!」思いのほかサンタの力が強く苦しかったので、

オレはついサンタを、炎の波動を送って燃やしてしまった。

まあ気にしないけど。

火だるまになったサンタをほっといて、

こんな壊れた世界からとっととおさらばしようとオレは歩き出した。

 

まったくとんだ時間のムダだった。

これで可愛い女の子をナンパしそこねたら、どう責任を取ってくれるんだ。

そう思ってオレは木を抜いていた。背後で何かが光ったかと思うと――

 

シュッ――ドドォォオオンドッドッドッドッドドォォォォォオオ!!!

 

何かに点火したような音がすると、大爆発がいくつも起こった。

空気がうずまき、世界を構成する細胞のひとつひとつが膨らんでは弾けていく、

そんな感じの音だ。大爆発から生まれた火炎が一直線に雪道を走る。

爆風で吹っ飛ばされたオレは地面に積もる雪に頭から突っこんだ。

いったい何が起こったんだ!?

 

あわてて体を起こし、周囲を観察する。サンタは爆発の中心にいたらしい。

ひどい焼け傷を負って倒れている……。

おお、かわいそうに。

 

(もちろんそんなことはこれっぽっちも思っていないが。

ちなみにオレも爆発のせいで現在、サンタのように火だるまになっている。

因果応報というやつだが、オレには炎はあまり効かない)

 

サンタへの哀れみの感情とは裏腹に、オレさまの体は素早く反応して動いていた。

オレはいま立っていた場所から瞬時に数メートル離れ、雪道から空宙へ飛び出した。

火の鳥に変身すると勢いよく雪道の下へもぐる。

どうやらオレの予感は当たったらしい。

もう少しよく考えておくべきだった。

サンタ界が消滅したのなら、消滅させた犯人が近くに潜んでいる可能性を。

 

いまは亡きサンタ界をあると信じ、冷静に物事を考えられなかったサンタは

口封じのために敵に殺されてしまった。

 

(もちろんオレさまもそうならないように、いまから

超がんばって敵を倒さなければならない)

 

本当に哀れなサンタだ。次に転生するときは、オレさまのように

カッコイイ、機転の利く霊に生まれるといい。

 

さてと。音から察するに、頭上の雪道の炎は止む気配がない。

敵はどこに隠れているんだろうか?

雪に変身しているのか、霧としてただよっているのか。炎にまぎれているのかも。

 

このまま雪道の下を飛行して守りに入っていると、隙を突かれて不利になる。

そう判断したオレは、雪道の下からさっと出ると空高く舞い上がった。

高速で辺りを旋回しながら霊視するが、おかしなものがまるで見当たらない。

爆発が起こった時、オレはサンタに背を向けていたため、

どの方向からサンタが攻撃されたのかわからない。

くそ、どこにいるんだ?

 

オレの霊視では視えないほどの実力者ということも考えられたが、

もしそうなら、サンタ界の入口へ来る途中でとっくに枯らされていたはずだ。

 

どこだ? どこにいる? 

 

火の鳥は攻撃されないようにさらに高度を上げて、

広くなった視野で霊視したが、とうとう敵を見つけることができなかった。

 

……

 

時間ばかりが過ぎていく。

 

火の鳥は試しに雪道に降り立ってみた。しかし、敵に攻撃される様子はまるでない。

霊視したとおり、だれもいないようだ。でもだったら、あのサンタはだれに

攻撃されたっていうんだ?

 

雪道の火はもう、わずかにパチパチと燃えるばかりだ。

焦げ臭い匂いと雪のしめった匂い、それに分断された世界のよどんだ匂いがする。

そこで違和感に気づいた。

 

この匂いは――

 

雪道と灰色の空に浮かぶオーロラ以外に何もない世界からは

とうてい想像できない匂いだ。なぜここでこんな匂いがするのか……。

 

甘ったるい糖にガソリンが混ざったような、不快な匂い。

これはアルコールだ。

 

しかもただのアルコールじゃない。マイナデスアルコールだ。

本で読んだから知ってるぞ。

 

(このマイナデスアルコールはマジカルアルコールとも呼ばれ、

感知するのが難しい上に解明されていない部分が多い。

いきなり空気中に出現するとか、

二度と転生できないほど魂が傷ついた霊のなれの果てとか、

キラキラとカラフルに光り出す時があって、

それを飲むと体に良いとかいう説もある。

オカルトだな。

主な特性としては、どれだけ飲んでもその場ではちっとも酔わないが、

体内に入ってから潜伏期間を過ぎると霊を泥酔状態にさせること、

同じ条件下でも、火に反応して爆発したりしなかったりする

気まぐれ屋さんであることが挙げられる。

また、空間や霊の周波数を極端に下げる性質を持つことから、

現在、霊が三次元上に物質化するのに利用できないかと研究が

進められている――とかないとか。

オレも本で読んだりテレビで観たりしただけだから、

あとでオレンジのウソつきとか言わないでくれよ?)

