読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

夢の中の養成所。ヘミシンク ナイトスクール

いっくん日記

今日わたしはヘミシンクのCDを聞かずに寝たが、

気づいたときにはあるホールの中にいた。

フォーカスレベルだと、どれぐらいなんだろう?

ま、どこでもいっか。

 

ぼんやりとだが、夢の中だとわかった。

ホールの中にはふつうの野球場ぐらい人が多くおり、

みんな紙を持っていた。

 

わたしは列に並んだ。

紙を見ると、

H-324

F-174

C-HGDY

O-F6GH5

 

と数字やアルファベットが書いてあり、意味はよくわからなかった。

しかし、なぜか頭に情報が入ってきて、紙に書いてある一文は

自分のカテゴリーが俳優だと示していることがわかった。

そして、この建物はどうやら養成所のようなところで、

いろんなジャンルの人がそれぞれの教室に行って

指導を受けていることがわかった。

後ろを振り向いていると、ホールの2階以上に

B’zのライブ会場が如く人がいっぱいいて、

わたしの後ろにも人がいっぱい並んでいた。

そして案内係のヒトが、なんと上野くんだった。

上野くんとは中学時代の同級生で、特に仲良しというわけではない、

同じクラスの知り合いぐらいの関係だったのだが、

たまにフッとわたしの夢にひょっこり現れるのだ。

上野くん……。

なんでここで案内係をしているんだろう?

でも彼は3次元でも優秀な人だから、たぶん上でも

見込まれて案内係をしているにちがいない。

 

3次元であまり接点のないヒトでも、上の次元だと意外と

会っていたりするもんなんだな。へ~。

 

そしてわたしの順番がきて、上野くんはわたしに

わたしが行くべき教室の場所を口頭で説明してくれた。

わたしの持つ紙には204~244と書いあった。

どうやらこれが成績らしい。

この成績に見合ったところへ行くらしく、

700以上のヒトもいたので、わたしの成績は低いようだった。残念。

 

わたしは上野くんに何かを質問した。

(起きた直後は覚えていたのだが、忘れた)

 

上野くんは「あー、めんどくせー」とちょっと焦っていた。

このときの雰囲気は険悪ではなく、ほんのちょっとだけ

フレンドリーな言い方で、「あー、めんどくせー」

と言っていた。

いろんな対応に追われ、案内係も楽じゃないなとわたしは思った。

 

それにしても、どうしてわたしは今回、俳優の養成所に行ったんだろうか?

音楽や小説じゃないのかな?

いや、音楽と小説はもうわかるから、演技のやり方を教わりに行ったのかな?

あ! ここがもしかして、ヘミシンクでいうナイト・スクールなのか!!

 

初ナイトスクールだ、ひゃっほ~。

とハシャいでみたけれど、覚えていないだけでたぶん学校自体は

何度も行っているかもしれない。

 

もしかして上野くんは、わたしがこの建物に来ていたことを忘れて

また同じ質問をしたから、「あー、めんどくせー」

と笑っていたのかも。

 

でも、わたしが俳優か~。

ありえないな、と思うけど、もしかしたらあり得るかもしれない。

 

わたしが高校生の頃に作った曲で

『ペーパーラブストーリー』という曲がある。

本が大好きで、小説家を夢見る女の子の曲なのだが、

その曲の歌詞が『ラベンダーさん』シリーズと見事にマッチしているのだ。

 

おまけに、仕事にはなっていないがわたしはあの小説を

短期間で書き上げてしまった。小説なんて書いたこともないド素人だったのに。

誰かが側にいて、ここはこう、あそこはこう、と指導してくれているみたいに

簡単に。

 

『ペーパーラブストーリー』を書いた当時も、

自分にまさか物語が書けるなんて当然思っているわけもなく。

だから、すごい奇跡だと本当に思う。

近いうちに録音して動画サイトにあげようと思う。

そしたら歌詞もこのブログに上げるから、気になる方はぜひ。

 

というわけで、『ペーパーラヴストーリー』は見事に

未来のわたしを一部予知していたわけだ。

(どうせなら全部現実になってほしい……)

 

なのでひょっとすると、未来でわたしは、

何かの形で演技をするのかもしれないなぁ。

 

わっはっはっはっは。

いや、ただの偶然、ただの夢なんて、わたしはもう言えないほど

経験しちゃってるからなぁ……。

 

まあ、楽しいなら、俳優もいいけどね。

第20輪 狂気のサンタ界

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

連れていってくれるって約束したのになぁ

 

      ――マノン・ガトフォセ

 

ナポレオンの写真

 

血で真っ赤に染まったような服を着たサンタ共が三太を襲っている!

 

なんてこった! マイナデスアルコールが充満してサンタ界は堕ちたんだから、

中にいるサンタだって正気を失っているに決まっているのに。

どうして気づかなかったんだ!

 

三太は現在、サンタ――マイナスサンタとでも命名しようか――に

襲われて、拳や剣を避けるのに精いっぱいだ。

ギリギリのところでかわしてはいるが、三太はまだ大人の姿に変身できるほど

体力が回復していないはずだ。

相手は大人のサンタ共。それも十数人。子供の姿では圧倒的に不利だ。

 

オレは急いで飛んでいき、三太の頭上でナポ公の姿になった。

 

(ナポ公とはもちろん、ナポレオン・ボナパルトのことだ。

なつかしいな、あいつ元気にしてるかな。

昔はピーピー泣いてたひよっこだったのに、

あっという間に立派になって。あいつにレディの扱い方を教えてやったのは

このオレだ。やつはオレさまの女性に対する心得を

みるみるうちに吸収してゆき、見事、オレンジ勲章準2級を受章した。

ニワトリぐらいには成長したんじゃないか。

だがやつは慢心した。最後はケンカ別れになっちまったが、

根は……うーn、人間だな。

ちなみに妻のジョセフィーヌが飼っていたフォーチュンというパグは、

オレと会話ができるほど霊感が強く、いけ好かないヤツだった。

あいつは犬の中でもかなりの悪たれだ! もし人間だったらその悪名は

後世に語り継がれただろうに、残念だ by オレンジ)

 

下降中に火炎玉を作ろうと手のひらにエネルギーを送り込んだが、

途中で気づく。

そうだった、いまこの世界で火はマズい。

ナポレオン・ボナパルトはタッと着地した。

ちょうど三太に殴りかかろうとしていたサンタを踏み倒し

少し背が高くなった皇帝は、無心で隣の三太と目が合った。

 

「……」

「……何してんの?」

「おまえを助けようと思って」

「上から攻撃して蹴散らせば――」

「危ない!」

ナポレオン・ボナパルトの皇帝パンチだ!

喰らえ! 三太の背後から襲い掛かってきたハダカのサンタの

ほおに命中した皇帝パンチ。しかし俺のイメージとはむなしく、

ハダカのサンタはダウンせずそのままオレにつかみかかってきた。

おぉ、こんにゃろ!

倒されたオレはサンタの腹に足を入れ、後ろへ蹴り飛ばした。

 

急いで起き上がると、三太は大人の姿に戻っていた。

7人に囲まれているが、ふたりは仲間割れして殴り合っているので、

5人のサンタとやり合っている。

いまふたりを日本刀で気絶させたが、残りの3人は難しそうだ。

3人のサンタが持っているのはチェーンソー、札束、RPGーTだ。

全員ゾンビのように不規則な動きをしており、三太は苦戦していた。

特に厄介なのがRPGーTを持ったやつだ。

RPGーTはトト社という非物質界の有名企業が開発した対UFO携帯兵器で、

肩に担げるサイズなのにもかかわらずUFOを撃ち落とす威力を

持っている。

 

三太は必死でRPGーTの軌道から外れようと、躍起になって

暴れている。

助けに行きたいが、こっちもそれどころじゃない。

10人ほどのサンタ共が次々に

このナポレオン・ボナパルトに襲いかかってくるのだ。

半分ぐらいは素手だが、銃口を向けるやつ、スタンガンを持つやつ、

槍を持つやつ、スマホを持つやつ、帽子をくるくる回すやつ、

赤い帽子をパンツの中に入れ、犬みたいに四つん這いでくるくる回っているやつ、

自分の顔を殴りまくっているやつ、いろいろいる。

 

(まったく、もし人間だったら不敬罪だぞ!)

 

悲しいことに、オレの実力で真正面からこのサンタたちを倒すのは難しい。

だが、オレは機転を利かせた。

相手は酔っている。正気じゃないならなんとかなるはずだ。

オレは元の姿に戻ると自分の香りと念で分身を作った。

そしてオレ自身は体のエネルギーの流れや動きを止め、

がんばって気配を消した。

 

(呼吸を止めているとイメージしてくれれば、

どれだけ苦しいか分かるだろ? 

エネルギーの流れや動きを止めるということは、

裸のように無防備だから、いま攻撃されたらオレはおしまいだ)

 

オレの予想通り、サンタ共は分身を攻撃し始めた。

オレとそっくりというわけではないが、

等身大のオレンジ色の光はオレと同じ周波数のエネルギーの塊だ。

まともに霊視できないやつには、オレと同じように見えてるだろう。

 

よし、三太を助けよう!

 

見ると三太は、チェーンソーを日本刀で真っ二つにしたものの、

後ろから襲ってきたボコボコ顔の黒い服を着たサンタに

羽交い絞めにされて、札束でビンタされていた。

いまちょうどRPGーTは発射準備が完了した!

マズい!

そんなものヒトに打ったらどうなると思ってるんだ!

オレは携帯空間から銃を取り出してRPGーTを持つサンタに狙いを定めた。

間に合ってくれ!

指に力を入れるが、耳に不穏な音が聞こえたせいで

引き金を最後までしぼることができなかった。

 

シュボっという音が気になって、オレは後ろを振り向いた。

オレの視線の先では、人差し指から火を出したイカれたサンタが、

手に持ったダイナマイトの導火線に火をつけようとしていた。

 

おい、やめろ!!!

 

 

 

マノン・ガトフォセは小さな火炎が森から噴出したのを見た。

なんか火が出たなと思っていると、

瞬く間に太陽のように丸くて巨大なオレンジ色の光になり

熱風を全身に受け吹き飛ばされた。

赤オニちゃんの誕生日。発達障害のキミの世界が広くなることを――

ぼくと赤オニちゃん

テディベアを持って歩く少女

 

あの日、ぼくはどうして彼女にプレゼントをあげようと思ったんだっけな。

 

思い出せない。

 

一か月前のことなのに。

子供たちと過ごす毎日は内容がとても濃厚で。

ぼくはラーメンみたいにこってりした食べ物は苦手なので、

子供たちとの日々も脳がもたれてしまい、

思い出すのにひと苦労だ。

 

ただ、あげなきゃひどく後悔するって、思ったんだ。

 

最近のぼくは霊的な能力がすごく鋭くなっている。

ぼくと同じ年齢の子たちは原発? なんか危ないやつ? ぐらいの感じだけど、

原発で命がけの体験をしたせいか、

『ラベンダーさんと征服の草Ⅰ アトランティスへの不満』を書き上げ、

実際にオバマ大統領が来日したこと、

プルトニウムの由来となったプルート(ハーデス)が登場して死んだこと、

物語を書き終えたのがぴったり3,11と同じ3か月と11日だったこと。

様々なことが現実に起こったこととシンクロしたため、

もはや自分の直感を疑う余地はなかった。

 

直感が言わなくったってあげてるとカッコイイことを言ってみたいもんだけれど、

それはきっとなかったかもしれない。

だって、指導員がひとりの子供の誕生日にプレゼントをあげるというのは、

ヒイキになってしまうから。

 

これにはすごい悩んだ。

 

だけどぼくは、自分の心に従うことに決めたんだ。

 

赤オニちゃんのお父さんは離婚して出ていき、

現在はお母さんと二人暮らしだそうだ。

そして赤オニちゃんは、発達障害なのだ。

小学4年生で、会話も成り立つので接している分には分からないけど、

時計はまだ読めないし、足し算引き算は数字ではなく、文章でできるステップ。

リンゴとイチゴの数はどちらが多いでしょう?

スイカとリンゴはどっちが大きい?

このステップ。

ひらがなを読むのもひと苦労だけど、時間をかければ読める。

 

なので学校のバスで支援学校に通っている。

放課後はそのまま施設に来るので、平日週5日は施設で過ごしてから

お家に車で帰る淡々とした生活だ。

 

赤オニちゃん。彼女の世界はとっても狭い。

ほとんどが家と学校と、施設での暮らし。

日曜日はお母さんもお休みらしいけど、週に6日も働いているので、

日曜日におでかけに連れて行ってもらえるとは限らない。

 

ぼくが小学4年生の時は、放課後は学校のグラウンドで遊んだり、

自転車に乗って好きな場所に出かけたりしていたし、

家に友達を連れ込んでマリオパーティやったり、デュエルしたりしていた。

ちなみにぼくはデュエル・マスターズ派。

切り札はエレキチューブ・マンタ。

あとイモータル・ジャイアント。

あと空海も。

 

だけど赤オニちゃんは……自転車に乗ってどこか好きな場所へ行くこともなく、

年頃の女の子たちとファッションとか好きな芸能人の話もすることなく、

ませた方向に生意気なわけでもなく(好き嫌い、イヤだの自己主張はできる)

友だちと呼べる子や、信頼できる人もほとんどいないのだ。

(学校ではいるかもしれないが、

毎日顔を合わしている施設の子でさえ交流できていない。

流れの中で一緒に遊んだり活動しているだけ)

 

赤オニちゃんの世界には、限りがある。

彼女の世界にあるのは、学校と、施設と、お家だけ。

 

だけどぼくは赤オニちゃんのことを可哀想だとは全く思わない。

それはぼくがヘミシンクをやったおかげで価値観が広がったというのもあるし、

だから普通の人間だと思っているし、

(普通の人間だと思ってはいても、

もちろん療育活動や赤オニちゃんの社会性や学習、スキルアップのための

指導は赤オニちゃんの様子を見て、その時の状態に合わせて

無理のないように臨機応変にやっている)

究極的に言えばすべて経験するために生きているというのも感じているし、

今回の転生で地球人やっているだけなので、普通じゃない人なんていないし、

そもそも可哀想という言葉は理不尽に殺処分される動物や、

人間が好き勝手やってメチャクチャになっている自然にたいして

使われる言葉で、人間に対して使われる言葉ではないとぼくは思う。

まあ、いつまでも戦争やったり、自分たちの発展しか考えず地球で

生きているということがどんなことかを考えない頭を可哀想というのであれば、

話は別だけど。

 

健常者でなくったって、人間に生まれた時点で、いまの時代に日本人として

生まれた時点で、十分勝ち組でしょ?

