読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第8話 ダッシュ、ダッシュ!

ラベンダーさんと征服の草Ⅰ アトランティスへの不満


 いいかミンテ。お前は、先輩に対する口の利き方がなってない。そもそもなぜ、年上や先輩に対して敬意を払うのだと思う?
 たとえば、今のこの科学に頼りすぎた結果、利己主義で腐敗してしまった人間界を見れば、無駄に年を重ねただけで、高校卒業もロクに出来ていないような魂ばかりだが、そういうヤツらと私を、同じ扱いにするのか? 
                         
            ――若き日のミルラ

 

 ほら、ダッシュ、ダッシュ! 
 ま、待って、は、苦し――

 ミンテと、わたし、は、ガジュ丸さ、ンと、別れたあと、カッ――は、急いで、アカデミーの本館へ、と、は、はぁ、向ぐ、ッ、む、向かって、いだ。ゼ―、ハー……チェンジ!

 ……辛くても必死にナレーションの仕事をこなすラヴァーレに、作者は心を打たれていた。
 そしてミンテはひと足早く階段を登り終え、アカデミー本館のある第三区画へとたどり着いていた。第三区画の入り口の参道に、交差するように横に伸びた石造りの回廊から、下に広がる景色を優雅に眺めると、誰にともなく彼女は呟いた。

「長い描写が多くなるから、覚悟なさい」
 では、どうぞ。

 オリエント・アロマ・アカデミーは、全部で三つの区画からなる縦長の巨大神殿だ。長方形の形をしており、南から北に向かう形で建てられている。
 区画と区画の間には階段があり、次の区画は下の区画よりも三階分ほど地面が高いため、空から見るとアカデミーは階段のようにも見えた。
 アカデミーの中央には、南の第一区画城門から北の第三区画にあるアカデミー本館へと、貫くように一直線に参道が延びており、特に第一区画の参道はケメトらしくスフィンクスの像が対をなし、一定間隔で並んでいるため、アカデミーの城門へと続く外の道と共に、スフィンクス参道と呼ばれている。
 マジギレした二体の石像がいた城門から見て、スフィンクス参道の左側には第一グラウンドや牧場、厩舎があり、右側には第二グラウンド、鳥小屋などがある。グラウンドはとにかく広いんだぜ! イェーイ!
 その一方で第二区画には、スフィンクスやオベリスクといったケメトを象徴するものは、一切ない。
 代わりに、レムリアという文明の様式を用いて造られているからだ。ケメトとはまた違った、風の流れるような神秘的な趣向とでも言うべきか。空間をもリスペクトした、凝った庭園が展開されている。
 第一区画の城門を潜ってすぐのところと、第二区画に通じる階段の前には、それぞれ一対のオベリスクが置かれていたが、第二区画の入り口と第三区画に通じる階段の前には、鳥居という朱色の門が設置されていた。これはおそらく、レムリア版オベリスクといったところだろう。
 天へと伸びるその姿勢は、人々の魂の向上を体現しているのだ。
 他にも第二区画には空中庭園の島がふたつ、参道の橋を挟んで空に浮いており、ミンテのいる場所からだと、その島から落ちていく滝が、回遊式庭園の池に流れていく美しい景色がよく見える。空を流れる滝はケメトの熱い空気を冷まし、その水しぶきが、橋を渡る者に癒しを与えている。
 ミンテにも、数人の女子生徒がキャーキャーはしゃいで、戯れている様子が伝わってきた。
 参道の周囲は庭園になっていたが、さらにその周りには森が広がり、道場や屋敷、それから神社と呼ばれるレムリア式の神殿などが、いくつも建てられている。神社の拝殿の前には必ず、レムリア版スフィンクス――狛犬が一対あった。
 第一、第三区画と比べると、第二区画はとても同じケメトとは思えない造りになっていたが、植物界は非物質の世界だ。人間界では難しいことも(物理的にも、精神的にも、文化的にも、そして――宗教的にも!! 先入観と偏見の枠を超えて)、意識的に素晴らしいことなら、なんだって簡単に出来るように思えた。

*:..。o? *:..。o? *:..。o? *:..。o? *:..。o?

 巡回中のイーグルが一羽、滝の中を通って再び大空へ舞い上がってゆく様を、ミンテが見ていたところで……あえぎ声のようなものが聞こえてきた。

「――それで、わた、しは、たり、着いたの、はっ、だったッ」
 ダメだっ、もう疲れた、は、限界ッ! 足痛いッ。お腹痛い。なんだか最近、こういうことばっかりだな、つかれた――
 ――…………わたしがゼーハー言ってる横で、ミンテは、下の景色を眺めて、さも心地よさそうに、風で揺れる頭の草冠を、押さえ、ていた。あ、やっと来た? みたいな顔でこっちに手を振っているが、わたしは、それどころではない。この花! この花ッ! ハァ、怒る、不満を言うエネルギーも、残ってない。
 すぅーーーーっ。はーーーーー。  すぅーーーーーっ。はーーーーーー。  すーーー。
 ふう。少しだけ頭が楽になった。
 えっと、なんだっけ? お昼寝したら心地よさそうな原っぱが広がっていたけど、ぜんぜん見れなかった……。ガジュ丸さんと別れたあと、ミンテが「ダッシュ、ダッシュ!」と急いで先に行ってしまうので、慌てて後を追いかけるのでせいいっぱいだった。わたしの体は人間でいう、9、10歳くらいの体だ。にもかかわらず、この花は、全力の大人ダッシュで置いて行ってしまったのだ。
 ――まったくひどい話だわ! 知らない場所に――それも、年上の姿をした、いかにも自信たっぷりの花たちが行き来している往来で! 踏み潰されたらすぐに死んでしまいそうな、可憐な少女が一輪で置き去りにされるというのが、どれほど不安か!
 訊きたいことが山ほどあったような気がしたけど、もう忘れてしまったわ! もっといろいろ眺めたかったな……
 わたしの息が整ってきた頃を見計らい、ミンテが「行くわよ」と歩き出す。
「待ってよ、なんであれ空に浮いてんの? あと、ニンゲンの顔の、あの気味の悪い像はなに? それから、白くて不気味な――」 
「ごめん、もう急がないといけないから、ガイドごっこはもう終わり」
「え~、自分勝手な花ね」
「そうよ、知らなかった? さ、行くわよ」