 

オレは周囲をふたたび霊視してみた。景色は何も変わらなかった。

今度はマイナデスアルコールに焦点をしぼり、霊視してみる。

するとどうだろうか、この世界にマイナデスアルコールの気配が

うっすらと視えた。色でいうと汚れた緑色。

高濃度ではないと思うが、オレはその手のプロではないから、

またいつ火に反応して爆発するかわからない。

火の鳥から元のかっこいいオレンジさまの姿に戻ったオレは、

前方、元々サンタ界があったであろう、ちぎれた世界の断面付近に

転がるサンタが目に入った。

 

……

 

………………

 

………………………………。

 

つまり、サンタはサンタ界を滅ぼしたやつに攻撃されたのではなく、

――そういうことだな。

 

オレだったのか!?

 

ちょっと待ってくれ、言い訳だが、あの時、サンタにつかみかかられた時は

本当に苦しかったんだ。おまけにあの、愛する世界を失いついでに正気も失った

サンタの狂気の目! 怖かった! だれだって燃やそうと思うだろ?

 

おいおいまさか死んでないよな? 

まあ、死んだら死んだでまた転生するから殺したってべつに構わないが

――だから安心して人間を殺す龍もいるしな。

ま、龍は元々人間とは思考がちがうが――

 

(世の中ってのは善悪では計れない。究極的に言えば、

地球の味方か、人間の味方かだろう。え? オレはどっちだって? さあな)

 

アロマ連合のナイトがサンタをひとり殺害なんてニュース番組で小倉さんに

報道されたら、アロマ連合の不祥事になっちまうぜ。

それはマズい! なんとしてもそれは避けなければ、

植物至上主義者をつけ上がらせることになる。

ついでだが、オレも少しだけ後味が悪い。

 

オレは急いでサンタに駆け寄った。

良かった、まだ息はある。重症だが、治療すれば助かりそうだ。

敵に襲われて死んだならラッキーぐらいに思ったが、

オレがやってしまったのならしょうがない。

オレはおでこに青筋を浮かべながらも、愛する気持ちを高めてヒーリングした。

伸ばした手からサンタに、太陽のようにほとばしる強いエネルギーが入っていく。

すると、サンタの体についた焦げ臭い血やひどい傷跡が消えてなくなり、

破けたスーツも元通りになった。

スーツの背中には特別仕様でオレンジさまの紋章を入れてやった。

 

むくりとサンタが起き上がる。

「おれは……」

病み上がりでエネルギー節約のためか、サンタは子供の姿になっていた。

「おまえは敵に攻撃されて、爆発に巻き込まれたんだよ」

「オレンジ、もしかして治してくれたのか……?」

 

子供の姿になっているせいか、なんだかかわいく思えてくる。

「ありがとう!」

サンタが抱きついてきた。

 

やれやれ。疲れた。こいつあったかいな。

 

だが、これでハッキリした。

マイナデスアルコールを爆弾として使ったとしても、

世界なんて巨大なものを破壊するのはいくらなんでも不可能だ。

サンタ界はまだ、あるのかもしれない。

第13輪 子供は子供らしく

へー、エジプトってケメトって名前だったんだ。

ねえラベンダー、ここは?

 

             ――マノン・ガトフォセ

 

可愛い女の子の写真

 

――念力を破ってドアを開けられたぐらいなんだ!

そんなこと誰だってできる。この件はね、きみには関係がないの。

子供は子供らしく宿題でもやって、クリスマスを待ってなさい!

 

あの言い様! 何様のつもりなのかしら!

 

こぶしをふるわせ床をダンダンと踏んでいるのはマノン・ガトフォセだ。

ラベンダーの部屋からオレンジと三太が去ったあと、

ひとり取り残されて幼げに顔をゆがませしわを作っていた。

 

マノンの頭の中は三太に対する怒りでいっぱいだった。

自分のことをどう思っているのか、もし自分も役に立つということを

アピールできれば連れて行ってもらえるのか。

本当は非物質界に行く技能をすでに習得していたが、

あえてそのことを隠して三太を試してみた。

 

しかし、結果は残念なものだった。

あのサンタは自分のことを何もできない普通の人間だと思っている。

 

――子供は子供らしく宿題でもやって、クリスマスを待ってなさい!