ほかの生き物に生まれるより、恵まれすぎているもん。

ただ、ぼくは、一生懸命なあの子たちがとても大好きだから、

手を貸してあげたい。

あの子たちはいまはまだ、手を伸ばすことも知らないだろうけど。

 

さて、話を戻さなきゃ。

 

10歳の誕生日というのはきっと、子供にとっては一大イベントだ。

ぼくにとってはもう誕生日やクリスマスとは、

頑張りすぎる創作活動をストップし、単なる体を休める日になってしまったが、

赤オニちゃんにとってはそうではないはずだ。

生まれてちょうど10回目の、節目の誕生日。

特別な一日だ。

 

だから、特別にしなきゃ。

 

誕生日の前日にはもう先輩スタッフから

「赤オニちゃんになにかあげるの?」とからかわれるぐらいには

ぼくと赤オニちゃんとの心の距離は近くなっていた。

 

朝5時には起きて、英字新聞を駅前のコンビニまで買いに行った。

そして、英字新聞のテディベアを作った。青い装飾リボンを頭に着けたりして。

ちょっと丁寧に作り過ぎたせいか、4時間もかかった。

ラフに作れば10分もかかんないのに。

 

さてと。

まず、どのタイミングで渡せばいいのか。

赤オニちゃんが早く来てくれれば、子供が少ないタイミングで

渡せるが、そうじゃないとしたらかなり厳しい。

 

結果的にはこの日、赤オニちゃんは遅めに来たので

みんなが帰りの支度をしている時にこっそり呼んで手提げ袋をやむなく渡した。

「これ何?」

「クマのヌイグルミ」

赤オニちゃんは不思議そうだった。

「今日誕生日でしょ? だからあげる」

「うん」

 

早く帰りの支度をしてもらわないと困るという気持ちもあったし、

渡しているところを他の児童やスタッフにバレても困るという気持ちから、

みんなには内緒ね、と赤オニちゃんに伝える暇がぼくはなかった。

ま、手提げ袋に本体は隠れているし、赤オニちゃんはあまり

他の子としゃべらないから大丈夫だろうとタカをくくっていた。

しかし先輩スタッフには赤オニちゃんに渡したテディベアが見つかってしまい、

その場でお叱りを受けた。

「ああいうことすると、ズルいズルいって言われてみんなに

同じことをやらなくちゃいけないから。

それにお金もかかるから、知り合いの子供ならいいけど、

職場の子供の特別扱いは絶対ダメ」

 

怒られることは分かっていたけど、

ぼくは 、やらないという選択肢はなかったから反省は半分だけした。

ぼくのすごい直感がやれって言うんだもの。しょうがない。

それにこのとき自分の魂を信じた結果がいま、実っているから、

ぼくはやはり正しかった。

(そう断言できる。『ラベンダーさん』を書いたことは、

それぐらいの奇跡で、自分の霊感に自信が持てた出来事だから)

 

そして玄関でみんなで帰りのあいさつをする前、

小学6年生のちー姉ちゃんはこう言った。

「あ! 赤オニちゃんそれなに~! 来たとき持ってたっけ?」

「ううん、いっさんがくれた」しれっと。

 

こ、こいつ! しれっと、しかも屈託のない笑顔で言いやがった!

ちー姉ちゃん「えーなんで!? わたしも欲しい! ずるい」

いっくん「あ、あは、は」

ちー姉ちゃん「ねえこれ作ったの?」

いっくん「うん、ここで作ったんだよ」

ぼくはずるい大人なので、家ではなくここで作ったことにした。

施設で作ったものは持ち帰ってもいいからだ。

わざわざ家で作って来たなんて言えるはずもない。

先輩スタッフ「え!? あ、これ買ったんじゃなくて作ったの!?

いっくんが? 嘘でしょ?」

いっくん「いや、作ったんですよ」

先輩スタッフ「どうやって!?」

いっくん「新聞紙丸めて、ボンドとセロハンテープで。

だから材料費もかかってないんですよ」(英字新聞紙は400円、装飾リボン300円)

先輩スタッフ「ウソぉ!? これ作れんの!? あ~ごめんね、

私てっきり買ったものだと思ってた! いっさんが作ったものだったのね~!」

 

ぼくがその場で実演すると、スゲーとみんな驚いていた。

そして、来る1月27日の療育活動は、テディベアの工作をぼくが担当することに

なった。

 

赤オニちゃんは、ちー姉ちゃん含め特に女の子から見せて見せてと

迫られていたが、頑なに「イヤ、イヤだ」と拒み続けていたのだった。

 

この日を境に、赤オニちゃんの世界とまではいかないが、

彼女の視界は広がりを見せ始めた。

ぼくと赤オニちゃんの出会い

ぼくと赤オニちゃん

施設で働き始めたばかりの頃、ぼくはまだ子供たちとの信頼関係を

築けていなかった。

最初のうちはナメられるというのを上司から聞いていたが、

思ったほどでもなく。

むしろみんな、新しいオモチャが来たように興味を持って接してくれた。

ぼくは最初からかなり好印象を持たれていたように思う。

いま思うと、童顔だから他の大人よりは打ち解けやすいのかもしれない。

 

むかしから同世代受けはしないけど、お年寄り受けはすごく良くて。

お年寄り受けが良いのは微妙だなと感じていたが、

子供受けがいいのはすごくうれしい。

 

本当に受けが良い。

 

といっても、子供たちとの距離感や接し方がまったく分からなかったので、

まずはひとりで遊んでいる子と一緒に遊ぶことになったのだった。

 

それが赤オニちゃんだった。

 

いまでこそいろんな遊びをする赤オニちゃんは、

最初は人形でしか遊ばない子だった。(と言っても一ヵ月ちょっと前の話だが)

 

赤オニちゃんは30~40体は入った人形ボックスからお気に入りの人形である

佐藤さん、大山さん、そしてその他を取り、ひとりで無言で人形遊びをしていた。

そこにぼく参加。

 

そのときぼくに赤オニちゃんから与えられた人形は雪だるまだった。

他の人形を使われるのはイヤらしく、ぼくは雪だるまで一緒に遊んだ。

そのときのやりとりはなんだったかなぁ。

 

たしか~、佐藤さんは魔法使いで、大山さんは佐藤さんのお姉さん? で、

佐藤さんと大山さんは雪だるまのことがキライとかなんとかだったような。

 

ちなみに人形には、

佐藤さんと大山さんという59歳の美人(見た目は20前後で、

このふたりはレギュラーメンバー)のほかに、

リボンちゃん、ロボニャン、金山さんと銀山さんというねむネコの人形、

犬山さんがいる。

 

だれだよという感じだが、いるのだ。

名前を覚えるのに必死だったよぼかぁ。

 

それからは、あまり内容のない

(最終的に雪だるまが佐藤さんと大山さんから一方的にヒドい目に遭う)

人形遊びを毎日やっていたように思う。

 

しかし問題がひとつあった。

赤オニちゃんは、30~40体はある人形をよく独占してしまっていた。

他の子供たちが使いたいと思っても、なかなか使わしてはくれなかったのだった。

最終的にはスタッフに注意されて、貸してはいたが。

「あ、いまウソついた! 赤オニの世界つれてっちゃうぞ!」

ぼくと赤オニちゃん

ぼくと赤オニちゃん。

 

赤オニちゃんはちょっとバイオレンスな女の子。

暴力こそ振るわないけど、イヤなことや嫌いな人には

ノドが枯れてしまいそうな声で「キライィ!」とすぐうなる。

小学4年生。

好きな人形:ウサビッチと佐藤さんと大山さんとリボンちゃん。

好きな食べもの:おすしとハーゲンダッツ。

好きな人:いっくんらしい?(疑問形にしているが、職場の同僚はそう思っている)

 

ぼくは児童施設で働き始めてもうすぐ2か月の新人。

管理者からは仕事ができると思われており研修期間にもかかわらず

賃金を上げてもらったが、本人はただ楽しく遊んでいるだけ。

 

(一応念の為に書いておくが、ただ楽しく遊んでいると書いてはいても、

やることはやっているし、考えるべきことは考えている。

世の中には自分のことを棚に上げる口うるさいおじいさんおばあさん

がいるので、一応、一応ここに記しておく。

せっかく冗談を書いても、冗談が通じない人の為にこんなことを

書かなきゃいけないのだから、世の中ってヤダね)

 

この赤オニちゃんとぼくがいまハマっている流れが

赤オニさん。

この流れというか、赤オニさんの下りが本当に面白くて面白くて、

ぼくは大好き。一日の疲れが吹っ飛ぶ瞬間なのである。

 

たとえば人形遊びで誰かが暴力を振るったり、スカートをめくったり、

警察ごっこではぼくと赤オニちゃんにとってはもはや定番の信号ムシ

をすると、まず警察がやってくる。

そして悪い人役の赤オニちゃんかぼくが「やってません!」と言うと、

もうひとりが「あ! いまウソついた! 赤オニの世界つれてっちゃうぞ」

と言って赤オニさんの人形を持ってきて、追いかけっこがスタートするのだ!

 

(しかも、赤オニさんと呼ばれる人形は赤い背びれの恐竜)

 

最終的に赤オニの世界に連れていかれた人形は、赤オニちゃんの手で

下を抜かれる(もちろん抜くフリ)。

ただ、この前のマグネット遊びでぼくが動かしていた

シールのように薄い青年のマグネットは、下を抜かれた後、

「反省しても許しません」と赤オニさん役の赤オニちゃんに

言われ、本当に足をちぎられてしまった!

もちろんぼくは大笑いした。

やっちまったものはしょうがない。

 

ぼくは赤オニちゃんが好きで好きでたまらない。

(もちろん恋愛感情ではない)

 

この仕事で一番最初に打ち解けた子であり、

一番なつかれている子だ。

施設の子供たちはみんな、ひとりひとりが本当に愛しくて愛しくてたまらないが、

赤オニちゃんと遊んでいるときは、ことさらに、仕事を忘れるほど楽しい。

 

赤オニちゃんが一年生の頃から見守っている先輩指導員の方にも

赤オニちゃんはノドが枯れそうなうなり声で「あっち行け! キライ!」

と言うのに、入って一か月も経っていないぐらいから、

なぜかぼくは急になつかれて。

子供って、心を許すのが速すぎる!!

 

理由はまあ、思い当たると言えば思い当たるけど、

どうしてぼくなんだろう? と、

『ラベンダーさんと征服の草Ⅰ アトランティスへの不満』

を書き終えた頃と同じぐらいには疑問に思う。

 

ぼくは自分のやりたいこと、人生においての巡り合いやタイミング、

進むべき場所は、得意の霊感や直感で見抜くことができるが、

自分のそういうところはよくわからない。

(だって、要は自分の人柄がいい、徳が高い、精神的に優秀だって

認めてしまうことになるでしょ? わかる人って言ったら)

 

ここでは書き切れないので、またおいおい、

赤オニちゃんとの日々を書いていこうと思う。

 

最期にこれだけ自慢させて。

普段あんまり人に自慢したりとかしないけど、そういう年頃だから許して!

 

去年の12月下旬、いまの職場で働き始めて一か月経つか経たないかぐらいのとき、

スーパーで買い物をしていたら赤オニちゃんの生き霊? 念? が飛んできて、

「先生何やってるの~!」って抱きつかれた。

 

子供の想い、パワーってすごいと思った。驚いた。

でも、そこまで想ってくれているんだって伝わったよ。

ありがとう赤オニちゃん。大好き!

 

きみの世界がもっと広がれ!

第19輪 静寂のサンタ界

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

 

ビュッシュ・ド・ノエルもオススメだけど、

この店のラズベリーケーキが 最っ高に美味しいの!

