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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

子供と信頼関係を結ぶには、部分的でもいいからまずは信じてあげること。

昨日は大火くんが来た。

朝のミーティングの時、スタッフは絶対にひとり大火くんに

ついてくださいと管理者から言われた。

衝動的に何をするのかわからないし、誰かがケガをしてしまうかもしれないし、

壁か何かが壊れるかもしれない。

 

だが、そんな事態にはならなかった。

昨日の大火くんはむしろ、その逆だった。

 

一昨日の来室時に大火くんはモンスターハンターが大好きという

ことを知り、意識したわけではないが(むしろ忘れていた)、

ぼくは自然と大火くんとその日会ったときから、モンハンの話をして

盛り上がっていた。

 

教室に着いてもずっとモンハンの話を1対1で

ぼくと大火くんはして、その日は終わった。

大火くんの目はキラキラしていて、機嫌がすごく良かった。

 

なにより感動したのは、悪いことだとわかっていても

衝動的に人を傷つけてしまう大火くんが、

春くんとシャチくんの喧嘩を仲裁したことだ。

事の始まりはこうだ。

 

春くんはひとりで人生ゲームをして楽しんでいた。

そこにシャチくんが入ってきて、オレもやりたいと

春くんのコマを勝手に取ってスタート地点に戻してしまったのだ。

小学1年生の春くんは「ぁあ~、やだ~!」

小学3年生のシャチくんは「だめ! はじめっからやるの!」

シャチくんは名前のとおり無邪気で元気がありあまっているし、

年齢的にもシャチくんは力が強いので、力ずくのケンカになったら

春くんは一方的にやられてしまう。

ぼくがモンハンの話をやめてケンカを止めようとしたら、

5年生の大火くんがサッとこういう言ったのだった。

「おい春は一年生なんだからやめろよ!」

 

うぉぉぉおおおおおおおおお!!!

感動したよ大火くん!!

 

いっくんは間違ってた!! いっくんが悪かった!!

そういうことができる子だったんだ!!

ぇぇぇぇええええ!!

ごめん大火くん、本当にいっくんが間違ってた!!!

うわぁぁぁぁぁぁ。

もうごめんなさい!! 反省します!!

いっくんは気づきました!

 

子供と信頼関係を結ぶには、まずは信じてあげることだと!

 

考えてみれば、ぼくは施設という限られた空間、決まった時間内での

大火くんしか知らない。

施設内だけでしかその子のことを知らないのに、

(それでだいたい――いや、半分以上まで理解できる子もいるけど)

理解した気になってたよ。

 

気づかせてくれてありがとう!

(でも、女の子の前でチンコ出したりマンションの管理人に

ケンカ売るのはやめて。かなり目をつけられているから)

 

ではもう一度感動の言葉を繰り返してみよう。

大火くん「おい春は1年生なんだからやめろよ!」

 

その言葉を妖精ちゃんにも言ってあげればなぁ……。

妖精ちゃんというのは「にゅ」が口癖の1年生の女の子。

大火くんがバットを勢いよく振り回したり、

部屋の半分を占領したドッジボールで

飛んできたボールがかすめたり、

大火くんの暴れっぷりに刺激されたりして

しょっちゅう泣いてしまう女の子。

 

大火くん「へ! 泣き虫妖精!! おまえってすぐ泣くよな!」

いっくん「まだ妖精ちゃん1年生なんだよ!?」

大火くん「知らないね。知らなーい」

 

あの大火くんが、

「おい春は1年生なんだからやめろよ」

いや感動だわ。感動しかないわ。

 

 

 

でもこの日、大火くんは本当はもっとイライラを周りにぶつけていても

おかしくはなかった。

 

この日ぼくは、管理者の車に同乗して1年生の春くんと星くんを

学校に迎えに行っていた。

そして施設へ戻る途中、社用携帯が鳴った。

他の教室の人からだ。

どうやら人出不足で、同乗にひとり貸してほしいと。

基本的にはドライバーだけで子供たちを送迎することはない。

もし子供たちがケンカになった場合、何かイタズラをした場合、

止める人がいないからだ。

ただこの業界は人手不足なので、児童の特性をみて

静かな子たちなら、やむなくひとりだけで行く場合もある。

(ホントはダメだし、できるならスタッフがもうひとり同乗する

べきだが、しょせん理想である)

 

そしてぼくの所属する施設のエリアには、同じ会社の他の教室も

密集しているので、車を節約するために各教室で、

他教室の子もいっしょに車にのせて、それぞれの施設へ連れて行くのだ。

 

さっき電話をかけてきたスタッフは、そのスタッフの教室の子と、

うちの大火くんを迎えに行く予定なので、

本日の大火くんの様子を考えると、

やはりぼくは天に味方されているらしい。

もしこのとき、ぼくが大火くんを迎えに行っていなかったとなると、

……ま、妖精ちゃんが泣いたり、シャチくんが

チンコ蹴られたり背中に何度も肘鉄喰らったりしていたかもしれない。

 

そしてぼくは15時20分には、大火くんを迎えるために

学校の昇降口に立っていた。

しかし大火くんはなかなかやってこなかった。

……おかしい。確かに送迎表を見る限り、15:20分に大火くんの

クラスは帰りの会を終えるので、出てくるはずなのだ。

しかし来ない。

もう35分を過ぎている。

今日はこの学校が最後だったから良かったものの、

もしまだ他の学校に迎えに行かなければならなかった場合、

かなり怖い。

ひまわり学級や仲良し学級だったら先生が児童と手をつないで

出てきてくれるからいいが、

普通級だったらマズい。児童がひとりで門まで来て、車を待つからだ。

ケースとしては、待ちくたびれた児童が

そのままどこかに行ってしまうこともあるらしい。

あるいは、今日は何もない日だと勘違いして家に帰るとか。

 

けっきょく大火くんが出てきたのは、

40分近くになってからだった。

大火くんと一緒に出てきた先生に訳を聞くと、

5時間目の授業を一切受けず、ずっとチャンバラごっこをしていたらしい。

それでキツく叱られた上に、

ちゃんと帰りの挨拶ができるまで残らされたと。

お―――い!!大火ァ! なにやってるんだぁぁぁ!??

 

大火くん「言っとくけど遅れたのこいつのせいだからね、オレ悪くない」

いっくん「先生に向かってこいつって言わない!(おまえはオレか!)」

先生「本当にすいません」

いっくん「ほら、先生にバイバイって言って(言葉間違えちゃった)」

大火くん「バイバイ」

いっくん「さようなら」

 

そしてぼくらは、

5分間はタダになるコインパーキングに出たり入ったりしていた

車へと向かった。

(会社からちゃんとお金は出るのだが、1か月の療育活動で使える

お金が2000円と決まっているため、こういうところで

うまくやりくりしているのかもしれない。

だから折り紙もビーズもガムテープも、

子供たちにあまり多くは使わせてあげられない)

 

そして車の中で大火くんとぼくはモンハンの話をしていた。

大火くんはモンハンの4を近所のゲームショップで

10個も大人買いしたらしい。

ひとつ560円だから、約5600円。

遊んでいるときに友達に貸して、通信するんだと。

賢い。

しかもいまのモンハンは、40人のプレイヤーでモンスターを討伐に

行けるらしい。ぼくが高校生の頃は4人までだったのに。

最近はすごいなぁ(ぼくがこんなセリフを言うとは)。

マンションの入り口を入ってエレベーターに乗り、2階の施設に

行くまでの間、大火くんとは絶対に手を離さないように

管理者から言われているが、ぼくは大火くんと

手を繋がなかった。

車の中でモンハンの話をしていた時間は15、6分ぐらいだけれど、

大火くんを信用するには十分な時間だった。

それに大火くんも夢中になって、

マンション内でモンハンの話をしていたので、

ぼくは手を繋がなかった。

犬みたいに彼を繋いでおくのはもうイヤだからだ。

もちろんこれで大火くんが急に走り出して何かイタズラを

したら、ぼくのせいになるけど、

児童との関わりはケース・バイ・ケース。

そのときの状況やその子の特性にもよるし、

あえて自由にさせてみることも大切だと思ったのだ。

あれもダメ、これもダメでなにもかも縛りつけたら、

反発もすごいよ。そりゃあ。

できるところまでは、自由にさせてあげたいと感じた。

 

そして教室に着いたぼくたち。

ちなみに今日の療育活動はおやつ選びで、

テーブルの上に並べられたおやつを4つ選ぶことができる。

大火くんは列に並んでいるときも、問題を起こすことはなかった。

ぼくは大丈夫かなと心配したけど。

そして帰るまでの1時間、ぼくたちは、モンハンの話をした。

今どきのモンハンって、進撃の巨人の調査兵団みたいに

ワイヤーで空を飛んだりできるらしい。それすごくね!?

 

帰りのあいさつをするとき、妖精ちゃんがこう言った。

妖精ちゃん「今日は遊べなかったね」

ぼく「そうだねー、ごめんね(君が泣かなくてよかったよ)」

妖精ちゃん「あしたは遊ぼう?」

ぼく「うん、あした遊ぼうね(ごめんね、明日も大火くんに付きっ切りなんだ)」

 

児童が帰ったあとに、

先輩スタッフたちからぼくは褒めちぎられた。

「今日は大火おとなしかったね、なんで!?」

「いっくんすごーい!!」

ぼくはもちろん調子に乗ったとさ。

 

おしまい。

 

大火かわいい!

「みんな! いっさんはひとりしかいないから!! 手ぇちぎれちゃう!!?」

昨日の施設でのできごとだ。

ぼくは窓から空を見上げていた。

おやつの時間も終わりかけの頃だ。

すると、ブラックくんがとなりにやってきた。

そして、おやつを食べ終わった赤オニちゃんも

たったったっと腕を動かさない可愛らしい動きでやってきた。

 

ブラックくん「ねえいっさん、抱っこして」

ぼくの左手をひっぱる。

いっくん「いまみんなおやつ食べてるからだめ」

赤オニちゃん「逮捕します、牢屋に入ってください」

ぼくの右手をひっぱる。

 

ブラックくんはぼくの次に、赤オニちゃんとの心の距離が

近い児童だ。冬休みのサメごっこの中で生死を共にしたからか、

赤オニちゃんはブラックくんのことを信用している。

(もちろんサメはぼく)

 

ブラックくんがぼくの左手を引っ張り始めたため、

刺激された赤オニちゃんもぼくの右手を引っ張り出した。

「うぉぉぉおおおぉぉお、イタイイタイイタイ(笑)」

ちぎれる、ちぎれる!

 

ブラックくん「赤オニちゃん、手ぇ離して!」

赤オニちゃん「うぅん!」

 

いっくん「ふたりとも、ちょっとまって――」

パズルちゃん「センセ、何やってんの!?」

いっくん「いっさんの取り合い」

パズルちゃん「腕切っちゃお」

いっくん「痛タタタt!」

何やってんだパズル!!!!

パズルちゃんはチョップの形でぼくの手を切り始めた。

パズルちゃん「センセ! 面白い!!!」(大興奮)

いっくん「おもしろくない!(笑)」

パズルちゃん「なんで?」

いっくん「なんでだろーね?」

パズルちゃん「ブラック、手伝うよ!」

 

ブラックくん、パズルちゃん VS 赤オニちゃん

 

そしてこの騒ぎは、ひと部屋の施設では瞬く間に知れ渡っていった。

 

大好きくん「何やってるんですか⤴ いっさん大好き!」

いっくん「いっさんの取り合いだよ、助けて」

パズルちゃん「大好き、こっち、手伝って!」

やめてくれよ!!!

大好きくん「赤オニちゃん、いっさん取らないでよ!」

 

ブラックくん、パズルちゃん、大好きくん VS 赤オニちゃん

 

いっさん「ねえちょっと、赤オニちゃんひとりなんだけど! 

女の子だからさ――」

 

金さん(スタッフ。元おすもうさん)「何やってんの? 俺も混ぜてよ」

 

ブラックくん、パズルちゃん、大好きくん、金さん VS 赤オニちゃん

 

赤オニちゃんすげーな! よく持ちこたえてるな!!!

ま、ぼくが赤オニちゃん寄りに体重をかけているんだけど。

うでイッタッッッ!!!!?

 

シャチくん「あー、ズルい、オレもやるぅ!!」

シャチくん来ちゃったよ。

パズルちゃん「シャチ、こっち!!」

いっさん「ちょ、待って、人多いからッ!!?」

シャチくん「おらおらおら!!」

 

ブラックくん、パズルちゃん、大好きくん、金さん、シャチくん

 VS

赤オニちゃん

 

ちょ、みんな。待って!!!

