のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第15輪 レイラインの追手

なあラフ、霊が通るからレイラインってのはどうかな?

 

              ――『黄金のリンゴ』

 

コンゴウインコの写真

 

「おれを襲ったやつは、どんなやつだった?」

「一瞬のことだったからよく見えなかった」

「使えねー」

「うるせーよ」

 

サンタは子供の姿になっているせいか、大人の時より無邪気で素直になっていた。

さっきまで来ていたスーツとはちがい、いまは赤いサンタ服を着ている。

 

「サンタ、おまえが寝ている間にいろいろわかったことがある。

サンタ界はおまえの言うとおり、まだあるかもしれないぞ」

「どうしたの?」

「マイナデスアルコールは知っているだろう?」

「もしかして、爆弾でサンタ界を異次元かどこかへ吹き飛ばしたって

言いたいの?」

「そうだ。爆弾かどうかは知らないが、

マイナデスアルコールは周波数を下げる特性がある。

たとえばだが、それでサンタ界そのものの周波数を下げて

ここの空間と共鳴しなくなれば……どうなる?」

「サンタ界だけ堕ちていく……!」

 

サンタはオレの推測に驚いた表情になり、

今度は喜びと疑いが混ざったような顔になった。

 

「サンタ界がまだ、あるかもしれない……。

けど、世界だよ? 世界そのものの周波数を下げることなんて可能なの?

っていうかそれで世界って移動すんの?」

 

「おまえの意見はごもっともだ。だが見ろ。

爆弾で世界を丸ごと破壊したとしても、サンタ界の残骸は残るだろ?

だが、空間が丸ごとなくなっている……。

爆弾で世界を破壊できるかというのは別として、

爆破して、跡形もなく空間ごとここまできれいに破壊できるとは思えない。

周波数が下がって、この次元から下へ落下したと考えたほうが妥当だろ?」

「……」

「だから、おまえの言うとおりサンタ界は、まだあるかもしれない」

「……」

 

子供サンタは目に涙を浮かべて黙っていた。

今まではなんの根拠もなくただ自分の気持ちだけでサンタ界がある、

あって欲しいと妄信している様子だったが、

オレさまの実に具体的な推理を聞いて、

なんとも言えない気持ちになったらしい。

 

「オレンジ、ごめん」

「どうした?」

「きみにはひどいことをいっぱい、言ってしまった」

「気にするな、オレはただ、おまえと契約を結んだから手伝っているだけだ。

謝る必要はない」

「それでも、おれはきみがいなかったら、考えなしにサンタ界を探していただろう。

そもそも、オレンジはどうしてラベンダーの部屋に?」

「週刊〈ドコドコ〉を読むため」

「あれまだ書いてるの!?」

「知ってるのか!?」

「中世の頃にクリスマスプレゼントでもらったことがあるんだ。

あれは出版するしないの話もあったんだけど、諸事情で流れたんだよ。

……まだ書いてたんだ」

「おまえ、ラベンダーの彼氏なのか?」

「ふふ、そんなわけないじゃん。

おれはてっきり、オレンジがラベンダーと付き合ってるのかと思ってた。

それかストーカーだと」

「よせよ。おまえだってマノンからラベンダーのタオルをもらった時、

嬉しそうにしてたくせに」

「やめて」

「ヒュゥゥゥゥ」

「やめろって」

「あっははは」

 

オレはこの時はじめて、三太と心から打ち解けられたのかもしれない。

最初こそ木に喰わないやつだと思っていたが、

根は案外おもしろく、いいやつだ。

 

からかわれて顔を赤くしている小僧にオレは言う。

「三太、サンタ界を探すぞ」

「でも……どうやって? 周波数が下がって堕ちたからって、

単純にこの空間の下へ飛んでいけばいいってわけじゃないでしょ」

「おまえ、オレをなんの精霊だと思ってるんだ?」

「植物――あ!」

「そう。匂いには敏感だ。

マイナデスアルコールでどこかに堕ちたなら、

サンタ界自体にマイナデスアルコールの匂いが染みついているはずだ。

それをたどっていけばいい」

「オレンジぃぃ」

「ほら、抱きつくな。ガキに抱き着かれてもオレはうれしくない。

早く行くぞ」

 

オレは早速火の鳥に変身しようとして気づく。

おっと、そういえば火はマズいんだったな。

仕方ない。

コンゴウインコに変身したオレは、勢いよく雪道から飛び立ち空に舞い上がる。

後から三太もついてくる。三太はハヤブサに変身していた。

 

「こっちだ」

マイナデスアルコールの強い匂いを感知したオレは、

オーロラに向かって羽ばたき、紫色とオレンジ色のオーロラが混ざり合った

毒々しい色の渦へと飛んでいく。

 

(サンタ界は落下したんだから下へ飛んでいかないの?