 

     ――ラベンダー

 

カラフルなラズベリーケーキの写真

 

オレンジと三太とマノンの三人は、陽の光がまったく届かないほど

地下深くまでやってきた。

いまマノンは、オレンジの体から出るわずかな光を頼りに

下へ飛んでいる。

 

どこを見ても真っ暗で何も見えない。

オレンジも三太もいつどこで襲ってくるかわからない敵に

神経を張り詰めていた。

 

慣れないニワトリの体を動かすことで必死なので、

会話をしていない時に感じる気まずさをいまは感じることはなかった。

 

思い返すと、今日だけでいろんなことがあった。

(本当はそんな余裕はないんだけど、がんばるわ by マノン)

ラベンダーが帰ってきたと思い部屋に入ったら本物のサンタがいて、

サンタの現実を教えられ、学校のみんなよりも早く大人にさせられたこと。

サンタの世界がなくなったかもしれないこと。

もしかしたら人間界の危機かもしれないこと。

 

さまざまな感情がマノンの中で忙しく動きまわる。

あのサンタの言うとおり、わたしは――。

 

そこでマノンは考えるのをやめて、体を動かすことに集中した。

またふたりに自分の思っていることを読まれたら……たまらない。

いまは飛ぶことに集中しよう。

 

真っ暗闇の中、自分たちがいまどこにいるのかもわからないまま

マノンと三太はオレンジについていった。

 

どれぐらい飛んだだろうか。

やがて灰色の霧が出てきて、黒色だけの世界が灰色だけの世界に変わっていった。

 

「マイナデスアルコールの悪臭がだいぶ強くなってきた。

気分は大丈夫か?」

先頭を飛ぶオレンジが訊いてきた。

「うぇ、吐きそう」

「そんなに? わたしはちょっとだけ」

具合の悪そうな三太にマノンは顔をしかめた。

「こういうのって、人間のわたしのほうが具合が悪くなるものじゃないの?」

かわいそうなものを見る目で三太を見たオレンジは、

香りを出して三太の吐き気を抑えてあげた。

「強い弱いだけで考えたらそうかもな。

非物質界で生きているやつは敏感だから、核エネルギーや他のネガティブな

エネルギーの影響をモロに喰らっちまう。

その点、肉体を持つ人間はニブいし、いまマノンは本体が別にあるから

影響を受けにくいんだよ。

タバコの副流煙とか、100ベクレルの食べ物だと思えばいいさ」

「……それってつまり、ヤバいってことだよね? オレンジ?」

「これから世界をひとつ救おうってんだ、健康なんか気にすんな」

「お肌の問題は別よ! 肉体にも影響あったらどうしよう!?」

「これぐらいならおそらく問題ない、気にすんな」

「なんだかすごく具合が悪くなってきた、わたしも吐いちゃいそう」

「オレにかまってほしいから演技しているのか?」

「オレンジ! わかるでしょ! 本当に辛いの、香りちょうだい!」

「わかったわかった」

 

やれやれと苦笑しながらも、オレンジは自分の香りと念でベールを作り、

三太とマノンの体をそれぞれ包んであげた。

 

「真夏の紫外線を防ごうとするようなものだ。

サンタ界の中へ行けば、あまり効果は期待できないだろう」

「それでもだいぶ楽になったわ、ありがとう!」

「ぼくはまだ吐きそうなんだけど」

 

オレンジはマノンだけを視界に入れると、ふたたび翼をはためかせ、

灰色の世界を飛んでいった。

 

 

 

*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ

 

 

 

灰色の霧を抜け出た先には、赤い世界が広がっていた。

マノンが霧だと思っていたのはどうやら雲のようで、

地底へ向かっていると思っていたのに上空に出たのでマノンは驚いた。

 

正直眺めがいいとは言えなかった。

 

空は雲に覆われていて、太陽が見えないのに夕焼けのように赤く染まる

不気味な世界。黒くとがった山に、高く細く響く何かの鳴き声。

ゴツゴツとした岩が目立つ荒野に人の気配はないが、

代わりに何かが潜んでいるような雰囲気がする。

 

「オレンジ、ここはゲヘナ(地獄)なの?」

「そうと言えばそうだし、そうじゃないとも言えるな。

ゲヘナの定義も人間とオレたちではちがうし。

魔界の一種でいいんじゃないか?」

「魔界……」

「よくないものの溜まり場だな」

 

「あ!」

突然声をあげた三太に驚いたマノンは、ツバが気管に入ってむせてしまった。

 「オレンジ、サンタ界だ! やっぱりあったんだよ!

消滅してなかった……みんなは生きているんだ! うぁぁぁぁぁ」

「あ、バカ、ひとりで先へ行くな!」

 

ひとり荒野を飛んでいく三太だが、オレンジには三太がいったいどこへ

向かっているのかが分からなかった。オレンジが視た限りでは

サンタ界なんてどこにも見えない。

もしや三太は、ストレスでとうとう頭がおかしくなってしまったのだろうか。

「おい! 三太、止まれ、サンタ界なんてどこにもないぞ!」

しかし三太にはオレンジの声は届かなかった。

 

三太を追いかけて飛ぶオレンジを、だいぶ遅れてマノンが追いかける。

置いてけぼりにしないで! そう叫びたくてもマノンは声が出なかった。

長時間の慣れない飛行で声も出ないほど疲れているのに、

ふたりはマノンなど眼中にないかのようにどんどん先へ行ってしまうのだ。

それもこんな得体の知れない世界で。

 

マノンは泣きたくなった。怖いと思った。

とりあえず、無我夢中で必死に翼を動かし、飛んだ。

 

マノンがふたりに追いついたとき、オレンジと三太は言い争いをしていた。

オレンジは怒鳴った。

「おい! ひとりで行動するんじゃねえ! 

公式ガイドブックにも乗ってねえ未確認の世界だぞ」

「なに言ってるんだよ! あそこにあるのがサンタ界だよ! 見えないの!?」

 

マノンはもうこのふたりと一緒にいるのがイヤになった。

「ねえ、サンタ界ってどこ?」

「ほら、マノンだって見えない! オレにだって視えないぞ」

「あ……ごめん、伝えるの忘れてた。

たぶんね、いまは緊急時用の結界が作動していて、サンタ以外には視えないように

なっているのだ。ちょっと待ってて」

「早くそれを言えよ」

「ごめん⤴、忘れてたの!」

 

息を深く胸に入れると、三太は軽やかな声で歌いはじめた。

 

「いい子のために。いい子のために。

出てこい出てこい靴下の中、私にくれた贈り物。

いつかあなたが来なくとも、だれかにあげられますように。

わたしがあなたになるように

『迷い仔の目印』の名において命ず――姿を見せろ」

 

キィンと、耳の奥から響いているように感じるほど高い音が鳴る。

オレンジとマノンは目を疑った。

殺風景な荒地の中、自分たちの眼下にいきなり

西洋風の城と雪で白く染まった森が出現したからだ。

マノンはとても驚いた。

霊感が強いこともあり、普通の人が経験しないようなことはいつも体験しているが

――現にこうして幽体離脱して、オレンジの精霊とサンタと一緒にいるし――

 世界がひとつ目の前に現れるというのは、

人間界では決して味わうことのないマジックショーを見ているようで、

一瞬感動しそうになった。

ただ、残念なことにサンタ界は怖くて不気味な城と森だったので、

呪われた遊園地がいきなり目の前に現れたように感じて、ショックだった。

 

イメージとちがう、早く帰りたい、頑張って救わなきゃ、めんどくさい、

サンタの世界って不気味だなとマノンは思った。

どうしてサンタは人の夢を壊すんだろう? とマノンは思った。

 

すると、まるでマノンの心を読んだかのように三太が答えた。

「ぼくは君の心を読んでいないけど、なんて考えているかはわかるよ。

誤解しないでね、次元の高い場所から低い場所に堕ちたから、

風景が少し変わっているんだよ。本当はもっといいところだから」

 

「三太……おまえは正しかった。サンタ界はあったんだな」

「うん」

「サンタ界が堕ちた原因はこのマイナデスアルコールで間違いないだろう。

そして、至上主義者が絡んでいる可能性も大きい。

だとしたら――」

 

三太とマノンはオレンジを見た。

 

「他の世界とゼンマイ仕掛けの騎士団に救援を要請しよう」

「ヤダだ」

「!? 何言ってるんだ、こんな状況なんだぞ!」

「こんな状況だからこそだよ。

誰が根で至上主義者と繋がっているかわからない以上、

内部に入り込まれてうっかり情報を盗まれでもしたら大変だ!

それこそやつらの思うつぼ!」

 

オレンジは頭を悩ませているようだった。

三太の言っていることは正しい。

だが、世界が丸ごと低次元まで落とされるという非常事態なのに、

そんな悠長なことを言っている場合なのだろうか。

そもそも、堕ちた世界って、元の次元の場所に戻せるのだろうか?

 

オレンジが黙ったことをいいことに、三太は気分をよくしていた。

「形はけっこう変わったけど、サンタ界がなくなってないんだから、

きっとみんなも無事だよ。救援なんかなくても――あ! ほら!!」

三太の視線の先では、赤い服を着たサンタが森の中を歩いていた。

仲間を見つけて喜んだ三太はハヤブサらしく

最初からダッシュで飛んでいるようなスピードで羽ばたいて行ってしまった。

 

オレンジは少しだけ安心した。

危険だと思ったのは自分の思い過ごしかも知れない。

三太の言うとおり、サンタは地球人類の未来と関わる精霊だ。

世界機密が下手に漏れてしまえばそれこそ危ない。

非常事態ではあるものの、サンタ界は存続していたし、こうしていまサンタの生存も

確認できた。三太だってバカではない。

あとはサンタ界の代表と各世界の代表がバランスを取り合うだろう。

 

どっちにしろ礼名契約を結んだ時点で、自分には救援要請が難しい。

訳も言わずにとにかく来てくれと電話したって、誰も来ないだろう。

もしかしたらジジイなら、信用してくれるかもしれないが……。

だが、やめておこう。サンタ界は大丈夫そうだ。あとの判断はサンタ共に任せよう。

 

オレンジは三太を見た。

十数名ほどのサンタの集団に、子供の姿に戻った三太が

元気よく飛びこんで話しかけている。

つい数時間前まで、跡形もなく消滅しちまったと思ってたんだもんな。

それでも現実を受け入れられずにあるあると騒いたりして。

オレンジには、三太のことがかわいく思えてきていた。

仲間にふたたび会うことができて、三太は本当に嬉しそうだ。

 

 「ねえオレンジ」

後ろからマノンに声をかけられ、オレンジはふりむいた。

「オレンジはサンタ界って行ったことあるの?」

「いや、ないな。観光できる場所もあるが、

サンタ界は他の世界と比べても、特に警備が厳しいんだ。

用事もないのにそうそう行ける場所じゃない」

「へ~、本当はどんなところなんだろう?」

「行ってみたいのか?」

「だって、ワクワクしない? あの風景見た時は、

ラベンダーから聞いたイメージとかなり違うからビックリしちゃったけど、

もっとステキな場所なんでしょ?」

「もし時間ができたら、今度連れてってやろうか?」

「ほんとに!? ありがとう!!」

ニワトリ姿のまま抱きついてくるマノンにコンゴウインコは困ってしまった。

ニワトリのふさもふ感が、心を満たしてくる。

オレンジは心がムズがゆくなるのを感じながら「ほら、暑いから離れろ」と言った。

「でもさ~あ、高い次元から低い次元に来ると、形ってなんで変わるの?」

「ああ、それはな、高い次元にあった物質が低い次元に来ると、

性質が変わったり、存在できなくなったりするからだ。おおざっぱに言えばな」

「へ~! でもわたしたちは変わらないのにね、不思議」

「それは……」

オレンジの思考の中に何かが芽生えた。

タバコのようにもやっとしていて、うまく形にならない不快な気持ち。

「オレが香りでおまえらの体を包んで守っているからな――!」

サンタ界は、本で見た景色とはかなり違う。

ホラーゲームに出てくるような不気味な雰囲気だ。

まるで閉鎖した呪われた遊園地みたいだった。

サンタ界自体の周波数が下がってこの次元にいるんだから、

じゃあ――中にいるヒトは……?

 

「嫌な予感がする」

 

オレンジが三太のほうを振り向いたとき、三太は襲われていた。

「うぁぁぁあぁぁああ!!?」

第18輪 サンタ界の落下地点

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

本当にラヴァンドゥラをやるのか? 顔色悪いぞ、大丈夫か? 

 

         ――三太(『――が悪の華』より抜粋)

 

ハロウィンの女性の写真

 

「待たせたな三太」

「遅いぞオレンジ!」

「おいおい、こっちはマノンを連れているんだぞ!」

 

反対を見れば熱帯気候の暑い空気がゆがめた背の高い木々。

もう片方を見れば、ほとんど水しぶきで下の川が見えなくなった滝。

長い半円状の滝はかなり高い所から落ちており、もくもくと宙へ舞い上がる水しぶき

がこちらまで飛んでくる。

 

「それにしてもどうしてそんなにびしょ濡れなんだ?」

「べつにいいだろ」と三太は慌てて答えた。

「なるほど、つまりこういうことか、オレが渡したアドレスのことを忘れて

あの豪雨の中を探していたな?」

「うるさい、帰れ!」

「あ、わかった、もう帰る」

「戻ってこい! サンタ界を救え!!」

「ワガママか!」

「うるさい!」

 

オレと三太のやりとりを見てあきれているマノンに、オレは

話しかける。

「マノン、サンタ界に一緒に行くか?」

「え?」

 

そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。

マノンはデメキンみたいな目でこちらを見てくる。

正直、その顔はかわいいとは思えないな。

「足手まといだけど、ぼくもそのほうがいいと思う」

三太の言葉に一瞬すごい顔を見せたマノンは、

なんとか感情を押さえてオレに訊いてきた。

 

(具体的にどういう顔かというと、目をグレイのように大きく開き、

レプティリアンのようにぎょろつかせ、今にも飛び掛かりそうだった。

女は怒らせるべきじゃない by オレンジ)

 

「どうして? 危ないからダメなんじゃないの?」

「相当危険だから、本当は帰ってほしいと思っている。

だがマノン、おまえをひとりで元の人間界に帰らすほうがいまは危険なんだ」

「どうして?」

「サンタ界の状況がわからない以上、サンタ界を見つける時間を長引かせるのは、

得策じゃない。だからオレたちはおまえにひとりで帰ってほしいんだが、

サンタ界を陥れたやつ、あるいはその仲間に人質に取られる可能性がある。

いざというとき、オレたちはおまえを見捨てなければならない」

「……」

「危ないって最初に言われただろ?」

「うん」

「おまえに拒否権はないが、

オレは紳士だから、一応おまえの顔を立てることにするよ。

オレと一緒にサンタ界へ来るか?」

 

赤い髪の未熟な小娘は、自分の無力さゆえ恥ずかしいのか、

ただ単純にうれしいのか、顔を赤らめながら、うんとうなずいた。

 

「わたし、一緒に行く。覚悟を決めるわ。

世界を救うって、そういうことよね。

女の子をやめるわ! 女になる!」

 

きょとんとしたオレと三太は互いに顔を見合わせながら、

大笑いした。

「なんで笑うのよ!!」

 

ノドが潰れそうな声でうなるマノンは不服そうだ。

将来こいつは、どんな花を咲かせるんだろうな――っと。

そういや人間だったな。惜しい逸材だ。

 

ふたたびコンゴウインコとハヤブサ、ニワトリに変身したオレたちは

この世界の出口を探してレイラインにもどることにしたが、

その途中で恐ろしい光景を目の当たりにすることになった。

 

最初オレたちは、付近で一番大きな遺跡へ向かって飛んでいた。

「オレンジ、ここはどういう世界だと思う?」三太が訊いてきた。

「そうだな、パラレルワールドか異世界だろうな。地球であることは確かだが、

地域まではわからない」

「遺跡があるってことは、原住民もいるのかな?」

次はマノンが訊いてくる。

あいかわらず翼がよれたニワトリの格好で、飛ぶのに苦労している。

やれやれ、これじゃあ、レイラインを飛んでいるうちに溶けて転生ルートだな。

マノンは次は何に生まれ変わるんだろうな?

