のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第18話 See you again


 しょぼっ! え? はあ!? おいオリバナム! 『真の薫香』! そりゃねえぜ! 植物界を――自然界を代表する立場だろうが! 俺らの代表なんだから、もっとハッキリ言えよ! そこら辺の神でさえ言わない(もう何を言っても無駄だと、見放しちまったのかは知らねーが)とっておきの爆弾、あるだろうが!
 徹底的に言わねえと、危機感も何も伝わんねェぞ!! 知ろうとしなかったことを罪とも思わず、こいつらは誰かのせいにするだけなんだ!
 言ってやれ! ブチのめしてやれ!!!
                          ――シナモン
 
 

 どうしよう! どうしよう! どうしよう!
 ミンテが、ミンテが行ってしまう!! もう、会えなくなっちゃう!
 ミンテと…………みんて……と…… 
 あれ、この香りは――
 よく嗅ぎ覚えのある、知ってる匂い。昨日まで(アカデミーに来るまで)いつもそばで嗅いでた匂いなのに、なんだか、とてもなつかしい……
 甘くてスッキリしてて、さわやかで、でも主張が激しくて、我の強い、この香りは……!!
 わた、しは、顔っを上げ、て、確認した時、ニは、もう、泣いていた。
「アンタ……なにやって、ンのよ」
 ブロンドで、うすく緑がかったブロンドで、ウェーブの髪で、ミントで編まれた冠を被ってて、地中海みたいなブルーの瞳で、白シャツで、ジーンズで……自分勝手でわがままで……でも面倒見が良くて、やさしくて、可愛くて、かっこよくて……
「みんっ、テ!」
 ああ、みんて、ミンテ、ミンテ! よかった、会えた! ミンテが、いてくれた、間に合った。よかった……よかった……

 ラヴァーレとミンテは再開した。大人姿のミンテは、そのまま泣き崩れ、ラヴァーレの背中に手をまわしたまま、地面に膝をつく。
「ぁあっ、ぁ~~~ぇ、馬花タレ~~ぅッ~」
 ただただ悲しくて、泣いてしまったミンテとは反対に、ラヴァーレは泣きながらも喜んでいた。
「ミンテっ、よかった! わたし、しんぱいしたんだよ! もう会えないかと思った」
 そんな格好で何を言うのか。ラヴァーレの言葉に余計に胸が締めつけられたミンテの心からは、決壊したダムのように哀しみがあふれ出していた。ラヴァーレとはもう会わない、その決心と覚悟の街が、哀しみに呑まれ沈んでゆく。
「置いてかないで! わだしも行ぐ」
 いま一番ミンテが心を痛めていること――それは、素直に悲しめないことであった。精霊たちが少なからずいるこの第一区画内で、今、自分の心をしっかりとガードしなければ、非常にマズい。最悪、地球が終わるケースも考えられる。幸い周囲には誰もいないはずだが、ラヴァーレにも、伝えるわけにはいかない。ラヴァーレはまだ匂いも心も読めないはずだが、香りにまで自分の情報を出さぬように、神経を張り詰め、こんな状態であるのに、細心の注意を払わなければならなかった。
 ラヴァーレと……こんな姿ではあるが、せっかく再開できたのに素直に喜べず、また、悲しむこともできず、打算的な考えをしてしまう自分が許せなかった。

「おねがいミンテ、行かないで! もし行くなら、わたしも行くから」
 声を出そうにも、声が出ない。お願いラヴァーレ、少し黙って、お願い。情報が、漏れちゃう。今、私の感情を揺さぶるのは、やめて!