 

いっくん「みんな! いっさんはひとりしかいないから!! 

手ぇちぎれちゃう!!?」

 

最終的にはブラックチームにいっくんと赤オニちゃんがずるずる

引きずられたので、金さんが赤オニちゃんチームに入って

圧倒的勝利を収めました。

金さんも、ブラックチームにいるときはほとんど力を入れず。

 

なおシャチくんはその後、何回戦目か忘れたけど赤オニちゃんの

腕を何度も叩くという反則をしていっくん綱引きに勝とうとしたので、

厳重注意しました。

 

熱かったなあ! 

教室中に瞬間速度過去最大で一大旋風を巻き起こし、

その日ヘルプに来ていた女性の人が笑ってたよ。

窓際のいっくん綱引きのところだけ、世界が違ってた!

オーラがめちゃくちゃ黄色に輝いて視えてた気がする。

 

すっごい楽しかった!!!!

一、ニを争うぐらい楽しかった!!!

 

あばよ。

子猫ちゃん「あたし大火ヤダ! 嫌い!!!」 いっくん「」

今日は、治安があまりよくなかった。

大火くんが来たからだ。

大火くんは暴れん坊の小学5年生で、

物を壊す、他の児童の遊んでいるところに突っ込んで

オモチャをめちゃくちゃにする。

大人に叱られてもそれすら駆け引きのように楽しむ、

施設一番の問題児だ。

女性のスタッフは特にナメきっており、叱られたら顔にツバを吐いたりする。

 

一番すごかったのは、あれだ。

マンションの待合室のソファの上に土足で乗っかり、散々跳ねまわって

「捕まえてごらーん(笑)」と先輩スタッフの女性を挑発していたところを

管理人に視られ、施設の責任者が呼び出されて雷を落とされたことだ。

 

ぼくはそのことをあとから聞いたが、

ある日マンションの1階からエレベーターに乗るまでに

「おい管理人! 出て来いよ! 俺のことを怒ってみやがれ」

とまあまあ叫んだので、

腕をつかんでいるぼくとしては冷や汗が止まらない。

 

でもこういう子ほど大人になった時しっかりしていたりするので、

そこだけは大火くんに希望を持っている。

 

事務所に入ってはいけないと分かっていて入るので、

3週間前に大火くんのことを人生で一番キツい声でキツくキツく叱ったら、

微妙に少しだけいっくんの言うことを聞くようになった。

 

その件は、スマイルくんというよく笑う子がいるのだが、

彼の人生の中で一番面白かったらしい。

3週間前から現在進行形でずっと会うたび会うたび、

「いっくんさ、大火くんのこと怒ったでしょ、あれ面白かった」

と言ってくる。

今日もスマイルくんを学校に迎えに行ったとき、

「いっくんさ、大火くん怒っているときの声がおじさんに似てたw」

と言っていた。なーに言ってんだか(照)

 

スマイルくんは施設でポケモンの本か東京超詳細地図を

ずっとひとりで読んでいるので、

ぼくとスマイルくんの会話は、「大火くん怒ったwアハハ」

の話題で終わるのだ。不思議なぼくら。

 

ぼくが大火くんを難しいと思うところは、

ウソつきで信用ができないが、本当のこともたまにちゃんと言うところ。

だから、当たり前だが、大火くんが最初から悪いと決めつけてはいけない。

(悪くなかったことがほとんどないが)

 

でも厄介なのが、大火くんは被害妄想が強く、先述のようにわざとウソを

吐く場合もあるが、ありのまま起こったことを話すことが苦手で、

本人も間違っているという自覚がないまま事実とちがうことを言うので、

大火くんのことを叱るときは、最初から最後まで目を離さず

見ていないと下手に叱れない。

厄介、厄介。

 

今日も6年生の子猫ちゃんが頑張って作ったオモチャのキッチンセットに

並んだ料理の数々を半分ブッ飛ばし、3年生のシャチくんに腹パン

し、さらにヒザでチン蹴りを喰らわせた。

理由を問いただしたら、

大火くん「攻撃してきたから」

シャチくん「攻撃してない、ぶつかっちゃっただけ」

大火くん「でも謝ってない」

シャチくん「ゴメンって言ったじゃん!」

大火くん「聞こえない」

いっくん「どうしてシャチに謝らせようとするの?

大火だってさっきキッチンセットブッ飛ばして

子猫ちゃんに謝んなかったでしょ! それはおかしい」

大火くん「なにが? 俺はおかしいと思わない」

 

(スマイルくんはこのやりとりを見て喜んでいた。本当に)

 

どこかから受けたフラストレーションを、施設の子で発散する傾向が

あるので、いっくんとしては次の大火くんの利用時には。

 

大火くんの理不尽な暴力からみんなを守るため、指導員としての顔を捨て、

完全な警備員として動こうと思う。

いっくんと遊びたいって子たちはいっぱいいるけど、

遊ばない!! いや遊ぶけど。

いっくん担当の児童はちょっと他の人に見てもらって、

いっくんは大火係になる。いっくんが仲良しの子(全員)と遊んでいる隙をついて

大火くんは破壊したり暴力振るってケガさせちゃうんだから。

 

でもいっくんは大火くんとももっと仲良しになりたい。

だってまったく分別のつかない子じゃないし、

元気なのは彼のいいところだから。

ただ、ストレスを他人で発散するというよくない傾向があるだけで。

(なーに、舛添都知事のおっちゃんに比べれば、ちょっとやんちゃな聖人さ)

彼が見ている世界は、赤オニちゃんやブラックくんよりも広いのだ。

だから、この施設では窮屈なんだろうな。

大火くんは悪いところもあるけど、

いいところもあって、えっと、お外だと分別がつくところですね。

あと元気。風の子――いや、嵐の子。

 

あーあ、大火と一緒に外で野球とかサッカーできたらいいのになあ。

あの限りある施設の空間だと、大火もストレスなんだろうな。

ま、社会性を伸ばすという点ではいいんだろうけど。

「あなたは悟空ね」 ブラックくんとの戦いごっこ 「早く高校生になりたい」

 今日の登場人物

 

ブラックくん

戦いごっこと消防車が大好きな一年生。イケメン。

青色にこだわりを持っており、青いコップじゃないとすねて

うがいをしない。

週5日施設を利用している。

最近くちびるや舌を震わせられることを覚えたのか、

ぶrrrrとよく震わせている。

(激カワイイ)

口癖は「見て!」 

 

いっくん

霊感が多少あり、いろんなことを経験している。

見た目や行動は若者だが、中身は老成している。

正直なことを書くと、一部の品のない大人にはなに大人ぶってるんだろう?

自分の前世も知らないクセに。

と時々思ってしまうぐらいには、価値観が多様。

(ぼくの精神レベルは中学生かもしれない)

まだまだ発展途上の若者。

 

上の自己紹介を書いてみて思った。

ブラックくんの紹介と比べてなんか、荒んでいるので書き直し。

 

いっくん(改)

児童に人気者のお兄さん。

ときどきまったく別の遊びをした子たちから

同時に話しかけられるため、聖徳太子状態になる。

(だいたい3人ぐらい)

最終的に相手にされない児童はすねる。

児童たちによく両手を引っ張られる。

「いっくんひとりしかいないから! 取り合いはやめて」

 

よし、ほのぼの感が出たな。これでよし!

 

ブラックくんとの出会いはどんな感じだっただろうか。

2か月前のことなのにもう思い出せない。

 

ブラックくんは戦いごっこが大好きで、しょっちゅう戦いごっこをねだまれる。

たしか、初めて会った時も戦いごっこをして遊んだように思う。

 

戦いごっこ。みなさんはどんなイメージを持たれるだろうか。

たたかいごっこ。

こう書けば可愛らしいだろう。

しかし戦いごっこを軽んじてはいけない。

たたかいごっこは力の加減がわかる大人同士がじゃれ合ってするもの。

戦いごっこは、本当に戦い。力の加減がわからない児童がするもの。

 

最近でこそ若干、ブラックくんも加減がわかるようになってきたかな?

と思って興じていると、ドカンと一発重いのが来るから油断ならない。

 

でもぼくも、楽しんで戦いごっこをしている。

大丈夫。ピアノを弾くよりは疲れない。

疲れるって言ってるようなもんか(笑)

でも気持ちのいい疲れ。

いろんなお仕事をして社会のいろんな面を見てきたけど、

こんなに気持ちのいい疲れはこの職場でしか味わえないと思う。

疲れって書いてるけど、疲れる感じはしない。

充実感だ! そうだ充実感だ。

 

ブラックくんは戦いごっこが大好きで、

よくドラゴンボールのキャラクターになりきって

遊んでいる。

 

戦いごっこが始まる前にブラックくんが

よく言う言葉は

「いっさん! あなたは悟空ね」

戦いごっこが始まってブラックくんが言う言葉は

「おれはブラック」(低く出した声がかわいい)

そして腕を組んでいる。

 

ブラックくんはブラックの他にもベジータになったりする。

ぼくは悟空かザマス。

それで、テンションが高くなった時には

ブラックくんとぼくはフュージョンをするほどの仲。

 

ぼくがふざけてジャイアント・スイングや逆ジャイアント・スイングを

やってしまったがため、やってとねだまれるが、

ぼくとしては万が一ケガをさせてしまったときの責任が取れないため

頑張ってダメと言っている。

(ちなみにぼくは幼稚園に入る前、親父にふざけて

ジャイアント・スイングで吹っ飛ばされ、偶然開いていたガラスのトビラの

角におでこをぶつけ、眉間に一生消えないキズを作りました。

反省しています)

 

ふだん接している分には発達障害を感じさせないほど元気な児童。

 

 

 

「大きくなったら、いっさんといろんなところに行きたい」

ふたりで窓の外を見ていたら、ブラックくんはふとこんなことを言うのだった。

まだ入って一か月も経たない新人にはもったいない言葉で、

ぼくは心がうるっとなってしまった。

 

週4、週5で一日数時間を同じ部屋で共にしている。

たったそれだけで、一か月前も経たないうちにキズナって結ばれるのだろうか?

そう思うくせに、ぼくはこの質問の答えをすでに知っている。

大人とこどもでは、時間の流れは同じではないのだ。

こどもの時間は信じられないほどゆったりしており、

同じ時を過ごしても、こどもの体感時間は

ドラゴンボールの精神と時の部屋なのだ。

だからこそ、こんなありがたい言葉を言ってもらえるのかもしれない。

 

実際、幼稚園の頃ぼくの一日は途方もなく長くて、

「いっくんホントに大人になれんのかな? ずっとこどものままなんじゃないの?」

と半ば本気で思っていた。

今で考えれば、3日分ぐらい一日が長かった。

ピアノを弾いたり『ラベンダーさん』を考えたりしているいまは、

あっという間に1日1日が過ぎていくから信じられない長さだ。

もうぼくは、ジャネーの法則でいうと

人生の体感時間の早さの半分ぐらいのところにいるから、

おじいさんになったらいまの2倍弱は早く感じるんだ。

ひぇ~。

 

すぐ転生しちゃうよ。

 

だからこそ、大人よりも子供の『いま』って本当に大切。

自然のようにかけがえのない資源。

 

ま、大人は大人で一晩お酒を酌み交わせば、

友だちになれますケドね。

わたしの友だちの敷居はかなり低い(笑)

 

ブラックくんは先述の言葉のあとに、こんなことも言った。

「早く高校生になりたい」

「どうして?」

「高校生になったら、ひとりでいろんなところに行けるから」

「中学生でも行けるよ」

ブラックくんはぼくを見上げる。

「ほんとに?」

 

ブラックくんのお父さんはいるのかいないのかわからないが、

お母さんは週6日で働いており、ブラックくんも赤オニちゃんと同じく

週5日、施設を利用している。

まだ一年生なのに、どうやらブラックくんには

この部屋は少しばかり狭いようだ。

ごめんね、そこはいっくんには何ともしてあげられないんだ。

でも、ブラックくん、彼は……

そのうちドラゴンボールの孫悟空が如く、

晴天のように一気に視界が開ける日が来ると思う。

ただ、それはもう少しあとのおはなし。

 

さてと、今日もブラックくんと戦いごっこをするぞ!

夢の中の養成所。ヘミシンク ナイトスクール

今日わたしはヘミシンクのCDを聞かずに寝たが、

気づいたときにはあるホールの中にいた。

フォーカスレベルだと、どれぐらいなんだろう?