一旦ガトフォセ家にもどってマノンを置いてきたほうが早いか?

 

時間は惜しい。

オレたちの未来も、人間界の未来も、なかなかにして不安定だ。

 

「それもわからない。あたりから人の気配を感じないからな。

ひょっとすると、すでに滅んじまったりしてな」

 

オレはイジワルに翼をひらひらさせ、笑いながら後ろのマノンを見た。

マノンは予想通り怒った顔になって目を背けた。

 

「あっはっはっはっは!」

「枯れちまえ!」

「うわ、ひどい、オレはただ、人間さまが滅んじまったって言っただけなのに」

「うるせー!」

「ま、日頃の行いが悪いから、浄化されちまったんだろうなぁ」

「死ね!! 枯れちまえ!! アンタなんかダイッキライ!!!!!」

 

ちょっとふざけただけじゃん、人間はすぐ泣くからイヤだ。

オレたちがおまえらから受けた痛みに比べたら、蚊に刺されたぐらいじゃん。

人間はおおげさ。オーバーリアクション。

 

「オレンジ!!」

三太が声を荒げている。

なんだよ、世界の危機でも、女の子といちゃいちゃするぐらい

べつにいいだろ。緊張のしすぎはパフォーマンスの低下を招くんだぞ!

わかってるのか三太!

小さなこどもサンタに逆に注意してやろうと思ったが、

三太はどうやら、ふざけている場合じゃないと注意してきたのではなかった。

心を読んだ限りでは、どちらかというとマノンが泣いて、清々しているようだった。

こんなふたりとパーティーを組まなければいけないとは、

マノンの人生は少しだけハードモードらしいな。

 

(能力のある人間の人生は、少しだけハードモードに設定されているらしい。

以前会った輪廻転生システム技術担当者から聞いたことがある。

それを乗り越えることで成功を得るとか得ないとか。

……正直なところ眠かったからあまり聞いてなかった。

悪いな。オレはいつも仕事で疲れてるんだ。寝れるときには寝たい。

人間が輪廻転生する仕組みを夢の中で見学に行ったこともあったが、

起きたら全部忘れた。寝ている時まで仕事なんて、バカらしいだろ?

なんで上の次元にわざわざ出向いて、勉強しないといけないんだか。

睡眠中ぐらい休ませてくれよ。

あ――ちなみにオレさまの人生は、宇宙レベルでメジャーリーグに行けるぐらい

過酷って、上の次元のヒトに言われた……いますぐ転生しようかなぁ by オレンジ)

 

「あれ!? あれ!!? あれェ!!」

「うるさいぞ三太、なん――」

 

だと…………

 

目的の遺跡はあった。あそこに出口のレイラインが流れている。

問題はその裏だ。

遺跡のちょうど後ろから、見える範囲すべての土地が、無くなっている。

まるで崖のように深い闇に覆われているが、問題は規模のでかさだ。

左から右まで、見える範囲すべてがぴったり遺跡の後ろからなくなっている。

 

……。

 

穴が、穴が開いているなんてレベルじゃない。

海だ。黒い海のように見渡す限り、何もない。

 

「なんだこりゃ」

 

オレの胸に思いっきり恐怖が押し寄せてきた。

しかし、オレさまはなんてったってオレンジの精霊だ。

そんなもんは効かない。

通常ならここで、読者が身をよじるような恐ろしい心情描写を

いっくんが書くだろうが――原発、原子爆弾、魔女狩り、黒死病、世界大戦、

銀河大戦、ニンゲンに対する神霊たちの不満級のストレスを読者に

ぶちかますだろうが、オレンジさまには恐怖はあまり効かないのだ。

昼ドラ大好きな諸君、残念だったな。

ラベンダーとか、ペパーのばあちゃんとか、他の精霊に期待してくれ。

 

 「どんな自然現象があったらこうなるんだよ!?」

あまりの光景に三太がパニック状態になりかけている。

 

マノンに関しては、声すら出せないほど頭が真っ白になっている。

 

オレは香りをふりまいて三太とマノンを落ち着かせると、言った。

「サンタ界だ」

 

ふたりはオレの顔をじっと見た。

「いま霊視したが、マイナデスアルコールがただよっている。

偶然にも、オレたちはサンタ界が落ちたルートを発見したわけだ」

 

そこで言葉を切り、マノンを見つめた。まだ涙を流している。

「ありがとうマノン。偶然だが、おまえのおかげでサンタ界の

行き先がはっきりわかった。おまえが来てくれて、良かった。

ありがとう」

マノンとオレは見つめ合った。

 

「いや、マイナデスアルコールの匂いをたどっていれば、

すぐわかったことじゃん」

三太はしれっと言った。

 

このガキっ……!

せっかくオレが、泣いてしまったマノンをなんとかしようとしていたのに!!

まったく余計なことを……!

そんなことはオレだってわかっている!

だが、言い方を変えればマノンを慰められるだろうが!!

女心がわからんのかい!!

 

「三太、いまおまえに対してマノンがなんて思っているか、教えてやろうか?」

「死ねばいいのに! でしょ?」

「ふたりとも、ヒトの心を勝手に読まないで!」

「すまんがマノン、オレたちは霊なんだ! 

頑張らない限り、心の情報が入ってくる」

「がんばれよ!」

「めんどうくさい」

「わたしには読めないもん!」

「そりゃだって、閉心術を使っているからな」

「なにそれ! ずるい!」

「ラベンダーに教えてもらえよ!」

「いけないことだってさっき怒ったじゃない!」

 

「ねえケンカしてないで急いでよ!! 

サンタが全滅したらおまえら全生恨むからな! この先何に生まれ変わっても!」

 

三太の言葉に我に返ったオレたちは、全速力――とはいかなかったが、

それなりの速度で降下していった。マノンがいるせいであまり急げない。

 

さあ、次回はいよいよサンタ界突入か?

サンタ共、全滅してないといいがな。

もしそうだったら、これから霊能力者にサンタはいるのかと質問されたとき、

ちょっと前に滅んだって答えなくちゃならない。

第17輪 地球人類総合支援法

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

やったぁぁぁぁ! ねえ、いま見た!? ねえラベンダー!

 

           ――マノン・ガトフォセ

 

 

 

YHAAAAAAAAAA ニンゲン、ニンゲン、死ねニンゲン

                ――ラヴァーレ

 

オリエント・アロマ・アカデミー文化祭、および 

富士神界――シルバーフォックス賞受賞式にて

 

ライブ会場で盛り上がる観客

 

「やっぱりラベンダーか」

 

洞窟で休んでいたマノンは、突然のオレンジの一言に息を止めた。

洞窟に戻ってからというものオレンジは、マノンのことを褒めてばかりいた。

マノンもただ純粋に、自分のことを褒めてくるオレンジに気を良くしていた。

 

「まさかここまで来ることができるとはな。幽体離脱か?」

「うん」

「マノン……おまえの年齢でそこまでできるやつは人類史の――……

いや、第七文明の中でも何百人かだぞ」

「それってすごいの?」

「すごいことだ。マノン、おまえはまちがいなく天才だ。

上の次元に来るだけでなく、変身までできる。そんな人間他にいるか?」

「えっへっへっへ」

「だが、変身が甘いな。あのニワトリはトサカや翼が変だった。

よくあんな姿でオレたちを追えたな。ちゃんと変身できれば、

オレの攻撃も避けられただろうに」

「しょうがないでしょ、まだ練習して数年よ。できるわけないわ」

 

オレンジはにやりとした。

 

「だが、霊視こそしなかったが、ひと目見てもおまえだとわからなかった。

そこはグッドだ」

「すごい?」

「すごい」

「うへへ」

「念力の解除のやり方や幽体離脱はどれぐらい練習してるんだ?

だれかに教わったのか?」

「……全部独学よ。お風呂に入っているときや眠たいとき、

頭に情報が流れてきて、こうしたらこういうことができるって、

なんとなく教えてくれるの」

「やっぱりラベンダーか」

「ちがうわ!」

「ラベンダーは、心の防御の仕方までは教えてくれなかったようだな」

「!? わたしの心を読んだのね、ズルいわ!」

「べつにズルくはない」

 

マノンは悲しい気持ちになった。

オレンジが褒めてくれたことが、本当にうれしかったからだ。

だが、嘘だった。ラベンダーとわたしの秘密を暴くために言っていたのだ。

 

「わたしをおだてて情報を引き出そうとしなくたって、

最初から心を読めばいいことだわ!」

「オレは、おまえの心を読んではいないよ」

「ウソ!」

「ああ、ウソだ。カマをかけただけだ。

あとはおまえが教えてくれた」

「あ――!?」

 

しまったという顔をしたマノンの胸に、

オレンジに裏切られた想いがこみあげてくる。

マノンは幼いころからラベンダーに指導してもらい霊能力の特訓に

励んでいたが、それはだれかを守るためだ。決して悪用するためではない。

精霊に霊能力を指導してもらうことが、

地球人類総合支援法に違反することもラベンダーに聞かされて知っていた。

 

「ラベンダーがおまえに霊能力の稽古をつけていることは、

地球人類総合支援法違反だ。むやみやたらに個人の霊能力を伸ばしてはいけない」

「どうする気?」

「……本部に報告する」

「ラベンダーはどうなるの?」

「上が決めることだ。オレにはわからない」

 

沈黙が訪れる。ただ聞こえるのは、激しい雨の音だけだ。

 

マノンは不満と怒りでいっぱいになりながら思った。

ラベンダーは地球の状況や歴史も教えてくれたわ!

それなのに、その変な法律を守れっていうの? 

こんな戦争だらけの星で自分やだれかをどうやって守れって言うの!?

 

「まってオレンジ、わたしが頼んだことなの、もっと自分の能力を伸ばしたいって。

ラベンダーは悪くないわ」

「マノン。どうして人間に霊能力を指導したらいけないかわかるか?」

「さぁ? 人間が嫌いだから?」

「ちがう。理由は挙げればキリがないが、人間はこの地球の管理者という

立場にある。いまはまだ発展途上人類として分類されているが、

やがてはこの星の代表になっていくんだ。

 

(いまは代表だなんてとてもとても……。

なんか虫ケラがいるなぁぐらいに思われているだろうな。

なので地球外部との交渉はアロマ連合、富士神界などが主に請け負っている

by オレンジ)

 

そのためには、介入しすぎてはいけないんだ!

自分たちの頭で考えて、自分たちの足で行きたい場所へ行き、その手で

夢をつかみ取らなければならない。

オレたちは間接的にいろいろ支援をするが、直接的な支援は基本NGだ。

いろいろと計画や、進行具合というものがある」

 

オレンジはいったん言葉を切り、マノンの青い瞳を見つめた。

炎のように危なげに見える赤い髪とは対照的に、水のように透きとおっている。

オレンジはマノンの心拍数、周波数、表情のひとつひとつを精査すると、続けた。

 

「それに、だれかれ構わず霊能力を伸ばすと、能力者と一般人で

戦争が始まることがわかっている。いずれその時代はやって来る予定だが、

人類の反抗期のいま、その戦争を起こしてはマズい。

だから地球人類総合支援法で厳しく取り締まられているんだ」

 

マノンはまぶたをゆっくり閉じた。

自分の息の音が聞こえる。オレンジの暖かい香りが好き。

オレンジの言っていることはきっと正しい。 

どうしていけないことなのかが理解できたし、事の重大さも

想像しやすく説明してくれた。

ラベンダーがしてくれた地球人類総合支援法の説明も似たような説明だった

と思うが、オレンジのほうがより詳しい。

本当はこういう法律があるということも、教えてはいけないことなのではないか

とマノンは直感的に思った。実際のところどうかはわからないが、

それでも詳しく教えてくれたオレンジには、とても誠意を感じた。

それに、心を読めばわかることなのに、わざわざわたしを騙すなんて

手間のかかることまでしてくれた。

その行為に納得はしていないが、それでもやっぱり誠意は感じる。

謝りたい。

オレンジの説教をしている目は、怒っていて気まずいが。

 

「……ご――」

 

マノンが何か言いかけたとき――耳が震えて心臓が悲鳴をあげた。

 

突然音楽が鳴り出したからだ。

洞窟内に響き渡る大音量の楽器とラベンダーの声に

マノンの胸の鼓動もドラムのように鳴り止まない。

びっくりした。

このロックな曲は聞いたことがある。

ラベンダーが昔やっていたケメティック・ウーマンというバンドの、

「アトラス・パンチ」という曲だ。

 

オレンジはポケットからスマートフォンを取り出した。

「おう、遅かったな三太。……そういえば雨も止んできたな。

洞窟で休んでいる。わかった、じゃあな」

 

そう言ってスマートフォンと呼ばれる機械をポケットにしまうと、

オレンジはマノンに言った。

「これからレイラインへ行く。三太と合流だ」

第16輪 豪雨の中で

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

オレンジはどこだ?