 ――最悪の状況だ

 目覚めてくれと、ひたすら祈り続けていた二週間だったが、非情に徹するべきだった。とっととアカデミーから出るべきだった。私情に囚われている場合ではなかった。こんなミス、ラヴァーレと出会う前の自分が知ったら激怒するだろう。この400年を、無駄にする気かと。
「ミンテ、ひとりはヤダよ! 今までだって一緒だったじゃん!」
 私は大丈夫、私は大丈夫、私は大丈夫、私は情報を守っている、私は情報を守っている、私は情報を守っている、大丈夫、大丈夫、大丈夫、私は堅固、私は堅固、私は堅固。
「ねえ、無視しないでよ! どうして何も言ってくれないの!?」
 ヤバイと思うな! 前向きに考えろ! 不安を消せ! 大丈夫だ! 漏れない! 超ポジティブになれッ、『征服の草』!! 大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫「ミンテ! ミンテ!」大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈「なんか言ってよ! なんで黙ってるの?」夫大丈夫大丈夫大丈夫「ねえってば、ねえ!」大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈妻大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大「ミンテ? 聞こえてる!?」丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫
 堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固「どうしたの! 言ってくれなきゃわかんないでしょ!」堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固「ちょっと……??」堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固「怒って、ますか?」堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固「ミン、テ…………???」堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固「どーして無視するの? あ、わかった! 植物だけに、虫は無視っていうギャグでしょ! でも、虫さん無視してたら、植物は生きてけないよ」堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅固堅牢堅――――
「死ねえええ!!!!!」
 ビビクッッッと、私の叫びに震え上がるラヴァーレ。
 顔が真っ青(オリエント青ざめトーナメント、予選突破ね。ってそんな場合じゃない)になり、言葉にならない悲鳴をあげて、お腹を押さえて苦しみ出した。
 ――しまった!! 
 つい、念でラヴァーレのお腹にトゲを刺してしまった。芽(子共)には視えない念のトゲを、大人の花であるにもかかわらず、私は思いっきりブッ刺してしまった! 
すぐに愛の波動をこめてトゲを引き抜くと、ラヴァーレは息も絶え絶えで、状況がよく分からないという顔をしている。さっきよりかは、ラクそうだ。
 
 私はそこで、ほっとしてしまった。つまり抜いてはいけないのに、木を抜いてしまった。

「ごバァ!」
「ミンテ? ミンテ!?」

 ――おいおい、マジかよ……この芽、なんで、こんなダメージで、平然としてやがんだよ……うっ……

 ラヴァーレに同情し過ぎたのか、トゲを抜いた瞬間うっかりラヴァーレの体の状態とリンクしてしまい、痛みが呪いのように私に降りかかってきた。
 口からごバァと勢いよく飛び出た血が、ラヴァーレと地面に降りかかる。
「はぁあ! ミンテ! ミンテッ!」
 これは、困った……まさか、こんな事態になるとは……お前の体は、どうなって、ンだ……よ……。治療したんじゃ、なかった、のか? なんか、ねェだろ……コレ……
「だ、ど、どど、どう、しよう。ええあ、だれ、か」ラヴァーレは、現状を把握できるはずもなく、あたふた――イタタッ!! して、いた。

[――せんぱい、ここに、いた、はや、く、来て、死ぬ……。か、カモミー、カモミール! 早く!! ヘルプ!!]

 他に状況を知らせられる花は……
 最悪なことに、野球部もサッカー部も近くにはいない。同じ第一区画とはいえ、今は遠くのほうで活動している。二週間前の事故が原因か? シャレになんねーよ……。あの中にテレパシーを受け取れる子がどれだけいるかも分からない。なら、守衛に助けを求めようかと考えたが、守衛はどうやらラヴァーレが私に捕まったのを見届けて、すぐに持ち場に戻ってしまったようだ。だが守衛であればテレパシーですぐ呼べる。問題は、今の私の状態で、情報を守り切れるかということだ。もしあの守衛が……仮に違かったとしても、知られた時点で全部パアだ。誰ひとりとして知られてはいけない。
 そこまで考え、私は気づいた。しまった、先輩とカモミールを呼んでしまった。

 くそがぁぁぁ!!! ……しょうがない。私は、今度こそ本当に、非情になる覚悟を決めた。植物の精霊でも、背に腹は代えられない。
 
 まずはラヴァーレを、『ガソリンツリー』だと思いこむ。
ラヴァーレは『ガソリンツリー』、ラヴァーレは『ガソリンツリー』、ラヴァーレは『ガソリンツリー』、こいつは『ガソリンツリー』こいつは『ガソリンツリー』こいつは『ガソリンツリー』コイツは、『ガソリンツリー』コイツは『ガソリンツリー』コイツは『ガソリンツリー』コイツは『ガソリンツリー』。
 
 ッッッ!!!!

 身の毛もよだつぐらい激しく強い憎しみ、恨み、怒りが体の中からわき上がると、私の体の痛みは驚くほど簡単に消えた。感じ方が変わったということは、つまり、冷酷で残酷なあの『征服の草』が、帰ってきたということだ。
波動がゾッとするほど冷たくなり、ラヴァーレを再び突き刺した。 
「あ、ぁぁ、あ」
 ピリピリとした私の波動でラヴァーレが痛みに苦しみ出したが、そんなこと関係ないね。弱いものは死ぬ。それが世界の掟だ。
 続いて、テレパシーを再びあの二輪に送る。

[――ってのは、ウッソぴょ~~~ん! ビックリしたかなあ? こっちにはいなかったから、来なくていいっぴょ~~~ん♪]