 

い~~~!

マノンは醜悪に顔をゆがませた。

 

――子供は子供らしく! 子供は子供らしく! 子供は――

 

マノンは心の中で三太に言われた言葉を繰り返す。

大人はいつもそう言う!

大人が大人らしくできないから、子供が子供らしくなれないのに!

文句があるんだったら、子供にこうなりたいと思われる大人になってほしい!

 

どうしてそうなったのかはわからないが、

さっきのオレンジとサンタの会話によると

サンタの世界がなくなってしまったらしい。

 

マノンの心を絶望の波が襲う。

とんでもない話を聞いてしまった。サンタの世界がなくなり、

プレゼントを届けるヒトたちがいなくなってしまった……

 

クリスマスの危機――とはマノンは思わなかった。

クリスマスは人間が作ったイベントだということ、

なにもクリスマスの日に一斉にプレゼントされるわけではないことがサンタの口から

直接聞かされたので、もうマノンにはクリスマスに対するあこがれや、

遠くに出かけている恋人が戻ってくるような待ち遠しさ、

クリスマスじいさんがやってきて、子供にプレゼントを

渡してくれる特別な日という想い入れが全部なくなっていた。

 

失ったものは戻らない。

 

ラベンダーは夢を壊さぬよう、サンタについて、

霊界の世界からプレゼントを渡しているという最低限のことだけマノンに

教えてくれていたのだった。

 

しかしいまのマノンには、ラベンダーに対する感謝の想いすら出てこない。

すべてが幻想であったと知ったからだ。

ただ、はかないだけであった。

 

そして幻想が壊れたおかげで少女には、現実が視えてきた。

 

サンタ界がなくなった。

これから人々にプレゼントが届かなくなったら、

どうなってしまうんだろう?

 

世界中の人々に何か不運なことが起こったり、意図せぬ事故で

苦しんだりするのだろうか?

 

夢を叶えられない。

奇跡は起こらない。

努力が実らず、偶然や幸運も起こらない。

 

そういう世の中になってしまうのだろうか。

 

マノンは考えた。

暮らしはどうなるのだろう?

何が起こるのだろう?

世界はどこへ向かうんだろう?

 

わたしの国、エグザゴーヌは10年前に戦争が終わったばかりだ。

世界中の国々を巻き込んだ世界最大の大戦争――世界大戦。

 

記録の上だけで約170万人以上のフランス人が死んでしまい、

世界では少なく見積もっても1000万人もの人が死んでしまった恐ろしい大戦争。

 

それを解決に導いたのは、ひとりの少女だった。

英雄『洗い草』。

わたしのあこがれの花であり、家族であり、大好きなお姉さん。

 

世界大戦についてはパパとラベンダーからたくさん聞いている。

エグザゴーヌが世界大戦のせいで、いま大変なことになっているということも。

形の上では戦勝国だが、失ったものは大きい。

大勢の人が死んで人口が減ったため、国として衰弱していること。

不安定な経済と政治のせいで、暮らしに困っている人がたくさんいること。

ゾーン・ルージュと呼ばれる汚染エリアが誕生し、

そこでは人間は安全に暮らすことができないということ。

その事実をフランス人で知っている人は、ほとんどいないということ。

他にもいろんなことをふたりは教えてくれた。

 

もしもまた…………世界大戦みたいな、何か恐ろしいことが起こるとしたら……

 

――オレンジとあの愚図なサンタだけに任せられるほど、

わたしの木は長くないわ!

 

そしてマノンは絵画の前に立つ。

そもそも、行って自分に何ができるのかなどわからなかったが、

いま確実にわかることは人間界の危機が迫っているということ。

それも人間でその事実を知るのは自分だけだということだ。

 

マノンは強く決意した。

待っていても、世界大戦級の何かが人間界を襲うかもしれない。なら動くしかない!

あの頭の悪そうなサンタに何を言われても、人間界の危機は、

わたしがなんとかする!

 

ラベンダーだったら、きっとそう言うよね。

 

マノンは絵画を見つめる。

そして勢いよく頭から飛びこんだが――

 

ゴッという鈍い音がすると、マノンは倒れてしまい、そのまま動かなくなった。