 

             ――三太

 

雨の中を飛ぶ鳥

 

オレンジは、体をかたむけ落ちていくニワトリの姿を見た。

「マズい!」

翼を下に向け急いで後を追うオレンジ。

後ろにいる三太に「マノンだ!」と状況を伝え、追いかけてゆく。

「オレンジ、止まれ!」

 

目の前を〈ドコドコさん〉が通り、オレンジの体が硬直する。

「――!!?」

 

しかし誰かが作った工作だとわかると、

オレンジは怒りのままに拳をにぎり爆破した。

 

マイナデスアルコールが反応して爆発する恐れがないとは言えなかったが、

この空間ではマイナデスアルコールの量はさっきの元サンタ界よりも

少ないとわかっていたので、オレンジは多少の躊躇をしながらも力を出した。

 

誰が捨てたのかわからないが、作り物の〈ドコドコさん〉に

時間を取られたオレンジはマノンを見失いかける。

「どこだ!?」

ようやく遠くに小さなニワトリを見つけたオレンジは、

レイラインを流れる物質に行く手を阻まれつつも、

徐々に距離を縮めていき――

 

「マノン!」

 

翼を伸ばしてマノンの体を――

 

確実に捕まえられる、そうオレンジが思ったとき。

 

オレンジの翼はかすった。急にマノンの体がオレンジの手をよけたのだ。

オレンジは吸引力が強くなったのを感じた。

マノンと自分の体が世界にひっぱられている。

視界がぶれ、円を描いているような、巨大な光が近づいてきた。

 

体を世界にひっぱられながら、なんとかマノンの体を捕まえると、

念力を使って後ろに思いっきり小さな箱を投げた。

とうとう白い光がふたりの体を包んだとき、

マノンを抱きこみオレンジは衝撃に備えていた。

 

 *:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ

 

一文字の光が見えるとマノンは目を覚ました。

雷の轟音が鳴り、ビクっと体を震わす。

 

豪雨の音を聞きながら、天井の棒状に垂れ下がっている岩を見つめていると

声をかけられた。

「起きたか?」顔を向けるとオレンジがいた。

 

あわいベージュのジャケットを着ており、首元のボアが暖かそうだ。

下にはデニムパンツを履いている。

「どうして洞窟に?」

言いながらマノンは段々と意識がはっきりしてきて、何があったか思いだした。

 

「オレンジ!」

 

洞窟の奥へ一歩後ずさりするマノンに、オレンジはニヤついた。

「調子はどうだ? 気分はすぐれないようだな」

「! わたしだってわかってたんじゃないの!?」

かすれたうなり声が洞窟にこだました。

ホオジロザメのように凶悪な歯がズラリと並んだコンゴウインコに

食べられた恐怖がよみがえり、マノンはオレンジを責めたてた。

「わたしがいなくなれば、オレンジはラベンダーとずっと一緒に

いられるもんね!!」

 

攻撃的に言い放つマノンにオレンジは一瞬顔を引きつらせる。

 

「オレがわかってて攻撃したっていうのか?

オレがマノンに?」

「――……」マノンは何か言いかけたが、口を半開きにしたまま黙った。

顔には後悔の色が浮かんでいた。

「おまえはオレがラベンダーと一緒にいたいから、

あの変なニワトリをマノンだと知りつつも襲ったと言いたいわけだ!

おまえにとってオレは――つまり、オレはおまえにとって、

そういうことをするヤツだと思われているわけだ!」

「ごめなさい」

マノンの顔が赤点のテスト用紙のようにくしゃくしゃになりかけていたが、

オレンジはかまわず怒りに身を任せた。

「オレはおまえのことを買いかぶっていたらしい。

人間にしては賢いと思っていた。だが、やっぱりただの14歳だ。子供だ。

サンタ界の安否が定かでない状況で、行方を探していて

後ろから誰かにつけられていたら、サンタ界を陥れた犯人だと思うのが普通だろう。

相当な手練れだ。勝てる見込みがない。

それなのに、こっちは手負いのサンタとアロマ連合の下っ端ひとり!

一瞬でもスキを作れば命取りなのに、それでもおまえは――

 

霊視にエネルギーを割いて、

あのニワトリをおまえと判断すればよかったと言うのか?」

 

空気が悲しくふるえた。

「わた、し、がっ、バカ、でした。ごめんなっさい」

 

「そもそも、オレはおまえがここにいること自体がおどろきだ。

三太に言われたことを覚えていないのか?

才能のある霊能力者は自信過剰だと三太が言っていたが、本当だな」

 

「……」

 

「いい勉強になったんじゃないか。

オレたちはおまえたち人間のためにがんばってんだ。

人間は自分のことだけ、目の前の人生だけ考えていればいい。

ジャマしないでくれ。雨が止んだら帰れよ、じゃあな」

 

「ま、まってっ」

 

洞窟から雨の中へ消えたオレンジを追い、マノンも洞窟を出たが……

滝のような豪雨に、数歩先すら見えない……

息をするのも苦しく、激しい水が、全身から出た鼻水と涙のようにマノンは感じた。

取り返しのつかないことをしてしまった。

 

どうしてオレンジにあんなことを言ってしまったんだろう。

オレンジに襲われたとき、本当に怖かった。体が動かなくて死ぬかと思った。

でも、だからといって……。わたしはひどいことを言ってしまった。

なんてバカなんだろう。

あのサンタの言うとおり、家でおとなしくしていればよかったのに、

どうして出てきてしまったんだろう。

霊体の傷だって治っている。オレンジが治してくれたのに……

オレンジに謝りたいと思っても、もうオレンジはいない。

どうやって帰ればいいんだろうとマノンが思ったとき、

ふたたび彼女を恐怖が襲った。

 

自分が住んでいる世界とは明らかに空気がちがうとわかる。

魂がそう感じている。

異世界? 異次元? ここはどこ? どうすれば帰れるの?

 

途方に暮れてしばらく立ち尽くしていると、背後に何かの気配を感じた。

雨が急に止んだと思ったら――

ガッと肩をつかまれる!

 

「キャァアアァ!?」

「ふっははは、おどろいてやんの」

 

そこにいたのはオレンジだった。

「反省したか?」

「――!?」

 

言葉を失ったマノンは瞬時に理解した。三次元を超えてから一番早い速度で。

「だましたのね!」

「怒っている割には安心してる。心は正直なようだ」

「この女ったらし!」

「そんなこと言っていいのか?

――どうしてオレンジにあんなことを言ってしまったんだろう。

オレンジに襲われたとき、本当に怖かった。体が動かなくて死ぬかと思った」

「わあああ!」

「でも、だからといって……。わたしはひどいことを言ってしまった。

なんてバカなんだろう」

「やめて!」

「あのサンタの言うとおり、家でおとなしくしていればよかったのに、

どうして出てきてしまったんだろう」

「もうっ、どうしてそういうイジワルするの!?

人の心を読まないで!」

「ふっははははは、けっこう似てんだろ?」

「似てない! このっ、このっ、このっ、このっ!」

 

バシバシとオレンジの胸を叩くマノンの顔は怒っていたが、

うれしそうにも見えた。

 

ふと胸を叩く手を止めたマノンは、にやりと笑顔になった。

オレンジがいぶかしむと。

「そうやってからかうのなら、わたしにも考えがあるわ」

「考えって?」

「ラベンダーに、オレンジが部屋に勝手に入ってたって言う」

「おい、マジでやめろ! さっきのはだな、オレなりの気づかいだよ。

オレだって感情的になってたし、言いすぎた。気まずいのはイヤだと思ったんだよ」

「わかってるよ。オーレ。反省してる。

ラベンダーには言わないし、帰るよ」

 

オレンジの顔が強張ったのを見て、マノンは不安になった。

「実はだな……オレもわからないんだ」

「は?」

「オレたちがこの世界に出たときのレイラインは、流れが速すぎて利用できない。

この世界への入り口としてしか機能していないから、他に出口を探すしかない」

「じゃあ、大変ね」

マノンの顔はなんともいえないものになっていた。

 

オレンジとマノンはオレンジ色のうすい膜に包まれており、

その膜のおかげで豪雨もしのげていたし、中は暖かかった。

 

「とりあえず、雨が止むまで洞窟にいようぜ」

ベイダー卿はやっぱりカッコよかった!

いっくん日記

スターウォーズのローグワンを観たよ!

去年エピソード7が公開したばかりなのに、まさかもう公開とは……。

スターウォーズのエピソード7以降はベイダー卿は出ないのかなぁ。

アニメ版のスターウォーズで、エピソード1でオビワンに体を切断された

ダースモールが生きてて、しかも兄弟と一緒に出てきたからビックリ!!

だからもしかしたらベイダー様も出てきたらいいな、なんて淡い期待を

抱いている私。でも可能性は低いだろうなぁ。

新しい映画に出ないから今回、エピソード3と4の間の物語である

ローグワンでダースベイダーが出たんだろうし。

 

「次は息切れなど起こさぬよう、気をつけることだな長官」

 

野心をむき出しに、自分の功績を皇帝に報告するようベイダー卿に申し入れる

クレニック長官。

 

私は思ったよ。

バカヤロウ! せっかくベイダー様が去ろうとしているのに

なんちゅうこと言うんだ!

そこの下に落とされんぞ!

ほら、立ち止まっちゃったじゃねえか!

 

しかしベイダー様は静止している。

ふと自分のノドに違和感を感じたクレニック長官。

どうも息ができなくなり、膝をついてしまう。

そしてベイダー様は振り返り、言ったのだ。

「次は息切れなど起こさぬよう、気をつけることだな長官」

 

カッコイイ!!

 

今回は反乱軍と帝国の戦いなので、残念ながらジェダイのライトセイバー

をヴゥンヴゥン振り回すシーンは見られなかった。しかし!

 

ベイダー様の魅力が爆発的に織り込まれているので、

(ボリュームは少ないけど)

全世界のベイダーファンには、ぜひとも観て頂きたい。

 

ありきたりな言葉だけれど、よかったよ!

 

映画の最後、デススターの設計図を奪い返すために

戦艦に乗り込んだベイダー様……。

 

フォースグリップで天井に乗組員を押しつけたり、

武器をすべてフォースで取り上げて無力化した挙句、容赦なくライトセイバーで

切断してゆく。

 

アニー……。

 

あの狭い通路の中で、動かなくなった自動扉を背後に迫りくるベイダー卿は

すごい恐怖ですよ。

 

どんまい乗組員……。

 

それにしてもターキン総督とレイア姫の再現がすごかった。

あれは演じている人は別の人なんだけど、顔をすり替えているんだって。

当時ターキン総督、レイア姫を演じていた人も、まさかこの2016年に、

スターウォーズでターキン総督、レイア姫が出てくるとは思うまい。

映画の技術も日進月歩ですな。

100年後の映画はどんなものになっているんだろう?

すごい気になるけど、生きていないな~。

 

スターウォーズのエピソード4,5,6のリメイクが

公開されてたりして!!

それは生きているうちに観たいな!!

私が還暦を迎える頃には、ぜひ!

 

 

第15輪 レイラインの追手

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

なあラフ、霊が通るからレイラインってのはどうかな?

 

              ――『黄金のリンゴ』

 

コンゴウインコの写真

 

「おれを襲ったやつは、どんなやつだった?」

「一瞬のことだったからよく見えなかった」

「使えねー」

「うるせーよ」

 

サンタは子供の姿になっているせいか、大人の時より無邪気で素直になっていた。

さっきまで来ていたスーツとはちがい、いまは赤いサンタ服を着ている。

 

「サンタ、おまえが寝ている間にいろいろわかったことがある。

サンタ界はおまえの言うとおり、まだあるかもしれないぞ」

「どうしたの?」

「マイナデスアルコールは知っているだろう?」

「もしかして、爆弾でサンタ界を異次元かどこかへ吹き飛ばしたって

言いたいの?」

「そうだ。爆弾かどうかは知らないが、

マイナデスアルコールは周波数を下げる特性がある。

たとえばだが、それでサンタ界そのものの周波数を下げて

ここの空間と共鳴しなくなれば……どうなる?」

「サンタ界だけ堕ちていく……!」

 

サンタはオレの推測に驚いた表情になり、

今度は喜びと疑いが混ざったような顔になった。

 

「サンタ界がまだ、あるかもしれない……。

けど、世界だよ? 世界そのものの周波数を下げることなんて可能なの?

っていうかそれで世界って移動すんの?」

 

「おまえの意見はごもっともだ。だが見ろ。

爆弾で世界を丸ごと破壊したとしても、サンタ界の残骸は残るだろ?