 送ってから一秒もしないうちに返事が来たが、そのまま中身を視ずに脳から削除する。ギャルかよアイツは。カモミールのやつは無駄なことはしないから、意味がないと知ればそのまま連絡してこないだろう。だから今のメッセージはあの〈グルグル〉からのはず。

 よし、今、完全にガキとのリンクが切れた。続いて自分の香りと、太陽のエネルギー、空気中の気だけをこめて、傷ついた霊体を自己ヒーリングする。実のところ、愛のエネルギーを使いたかったが、せっかく非情になれたのに愛のヒーリングで前の自分に戻って、またミスをするという事態だけは避けなければいけないので、やめた。
 体が楽になった。元々私のダメージじゃねえんだ、回復しやすくて当然だ。さて、続いては……
「ミンテ、わたし、だれか、呼んでくるよ」
 このガキだ。こいつをなんとかしない限り、『征服の草』の完全復活はありえない。
「いや、いい」銀狐みたいな、ヒンヤリと冷たい嫌な声だ。
「でも、血が……」
「そうだな」
「だから、呼んでくるよ」
「いいっつってんだろクソガキが!」え? という顔をしている。本当に腹の立つガキだ。気をつけねェと、勢い余って枯らしちまいそうだ。「ほら、行け、帰れ!」
「え、いや、どうしたの!? 帰れって、わたしの家は、ここじゃないよ!」
「お前がどう思おうが、ここが新しいお前の家だ、前にも言ったろう。じゃあな」
「いや、待ってって、行くよ」
「へえ。どこ行くか、知ってんのか?」
「……知らないけど、ミンテと一緒なら、どこへでも行くよ。だって、家族じゃん」
「……」
「……」
「…………くっくっくくっあっはっはっはっは!!」
「なんで……笑ってんの?」
「うははは、家族だって? いやあ、面白いジョークだわ」
「ねえ、さっきからおかしいよ、どうしちゃったの!? いつものミンテじゃないよ!」
「これが私だよ。泣く子も黙る『征服の草』だ。お前が家族と思うのは勝手だが、私にとって、お前は家族でもなんでもない。その辺の雑草だ」
 ガキは口をあんぐりと開けて、呆然としている。どうやら理解できていないらしい。ったく、これだからガキは嫌いなんだ。自分の頭で考えることができやしない。言われて初めてそうだったのかと気づきやがる。「もう一度言ってやる。私にとってお前は、家族でもなんでもないんだ、馬花が!」
「えッ……」
 醜い泣き顔だ、ニンゲンみてーだ。おっと、ニンゲンに失礼だったか(一応言っておくが、不快にさせてしまったら申し訳ない。ま、私らなんて散々不快な思いをさせられてきて、涙を呑んでるが)。
「じゃあな、私お前のこと大っ嫌いだったんだよな、すぐ泣くしウゼーし。バイバイ」
 よし、こんなもんだろう。
これでやっと戦場へ行ける。作戦の決行だ、これから忙しく――門へと向かう私の腕を、何かが引っ張った。見ると、ガキがつかんでやがる。
「離せよ」
「やだ、ミンテと離れたくない」
「へー、あっそ」
「ね、わたし、お仕事の役に立つから」
「てめぇみてーな雑草が戦場に来たところで、枯らされんのがオチだ。失せろ」
「なんでもするよ、だから、置いてかないでください」
 その言葉は、私の維管束を沸騰させるには十分過ぎるものだった。
「お前、敵を殺す覚悟も、自分が死ぬ覚悟もできた上で言ってんだろうな!!」
「え」
「ニンゲンや悪魔だけじゃない(残念だけど、私たちから見ればどちらもあまり変わらない。自然を汚さないだけ、まだ悪魔のほうが……)、この地球の覇権を狙ってるヤツらは、山程いる。敵性レプティリアン、疫病、〝植物至上主義者〟!!! そうゆうヤツらを、殺す覚悟はあるんだな! よし、分かった、ならついて来い。ほら、早く来いよ」
「……うん、わかった」
「…………………………」
「何してるの? 早く行こうよ」笑ってやがる。
「え、ええ、そう、ね」
 仕方なくふたりで歩き出す。そして、ガキがほっとした瞬間を狙い勢いよく後ろに蹴りを放つ。腹に命中した蹴りはそのままガキを、少し後方、ざっと30メートルほど後ろへ吹き飛ばした。
「そんなザマじゃあすぐに死ぬな、身の程を知れ。じゃあな」
「ガッッッハ――っあ、ぐっ、よ」
 さっきリンクした時に知ったが、一番狙ったらマズいところにおみまいしてやったんだ。だいぶ手加減したが、絶対に起き上がってはこれないだろう。
 これで今度こそ、別れだ。
 私は門へと近づいた。一歩、また一歩……と、門が迫ってくる。日本の地獄界へ行くみたいだ。当然かもしれない、自分が今までやってきたことを考えれば、地獄行きが妥当だ。
 走ってとっとと行けばいいのに、歩いてしまうのは、やはりまだ私に、甘えがあるからだろうか。どうせ行くなら、冥府がよかった。ハー君に裁かれたかった。
ほらやっぱり――誰かに自分を裁いて欲しいなんて考えている時点で、甘いのだ。
 門まであと、50メートル、45メートル、40メートル、35メートル、30メートル、25メートル、20メート――ガッ。
 ……ガッ?
「足手、まと、いに、なりま、せんがら」