ま、どこでもいっか。

 

ぼんやりとだが、夢の中だとわかった。

ホールの中にはふつうの野球場ぐらい人が多くおり、

みんな紙を持っていた。

 

わたしは列に並んだ。

紙を見ると、

H-324

F-174

C-HGDY

O-F6GH5

 

と数字やアルファベットが書いてあり、意味はよくわからなかった。

しかし、なぜか頭に情報が入ってきて、紙に書いてある一文は

自分のカテゴリーが俳優だと示していることがわかった。

そして、この建物はどうやら養成所のようなところで、

いろんなジャンルの人がそれぞれの教室に行って

指導を受けていることがわかった。

後ろを振り向いていると、ホールの2階以上に

B’zのライブ会場が如く人がいっぱいいて、

わたしの後ろにも人がいっぱい並んでいた。

そして案内係のヒトが、なんと上野くんだった。

上野くんとは中学時代の同級生で、特に仲良しというわけではない、

同じクラスの知り合いぐらいの関係だったのだが、

たまにフッとわたしの夢にひょっこり現れるのだ。

上野くん……。

なんでここで案内係をしているんだろう?

でも彼は3次元でも優秀な人だから、たぶん上でも

見込まれて案内係をしているにちがいない。

 

3次元であまり接点のないヒトでも、上の次元だと意外と

会っていたりするもんなんだな。へ~。

 

そしてわたしの順番がきて、上野くんはわたしに

わたしが行くべき教室の場所を口頭で説明してくれた。

わたしの持つ紙には204~244と書いあった。

どうやらこれが成績らしい。

この成績に見合ったところへ行くらしく、

700以上のヒトもいたので、わたしの成績は低いようだった。残念。

 

わたしは上野くんに何かを質問した。

(起きた直後は覚えていたのだが、忘れた)

 

上野くんは「あー、めんどくせー」とちょっと焦っていた。

このときの雰囲気は険悪ではなく、ほんのちょっとだけ

フレンドリーな言い方で、「あー、めんどくせー」

と言っていた。

いろんな対応に追われ、案内係も楽じゃないなとわたしは思った。

 

それにしても、どうしてわたしは今回、俳優の養成所に行ったんだろうか?

音楽や小説じゃないのかな?

いや、音楽と小説はもうわかるから、演技のやり方を教わりに行ったのかな?

あ! ここがもしかして、ヘミシンクでいうナイト・スクールなのか!!

 

初ナイトスクールだ、ひゃっほ~。

とハシャいでみたけれど、覚えていないだけでたぶん学校自体は

何度も行っているかもしれない。

 

もしかして上野くんは、わたしがこの建物に来ていたことを忘れて

また同じ質問をしたから、「あー、めんどくせー」

と笑っていたのかも。

 

でも、わたしが俳優か~。

ありえないな、と思うけど、もしかしたらあり得るかもしれない。

 

わたしが高校生の頃に作った曲で

『ペーパーラブストーリー』という曲がある。

本が大好きで、小説家を夢見る女の子の曲なのだが、

その曲の歌詞が『ラベンダーさん』シリーズと見事にマッチしているのだ。

 

おまけに、仕事にはなっていないがわたしはあの小説を

短期間で書き上げてしまった。小説なんて書いたこともないド素人だったのに。

誰かが側にいて、ここはこう、あそこはこう、と指導してくれているみたいに

簡単に。

 

『ペーパーラブストーリー』を書いた当時も、

自分にまさか物語が書けるなんて当然思っているわけもなく。

だから、すごい奇跡だと本当に思う。

近いうちに録音して動画サイトにあげようと思う。

そしたら歌詞もこのブログに上げるから、気になる方はぜひ。

 

というわけで、『ペーパーラヴストーリー』は見事に

未来のわたしを一部予知していたわけだ。

(どうせなら全部現実になってほしい……)

 

なのでひょっとすると、未来でわたしは、

何かの形で演技をするのかもしれないなぁ。

 

わっはっはっはっは。

いや、ただの偶然、ただの夢なんて、わたしはもう言えないほど

経験しちゃってるからなぁ……。

 

まあ、楽しいなら、俳優もいいけどね。

第20輪 狂気のサンタ界

連れていってくれるって約束したのになぁ

 

      ――マノン・ガトフォセ

 

ナポレオンの写真

 

血で真っ赤に染まったような服を着たサンタ共が三太を襲っている!

 

なんてこった! マイナデスアルコールが充満してサンタ界は堕ちたんだから、

中にいるサンタだって正気を失っているに決まっているのに。

どうして気づかなかったんだ!

 

三太は現在、サンタ――マイナスサンタとでも命名しようか――に

襲われて、拳や剣を避けるのに精いっぱいだ。

ギリギリのところでかわしてはいるが、三太はまだ大人の姿に変身できるほど

体力が回復していないはずだ。

相手は大人のサンタ共。それも十数人。子供の姿では圧倒的に不利だ。

 

オレは急いで飛んでいき、三太の頭上でナポ公の姿になった。

 

(ナポ公とはもちろん、ナポレオン・ボナパルトのことだ。

なつかしいな、あいつ元気にしてるかな。

昔はピーピー泣いてたひよっこだったのに、

あっという間に立派になって。あいつにレディの扱い方を教えてやったのは

このオレだ。やつはオレさまの女性に対する心得を

みるみるうちに吸収してゆき、見事、オレンジ勲章準2級を受章した。

ニワトリぐらいには成長したんじゃないか。

だがやつは慢心した。最後はケンカ別れになっちまったが、

根は……うーn、人間だな。

ちなみに妻のジョセフィーヌが飼っていたフォーチュンというパグは、

オレと会話ができるほど霊感が強く、いけ好かないヤツだった。

あいつは犬の中でもかなりの悪たれだ! もし人間だったらその悪名は

後世に語り継がれただろうに、残念だ by オレンジ)

 

下降中に火炎玉を作ろうと手のひらにエネルギーを送り込んだが、

途中で気づく。

そうだった、いまこの世界で火はマズい。

ナポレオン・ボナパルトはタッと着地した。

ちょうど三太に殴りかかろうとしていたサンタを踏み倒し

少し背が高くなった皇帝は、無心で隣の三太と目が合った。

 

「……」

「……何してんの?」

「おまえを助けようと思って」

「上から攻撃して蹴散らせば――」

「危ない!」

ナポレオン・ボナパルトの皇帝パンチだ!

喰らえ! 三太の背後から襲い掛かってきたハダカのサンタの

ほおに命中した皇帝パンチ。しかし俺のイメージとはむなしく、

ハダカのサンタはダウンせずそのままオレにつかみかかってきた。

おぉ、こんにゃろ!

倒されたオレはサンタの腹に足を入れ、後ろへ蹴り飛ばした。

 

急いで起き上がると、三太は大人の姿に戻っていた。

7人に囲まれているが、ふたりは仲間割れして殴り合っているので、

5人のサンタとやり合っている。

いまふたりを日本刀で気絶させたが、残りの3人は難しそうだ。

3人のサンタが持っているのはチェーンソー、札束、RPGーTだ。

全員ゾンビのように不規則な動きをしており、三太は苦戦していた。

特に厄介なのがRPGーTを持ったやつだ。

RPGーTはトト社という非物質界の有名企業が開発した対UFO携帯兵器で、

肩に担げるサイズなのにもかかわらずUFOを撃ち落とす威力を

持っている。

 

三太は必死でRPGーTの軌道から外れようと、躍起になって

暴れている。

助けに行きたいが、こっちもそれどころじゃない。

10人ほどのサンタ共が次々に

このナポレオン・ボナパルトに襲いかかってくるのだ。

半分ぐらいは素手だが、銃口を向けるやつ、スタンガンを持つやつ、

槍を持つやつ、スマホを持つやつ、帽子をくるくる回すやつ、

赤い帽子をパンツの中に入れ、犬みたいに四つん這いでくるくる回っているやつ、

自分の顔を殴りまくっているやつ、いろいろいる。

 

(まったく、もし人間だったら不敬罪だぞ!)

 

悲しいことに、オレの実力で真正面からこのサンタたちを倒すのは難しい。

だが、オレは機転を利かせた。

相手は酔っている。正気じゃないならなんとかなるはずだ。

オレは元の姿に戻ると自分の香りと念で分身を作った。

そしてオレ自身は体のエネルギーの流れや動きを止め、

がんばって気配を消した。

 

(呼吸を止めているとイメージしてくれれば、

どれだけ苦しいか分かるだろ? 

エネルギーの流れや動きを止めるということは、

裸のように無防備だから、いま攻撃されたらオレはおしまいだ)

 

オレの予想通り、サンタ共は分身を攻撃し始めた。

オレとそっくりというわけではないが、

等身大のオレンジ色の光はオレと同じ周波数のエネルギーの塊だ。

まともに霊視できないやつには、オレと同じように見えてるだろう。

 

よし、三太を助けよう!

 

見ると三太は、チェーンソーを日本刀で真っ二つにしたものの、

後ろから襲ってきたボコボコ顔の黒い服を着たサンタに

羽交い絞めにされて、札束でビンタされていた。

いまちょうどRPGーTは発射準備が完了した!

マズい!

そんなものヒトに打ったらどうなると思ってるんだ!

オレは携帯空間から銃を取り出してRPGーTを持つサンタに狙いを定めた。

間に合ってくれ!

指に力を入れるが、耳に不穏な音が聞こえたせいで

引き金を最後までしぼることができなかった。

 

シュボっという音が気になって、オレは後ろを振り向いた。

オレの視線の先では、人差し指から火を出したイカれたサンタが、

手に持ったダイナマイトの導火線に火をつけようとしていた。

 

おい、やめろ!!!

 

 

 

マノン・ガトフォセは小さな火炎が森から噴出したのを見た。

なんか火が出たなと思っていると、

瞬く間に太陽のように丸くて巨大なオレンジ色の光になり

熱風を全身に受け吹き飛ばされた。

赤オニちゃんの誕生日。発達障害のキミの世界が広くなることを――

テディベアを持って歩く少女

 

あの日、ぼくはどうして彼女にプレゼントをあげようと思ったんだっけな。

 

思い出せない。

 

一か月前のことなのに。

子供たちと過ごす毎日は内容がとても濃厚で。

ぼくはラーメンみたいにこってりした食べ物は苦手なので、

子供たちとの日々も脳がもたれてしまい、

思い出すのにひと苦労だ。

 

ただ、あげなきゃひどく後悔するって、思ったんだ。

 

最近のぼくは霊的な能力がすごく鋭くなっている。

ぼくと同じ年齢の子たちは原発? なんか危ないやつ? ぐらいの感じだけど、

原発で命がけの体験をしたせいか、

『ラベンダーさんと征服の草Ⅰ アトランティスへの不満』を書き上げ、

実際にオバマ大統領が来日したこと、

プルトニウムの由来となったプルート(ハーデス)が登場して死んだこと、

物語を書き終えたのがぴったり3,11と同じ3か月と11日だったこと。

様々なことが現実に起こったこととシンクロしたため、

もはや自分の直感を疑う余地はなかった。

 

直感が言わなくったってあげてるとカッコイイことを言ってみたいもんだけれど、

それはきっとなかったかもしれない。

だって、指導員がひとりの子供の誕生日にプレゼントをあげるというのは、

ヒイキになってしまうから。

 

これにはすごい悩んだ。

 

だけどぼくは、自分の心に従うことに決めたんだ。

 

赤オニちゃんのお父さんは離婚して出ていき、

現在はお母さんと二人暮らしだそうだ。

そして赤オニちゃんは、発達障害なのだ。

小学4年生で、会話も成り立つので接している分には分からないけど、

時計はまだ読めないし、足し算引き算は数字ではなく、文章でできるステップ。

リンゴとイチゴの数はどちらが多いでしょう?

スイカとリンゴはどっちが大きい?