だが、空間が丸ごとなくなっている……。

爆弾で世界を破壊できるかというのは別として、

爆破して、跡形もなく空間ごとここまできれいに破壊できるとは思えない。

周波数が下がって、この次元から下へ落下したと考えたほうが妥当だろ?」

「……」

「だから、おまえの言うとおりサンタ界は、まだあるかもしれない」

「……」

 

子供サンタは目に涙を浮かべて黙っていた。

今まではなんの根拠もなくただ自分の気持ちだけでサンタ界がある、

あって欲しいと妄信している様子だったが、

オレさまの実に具体的な推理を聞いて、

なんとも言えない気持ちになったらしい。

 

「オレンジ、ごめん」

「どうした?」

「きみにはひどいことをいっぱい、言ってしまった」

「気にするな、オレはただ、おまえと契約を結んだから手伝っているだけだ。

謝る必要はない」

「それでも、おれはきみがいなかったら、考えなしにサンタ界を探していただろう。

そもそも、オレンジはどうしてラベンダーの部屋に?」

「週刊〈ドコドコ〉を読むため」

「あれまだ書いてるの!?」

「知ってるのか!?」

「中世の頃にクリスマスプレゼントでもらったことがあるんだ。

あれは出版するしないの話もあったんだけど、諸事情で流れたんだよ。

……まだ書いてたんだ」

「おまえ、ラベンダーの彼氏なのか?」

「ふふ、そんなわけないじゃん。

おれはてっきり、オレンジがラベンダーと付き合ってるのかと思ってた。

それかストーカーだと」

「よせよ。おまえだってマノンからラベンダーのタオルをもらった時、

嬉しそうにしてたくせに」

「やめて」

「ヒュゥゥゥゥ」

「やめろって」

「あっははは」

 

オレはこの時はじめて、三太と心から打ち解けられたのかもしれない。

最初こそ木に喰わないやつだと思っていたが、

根は案外おもしろく、いいやつだ。

 

からかわれて顔を赤くしている小僧にオレは言う。

「三太、サンタ界を探すぞ」

「でも……どうやって? 周波数が下がって堕ちたからって、

単純にこの空間の下へ飛んでいけばいいってわけじゃないでしょ」

「おまえ、オレをなんの精霊だと思ってるんだ?」

「植物――あ!」

「そう。匂いには敏感だ。

マイナデスアルコールでどこかに堕ちたなら、

サンタ界自体にマイナデスアルコールの匂いが染みついているはずだ。

それをたどっていけばいい」

「オレンジぃぃ」

「ほら、抱きつくな。ガキに抱き着かれてもオレはうれしくない。

早く行くぞ」

 

オレは早速火の鳥に変身しようとして気づく。

おっと、そういえば火はマズいんだったな。

仕方ない。

コンゴウインコに変身したオレは、勢いよく雪道から飛び立ち空に舞い上がる。

後から三太もついてくる。三太はハヤブサに変身していた。

 

「こっちだ」

マイナデスアルコールの強い匂いを感知したオレは、

オーロラに向かって羽ばたき、紫色とオレンジ色のオーロラが混ざり合った

毒々しい色の渦へと飛んでいく。

 

(サンタ界は落下したんだから下へ飛んでいかないの?

と思う読者もいるかもしれないが、上の次元だとそう単純にはいかない。

下に行くにしても、いろんなルートをたどって行かなければいけないし、

場所によっては上に向かうことで下に行けるところもある by オレンジ)

 

オレたちは世界の狭間を飛んでいた。

ピンク、オレンジ、紫、茶色、緑、いろんな色が線だったり長方形だったり、

何重もの円やよくわからない複雑な図形として流れている。

 

ここは世界と世界の間にある空間。世界や次元を構成する物質を運ぶ、

血液のような場所だ。レイラインと呼ばれている。

 

(レイラインは日本語で龍脈と呼ばれている。

龍が他の世界へ行くのに利用することから、龍の通り道とも呼ばれているな。

だがオレたちは龍みたいに大きな魂やエネルギーを持っていないから、

正直キツい。レイラインにあまり長いこといると自我がなくなり、

死んで転生するハメになるから利用したくないんだが、

まさかレイラインに出るとは思わなかった。

ちなみにオレたちの言うレイラインと英語のレイラインは、意味が全然ちがうな。

三次元――人間界の英語圏にはちゃんと伝わらなかったらしい。

英語のレイラインは古代の遺跡群を結んでできた直線を指すだけの

表面的な言葉になってしまっている。もっと深い意味があるのに。

日本語の龍脈のように、

世界や次元を構成する物質を運ぶ、血液の役割という深い意味があるんだ。

それに直線だけじゃなく、曲がりくねっているのも含めてレイライン。

ちなみにレイラインという言葉を作ったのは『黄金のリンゴ』らしい。

昔ジジイから聞いたことがある。名前の由来は、

霊――物体を持たない物質が通る道だから霊Line。分かったか?

すごいものっていうのは大抵くだらない。

オレも聞いた時は肩から力が抜けた。

『黄金のリンゴ』ってけっこうおちゃめなのか?)

 

レイラインにあまり長い時間いるのは危険だ。

早いとこ出ていきたい。

しかし匂いはレイラインの奥へと続いていた。

「オレンジ、レイラインだぞ」

「わかってる」

「体がちょっと溶けてきた」

「がんばれ」

コンゴウインコとハヤブサはスピードを上げてレイラインの中を進む。

するとふと、背後に何かの気配を感じた。

少し様子を見てみたが、一定以上の距離を保ち、近づいてくることはなかった。

「オレンジ、あれ、どうするの?」

「サンタ界を襲ったやつで間違いないだろう。捕まえよう」

「レイラインでやり合うの!?」

 「静かに。向こうも条件は同じだ、レイラインでやり合いたくないと

思ってるだろう。そのスキを突いて仕掛けよう」

そう言うとオレは三太に作戦を耳打ちした。

 

どうやらサンタ界を陥れた犯人のおでましらしい。

至上主義者だかなんだかわからないが、

おまえのせいでオレはラベンダーの部屋に侵入した秘密を三太ににぎられたんだ。

この屈辱! おまえの魂をもって償ってもらう!

 

コンゴウインコとハヤブサはかなり飛行速度を落とし、

ゆったりと羽ばたきながら、言い争い始めた。

「このグズ! 能なしサンタめ! 

おまえがマヌケなせいでサンタ界は消滅したんだ」

「だまれ、ストーカーめ! ラベンダーのケツでも追いかけてろ」

 

(演技とはいえ、いまの言葉はグサッと来た。

あとで覚えてろよ)

 

いまだ! 追手の困惑した気配を察知した瞬間――

コンゴウインコは予備動作なしに近い状態で身をひるがえし

一気に最高速度に達すると、敵に向かって飛んでゆく。 

手に取るように相手がビビッているのが伝わってくる。 

 

敵はニワトリの姿に変身して飛行していた。

コンゴウインコはそのクチバシを自分の体よりも大きく伸ばし、

ホオジロザメのようなギザギザの歯が生えたクチバシを

大きく開けてニワトリの体をおおった。

 

勢いよくクチバシを閉じようとしたところで――

 

「やめてオレンジ! キャァァ――」

 

クチバシの中で嫌な味がした。

 

…………

 

コンゴウインコは急ブレーキをかけたクチバシを急いで開けて、

中のニワトリを吐き出した。

 

体が赤く染まってしまったニワトリを見て

オレの顔は驚きのあまり、少しだけ縦に長くなった。

「なんで、ここにいるんだ……?」

 

ニワトリは疲れきった表情をしている。

羽ばたきにも力がなく、弱々しい。

 

「どうしてここにいるんだと聞いているんだ、マノン!!」

第14輪 サンタとオレンジとマイナデスアルコール

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

ラベンダーぁ。ここ、ここすわって

 

            ――マノン・ガトフォセ

 

バーベキューの炎の写真

 

「これは大問題だ! とっとと各世界に知らせるべきだ!」

「そんなことをすればサンタ界の信用がなくなってしまうだろ!!」

 

ま、お察しのとおりオレはこの哀れなサンタと言い争いをしていた。

 

(あ、代わる? by オレンジ)

 

「何が信用だ! もうサンタ界はどこにも存在していないじゃないか!」

「世界がまるごとなくなるなんてありえない! 

きっと何か理由があるんだ、視えなくなっているとか、移動したとか、

魔術か化学か、何かで壊されたように見せかけられてるんだ」

「霊視しても変わらない、現実を受け入れろ!」

「もっとすごいヒトを呼んで、ちゃんと霊視して調査しないとわからないだろ!」

「だからアロマ連合やゼンマイ仕掛けの騎士団、冥府、各神界に連絡しろと

言ってるだろ!」

「それができないからラベンダーに頼もうとしたんだ!

“サンタ界が消滅した”なんて言ってみろ! いまにテロが起こりまくるぞ!

俺は植物界が一番信用できない。それに他の世界だってどうだ!?

植物至上主義者じゃなくても、ニンゲンを殺す霊はいっぱいいるぞ!!

もともとおまえみたいな下っ端に頼むつもりじゃなかったんだ!」

「なんだと、ラベンダーじゃなくて悪かったな! 

それにニンゲンって――差別用語だぞ!」

「ラベンダーだったら理解するのも速いし、

各世界に連絡しろなんて愚策は言わない!」

「おまえがラベンダーの何を知っているんだ!? あァ!?

あの女はうだうだ文句を言って、“わたしの仕事じゃない”って

オレと同じことを言うだろう! 世界がひとつ消滅しているんだぞ!?

周りの世界がもし同じ目に遭ったらどうするつもりだ!?」

「だから三次元じゃあるまいし、ひと目で消滅したかどうかなんてわからないだろ?

それに面倒くさがりつつも、なんだかんだ言って最後には救ってくれるのが

ラベンダーだ! おまえこそ、ラベンダーのことをわかっていない!」

「じゃあオレたちだけでなんとかするってのか!?

いったい何をどうするってんだ? えェ? 付き合いきれないね」

「だったらラベンダーにおまえのストーカー行為を言うまでだ」

「ぐぐっ――そもそも、サンタ界が消滅している時点で契約は破綻している!

契約内容は、オレがサンタ界を救ったあかつきに秘密をだれにも教えないという

ものだったはずだ」

「消滅していないと言っているだろうがァ!!

もういい、俺ひとりでサンタ界を探す! きっとどこかにあるはずなんだ。

おまえはどっか行ってろ!」

 

このっ、下衆の極みサンタがぁぁぁぁ。

こんな現実を受け入れられないイカれたサンタに付き合っていたら、

魂がいくつあっても足りない。

あの愚かしい礼名契約のせいで、オレさまはこんなトラブルに

巻きこまれてしまった!

 

冗談じゃない! 世界がひとつ消えたんだぞ!

週刊ドコドコを読んでいただけでラベンダーにストーカー扱いされるのは

我慢ならないが、こんなヤバい件に首をつっこんで枯れるのもごめんだ。

何らかの自然現象でサンタ界が消滅したということも考えられるが、

可能性としては植物至上主義者あたりが大きい。

 

そもそも、あのラベンダーに来た依頼と知った時点でとっとと降りるべきだった。

一時の恥を気にして、契約を結ぶんじゃなかった。

だが……やはり、ラベンダーにストーカー扱いされるのも嫌だ。

 

しかしサンタ界は消滅してしまった。

救いようがない。

 

つまり、オレは契約を果たすことができないから、

このサンタに協力しようとしまいとサンタはラベンダーに

秘密をばらせるのだ。

だったら……。

 

「ああそうかい、だったらオレは帰らせてもらう。

次におまえに会う時は『日の昇る評議会』か、富士神界か、冥府のどれかだろうな。

“自分の所属している世界の信用が一番大事な愚かなサンタに礼名契約を結ばされて、

報告できなかったんですぅ”と上に話したオレは解放され、晴れておまえは

オーストラリア送り! それかタルタロス送りだ!!」

 

ふははと高々に笑うオレにサンタがつかみかかってくる。

「この野郎、やるのか!」思いのほかサンタの力が強く苦しかったので、

オレはついサンタを、炎の波動を送って燃やしてしまった。

まあ気にしないけど。

火だるまになったサンタをほっといて、

こんな壊れた世界からとっととおさらばしようとオレは歩き出した。

 

まったくとんだ時間のムダだった。

これで可愛い女の子をナンパしそこねたら、どう責任を取ってくれるんだ。

そう思ってオレは木を抜いていた。背後で何かが光ったかと思うと――

 

シュッ――ドドォォオオンドッドッドッドッドドォォォォォオオ!!!

 

何かに点火したような音がすると、大爆発がいくつも起こった。

空気がうずまき、世界を構成する細胞のひとつひとつが膨らんでは弾けていく、

そんな感じの音だ。大爆発から生まれた火炎が一直線に雪道を走る。

爆風で吹っ飛ばされたオレは地面に積もる雪に頭から突っこんだ。

いったい何が起こったんだ!?

 

あわてて体を起こし、周囲を観察する。サンタは爆発の中心にいたらしい。

ひどい焼け傷を負って倒れている……。

おお、かわいそうに。

 

(もちろんそんなことはこれっぽっちも思っていないが。

ちなみにオレも爆発のせいで現在、サンタのように火だるまになっている。

因果応報というやつだが、オレには炎はあまり効かない)

 

サンタへの哀れみの感情とは裏腹に、オレさまの体は素早く反応して動いていた。

オレはいま立っていた場所から瞬時に数メートル離れ、雪道から空宙へ飛び出した。

火の鳥に変身すると勢いよく雪道の下へもぐる。

どうやらオレの予感は当たったらしい。

もう少しよく考えておくべきだった。

サンタ界が消滅したのなら、消滅させた犯人が近くに潜んでいる可能性を。

 

いまは亡きサンタ界をあると信じ、冷静に物事を考えられなかったサンタは

口封じのために敵に殺されてしまった。

 

(もちろんオレさまもそうならないように、いまから

超がんばって敵を倒さなければならない)

 

本当に哀れなサンタだ。次に転生するときは、オレさまのように

カッコイイ、機転の利く霊に生まれるといい。

 

さてと。音から察するに、頭上の雪道の炎は止む気配がない。

敵はどこに隠れているんだろうか?