 !!? な……んで……

「だから、置い、てか、ないで、くださいっ」
 おかしい、ありえない。
 リンクしたから分かるが、そう簡単にホイホイ動けるダメージじゃないだろうが! タフとか、気合いでなんとかできるものでもない。自分の香りすらコントロールできねえ小娘が、どんな魔法をつか――自分の……香り……じゃ、なければ? ……私の香りか? いや、そんなミスはしてない……。だとしたら、またあの神の仕業か?
「うるせーよ! 人間にだって、強いやつらはいっぱいいる! お前なんか、人間にすぐ枯らされて終わりだ!」
「クマだって、倒したん、だよ?」
「わはは、あんなの雑魚も雑魚だ。それに、自分の力じゃねえだろーが!!」
「わたしの力だよ! じゃあ他に、誰が倒したって言うの!?」
「ふ、ははっ、どうやって戦ったかも、覚えてないくせに!」
「お、覚えてるよ!」
「言ってみな」
「……パンチしたり、蹴ったり」
「…………――最後に口からビーム出したことも、巨大化したことも覚えてる?」
「う、うん。覚えてる」このガキときたら……
「……嘘よ」
「! 騙したのね!!」
「お互いさまでしょーが」非情になれ! 走れ!!
「まってよ」
「来るなァ!」
「ミンテ」
「来ないで!」来ないで……ちょうだい……。これ以上、私にあなたを……「お願いだから……来ないで……」
 後ろから、追いかけて、来る、あしお、とが、止む。
 どんな顔、を、して、るのだろ、か。か、考える、な、振リ払エ、決して、振り返るな。
「ねえ、じゃあ、どれぐらいしたら、戻ってくるの?」
 すぐ後ろから聞こえた声に、精いっぱいの虚栄を張って、答える。
「あなたが、ラヴァーレが勉強を頑張ってれば、またすぐ会える、わよ」
「わかった、わたし、勉強がんばるから! だから、またすぐ戻ってくるよね? また、会えるんだよね!」
 振り返るな振り返るな振り返るな! 来るな来るな来るな!
「ええ、会える。疫病を祓ったら、すぐ会えるわ。あなたを置いて、戻ってこないはずないでしょうが」そうだ、それでいい。
「わたし、待ってるから! 勉強がんばって、待ってるから! だから、すぐ戻ってきてよ、約束だからね!?」
「See you again(また会いましょう……)」子供姿になった私は歩きながら振り返らずに、愛する花へ、手を振った。顔を見れば、行けなくなってしまう。
 『征服の草』も、ずいぶんヌルくなったものね。
 いや、誰かを傷つけながら別れるのは、ある意味で、とても『征服の草』らしいかもしれない。
 後ろから、一輪の花のすすり泣く声が聞こえたのが…………

「門を開けなさい」
 守衛はミンテの顔と、後方の花を見ながら、迷ったように慌てていた。
「グズグズするな、早くしろ!」
 子供ミンテのおぞましい剣幕に脅され、急いで門を開ける守衛。
 予想していたこととはいえ、二週間前にオリエント・アロマ・アカデミーに来た時と今とで、ここまで気持ちが違うものになるのか。
 抱きしめることさえできず、本当のことを打ち明けることさえ叶わず、まともな別れすらままならない。せめて最後は、想い出の姿で。
 疫病のような風が吹きすさぶ黄土色の砂漠には、水平線の向こうまで続くスフィンクス参道が延びている。生の終わり、死の世界。対に並んだスフィンクスたちが、『征服の草』の復活に歓喜の歌を合唱する(この物語はなんでもアリだが、今、実際に歌っているわけではない。別に歌わせてもいいのだが by作者)。

 ――これだったら、冥界のほうが絶景だわ

 草冠を被った白い服の華奢な少女は、どこまでもどこまでも、荒れ狂う世界へと走って行った。
少女の走った地面にはただ、雨もないのに水滴が落ちていたのだが、灼熱の国ケメトでは、一瞬で跡形もなく蒸発してしまうのだった。