このステップ。

ひらがなを読むのもひと苦労だけど、時間をかければ読める。

 

なので学校のバスで支援学校に通っている。

放課後はそのまま施設に来るので、平日週5日は施設で過ごしてから

お家に車で帰る淡々とした生活だ。

 

赤オニちゃん。彼女の世界はとっても狭い。

ほとんどが家と学校と、施設での暮らし。

日曜日はお母さんもお休みらしいけど、週に6日も働いているので、

日曜日におでかけに連れて行ってもらえるとは限らない。

 

ぼくが小学4年生の時は、放課後は学校のグラウンドで遊んだり、

自転車に乗って好きな場所に出かけたりしていたし、

家に友達を連れ込んでマリオパーティやったり、デュエルしたりしていた。

ちなみにぼくはデュエル・マスターズ派。

切り札はエレキチューブ・マンタ。

あとイモータル・ジャイアント。

あと空海も。

 

だけど赤オニちゃんは……自転車に乗ってどこか好きな場所へ行くこともなく、

年頃の女の子たちとファッションとか好きな芸能人の話もすることなく、

ませた方向に生意気なわけでもなく(好き嫌い、イヤだの自己主張はできる)

友だちと呼べる子や、信頼できる人もほとんどいないのだ。

(学校ではいるかもしれないが、

毎日顔を合わしている施設の子でさえ交流できていない。

流れの中で一緒に遊んだり活動しているだけ)

 

赤オニちゃんの世界には、限りがある。

彼女の世界にあるのは、学校と、施設と、お家だけ。

 

だけどぼくは赤オニちゃんのことを可哀想だとは全く思わない。

それはぼくがヘミシンクをやったおかげで価値観が広がったというのもあるし、

だから普通の人間だと思っているし、

(普通の人間だと思ってはいても、

もちろん療育活動や赤オニちゃんの社会性や学習、スキルアップのための

指導は赤オニちゃんの様子を見て、その時の状態に合わせて

無理のないように臨機応変にやっている)

究極的に言えばすべて経験するために生きているというのも感じているし、

今回の転生で地球人やっているだけなので、普通じゃない人なんていないし、

そもそも可哀想という言葉は理不尽に殺処分される動物や、

人間が好き勝手やってメチャクチャになっている自然にたいして

使われる言葉で、人間に対して使われる言葉ではないとぼくは思う。

まあ、いつまでも戦争やったり、自分たちの発展しか考えず地球で

生きているということがどんなことかを考えない頭を可哀想というのであれば、

話は別だけど。

 

健常者でなくったって、人間に生まれた時点で、いまの時代に日本人として

生まれた時点で、十分勝ち組でしょ?

ほかの生き物に生まれるより、恵まれすぎているもん。

ただ、ぼくは、一生懸命なあの子たちがとても大好きだから、

手を貸してあげたい。

あの子たちはいまはまだ、手を伸ばすことも知らないだろうけど。

 

さて、話を戻さなきゃ。

 

10歳の誕生日というのはきっと、子供にとっては一大イベントだ。

ぼくにとってはもう誕生日やクリスマスとは、

頑張りすぎる創作活動をストップし、単なる体を休める日になってしまったが、

赤オニちゃんにとってはそうではないはずだ。

生まれてちょうど10回目の、節目の誕生日。

特別な一日だ。

 

だから、特別にしなきゃ。

 

誕生日の前日にはもう先輩スタッフから

「赤オニちゃんになにかあげるの?」とからかわれるぐらいには

ぼくと赤オニちゃんとの心の距離は近くなっていた。

 

朝5時には起きて、英字新聞を駅前のコンビニまで買いに行った。

そして、英字新聞のテディベアを作った。青い装飾リボンを頭に着けたりして。

ちょっと丁寧に作り過ぎたせいか、4時間もかかった。

ラフに作れば10分もかかんないのに。

 

さてと。

まず、どのタイミングで渡せばいいのか。

赤オニちゃんが早く来てくれれば、子供が少ないタイミングで

渡せるが、そうじゃないとしたらかなり厳しい。

 

結果的にはこの日、赤オニちゃんは遅めに来たので

みんなが帰りの支度をしている時にこっそり呼んで手提げ袋をやむなく渡した。

「これ何?」

「クマのヌイグルミ」

赤オニちゃんは不思議そうだった。

「今日誕生日でしょ? だからあげる」

「うん」

 

早く帰りの支度をしてもらわないと困るという気持ちもあったし、

渡しているところを他の児童やスタッフにバレても困るという気持ちから、

みんなには内緒ね、と赤オニちゃんに伝える暇がぼくはなかった。

ま、手提げ袋に本体は隠れているし、赤オニちゃんはあまり

他の子としゃべらないから大丈夫だろうとタカをくくっていた。

しかし先輩スタッフには赤オニちゃんに渡したテディベアが見つかってしまい、

その場でお叱りを受けた。

「ああいうことすると、ズルいズルいって言われてみんなに

同じことをやらなくちゃいけないから。

それにお金もかかるから、知り合いの子供ならいいけど、

職場の子供の特別扱いは絶対ダメ」

 

怒られることは分かっていたけど、

ぼくは 、やらないという選択肢はなかったから反省は半分だけした。

ぼくのすごい直感がやれって言うんだもの。しょうがない。

それにこのとき自分の魂を信じた結果がいま、実っているから、

ぼくはやはり正しかった。

(そう断言できる。『ラベンダーさん』を書いたことは、

それぐらいの奇跡で、自分の霊感に自信が持てた出来事だから)

 

そして玄関でみんなで帰りのあいさつをする前、

小学6年生のちー姉ちゃんはこう言った。

「あ! 赤オニちゃんそれなに~! 来たとき持ってたっけ?」

「ううん、いっさんがくれた」しれっと。

 

こ、こいつ! しれっと、しかも屈託のない笑顔で言いやがった!

ちー姉ちゃん「えーなんで!? わたしも欲しい! ずるい」

いっくん「あ、あは、は」

ちー姉ちゃん「ねえこれ作ったの?」

いっくん「うん、ここで作ったんだよ」

ぼくはずるい大人なので、家ではなくここで作ったことにした。

施設で作ったものは持ち帰ってもいいからだ。

わざわざ家で作って来たなんて言えるはずもない。

先輩スタッフ「え!? あ、これ買ったんじゃなくて作ったの!?

いっくんが? 嘘でしょ?」

いっくん「いや、作ったんですよ」

先輩スタッフ「どうやって!?」

いっくん「新聞紙丸めて、ボンドとセロハンテープで。

だから材料費もかかってないんですよ」(英字新聞紙は400円、装飾リボン300円)

先輩スタッフ「ウソぉ!? これ作れんの!? あ~ごめんね、

私てっきり買ったものだと思ってた! いっさんが作ったものだったのね~!」

 

ぼくがその場で実演すると、スゲーとみんな驚いていた。

そして、来る1月27日の療育活動は、テディベアの工作をぼくが担当することに

なった。

 

赤オニちゃんは、ちー姉ちゃん含め特に女の子から見せて見せてと

迫られていたが、頑なに「イヤ、イヤだ」と拒み続けていたのだった。

 

この日を境に、赤オニちゃんの世界とまではいかないが、

彼女の視界は広がりを見せ始めた。

ぼくと赤オニちゃんの出会い

施設で働き始めたばかりの頃、ぼくはまだ子供たちとの信頼関係を

築けていなかった。

最初のうちはナメられるというのを上司から聞いていたが、

思ったほどでもなく。

むしろみんな、新しいオモチャが来たように興味を持って接してくれた。

ぼくは最初からかなり好印象を持たれていたように思う。

いま思うと、童顔だから他の大人よりは打ち解けやすいのかもしれない。

 

むかしから同世代受けはしないけど、お年寄り受けはすごく良くて。

お年寄り受けが良いのは微妙だなと感じていたが、

子供受けがいいのはすごくうれしい。

 

本当に受けが良い。

 

といっても、子供たちとの距離感や接し方がまったく分からなかったので、

まずはひとりで遊んでいる子と一緒に遊ぶことになったのだった。

 

それが赤オニちゃんだった。

 

いまでこそいろんな遊びをする赤オニちゃんは、

最初は人形でしか遊ばない子だった。(と言っても一ヵ月ちょっと前の話だが)

 

赤オニちゃんは30~40体は入った人形ボックスからお気に入りの人形である

佐藤さん、大山さん、そしてその他を取り、ひとりで無言で人形遊びをしていた。

そこにぼく参加。

 

そのときぼくに赤オニちゃんから与えられた人形は雪だるまだった。

他の人形を使われるのはイヤらしく、ぼくは雪だるまで一緒に遊んだ。

そのときのやりとりはなんだったかなぁ。

 

たしか~、佐藤さんは魔法使いで、大山さんは佐藤さんのお姉さん? で、

佐藤さんと大山さんは雪だるまのことがキライとかなんとかだったような。

 

ちなみに人形には、

佐藤さんと大山さんという59歳の美人(見た目は20前後で、

このふたりはレギュラーメンバー)のほかに、

リボンちゃん、ロボニャン、金山さんと銀山さんというねむネコの人形、

犬山さんがいる。

 

だれだよという感じだが、いるのだ。

名前を覚えるのに必死だったよぼかぁ。

 

それからは、あまり内容のない

(最終的に雪だるまが佐藤さんと大山さんから一方的にヒドい目に遭う)

人形遊びを毎日やっていたように思う。

 

しかし問題がひとつあった。

赤オニちゃんは、30~40体はある人形をよく独占してしまっていた。

他の子供たちが使いたいと思っても、なかなか使わしてはくれなかったのだった。

最終的にはスタッフに注意されて、貸してはいたが。

「あ、いまウソついた! 赤オニの世界つれてっちゃうぞ!」

ぼくと赤オニちゃん。

 

赤オニちゃんはちょっとバイオレンスな女の子。

暴力こそ振るわないけど、イヤなことや嫌いな人には

ノドが枯れてしまいそうな声で「キライィ!」とすぐうなる。

小学4年生。

好きな人形:ウサビッチと佐藤さんと大山さんとリボンちゃん。

好きな食べもの:おすしとハーゲンダッツ。

好きな人:いっくんらしい?(疑問形にしているが、職場の同僚はそう思っている)

 

ぼくは児童施設で働き始めてもうすぐ2か月の新人。

管理者からは仕事ができると思われており研修期間にもかかわらず

賃金を上げてもらったが、本人はただ楽しく遊んでいるだけ。

 

(一応念の為に書いておくが、ただ楽しく遊んでいると書いてはいても、

やることはやっているし、考えるべきことは考えている。

世の中には自分のことを棚に上げる口うるさいおじいさんおばあさん

がいるので、一応、一応ここに記しておく。

せっかく冗談を書いても、冗談が通じない人の為にこんなことを

書かなきゃいけないのだから、世の中ってヤダね)

 

この赤オニちゃんとぼくがいまハマっている流れが

赤オニさん。

この流れというか、赤オニさんの下りが本当に面白くて面白くて、

ぼくは大好き。一日の疲れが吹っ飛ぶ瞬間なのである。

 

たとえば人形遊びで誰かが暴力を振るったり、スカートをめくったり、

警察ごっこではぼくと赤オニちゃんにとってはもはや定番の信号ムシ

をすると、まず警察がやってくる。

そして悪い人役の赤オニちゃんかぼくが「やってません!」と言うと、

もうひとりが「あ! いまウソついた! 赤オニの世界つれてっちゃうぞ」

と言って赤オニさんの人形を持ってきて、追いかけっこがスタートするのだ!

 

(しかも、赤オニさんと呼ばれる人形は赤い背びれの恐竜)

 

最終的に赤オニの世界に連れていかれた人形は、赤オニちゃんの手で

下を抜かれる(もちろん抜くフリ)。

ただ、この前のマグネット遊びでぼくが動かしていた

シールのように薄い青年のマグネットは、下を抜かれた後、

「反省しても許しません」と赤オニさん役の赤オニちゃんに

言われ、本当に足をちぎられてしまった!

もちろんぼくは大笑いした。

やっちまったものはしょうがない。

 

ぼくは赤オニちゃんが好きで好きでたまらない。

(もちろん恋愛感情ではない)

 

この仕事で一番最初に打ち解けた子であり、

一番なつかれている子だ。

施設の子供たちはみんな、ひとりひとりが本当に愛しくて愛しくてたまらないが、

赤オニちゃんと遊んでいるときは、ことさらに、仕事を忘れるほど楽しい。

 

赤オニちゃんが一年生の頃から見守っている先輩指導員の方にも

赤オニちゃんはノドが枯れそうなうなり声で「あっち行け! キライ!」

と言うのに、入って一か月も経っていないぐらいから、

なぜかぼくは急になつかれて。

子供って、心を許すのが速すぎる!!

 

理由はまあ、思い当たると言えば思い当たるけど、

どうしてぼくなんだろう? と、

『ラベンダーさんと征服の草Ⅰ アトランティスへの不満』

を書き終えた頃と同じぐらいには疑問に思う。

 

ぼくは自分のやりたいこと、人生においての巡り合いやタイミング、

進むべき場所は、得意の霊感や直感で見抜くことができるが、

自分のそういうところはよくわからない。

(だって、要は自分の人柄がいい、徳が高い、精神的に優秀だって

認めてしまうことになるでしょ? わかる人って言ったら)

 

ここでは書き切れないので、またおいおい、

赤オニちゃんとの日々を書いていこうと思う。

 

最期にこれだけ自慢させて。

普段あんまり人に自慢したりとかしないけど、そういう年頃だから許して!