雪に変身しているのか、霧としてただよっているのか。炎にまぎれているのかも。

 

このまま雪道の下を飛行して守りに入っていると、隙を突かれて不利になる。

そう判断したオレは、雪道の下からさっと出ると空高く舞い上がった。

高速で辺りを旋回しながら霊視するが、おかしなものがまるで見当たらない。

爆発が起こった時、オレはサンタに背を向けていたため、

どの方向からサンタが攻撃されたのかわからない。

くそ、どこにいるんだ?

 

オレの霊視では視えないほどの実力者ということも考えられたが、

もしそうなら、サンタ界の入口へ来る途中でとっくに枯らされていたはずだ。

 

どこだ? どこにいる? 

 

火の鳥は攻撃されないようにさらに高度を上げて、

広くなった視野で霊視したが、とうとう敵を見つけることができなかった。

 

……

 

時間ばかりが過ぎていく。

 

火の鳥は試しに雪道に降り立ってみた。しかし、敵に攻撃される様子はまるでない。

霊視したとおり、だれもいないようだ。でもだったら、あのサンタはだれに

攻撃されたっていうんだ?

 

雪道の火はもう、わずかにパチパチと燃えるばかりだ。

焦げ臭い匂いと雪のしめった匂い、それに分断された世界のよどんだ匂いがする。

そこで違和感に気づいた。

 

この匂いは――

 

雪道と灰色の空に浮かぶオーロラ以外に何もない世界からは

とうてい想像できない匂いだ。なぜここでこんな匂いがするのか……。

 

甘ったるい糖にガソリンが混ざったような、不快な匂い。

これはアルコールだ。

 

しかもただのアルコールじゃない。マイナデスアルコールだ。

本で読んだから知ってるぞ。

 

(このマイナデスアルコールはマジカルアルコールとも呼ばれ、

感知するのが難しい上に解明されていない部分が多い。

いきなり空気中に出現するとか、

二度と転生できないほど魂が傷ついた霊のなれの果てとか、

キラキラとカラフルに光り出す時があって、

それを飲むと体に良いとかいう説もある。

オカルトだな。

主な特性としては、どれだけ飲んでもその場ではちっとも酔わないが、

体内に入ってから潜伏期間を過ぎると霊を泥酔状態にさせること、

同じ条件下でも、火に反応して爆発したりしなかったりする

気まぐれ屋さんであることが挙げられる。

また、空間や霊の周波数を極端に下げる性質を持つことから、

現在、霊が三次元上に物質化するのに利用できないかと研究が

進められている――とかないとか。

オレも本で読んだりテレビで観たりしただけだから、

あとでオレンジのウソつきとか言わないでくれよ?)

 

オレは周囲をふたたび霊視してみた。景色は何も変わらなかった。

今度はマイナデスアルコールに焦点をしぼり、霊視してみる。

するとどうだろうか、この世界にマイナデスアルコールの気配が

うっすらと視えた。色でいうと汚れた緑色。

高濃度ではないと思うが、オレはその手のプロではないから、

またいつ火に反応して爆発するかわからない。

火の鳥から元のかっこいいオレンジさまの姿に戻ったオレは、

前方、元々サンタ界があったであろう、ちぎれた世界の断面付近に

転がるサンタが目に入った。

 

……

 

………………

 

………………………………。

 

つまり、サンタはサンタ界を滅ぼしたやつに攻撃されたのではなく、

――そういうことだな。

 

オレだったのか!?

 

ちょっと待ってくれ、言い訳だが、あの時、サンタにつかみかかられた時は

本当に苦しかったんだ。おまけにあの、愛する世界を失いついでに正気も失った

サンタの狂気の目! 怖かった! だれだって燃やそうと思うだろ?

 

おいおいまさか死んでないよな? 

まあ、死んだら死んだでまた転生するから殺したってべつに構わないが

――だから安心して人間を殺す龍もいるしな。

ま、龍は元々人間とは思考がちがうが――

 

(世の中ってのは善悪では計れない。究極的に言えば、

地球の味方か、人間の味方かだろう。え? オレはどっちだって? さあな)

 

アロマ連合のナイトがサンタをひとり殺害なんてニュース番組で小倉さんに

報道されたら、アロマ連合の不祥事になっちまうぜ。

それはマズい! なんとしてもそれは避けなければ、

植物至上主義者をつけ上がらせることになる。

ついでだが、オレも少しだけ後味が悪い。

 

オレは急いでサンタに駆け寄った。

良かった、まだ息はある。重症だが、治療すれば助かりそうだ。

敵に襲われて死んだならラッキーぐらいに思ったが、

オレがやってしまったのならしょうがない。

オレはおでこに青筋を浮かべながらも、愛する気持ちを高めてヒーリングした。

伸ばした手からサンタに、太陽のようにほとばしる強いエネルギーが入っていく。

すると、サンタの体についた焦げ臭い血やひどい傷跡が消えてなくなり、

破けたスーツも元通りになった。

スーツの背中には特別仕様でオレンジさまの紋章を入れてやった。

 

むくりとサンタが起き上がる。

「おれは……」

病み上がりでエネルギー節約のためか、サンタは子供の姿になっていた。

「おまえは敵に攻撃されて、爆発に巻き込まれたんだよ」

「オレンジ、もしかして治してくれたのか……?」

 

子供の姿になっているせいか、なんだかかわいく思えてくる。

「ありがとう!」

サンタが抱きついてきた。

 

やれやれ。疲れた。こいつあったかいな。

 

だが、これでハッキリした。

マイナデスアルコールを爆弾として使ったとしても、

世界なんて巨大なものを破壊するのはいくらなんでも不可能だ。

サンタ界はまだ、あるのかもしれない。

第13輪 子供は子供らしく

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

へー、エジプトってケメトって名前だったんだ。

ねえラベンダー、ここは?

 

             ――マノン・ガトフォセ

 

可愛い女の子の写真

 

――念力を破ってドアを開けられたぐらいなんだ!

そんなこと誰だってできる。この件はね、きみには関係がないの。

子供は子供らしく宿題でもやって、クリスマスを待ってなさい!

 

あの言い様! 何様のつもりなのかしら!

 

こぶしをふるわせ床をダンダンと踏んでいるのはマノン・ガトフォセだ。

ラベンダーの部屋からオレンジと三太が去ったあと、

ひとり取り残されて幼げに顔をゆがませしわを作っていた。

 

マノンの頭の中は三太に対する怒りでいっぱいだった。

自分のことをどう思っているのか、もし自分も役に立つということを

アピールできれば連れて行ってもらえるのか。

本当は非物質界に行く技能をすでに習得していたが、

あえてそのことを隠して三太を試してみた。

 

しかし、結果は残念なものだった。

あのサンタは自分のことを何もできない普通の人間だと思っている。

 

――子供は子供らしく宿題でもやって、クリスマスを待ってなさい!

 

い~~~!

マノンは醜悪に顔をゆがませた。

 

――子供は子供らしく! 子供は子供らしく! 子供は――

 

マノンは心の中で三太に言われた言葉を繰り返す。

大人はいつもそう言う!

大人が大人らしくできないから、子供が子供らしくなれないのに!

文句があるんだったら、子供にこうなりたいと思われる大人になってほしい!

 

どうしてそうなったのかはわからないが、

さっきのオレンジとサンタの会話によると

サンタの世界がなくなってしまったらしい。

 

マノンの心を絶望の波が襲う。

とんでもない話を聞いてしまった。サンタの世界がなくなり、

プレゼントを届けるヒトたちがいなくなってしまった……

 

クリスマスの危機――とはマノンは思わなかった。

クリスマスは人間が作ったイベントだということ、

なにもクリスマスの日に一斉にプレゼントされるわけではないことがサンタの口から

直接聞かされたので、もうマノンにはクリスマスに対するあこがれや、

遠くに出かけている恋人が戻ってくるような待ち遠しさ、

クリスマスじいさんがやってきて、子供にプレゼントを

渡してくれる特別な日という想い入れが全部なくなっていた。

 

失ったものは戻らない。

 

ラベンダーは夢を壊さぬよう、サンタについて、

霊界の世界からプレゼントを渡しているという最低限のことだけマノンに

教えてくれていたのだった。

 

しかしいまのマノンには、ラベンダーに対する感謝の想いすら出てこない。

すべてが幻想であったと知ったからだ。

ただ、はかないだけであった。

 

そして幻想が壊れたおかげで少女には、現実が視えてきた。

 

サンタ界がなくなった。

これから人々にプレゼントが届かなくなったら、

どうなってしまうんだろう?

 

世界中の人々に何か不運なことが起こったり、意図せぬ事故で

苦しんだりするのだろうか?

 

夢を叶えられない。

奇跡は起こらない。

努力が実らず、偶然や幸運も起こらない。

 

そういう世の中になってしまうのだろうか。

 

マノンは考えた。

暮らしはどうなるのだろう?

何が起こるのだろう?

世界はどこへ向かうんだろう?

 

わたしの国、エグザゴーヌは10年前に戦争が終わったばかりだ。

世界中の国々を巻き込んだ世界最大の大戦争――世界大戦。

 

記録の上だけで約170万人以上のフランス人が死んでしまい、

世界では少なく見積もっても1000万人もの人が死んでしまった恐ろしい大戦争。

 

それを解決に導いたのは、ひとりの少女だった。

英雄『洗い草』。

わたしのあこがれの花であり、家族であり、大好きなお姉さん。

 

世界大戦についてはパパとラベンダーからたくさん聞いている。

エグザゴーヌが世界大戦のせいで、いま大変なことになっているということも。

形の上では戦勝国だが、失ったものは大きい。

大勢の人が死んで人口が減ったため、国として衰弱していること。

不安定な経済と政治のせいで、暮らしに困っている人がたくさんいること。

ゾーン・ルージュと呼ばれる汚染エリアが誕生し、

そこでは人間は安全に暮らすことができないということ。

その事実をフランス人で知っている人は、ほとんどいないということ。

他にもいろんなことをふたりは教えてくれた。

 

もしもまた…………世界大戦みたいな、何か恐ろしいことが起こるとしたら……

 

――オレンジとあの愚図なサンタだけに任せられるほど、

わたしの木は長くないわ!

 

そしてマノンは絵画の前に立つ。

そもそも、行って自分に何ができるのかなどわからなかったが、

いま確実にわかることは人間界の危機が迫っているということ。

それも人間でその事実を知るのは自分だけだということだ。

 

マノンは強く決意した。

待っていても、世界大戦級の何かが人間界を襲うかもしれない。なら動くしかない!

あの頭の悪そうなサンタに何を言われても、人間界の危機は、

わたしがなんとかする!

 

ラベンダーだったら、きっとそう言うよね。

 

マノンは絵画を見つめる。

そして勢いよく頭から飛びこんだが――

 

ゴッという鈍い音がすると、マノンは倒れてしまい、そのまま動かなくなった。

第12輪 消滅したサンタ界

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

サンタ共が忙しい時はロクなことにならないわ 

 

               ――ラベンダー

 

サイケデリックな絵画の写真

 

オレとサンタは雪道を歩いていた。しんしんと降る雪の中を。

 

本来なら、赤いレンガ屋根の家が立ち並び――とか、

買い物をすませた婦人が急いで帰ろうと、馬のような表情で走っている――とか、

月の光が雪に反射して、銀色の世界を見事に作り出していた――とか、

宮殿へ向かう馬車の中、オレさまはお姫さまと楽しくおしゃべりしていた――とか、

オレさま好みの現実があるわけだが、残念ながらそうもいかない。

 

ここはサンタ界の入り口へ通じる道。オレとこのサンタ以外には

何もない、ただの雪道だ。木の一本さえ生えちゃいない。

それにこの道から落ちたらおしまいだ。道路ぐらいの幅はあるが、

宙に浮かんでいるからな。

 

(オレたちが住んでいる次元は、

非物質界、精霊界、霊界、他にもさまざまな呼ばれ方をされているが、

雑な言い方をするとどれも同じものだ。

人間たちがせかせかと暮らしている次元とは構造がちがうため、

道が橋みたいに宙に浮かぶことも可能ってわけだ。

え? 天国と地獄はあるのかって?

あると言えばあるし、ないと言えばないな。

しゃくぜんとしない顔だな……。

そういうのは何をもって天国と言うか、地獄と言うのかにもよるから

難しいんだ。人によってそれぞれイメージがちがうだろ?

いいか? 行き先を決めるのはいつだって自分だ。だれかじゃない。

死後の世界だろうといまの人生だろうとな。

フゥ、オレさま超カッコイイこと言った!

ちなみに死後の世界そのものを否定しているヤツは、しばらく無になる。

世界も自分すらも、全てが何もないと思っているから無の世界へ行くんだ。

ここにあるんだ、いるんだと、気づけるまでずっと。

この期間もそいつ次第だな。

あれはとなりで見ていて滑稽だし、恥ずかしいぞ! んくくっ。

おっと、思いだしちまった。

そういうことにならないように宗教があるのに……マヌケだな。

ま、それはそれでいい経験なんじゃないか by オレンジ)

 

「なあ、いくらなんでもあれは言い過ぎだ」

「いや、あれぐらいキツく言ったほうがいい。

マノンちゃんだっけ? ああいう霊能力が高い子は、特別な体験をしすぎて

自信過剰になる傾向がある。

今の内からキツく言っておくべきだ」

(部分的には)意外とよく考えてしゃべっているんだなと思い、黙っていたオレに

 このサンタはサンタ界の事情を話し始めた。

 

「さっきはあいまいなことしか話せなかったけど、

サンタ界はいま本当に忙しいんだ。もしサンタ界が消滅していて

プレゼントが配れないなんて事態になれば、恐ろしいことになる」

「どう恐ろしいことになるんだ?」

「それは世界機密だから言えないけど、人間にとって不味いことになる」

「ふ~ん」

サンタが横目でオレをみる。

「そうなったら、植物界にだってとばっちりがくるんだぞ」

 

(ま、人間さまの気分が悪い時はたいてい自然界は大打撃を受けているが

……もう慣れた)

 

「サンタ共が忙しい時はロクなことにならないって言葉があるが、

本当なんだな」

 

(サンタっていうのは精霊界で配達業者を意味する言葉。

だが、人間界ではどうやら聖人を意味する言葉になるんだから、

面白いだろ? タダでプレゼントをくれるわけだから、

人間からしたら聖人と変わらないんだろう。

そうそう、日本語で道路を反対から読むと、英語で同じ意味の言葉になる。

不思議だよな。なんでそうなったかオレは知ってるケド。

話が脱線しちまったな。

植物界や人間界といった各世界への配達がサンタの仕事で、もちろん人間には

子供だろうと大人だろうと届けてくれる。

どの世界への配達が忙しいかにもよるが、人間界への配達が忙しいという

うわさがたつと……

オレの周りの精霊はみんなげんなりしていた。

大きな戦争とか、歴史的な大事件が起こると言われているらしい。

考えたくもない)

 

サンタは真面目な顔になる。

「地球人類の未来と関わっている仕事だから。

話したくても言えないことがたくさんあるんだ。悪いね」

「……オレたちはひたすら我慢して、人間がやらかしすぎないように見守り、

おまえたちは次の時代へ人間をサポートする。なんだか、悲しいよな」

オレが寂しそうにグチを言うと、サンタはうすく笑った。

 

「言うなよ」

「ま、人間から一番蹂躙されている割に、

周りの世界に一番迷惑かけているのも植物界だけどな!」

「アハハハハ!」

オレのおどけた言葉にサンタは大笑いした。お、意外といける口か?

 

(ここだけの話、サンタの笑い声は心地よかった。

オレの周りの精霊――ラベンダーとかペパーにあんなこと言ったら、

顔をゆがめられたからな。ティーツリーに言ったら泣いちまったし、

ゼラニウムはなんだかよくわからない反応だった。

けっこういい冗談だと思うんだけどな。

だから植物界のグチを言ってこのサンタが大笑いしてくれたのは、

かなり心地よかったし、ストレスが発散された)

 

「今回も君たちのせいじゃないとイイけどね」

サンタは攻撃的におどけてみせた。

肉食獣のように歯を見せ、しわを作り笑った顔にはオレも大笑いしたかったが――

「そう切り返されると、正直……申し訳ないと思う」

「いや、俺のほうこそごめん、オレンジ」

 

しばらくおたがい黙ったまま、雪道を歩いた。

気まずくはなかったし、ラベンダーの部屋にいた時よりもこのサンタとは

打ち解けた気がする。ま、木のせいだけどな。

なんとなくこのサンタは気にくわない。

 

オレたちが歩く雪道は一直線に伸びていたが、

他にも何本かの雪道があり、上がり坂だったり下り坂だったり、

くねっていたり、カーブしていたり、いろんな雪道があった。

だが、近くの雪道からはどれもヒトの気配は感じられなかった。

 

灰色の世界の上空には、緑色、ピンク色、紫色やオレンジ色など

色あざやかなオーロラがカーテンのように揺らめいており、美しい。

オーロラの、ドレスの女性が歩くような、まるで誘っている動きに

見とれていると、どうやら目的地の場所へ着いたようだった。

 

サンタが立ち止まり、こちらを振り返る。「ここだ」

 

オレの中で危険を察知する警報がビービーわめいている。

ラベンダーに来た依頼という時点で、

やはりとっとと降りるべきだったのかもしれない。

 

オレたちの前には、ムリヤリ引きちぎられた空間があり、

その先の世界がなくなっている。

 

実物を見てもらったほうが読者にもわかりやすいとは思うが、

実際にそうとしか言えないのだからしょうがない。

 

ちょっとちがうかもしれないが、

水面に広がる波紋とか、割れたガラスを想像してもらえれば

わかりやすいかもしれない。

 

とにかく空間がぶっ壊れ、究極的にひずんでいて、

これ以上進めない状況になっていた。

 

オレの体温は雪の寒さを感じるほどに下がっていた。

「……サンタ……サンタ界はもう……消滅している」

 

サンタの目は色を失っており、うつろだった。

「まだ、わからないだろ、ちゃんと調査して確認しないと――」

「ここにはもうサンタ界は、存在しないことは、

ひと目でわかる。だれかに頼んでも、どうにもならない」

 

オレが現実を突きつけると、サンタはヒザから崩れ落ち――

 

「アぁああっぁぁぁぁぁぁぁああぁああああああァァァァ」

第11輪 サンタの現実

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

サンタクロース? あっははは! そんなもんいないいない。

ニンゲンが作った偶像さ

 

               ――マノン・ガトフォセ

         1999年――日本人少年に対しての発言

        (『ラベンダーさんとマノン・ガトフォセ』より抜粋)

 

五人のサンタの写真

 

バッキ―――ンと、金属製のものが割れるような高い音が響き渡った。

念力を破る音だ。ラベンダーの部屋のドアが開かれた。

 

「は、っは、開いた……」

 

部屋の入り口には疲れ気味のマノンがいた。

 

オレは驚いた。「どうやって開けたんだ!?」

 

「がんばったら開いた」

「がんばってって――がんばって開くものじゃないぞ」

 

本気でドアを封じていないとはいえ、本来人間に開けるのは不可能だ。

マノンめ。以前よりも霊能力が強くなっているな。

 

「ねえ、ラベンダーは? その人はだれ?」

「えーと、ペール・ノエルだ」

「おい、言うなよ」サンタがにらんできた。

「これぐらいべつにいいだろ」

 

(ペール・ノエルというのはフランス語でサンタを意味する言葉だ。

日本語に訳すとクリスマスおじさん by オレンジ)

 

「え、クリスマスおじさん!?」

「そうだぞ。こいつがあの超世界的有名人、クリスマスおじさんだぞ!」

「やめてくれよ」サンタは顔を赤らめながらも、まんざらでもなさそうだった。

 

しかし、次のマノンの言葉を聞いてサンタは顔をしかめる。

 

「うっふふふ、からかうのはやめてよ。

そのヒトがクリスマスおじさんなわけないでしょ」

 「お嬢さん、どうしてそう思うんだい?」

「だって赤い服着てないし、そもそも年が若いわ。

本物のクリスマスおじさんだったら、もっと年がいってるはずよ」

 

「ぷ、っくくくくくハッハッハッハッハ、これは傑作だ!!」

 

オレさまの笑い声を聞いたサンタは、さっきとはべつの種類の赤い顔になった。

「その赤さなら、今度はクリスマスおじさんだと思われるだろうぜ」

「うっせーよ!」

 

ぽかんとしているマノンにサンタはムリヤリ笑顔を作った。

 

(マノンは14歳という年以上に賢いので周りの子供より大人びて見えるが、

こういう話題でぽかんとする姿は子供らしい。

それもあって、紳士なオレンジさまは大人げもなく笑ってしまったのだ)

 

「い、いいかいお嬢さん、サンタだって

いつもあんな赤い服を着ているわけじゃないんだ。

それに赤い服というのは人間の勝手なイメージで、ヒトによって

好きな色の服を着ているよ」

 

「そうなんだ」

 

「そもそも、これは出会った霊能力者全員に言っていることなんだけど、

サンタだっていっぱいいるんだから、年だって若いヒトから年配の方まで

いっぱいいるよ」

 

「そうだったんだ」

 

 「それにさ、みんなクリスマスにプレゼントされるとか思ってるケド、

クリスマスっていうのはあくまでイベントであって、

その前から霊界から君たちにプレゼントを届けているんだよね。

クリスマス当日の――しかも子供たちが夜眠っている間に

地球中にプレゼントを届けろって、相当なブラック企業だよ?

ぼくだったら労働基準法違反で訴えるね」

 

「……………………………………………」赤髪の少女は口を堅く結んだ。

 

マノンが、あのマノンが、うなだれて瞳から光を消している。

子供らしい一面もあるんだなぁ。

「子供の夢を壊すサンタって、最低だな」

「ごめん、そんなつもりじゃ……

ただ、本当のサンタを知ってもらいたくて」

 

 

 

三太の耳に聞き取れるぎりぎりの音量で、消え入るように、

それはつぶやかれた。

クリスマスおじさんなんてダイッキライ。

 

停止した機械のように動かなくなった三太にオレンジは油をさした。

 

「おい、まだ時間はあるのか? めんどうごとはとっとと終わらしちまおうぜ」

「あ、ああ、そうだね」

「サンタ界が大変って、どういう意味なんだ?」

「じつは、サンタ界のあった空間がなくなっているんだ」

「空間がなくなっている? どういうことだ」

「それがわからないから困っているんだ。俺が別件から帰ってきてサンタ界に

戻ろうとしたら、あるはずの場所にサンタ界がなかったんだ!」

「みんなおまえのことが嫌いだから、引っ越しちまったんじゃないか?」

「そんなことはない!」

 「簡単に言うと、世界がまるごとなくなっちまったってことか……

だが、そんな話は聞いたこともないぞ」

「だけど、本当なんだ。詳しくは話せないけど、

サンタ界はいま本当に忙しくて、大事な時期なんだ。

もしかしたら、だれかのしわざかもしれない」

「だれがそんなことするんだ?」

「サンタ界が潰れてよろこぶ連中なんて、腐るほどいるだろ――」

 

そこまで言いかけて三太は涙を流した。

自分の言葉に、胸がしめつけられてしまったのだ。

もしサンタ界が潰れて跡形もなくなってしまっていたら――。

そのことを考えただけで、ゾッとする。

だれかを助ける立場のはずの自分が、泣いてしまうとはみっともない。

 いままで真面目に業務に取り組んできたベテランサンタの三太は、

恥ずかしさと悔しさで涙が止まらなくなっていた。

 

 しかし、三太に一筋の光明がさす。

「だいじょうぶですか? わたしでよかったら力になりますよ」

聖母マリアが助けに来てくれたように三太は感じた。

さし出されたタオルはまるで、慈愛でできているようだ。

タオルを顔につけると、ラベンダーの匂いがした。なつかしい匂いだ。

気分がだいぶ落ち着いてきて、勇気とエネルギーが体の中からわき出てくる。

「ありがと――……」

そして冷静になったひとりのサンタは、自分のミスに気がつくのだった。

 

タオルに顔をうずめたまま、静かな声で三太はつぶやいた。

「オレンジ……」

 

「どうした?」

「いま、この部屋には、だれがいる?」

オレンジはにやにやしながら答えた。

「オレと、おまえと、マリアさまみたいに優しい女の子がいるな」

 

「……何てことをしてくれたんだおまえは!!」

「べらべらと勝手にしゃべったのはおまえだろ! ヒトのせいにすんなよ」

「ま、まあいい、どうせ聞いたって理解できないだろう」

 

三太のそでを、マリアさまみたいに優しい女の子がひっぱった。

「あの、ラベンダーから聞いたんですけど、

人間がこれからの人生で必要なものを、霊界の世界で間接的に

届けているんですよね? もしその、サンタ界?

――っていうのがなくなっているんだったら、それって……その、

ヤバくないですか? これからプレゼントが届かなかったら…………」

 

三太は、まさかラベンダーからサンタについて聞いているとは思わず、

マノンがひとことひとことしゃべるたびに、どんどん顔を青くしていった。

 

「きみは何も心配しなくていい。安心したまえ!

なに、ちょっとしたトラブルだよ、人生にはつきものだろ?

私とそこのオレンジさんとで解決できる問題だから、クリスマスには間に合うよ。

それと、いま聞いた話はだれにも言ってはいけない。

もし知れ渡れば混乱が起きて、本当にクリスマスどころじゃないからね」

 

 マノンの両肩をつかんでそう言うと、今度は三太はオレンジの腕をつかんだ。

「さあ行くぞオレンジくん、出発だァ!」

オレンジが口外しないと誓った秘密がばれてしまったからか、

三太のテンションは変だった。

 

「ちょっとまってください、わたしも連れて行ってください!」

「いや、ダメだ」

「どうして!」

「きみは人間だ。そもそも霊界に来ることはできない」

 

マノンにはいまの三太の言葉がウソだとわかっていた。

なので、三太のことを試してみることにした。

 

「ウソ! あなたほどの精霊だったら、

人間が霊界に行く方法も知っているんでしょう?」

「危険だからダメだと言っているんだ!」

「たしかに危険かもしれないけど、役立てることだってあるはずだわ。

人間だから――女の子だから弱いと決めつけているんでしょう!

わたしだって霊能力者よ! さっきだってあの念力がかけられたドアを

開けることができたわ。あなたとオレンジだけが特別だと思わないで!」

 

 

 

「ほう、なぜあれが念力だとわかったんだ?」

オレは怒鳴ろうとするサンタを制し、真剣な声音でマノンに訊いた。

 

「そ、それは……」

「マノン、おまえ――」

しかしサンタが割って入ってきた。

「念力を破ってドアを開けられたぐらいなんだ!

そんなこと誰だってできる。この件はね、きみには関係がないの。

子供は子供らしく宿題でもやって、クリスマスを待ってなさい!」

 

ピシャリと言い放つとサンタはオレの手をひっぱっていく。

 

「お、おい、いまのは言い過ぎだ!」

 

サンタはこれ以上話し合ってもらちが明かないとばかりに

オレをひっぱり、絵画の前に立った。

 

絵画はサンタが部屋にやってきた時と変わらず、雪道の絵だった。

絵画のポータルに入るサンタとオレの背中に、悲痛な叫びが刺さる。

 

「関係ないことなんかないわ!」