 

去年の12月下旬、いまの職場で働き始めて一か月経つか経たないかぐらいのとき、

スーパーで買い物をしていたら赤オニちゃんの生き霊? 念? が飛んできて、

「先生何やってるの~!」って抱きつかれた。

 

子供の想い、パワーってすごいと思った。驚いた。

でも、そこまで想ってくれているんだって伝わったよ。

ありがとう赤オニちゃん。大好き!

 

きみの世界がもっと広がれ!

第19輪 静寂のサンタ界

 

ビュッシュ・ド・ノエルもオススメだけど、

この店のラズベリーケーキが 最っ高に美味しいの!

 

     ――ラベンダー

 

カラフルなラズベリーケーキの写真

 

オレンジと三太とマノンの三人は、陽の光がまったく届かないほど

地下深くまでやってきた。

いまマノンは、オレンジの体から出るわずかな光を頼りに

下へ飛んでいる。

 

どこを見ても真っ暗で何も見えない。

オレンジも三太もいつどこで襲ってくるかわからない敵に

神経を張り詰めていた。

 

慣れないニワトリの体を動かすことで必死なので、

会話をしていない時に感じる気まずさをいまは感じることはなかった。

 

思い返すと、今日だけでいろんなことがあった。

(本当はそんな余裕はないんだけど、がんばるわ by マノン)

ラベンダーが帰ってきたと思い部屋に入ったら本物のサンタがいて、

サンタの現実を教えられ、学校のみんなよりも早く大人にさせられたこと。

サンタの世界がなくなったかもしれないこと。

もしかしたら人間界の危機かもしれないこと。

 

さまざまな感情がマノンの中で忙しく動きまわる。

あのサンタの言うとおり、わたしは――。

 

そこでマノンは考えるのをやめて、体を動かすことに集中した。

またふたりに自分の思っていることを読まれたら……たまらない。

いまは飛ぶことに集中しよう。

 

真っ暗闇の中、自分たちがいまどこにいるのかもわからないまま

マノンと三太はオレンジについていった。

 

どれぐらい飛んだだろうか。

やがて灰色の霧が出てきて、黒色だけの世界が灰色だけの世界に変わっていった。

 

「マイナデスアルコールの悪臭がだいぶ強くなってきた。

気分は大丈夫か?」

先頭を飛ぶオレンジが訊いてきた。

「うぇ、吐きそう」

「そんなに? わたしはちょっとだけ」

具合の悪そうな三太にマノンは顔をしかめた。

「こういうのって、人間のわたしのほうが具合が悪くなるものじゃないの?」

かわいそうなものを見る目で三太を見たオレンジは、

香りを出して三太の吐き気を抑えてあげた。

「強い弱いだけで考えたらそうかもな。

非物質界で生きているやつは敏感だから、核エネルギーや他のネガティブな

エネルギーの影響をモロに喰らっちまう。

その点、肉体を持つ人間はニブいし、いまマノンは本体が別にあるから

影響を受けにくいんだよ。

タバコの副流煙とか、100ベクレルの食べ物だと思えばいいさ」

「……それってつまり、ヤバいってことだよね? オレンジ?」

「これから世界をひとつ救おうってんだ、健康なんか気にすんな」

「お肌の問題は別よ! 肉体にも影響あったらどうしよう!?」

「これぐらいならおそらく問題ない、気にすんな」

「なんだかすごく具合が悪くなってきた、わたしも吐いちゃいそう」

「オレにかまってほしいから演技しているのか?」

「オレンジ! わかるでしょ! 本当に辛いの、香りちょうだい!」

「わかったわかった」

 

やれやれと苦笑しながらも、オレンジは自分の香りと念でベールを作り、

三太とマノンの体をそれぞれ包んであげた。

 

「真夏の紫外線を防ごうとするようなものだ。

サンタ界の中へ行けば、あまり効果は期待できないだろう」

「それでもだいぶ楽になったわ、ありがとう!」

「ぼくはまだ吐きそうなんだけど」

 

オレンジはマノンだけを視界に入れると、ふたたび翼をはためかせ、

灰色の世界を飛んでいった。

 

 

 

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灰色の霧を抜け出た先には、赤い世界が広がっていた。

マノンが霧だと思っていたのはどうやら雲のようで、

地底へ向かっていると思っていたのに上空に出たのでマノンは驚いた。

 

正直眺めがいいとは言えなかった。

 

空は雲に覆われていて、太陽が見えないのに夕焼けのように赤く染まる

不気味な世界。黒くとがった山に、高く細く響く何かの鳴き声。

ゴツゴツとした岩が目立つ荒野に人の気配はないが、

代わりに何かが潜んでいるような雰囲気がする。

 

「オレンジ、ここはゲヘナ(地獄)なの?」

「そうと言えばそうだし、そうじゃないとも言えるな。

ゲヘナの定義も人間とオレたちではちがうし。

魔界の一種でいいんじゃないか?」

「魔界……」

「よくないものの溜まり場だな」

 

「あ!」

突然声をあげた三太に驚いたマノンは、ツバが気管に入ってむせてしまった。

 「オレンジ、サンタ界だ! やっぱりあったんだよ!

消滅してなかった……みんなは生きているんだ! うぁぁぁぁぁ」

「あ、バカ、ひとりで先へ行くな!」

 

ひとり荒野を飛んでいく三太だが、オレンジには三太がいったいどこへ

向かっているのかが分からなかった。オレンジが視た限りでは

サンタ界なんてどこにも見えない。

もしや三太は、ストレスでとうとう頭がおかしくなってしまったのだろうか。

「おい! 三太、止まれ、サンタ界なんてどこにもないぞ!」

しかし三太にはオレンジの声は届かなかった。

 

三太を追いかけて飛ぶオレンジを、だいぶ遅れてマノンが追いかける。

置いてけぼりにしないで! そう叫びたくてもマノンは声が出なかった。

長時間の慣れない飛行で声も出ないほど疲れているのに、

ふたりはマノンなど眼中にないかのようにどんどん先へ行ってしまうのだ。

それもこんな得体の知れない世界で。

 

マノンは泣きたくなった。怖いと思った。

とりあえず、無我夢中で必死に翼を動かし、飛んだ。

 

マノンがふたりに追いついたとき、オレンジと三太は言い争いをしていた。

オレンジは怒鳴った。

「おい! ひとりで行動するんじゃねえ! 

公式ガイドブックにも乗ってねえ未確認の世界だぞ」

「なに言ってるんだよ! あそこにあるのがサンタ界だよ! 見えないの!?」

 

マノンはもうこのふたりと一緒にいるのがイヤになった。

「ねえ、サンタ界ってどこ?」

「ほら、マノンだって見えない! オレにだって視えないぞ」

「あ……ごめん、伝えるの忘れてた。

たぶんね、いまは緊急時用の結界が作動していて、サンタ以外には視えないように

なっているのだ。ちょっと待ってて」

「早くそれを言えよ」

「ごめん⤴、忘れてたの!」

 

息を深く胸に入れると、三太は軽やかな声で歌いはじめた。

 

「いい子のために。いい子のために。

出てこい出てこい靴下の中、私にくれた贈り物。

いつかあなたが来なくとも、だれかにあげられますように。

わたしがあなたになるように

『迷い仔の目印』の名において命ず――姿を見せろ」

 

キィンと、耳の奥から響いているように感じるほど高い音が鳴る。

オレンジとマノンは目を疑った。

殺風景な荒地の中、自分たちの眼下にいきなり

西洋風の城と雪で白く染まった森が出現したからだ。

マノンはとても驚いた。

霊感が強いこともあり、普通の人が経験しないようなことはいつも体験しているが

――現にこうして幽体離脱して、オレンジの精霊とサンタと一緒にいるし――

 世界がひとつ目の前に現れるというのは、

人間界では決して味わうことのないマジックショーを見ているようで、

一瞬感動しそうになった。

ただ、残念なことにサンタ界は怖くて不気味な城と森だったので、

呪われた遊園地がいきなり目の前に現れたように感じて、ショックだった。

 

イメージとちがう、早く帰りたい、頑張って救わなきゃ、めんどくさい、

サンタの世界って不気味だなとマノンは思った。

どうしてサンタは人の夢を壊すんだろう? とマノンは思った。

 

すると、まるでマノンの心を読んだかのように三太が答えた。

「ぼくは君の心を読んでいないけど、なんて考えているかはわかるよ。

誤解しないでね、次元の高い場所から低い場所に堕ちたから、

風景が少し変わっているんだよ。本当はもっといいところだから」

 

「三太……おまえは正しかった。サンタ界はあったんだな」

「うん」

「サンタ界が堕ちた原因はこのマイナデスアルコールで間違いないだろう。

そして、至上主義者が絡んでいる可能性も大きい。

だとしたら――」

 

三太とマノンはオレンジを見た。

 

「他の世界とゼンマイ仕掛けの騎士団に救援を要請しよう」

「ヤダだ」

「!? 何言ってるんだ、こんな状況なんだぞ!」

「こんな状況だからこそだよ。

誰が根で至上主義者と繋がっているかわからない以上、

内部に入り込まれてうっかり情報を盗まれでもしたら大変だ!

それこそやつらの思うつぼ!」

 

オレンジは頭を悩ませているようだった。

三太の言っていることは正しい。

だが、世界が丸ごと低次元まで落とされるという非常事態なのに、

そんな悠長なことを言っている場合なのだろうか。

そもそも、堕ちた世界って、元の次元の場所に戻せるのだろうか?

 

オレンジが黙ったことをいいことに、三太は気分をよくしていた。

「形はけっこう変わったけど、サンタ界がなくなってないんだから、

きっとみんなも無事だよ。救援なんかなくても――あ! ほら!!」

三太の視線の先では、赤い服を着たサンタが森の中を歩いていた。

仲間を見つけて喜んだ三太はハヤブサらしく

最初からダッシュで飛んでいるようなスピードで羽ばたいて行ってしまった。

 

オレンジは少しだけ安心した。

危険だと思ったのは自分の思い過ごしかも知れない。

三太の言うとおり、サンタは地球人類の未来と関わる精霊だ。

世界機密が下手に漏れてしまえばそれこそ危ない。

非常事態ではあるものの、サンタ界は存続していたし、こうしていまサンタの生存も

確認できた。三太だってバカではない。

あとはサンタ界の代表と各世界の代表がバランスを取り合うだろう。

 

どっちにしろ礼名契約を結んだ時点で、自分には救援要請が難しい。

訳も言わずにとにかく来てくれと電話したって、誰も来ないだろう。

もしかしたらジジイなら、信用してくれるかもしれないが……。

だが、やめておこう。サンタ界は大丈夫そうだ。あとの判断はサンタ共に任せよう。

 

オレンジは三太を見た。

十数名ほどのサンタの集団に、子供の姿に戻った三太が

元気よく飛びこんで話しかけている。

つい数時間前まで、跡形もなく消滅しちまったと思ってたんだもんな。

それでも現実を受け入れられずにあるあると騒いたりして。

オレンジには、三太のことがかわいく思えてきていた。

仲間にふたたび会うことができて、三太は本当に嬉しそうだ。

 

 「ねえオレンジ」

後ろからマノンに声をかけられ、オレンジはふりむいた。

「オレンジはサンタ界って行ったことあるの?」

「いや、ないな。観光できる場所もあるが、

サンタ界は他の世界と比べても、特に警備が厳しいんだ。

用事もないのにそうそう行ける場所じゃない」

「へ~、本当はどんなところなんだろう?」

「行ってみたいのか?」

「だって、ワクワクしない? あの風景見た時は、

ラベンダーから聞いたイメージとかなり違うからビックリしちゃったけど、

もっとステキな場所なんでしょ?」

「もし時間ができたら、今度連れてってやろうか?」

「ほんとに!? ありがとう!!」

ニワトリ姿のまま抱きついてくるマノンにコンゴウインコは困ってしまった。

ニワトリのふさもふ感が、心を満たしてくる。

オレンジは心がムズがゆくなるのを感じながら「ほら、暑いから離れろ」と言った。

「でもさ~あ、高い次元から低い次元に来ると、形ってなんで変わるの?」

「ああ、それはな、高い次元にあった物質が低い次元に来ると、

性質が変わったり、存在できなくなったりするからだ。おおざっぱに言えばな」

「へ~! でもわたしたちは変わらないのにね、不思議」

「それは……」

オレンジの思考の中に何かが芽生えた。

タバコのようにもやっとしていて、うまく形にならない不快な気持ち。

「オレが香りでおまえらの体を包んで守っているからな――!」

サンタ界は、本で見た景色とはかなり違う。

ホラーゲームに出てくるような不気味な雰囲気だ。

まるで閉鎖した呪われた遊園地みたいだった。

サンタ界自体の周波数が下がってこの次元にいるんだから、

じゃあ――中にいるヒトは……?

 

「嫌な予感がする」

 

オレンジが三太のほうを振り向いたとき、三太は襲われていた。

「うぁぁぁあぁぁああ!!?」

第18輪 サンタ界の落下地点

本当にラヴァンドゥラをやるのか? 顔色悪いぞ、大丈夫か? 

 

         ――三太(『――が悪の華』より抜粋)

 

ハロウィンの女性の写真

 

「待たせたな三太」

「遅いぞオレンジ!」

「おいおい、こっちはマノンを連れているんだぞ!」

 

反対を見れば熱帯気候の暑い空気がゆがめた背の高い木々。

もう片方を見れば、ほとんど水しぶきで下の川が見えなくなった滝。

長い半円状の滝はかなり高い所から落ちており、もくもくと宙へ舞い上がる水しぶき

がこちらまで飛んでくる。

 

「それにしてもどうしてそんなにびしょ濡れなんだ?」

「べつにいいだろ」と三太は慌てて答えた。

「なるほど、つまりこういうことか、オレが渡したアドレスのことを忘れて

あの豪雨の中を探していたな?」

「うるさい、帰れ!」

「あ、わかった、もう帰る」

「戻ってこい! サンタ界を救え!!」

「ワガママか!」

「うるさい!」

 

オレと三太のやりとりを見てあきれているマノンに、オレは

話しかける。

「マノン、サンタ界に一緒に行くか?」

「え?」

 

そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。

マノンはデメキンみたいな目でこちらを見てくる。

正直、その顔はかわいいとは思えないな。

「足手まといだけど、ぼくもそのほうがいいと思う」

三太の言葉に一瞬すごい顔を見せたマノンは、

なんとか感情を押さえてオレに訊いてきた。

 

(具体的にどういう顔かというと、目をグレイのように大きく開き、

レプティリアンのようにぎょろつかせ、今にも飛び掛かりそうだった。

女は怒らせるべきじゃない by オレンジ)

 

「どうして? 危ないからダメなんじゃないの?」

「相当危険だから、本当は帰ってほしいと思っている。

だがマノン、おまえをひとりで元の人間界に帰らすほうがいまは危険なんだ」

「どうして?」

「サンタ界の状況がわからない以上、サンタ界を見つける時間を長引かせるのは、

得策じゃない。だからオレたちはおまえにひとりで帰ってほしいんだが、

サンタ界を陥れたやつ、あるいはその仲間に人質に取られる可能性がある。

いざというとき、オレたちはおまえを見捨てなければならない」

「……」

「危ないって最初に言われただろ?」

「うん」

「おまえに拒否権はないが、

オレは紳士だから、一応おまえの顔を立てることにするよ。

オレと一緒にサンタ界へ来るか?」

 

赤い髪の未熟な小娘は、自分の無力さゆえ恥ずかしいのか、

ただ単純にうれしいのか、顔を赤らめながら、うんとうなずいた。

 

「わたし、一緒に行く。覚悟を決めるわ。

世界を救うって、そういうことよね。

女の子をやめるわ! 女になる!」

 

きょとんとしたオレと三太は互いに顔を見合わせながら、

大笑いした。

「なんで笑うのよ!!」

 

ノドが潰れそうな声でうなるマノンは不服そうだ。

将来こいつは、どんな花を咲かせるんだろうな――っと。

そういや人間だったな。惜しい逸材だ。

 

ふたたびコンゴウインコとハヤブサ、ニワトリに変身したオレたちは

この世界の出口を探してレイラインにもどることにしたが、

その途中で恐ろしい光景を目の当たりにすることになった。

 

最初オレたちは、付近で一番大きな遺跡へ向かって飛んでいた。

「オレンジ、ここはどういう世界だと思う?」三太が訊いてきた。

「そうだな、パラレルワールドか異世界だろうな。地球であることは確かだが、

地域まではわからない」

「遺跡があるってことは、原住民もいるのかな?」

次はマノンが訊いてくる。

あいかわらず翼がよれたニワトリの格好で、飛ぶのに苦労している。

やれやれ、これじゃあ、レイラインを飛んでいるうちに溶けて転生ルートだな。

マノンは次は何に生まれ変わるんだろうな?

一旦ガトフォセ家にもどってマノンを置いてきたほうが早いか?

 

時間は惜しい。

オレたちの未来も、人間界の未来も、なかなかにして不安定だ。

 

「それもわからない。あたりから人の気配を感じないからな。

ひょっとすると、すでに滅んじまったりしてな」

 

オレはイジワルに翼をひらひらさせ、笑いながら後ろのマノンを見た。

マノンは予想通り怒った顔になって目を背けた。

 

「あっはっはっはっは!」

「枯れちまえ!」

「うわ、ひどい、オレはただ、人間さまが滅んじまったって言っただけなのに」

「うるせー!」

「ま、日頃の行いが悪いから、浄化されちまったんだろうなぁ」

「死ね!! 枯れちまえ!! アンタなんかダイッキライ!!!!!」

 

ちょっとふざけただけじゃん、人間はすぐ泣くからイヤだ。

オレたちがおまえらから受けた痛みに比べたら、蚊に刺されたぐらいじゃん。

人間はおおげさ。オーバーリアクション。

 

「オレンジ!!」

三太が声を荒げている。

なんだよ、世界の危機でも、女の子といちゃいちゃするぐらい

べつにいいだろ。緊張のしすぎはパフォーマンスの低下を招くんだぞ!

わかってるのか三太!

小さなこどもサンタに逆に注意してやろうと思ったが、

三太はどうやら、ふざけている場合じゃないと注意してきたのではなかった。

心を読んだ限りでは、どちらかというとマノンが泣いて、清々しているようだった。

こんなふたりとパーティーを組まなければいけないとは、

マノンの人生は少しだけハードモードらしいな。

 

(能力のある人間の人生は、少しだけハードモードに設定されているらしい。

以前会った輪廻転生システム技術担当者から聞いたことがある。

それを乗り越えることで成功を得るとか得ないとか。

……正直なところ眠かったからあまり聞いてなかった。

悪いな。オレはいつも仕事で疲れてるんだ。寝れるときには寝たい。

人間が輪廻転生する仕組みを夢の中で見学に行ったこともあったが、

起きたら全部忘れた。寝ている時まで仕事なんて、バカらしいだろ?

なんで上の次元にわざわざ出向いて、勉強しないといけないんだか。

睡眠中ぐらい休ませてくれよ。

あ――ちなみにオレさまの人生は、宇宙レベルでメジャーリーグに行けるぐらい

過酷って、上の次元のヒトに言われた……いますぐ転生しようかなぁ by オレンジ)

 

「あれ!? あれ!!? あれェ!!」

「うるさいぞ三太、なん――」

 

だと…………

 

目的の遺跡はあった。あそこに出口のレイラインが流れている。

問題はその裏だ。

遺跡のちょうど後ろから、見える範囲すべての土地が、無くなっている。

まるで崖のように深い闇に覆われているが、問題は規模のでかさだ。

左から右まで、見える範囲すべてがぴったり遺跡の後ろからなくなっている。

 

……。

 

穴が、穴が開いているなんてレベルじゃない。

海だ。黒い海のように見渡す限り、何もない。

 

「なんだこりゃ」

 

オレの胸に思いっきり恐怖が押し寄せてきた。

しかし、オレさまはなんてったってオレンジの精霊だ。

そんなもんは効かない。

通常ならここで、読者が身をよじるような恐ろしい心情描写を

いっくんが書くだろうが――原発、原子爆弾、魔女狩り、黒死病、世界大戦、

銀河大戦、ニンゲンに対する神霊たちの不満級のストレスを読者に

ぶちかますだろうが、オレンジさまには恐怖はあまり効かないのだ。

昼ドラ大好きな諸君、残念だったな。

ラベンダーとか、ペパーのばあちゃんとか、他の精霊に期待してくれ。

 

 「どんな自然現象があったらこうなるんだよ!?」

あまりの光景に三太がパニック状態になりかけている。

 

マノンに関しては、声すら出せないほど頭が真っ白になっている。

 

オレは香りをふりまいて三太とマノンを落ち着かせると、言った。

「サンタ界だ」

 

ふたりはオレの顔をじっと見た。

「いま霊視したが、マイナデスアルコールがただよっている。

偶然にも、オレたちはサンタ界が落ちたルートを発見したわけだ」

 

そこで言葉を切り、マノンを見つめた。まだ涙を流している。

「ありがとうマノン。偶然だが、おまえのおかげでサンタ界の

行き先がはっきりわかった。おまえが来てくれて、良かった。

ありがとう」

マノンとオレは見つめ合った。

 

「いや、マイナデスアルコールの匂いをたどっていれば、

すぐわかったことじゃん」

三太はしれっと言った。

 

このガキっ……!

せっかくオレが、泣いてしまったマノンをなんとかしようとしていたのに!!

まったく余計なことを……!

そんなことはオレだってわかっている!

だが、言い方を変えればマノンを慰められるだろうが!!

女心がわからんのかい!!

 

「三太、いまおまえに対してマノンがなんて思っているか、教えてやろうか?」

「死ねばいいのに! でしょ?」

「ふたりとも、ヒトの心を勝手に読まないで!」

「すまんがマノン、オレたちは霊なんだ! 

頑張らない限り、心の情報が入ってくる」

「がんばれよ!」

「めんどうくさい」

「わたしには読めないもん!」

「そりゃだって、閉心術を使っているからな」

「なにそれ! ずるい!」

「ラベンダーに教えてもらえよ!」

「いけないことだってさっき怒ったじゃない!」

 

「ねえケンカしてないで急いでよ!! 

サンタが全滅したらおまえら全生恨むからな! この先何に生まれ変わっても!」

 

三太の言葉に我に返ったオレたちは、全速力――とはいかなかったが、

それなりの速度で降下していった。マノンがいるせいであまり急げない。

 

さあ、次回はいよいよサンタ界突入か?

サンタ共、全滅してないといいがな。

もしそうだったら、これから霊能力者にサンタはいるのかと質問されたとき、

ちょっと前に滅んだって答えなくちゃならない。

第17輪 地球人類総合支援法

やったぁぁぁぁ! ねえ、いま見た!? ねえラベンダー!

 

           ――マノン・ガトフォセ

 

 

 

YHAAAAAAAAAA ニンゲン、ニンゲン、死ねニンゲン

                ――ラヴァーレ

 

オリエント・アロマ・アカデミー文化祭、および 

富士神界――シルバーフォックス賞受賞式にて

 

ライブ会場で盛り上がる観客

 

「やっぱりラベンダーか」

 

洞窟で休んでいたマノンは、突然のオレンジの一言に息を止めた。

洞窟に戻ってからというものオレンジは、マノンのことを褒めてばかりいた。

マノンもただ純粋に、自分のことを褒めてくるオレンジに気を良くしていた。

 

「まさかここまで来ることができるとはな。幽体離脱か?」

「うん」

「マノン……おまえの年齢でそこまでできるやつは人類史の――……

いや、第七文明の中でも何百人かだぞ」

「それってすごいの?」

「すごいことだ。マノン、おまえはまちがいなく天才だ。

上の次元に来るだけでなく、変身までできる。そんな人間他にいるか?」

「えっへっへっへ」

「だが、変身が甘いな。あのニワトリはトサカや翼が変だった。

よくあんな姿でオレたちを追えたな。ちゃんと変身できれば、

オレの攻撃も避けられただろうに」

「しょうがないでしょ、まだ練習して数年よ。できるわけないわ」

 

オレンジはにやりとした。

 

「だが、霊視こそしなかったが、ひと目見てもおまえだとわからなかった。

そこはグッドだ」

「すごい?」

「すごい」

「うへへ」

「念力の解除のやり方や幽体離脱はどれぐらい練習してるんだ?

だれかに教わったのか?」

「……全部独学よ。お風呂に入っているときや眠たいとき、

頭に情報が流れてきて、こうしたらこういうことができるって、

なんとなく教えてくれるの」

「やっぱりラベンダーか」

「ちがうわ!」

「ラベンダーは、心の防御の仕方までは教えてくれなかったようだな」

「!? わたしの心を読んだのね、ズルいわ!」

「べつにズルくはない」

 

マノンは悲しい気持ちになった。

オレンジが褒めてくれたことが、本当にうれしかったからだ。

だが、嘘だった。ラベンダーとわたしの秘密を暴くために言っていたのだ。

 

「わたしをおだてて情報を引き出そうとしなくたって、

最初から心を読めばいいことだわ!」

「オレは、おまえの心を読んではいないよ」

「ウソ!」

「ああ、ウソだ。カマをかけただけだ。

あとはおまえが教えてくれた」

「あ――!?」

 

しまったという顔をしたマノンの胸に、

オレンジに裏切られた想いがこみあげてくる。

マノンは幼いころからラベンダーに指導してもらい霊能力の特訓に

励んでいたが、それはだれかを守るためだ。決して悪用するためではない。

精霊に霊能力を指導してもらうことが、

地球人類総合支援法に違反することもラベンダーに聞かされて知っていた。

 

「ラベンダーがおまえに霊能力の稽古をつけていることは、

地球人類総合支援法違反だ。むやみやたらに個人の霊能力を伸ばしてはいけない」

「どうする気?」

「……本部に報告する」

「ラベンダーはどうなるの?」

「上が決めることだ。オレにはわからない」

 

沈黙が訪れる。ただ聞こえるのは、激しい雨の音だけだ。

 

マノンは不満と怒りでいっぱいになりながら思った。

ラベンダーは地球の状況や歴史も教えてくれたわ!

それなのに、その変な法律を守れっていうの? 

こんな戦争だらけの星で自分やだれかをどうやって守れって言うの!?

 

「まってオレンジ、わたしが頼んだことなの、もっと自分の能力を伸ばしたいって。

ラベンダーは悪くないわ」

「マノン。どうして人間に霊能力を指導したらいけないかわかるか?」

「さぁ? 人間が嫌いだから?」

「ちがう。理由は挙げればキリがないが、人間はこの地球の管理者という

立場にある。いまはまだ発展途上人類として分類されているが、

やがてはこの星の代表になっていくんだ。

 

(いまは代表だなんてとてもとても……。

なんか虫ケラがいるなぁぐらいに思われているだろうな。

なので地球外部との交渉はアロマ連合、富士神界などが主に請け負っている

by オレンジ)

 

そのためには、介入しすぎてはいけないんだ!

自分たちの頭で考えて、自分たちの足で行きたい場所へ行き、その手で

夢をつかみ取らなければならない。

オレたちは間接的にいろいろ支援をするが、直接的な支援は基本NGだ。

いろいろと計画や、進行具合というものがある」

 

オレンジはいったん言葉を切り、マノンの青い瞳を見つめた。

炎のように危なげに見える赤い髪とは対照的に、水のように透きとおっている。

オレンジはマノンの心拍数、周波数、表情のひとつひとつを精査すると、続けた。

 

「それに、だれかれ構わず霊能力を伸ばすと、能力者と一般人で

戦争が始まることがわかっている。いずれその時代はやって来る予定だが、

人類の反抗期のいま、その戦争を起こしてはマズい。

だから地球人類総合支援法で厳しく取り締まられているんだ」

 

マノンはまぶたをゆっくり閉じた。

自分の息の音が聞こえる。オレンジの暖かい香りが好き。

オレンジの言っていることはきっと正しい。 

どうしていけないことなのかが理解できたし、事の重大さも

想像しやすく説明してくれた。

ラベンダーがしてくれた地球人類総合支援法の説明も似たような説明だった

と思うが、オレンジのほうがより詳しい。

本当はこういう法律があるということも、教えてはいけないことなのではないか

とマノンは直感的に思った。実際のところどうかはわからないが、

それでも詳しく教えてくれたオレンジには、とても誠意を感じた。

それに、心を読めばわかることなのに、わざわざわたしを騙すなんて

手間のかかることまでしてくれた。

その行為に納得はしていないが、それでもやっぱり誠意は感じる。

謝りたい。

オレンジの説教をしている目は、怒っていて気まずいが。

 

「……ご――」

 

マノンが何か言いかけたとき――耳が震えて心臓が悲鳴をあげた。

 

突然音楽が鳴り出したからだ。

洞窟内に響き渡る大音量の楽器とラベンダーの声に

マノンの胸の鼓動もドラムのように鳴り止まない。

びっくりした。

このロックな曲は聞いたことがある。

ラベンダーが昔やっていたケメティック・ウーマンというバンドの、

「アトラス・パンチ」という曲だ。

 

オレンジはポケットからスマートフォンを取り出した。

「おう、遅かったな三太。……そういえば雨も止んできたな。

洞窟で休んでいる。わかった、じゃあな」

 

そう言ってスマートフォンと呼ばれる機械をポケットにしまうと、

オレンジはマノンに言った。

「これからレイラインへ行く。三太と合流だ」

第16輪 豪雨の中で

オレンジはどこだ?

 

             ――三太

 

雨の中を飛ぶ鳥

 

オレンジは、体をかたむけ落ちていくニワトリの姿を見た。

「マズい!」

翼を下に向け急いで後を追うオレンジ。

後ろにいる三太に「マノンだ!」と状況を伝え、追いかけてゆく。

「オレンジ、止まれ!」

 

目の前を〈ドコドコさん〉が通り、オレンジの体が硬直する。

「――!!?」

 

しかし誰かが作った工作だとわかると、

オレンジは怒りのままに拳をにぎり爆破した。

 

マイナデスアルコールが反応して爆発する恐れがないとは言えなかったが、

この空間ではマイナデスアルコールの量はさっきの元サンタ界よりも

少ないとわかっていたので、オレンジは多少の躊躇をしながらも力を出した。

 

誰が捨てたのかわからないが、作り物の〈ドコドコさん〉に

時間を取られたオレンジはマノンを見失いかける。

「どこだ!?」

ようやく遠くに小さなニワトリを見つけたオレンジは、

レイラインを流れる物質に行く手を阻まれつつも、

徐々に距離を縮めていき――

 

「マノン!」

 

翼を伸ばしてマノンの体を――

 

確実に捕まえられる、そうオレンジが思ったとき。

 

オレンジの翼はかすった。急にマノンの体がオレンジの手をよけたのだ。

オレンジは吸引力が強くなったのを感じた。

マノンと自分の体が世界にひっぱられている。

視界がぶれ、円を描いているような、巨大な光が近づいてきた。

 

体を世界にひっぱられながら、なんとかマノンの体を捕まえると、

念力を使って後ろに思いっきり小さな箱を投げた。

とうとう白い光がふたりの体を包んだとき、

マノンを抱きこみオレンジは衝撃に備えていた。

 

 *:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ

 

一文字の光が見えるとマノンは目を覚ました。

雷の轟音が鳴り、ビクっと体を震わす。

 

豪雨の音を聞きながら、天井の棒状に垂れ下がっている岩を見つめていると

声をかけられた。

「起きたか?」顔を向けるとオレンジがいた。

 

あわいベージュのジャケットを着ており、首元のボアが暖かそうだ。

下にはデニムパンツを履いている。

「どうして洞窟に?」

言いながらマノンは段々と意識がはっきりしてきて、何があったか思いだした。

 

「オレンジ!」

 

洞窟の奥へ一歩後ずさりするマノンに、オレンジはニヤついた。

「調子はどうだ? 気分はすぐれないようだな」

「! わたしだってわかってたんじゃないの!?」

かすれたうなり声が洞窟にこだました。

ホオジロザメのように凶悪な歯がズラリと並んだコンゴウインコに

食べられた恐怖がよみがえり、マノンはオレンジを責めたてた。

「わたしがいなくなれば、オレンジはラベンダーとずっと一緒に

いられるもんね!!」

 

攻撃的に言い放つマノンにオレンジは一瞬顔を引きつらせる。

 

「オレがわかってて攻撃したっていうのか?

オレがマノンに?」

「――……」マノンは何か言いかけたが、口を半開きにしたまま黙った。

顔には後悔の色が浮かんでいた。

「おまえはオレがラベンダーと一緒にいたいから、

あの変なニワトリをマノンだと知りつつも襲ったと言いたいわけだ!

おまえにとってオレは――つまり、オレはおまえにとって、

そういうことをするヤツだと思われているわけだ!」

「ごめなさい」

マノンの顔が赤点のテスト用紙のようにくしゃくしゃになりかけていたが、

オレンジはかまわず怒りに身を任せた。

「オレはおまえのことを買いかぶっていたらしい。

人間にしては賢いと思っていた。だが、やっぱりただの14歳だ。子供だ。

サンタ界の安否が定かでない状況で、行方を探していて

後ろから誰かにつけられていたら、サンタ界を陥れた犯人だと思うのが普通だろう。

相当な手練れだ。勝てる見込みがない。

それなのに、こっちは手負いのサンタとアロマ連合の下っ端ひとり!

一瞬でもスキを作れば命取りなのに、それでもおまえは――

 

霊視にエネルギーを割いて、

あのニワトリをおまえと判断すればよかったと言うのか?」

 

空気が悲しくふるえた。

「わた、し、がっ、バカ、でした。ごめんなっさい」

 

「そもそも、オレはおまえがここにいること自体がおどろきだ。

三太に言われたことを覚えていないのか?

才能のある霊能力者は自信過剰だと三太が言っていたが、本当だな」

 

「……」

 

「いい勉強になったんじゃないか。

オレたちはおまえたち人間のためにがんばってんだ。

人間は自分のことだけ、目の前の人生だけ考えていればいい。

ジャマしないでくれ。雨が止んだら帰れよ、じゃあな」

 

「ま、まってっ」

 

洞窟から雨の中へ消えたオレンジを追い、マノンも洞窟を出たが……

滝のような豪雨に、数歩先すら見えない……

息をするのも苦しく、激しい水が、全身から出た鼻水と涙のようにマノンは感じた。

取り返しのつかないことをしてしまった。

 

どうしてオレンジにあんなことを言ってしまったんだろう。

オレンジに襲われたとき、本当に怖かった。体が動かなくて死ぬかと思った。

でも、だからといって……。わたしはひどいことを言ってしまった。

なんてバカなんだろう。

あのサンタの言うとおり、家でおとなしくしていればよかったのに、

どうして出てきてしまったんだろう。

霊体の傷だって治っている。オレンジが治してくれたのに……

オレンジに謝りたいと思っても、もうオレンジはいない。

どうやって帰ればいいんだろうとマノンが思ったとき、

ふたたび彼女を恐怖が襲った。

 

自分が住んでいる世界とは明らかに空気がちがうとわかる。

魂がそう感じている。

異世界? 異次元? ここはどこ? どうすれば帰れるの?

 

途方に暮れてしばらく立ち尽くしていると、背後に何かの気配を感じた。

雨が急に止んだと思ったら――

ガッと肩をつかまれる!

 

「キャァアアァ!?」

「ふっははは、おどろいてやんの」

 

そこにいたのはオレンジだった。

「反省したか?」

「――!?」

 

言葉を失ったマノンは瞬時に理解した。三次元を超えてから一番早い速度で。

「だましたのね!」

「怒っている割には安心してる。心は正直なようだ」

「この女ったらし!」

「そんなこと言っていいのか?

――どうしてオレンジにあんなことを言ってしまったんだろう。

オレンジに襲われたとき、本当に怖かった。体が動かなくて死ぬかと思った」

「わあああ!」

「でも、だからといって……。わたしはひどいことを言ってしまった。

なんてバカなんだろう」

「やめて!」

「あのサンタの言うとおり、家でおとなしくしていればよかったのに、

どうして出てきてしまったんだろう」

「もうっ、どうしてそういうイジワルするの!?

人の心を読まないで!」

「ふっははははは、けっこう似てんだろ?」

「似てない! このっ、このっ、このっ、このっ!」

 

バシバシとオレンジの胸を叩くマノンの顔は怒っていたが、

うれしそうにも見えた。

 

ふと胸を叩く手を止めたマノンは、にやりと笑顔になった。

オレンジがいぶかしむと。

「そうやってからかうのなら、わたしにも考えがあるわ」

「考えって?」

「ラベンダーに、オレンジが部屋に勝手に入ってたって言う」

「おい、マジでやめろ! さっきのはだな、オレなりの気づかいだよ。

オレだって感情的になってたし、言いすぎた。気まずいのはイヤだと思ったんだよ」

「わかってるよ。オーレ。反省してる。

ラベンダーには言わないし、帰るよ」

 

オレンジの顔が強張ったのを見て、マノンは不安になった。

「実はだな……オレもわからないんだ」

「は?」

「オレたちがこの世界に出たときのレイラインは、流れが速すぎて利用できない。

この世界への入り口としてしか機能していないから、他に出口を探すしかない」

「じゃあ、大変ね」

マノンの顔はなんともいえないものになっていた。

 

オレンジとマノンはオレンジ色のうすい膜に包まれており、

その膜のおかげで豪雨もしのげていたし、中は暖かかった。

 

「とりあえず、雨が止むまで洞窟にいようぜ」

ベイダー卿はやっぱりカッコよかった!

スターウォーズのローグワンを観たよ!

去年エピソード7が公開したばかりなのに、まさかもう公開とは……。

スターウォーズのエピソード7以降はベイダー卿は出ないのかなぁ。

アニメ版のスターウォーズで、エピソード1でオビワンに体を切断された

ダースモールが生きてて、しかも兄弟と一緒に出てきたからビックリ!!

だからもしかしたらベイダー様も出てきたらいいな、なんて淡い期待を

抱いている私。でも可能性は低いだろうなぁ。

新しい映画に出ないから今回、エピソード3と4の間の物語である

ローグワンでダースベイダーが出たんだろうし。

 

「次は息切れなど起こさぬよう、気をつけることだな長官」

 

野心をむき出しに、自分の功績を皇帝に報告するようベイダー卿に申し入れる

クレニック長官。

 

私は思ったよ。

バカヤロウ! せっかくベイダー様が去ろうとしているのに

なんちゅうこと言うんだ!

そこの下に落とされんぞ!

ほら、立ち止まっちゃったじゃねえか!

 

しかしベイダー様は静止している。

ふと自分のノドに違和感を感じたクレニック長官。

どうも息ができなくなり、膝をついてしまう。

そしてベイダー様は振り返り、言ったのだ。

「次は息切れなど起こさぬよう、気をつけることだな長官」

 

カッコイイ!!

 

今回は反乱軍と帝国の戦いなので、残念ながらジェダイのライトセイバー

をヴゥンヴゥン振り回すシーンは見られなかった。しかし!

 

ベイダー様の魅力が爆発的に織り込まれているので、

(ボリュームは少ないけど)

全世界のベイダーファンには、ぜひとも観て頂きたい。

 

ありきたりな言葉だけれど、よかったよ!

 

映画の最後、デススターの設計図を奪い返すために

戦艦に乗り込んだベイダー様……。

 

フォースグリップで天井に乗組員を押しつけたり、

武器をすべてフォースで取り上げて無力化した挙句、容赦なくライトセイバーで

切断してゆく。

 

アニー……。

 

あの狭い通路の中で、動かなくなった自動扉を背後に迫りくるベイダー卿は

すごい恐怖ですよ。

 

どんまい乗組員……。

 

それにしてもターキン総督とレイア姫の再現がすごかった。

あれは演じている人は別の人なんだけど、顔をすり替えているんだって。

当時ターキン総督、レイア姫を演じていた人も、まさかこの2016年に、

スターウォーズでターキン総督、レイア姫が出てくるとは思うまい。

映画の技術も日進月歩ですな。

100年後の映画はどんなものになっているんだろう?

すごい気になるけど、生きていないな~。

 

スターウォーズのエピソード4,5,6のリメイクが

公開されてたりして!!

それは生きているうちに観たいな!!

私が還暦を迎える頃には、ぜひ!

 

 

第15輪 レイラインの追手

なあラフ、霊が通るからレイラインってのはどうかな?

 

              ――『黄金のリンゴ』

 

コンゴウインコの写真

 

「おれを襲ったやつは、どんなやつだった?」

「一瞬のことだったからよく見えなかった」

「使えねー」

「うるせーよ」

 

サンタは子供の姿になっているせいか、大人の時より無邪気で素直になっていた。

さっきまで来ていたスーツとはちがい、いまは赤いサンタ服を着ている。

 

「サンタ、おまえが寝ている間にいろいろわかったことがある。

サンタ界はおまえの言うとおり、まだあるかもしれないぞ」

「どうしたの?」

「マイナデスアルコールは知っているだろう?」

「もしかして、爆弾でサンタ界を異次元かどこかへ吹き飛ばしたって

言いたいの?」

「そうだ。爆弾かどうかは知らないが、

マイナデスアルコールは周波数を下げる特性がある。

たとえばだが、それでサンタ界そのものの周波数を下げて

ここの空間と共鳴しなくなれば……どうなる?」

「サンタ界だけ堕ちていく……!」

 

サンタはオレの推測に驚いた表情になり、

今度は喜びと疑いが混ざったような顔になった。

 

「サンタ界がまだ、あるかもしれない……。

けど、世界だよ? 世界そのものの周波数を下げることなんて可能なの?

っていうかそれで世界って移動すんの?」

 

「おまえの意見はごもっともだ。だが見ろ。

爆弾で世界を丸ごと破壊したとしても、サンタ界の残骸は残るだろ?

だが、空間が丸ごとなくなっている……。

爆弾で世界を破壊できるかというのは別として、

爆破して、跡形もなく空間ごとここまできれいに破壊できるとは思えない。

周波数が下がって、この次元から下へ落下したと考えたほうが妥当だろ?」

「……」

「だから、おまえの言うとおりサンタ界は、まだあるかもしれない」

「……」

 

子供サンタは目に涙を浮かべて黙っていた。

今まではなんの根拠もなくただ自分の気持ちだけでサンタ界がある、

あって欲しいと妄信している様子だったが、

オレさまの実に具体的な推理を聞いて、

なんとも言えない気持ちになったらしい。

 

「オレンジ、ごめん」

「どうした?」

「きみにはひどいことをいっぱい、言ってしまった」

「気にするな、オレはただ、おまえと契約を結んだから手伝っているだけだ。

謝る必要はない」

「それでも、おれはきみがいなかったら、考えなしにサンタ界を探していただろう。

そもそも、オレンジはどうしてラベンダーの部屋に?」

「週刊〈ドコドコ〉を読むため」

「あれまだ書いてるの!?」

「知ってるのか!?」

「中世の頃にクリスマスプレゼントでもらったことがあるんだ。

あれは出版するしないの話もあったんだけど、諸事情で流れたんだよ。

……まだ書いてたんだ」

「おまえ、ラベンダーの彼氏なのか?」

「ふふ、そんなわけないじゃん。

おれはてっきり、オレンジがラベンダーと付き合ってるのかと思ってた。

それかストーカーだと」

「よせよ。おまえだってマノンからラベンダーのタオルをもらった時、

嬉しそうにしてたくせに」

「やめて」

「ヒュゥゥゥゥ」

「やめろって」

「あっははは」

 

オレはこの時はじめて、三太と心から打ち解けられたのかもしれない。

最初こそ木に喰わないやつだと思っていたが、

根は案外おもしろく、いいやつだ。

 

からかわれて顔を赤くしている小僧にオレは言う。

「三太、サンタ界を探すぞ」

「でも……どうやって? 周波数が下がって堕ちたからって、

単純にこの空間の下へ飛んでいけばいいってわけじゃないでしょ」

「おまえ、オレをなんの精霊だと思ってるんだ?」

「植物――あ!」

「そう。匂いには敏感だ。

マイナデスアルコールでどこかに堕ちたなら、

サンタ界自体にマイナデスアルコールの匂いが染みついているはずだ。

それをたどっていけばいい」

「オレンジぃぃ」

「ほら、抱きつくな。ガキに抱き着かれてもオレはうれしくない。

早く行くぞ」

 

オレは早速火の鳥に変身しようとして気づく。

おっと、そういえば火はマズいんだったな。

仕方ない。

コンゴウインコに変身したオレは、勢いよく雪道から飛び立ち空に舞い上がる。

後から三太もついてくる。三太はハヤブサに変身していた。

 

「こっちだ」

マイナデスアルコールの強い匂いを感知したオレは、

オーロラに向かって羽ばたき、紫色とオレンジ色のオーロラが混ざり合った

毒々しい色の渦へと飛んでいく。

 

(サンタ界は落下したんだから下へ飛んでいかないの?

と思う読者もいるかもしれないが、上の次元だとそう単純にはいかない。

下に行くにしても、いろんなルートをたどって行かなければいけないし、

場所によっては上に向かうことで下に行けるところもある by オレンジ)

 

オレたちは世界の狭間を飛んでいた。

ピンク、オレンジ、紫、茶色、緑、いろんな色が線だったり長方形だったり、

何重もの円やよくわからない複雑な図形として流れている。

 

ここは世界と世界の間にある空間。世界や次元を構成する物質を運ぶ、

血液のような場所だ。レイラインと呼ばれている。

 

(レイラインは日本語で龍脈と呼ばれている。

龍が他の世界へ行くのに利用することから、龍の通り道とも呼ばれているな。

だがオレたちは龍みたいに大きな魂やエネルギーを持っていないから、

正直キツい。レイラインにあまり長いこといると自我がなくなり、

死んで転生するハメになるから利用したくないんだが、

まさかレイラインに出るとは思わなかった。

ちなみにオレたちの言うレイラインと英語のレイラインは、意味が全然ちがうな。

三次元――人間界の英語圏にはちゃんと伝わらなかったらしい。

英語のレイラインは古代の遺跡群を結んでできた直線を指すだけの

表面的な言葉になってしまっている。もっと深い意味があるのに。

日本語の龍脈のように、

世界や次元を構成する物質を運ぶ、血液の役割という深い意味があるんだ。

それに直線だけじゃなく、曲がりくねっているのも含めてレイライン。

ちなみにレイラインという言葉を作ったのは『黄金のリンゴ』らしい。

昔ジジイから聞いたことがある。名前の由来は、

霊――物体を持たない物質が通る道だから霊Line。分かったか?

すごいものっていうのは大抵くだらない。

オレも聞いた時は肩から力が抜けた。

『黄金のリンゴ』ってけっこうおちゃめなのか?)

 

レイラインにあまり長い時間いるのは危険だ。

早いとこ出ていきたい。

しかし匂いはレイラインの奥へと続いていた。

「オレンジ、レイラインだぞ」

「わかってる」

「体がちょっと溶けてきた」

「がんばれ」

コンゴウインコとハヤブサはスピードを上げてレイラインの中を進む。

するとふと、背後に何かの気配を感じた。

少し様子を見てみたが、一定以上の距離を保ち、近づいてくることはなかった。

「オレンジ、あれ、どうするの?」

「サンタ界を襲ったやつで間違いないだろう。捕まえよう」

「レイラインでやり合うの!?」

 「静かに。向こうも条件は同じだ、レイラインでやり合いたくないと

思ってるだろう。そのスキを突いて仕掛けよう」

そう言うとオレは三太に作戦を耳打ちした。

 

どうやらサンタ界を陥れた犯人のおでましらしい。

至上主義者だかなんだかわからないが、

おまえのせいでオレはラベンダーの部屋に侵入した秘密を三太ににぎられたんだ。

この屈辱! おまえの魂をもって償ってもらう!

 

コンゴウインコとハヤブサはかなり飛行速度を落とし、

ゆったりと羽ばたきながら、言い争い始めた。

「このグズ! 能なしサンタめ! 

おまえがマヌケなせいでサンタ界は消滅したんだ」

「だまれ、ストーカーめ! ラベンダーのケツでも追いかけてろ」

 

(演技とはいえ、いまの言葉はグサッと来た。

あとで覚えてろよ)

 

いまだ! 追手の困惑した気配を察知した瞬間――

コンゴウインコは予備動作なしに近い状態で身をひるがえし

一気に最高速度に達すると、敵に向かって飛んでゆく。 

手に取るように相手がビビッているのが伝わってくる。 

 

敵はニワトリの姿に変身して飛行していた。

コンゴウインコはそのクチバシを自分の体よりも大きく伸ばし、

ホオジロザメのようなギザギザの歯が生えたクチバシを

大きく開けてニワトリの体をおおった。

 

勢いよくクチバシを閉じようとしたところで――

 

「やめてオレンジ! キャァァ――」

 

クチバシの中で嫌な味がした。

 

…………

 

コンゴウインコは急ブレーキをかけたクチバシを急いで開けて、

中のニワトリを吐き出した。

 

体が赤く染まってしまったニワトリを見て

オレの顔は驚きのあまり、少しだけ縦に長くなった。

「なんで、ここにいるんだ……?」

 

ニワトリは疲れきった表情をしている。

羽ばたきにも力がなく、弱々しい。

 

「どうしてここにいるんだと聞いているんだ、マノン!!」