と思う読者もいるかもしれないが、上の次元だとそう単純にはいかない。

下に行くにしても、いろんなルートをたどって行かなければいけないし、

場所によっては上に向かうことで下に行けるところもある by オレンジ)

 

オレたちは世界の狭間を飛んでいた。

ピンク、オレンジ、紫、茶色、緑、いろんな色が線だったり長方形だったり、

何重もの円やよくわからない複雑な図形として流れている。

 

ここは世界と世界の間にある空間。世界や次元を構成する物質を運ぶ、

血液のような場所だ。レイラインと呼ばれている。

 

(レイラインは日本語で龍脈と呼ばれている。

龍が他の世界へ行くのに利用することから、龍の通り道とも呼ばれているな。

だがオレたちは龍みたいに大きな魂やエネルギーを持っていないから、

正直キツい。レイラインにあまり長いこといると自我がなくなり、

死んで転生するハメになるから利用したくないんだが、

まさかレイラインに出るとは思わなかった。

ちなみにオレたちの言うレイラインと英語のレイラインは、意味が全然ちがうな。

三次元――人間界の英語圏にはちゃんと伝わらなかったらしい。

英語のレイラインは古代の遺跡群を結んでできた直線を指すだけの

表面的な言葉になってしまっている。もっと深い意味があるのに。

日本語の龍脈のように、

世界や次元を構成する物質を運ぶ、血液の役割という深い意味があるんだ。

それに直線だけじゃなく、曲がりくねっているのも含めてレイライン。

ちなみにレイラインという言葉を作ったのは『黄金のリンゴ』らしい。

昔ジジイから聞いたことがある。名前の由来は、

霊――物体を持たない物質が通る道だから霊Line。分かったか?

すごいものっていうのは大抵くだらない。

オレも聞いた時は肩から力が抜けた。

『黄金のリンゴ』ってけっこうおちゃめなのか?)

 

レイラインにあまり長い時間いるのは危険だ。

早いとこ出ていきたい。

しかし匂いはレイラインの奥へと続いていた。

「オレンジ、レイラインだぞ」

「わかってる」

「体がちょっと溶けてきた」

「がんばれ」

コンゴウインコとハヤブサはスピードを上げてレイラインの中を進む。

するとふと、背後に何かの気配を感じた。

少し様子を見てみたが、一定以上の距離を保ち、近づいてくることはなかった。

「オレンジ、あれ、どうするの?」

「サンタ界を襲ったやつで間違いないだろう。捕まえよう」

「レイラインでやり合うの!?」

 「静かに。向こうも条件は同じだ、レイラインでやり合いたくないと

思ってるだろう。そのスキを突いて仕掛けよう」

そう言うとオレは三太に作戦を耳打ちした。

 

どうやらサンタ界を陥れた犯人のおでましらしい。

至上主義者だかなんだかわからないが、

おまえのせいでオレはラベンダーの部屋に侵入した秘密を三太ににぎられたんだ。

この屈辱! おまえの魂をもって償ってもらう!

 

コンゴウインコとハヤブサはかなり飛行速度を落とし、

ゆったりと羽ばたきながら、言い争い始めた。

「このグズ! 能なしサンタめ! 

おまえがマヌケなせいでサンタ界は消滅したんだ」

「だまれ、ストーカーめ! ラベンダーのケツでも追いかけてろ」

 

(演技とはいえ、いまの言葉はグサッと来た。

あとで覚えてろよ)

 

いまだ! 追手の困惑した気配を察知した瞬間――

コンゴウインコは予備動作なしに近い状態で身をひるがえし

一気に最高速度に達すると、敵に向かって飛んでゆく。 

手に取るように相手がビビッているのが伝わってくる。 

 

敵はニワトリの姿に変身して飛行していた。

コンゴウインコはそのクチバシを自分の体よりも大きく伸ばし、

ホオジロザメのようなギザギザの歯が生えたクチバシを

大きく開けてニワトリの体をおおった。

 

勢いよくクチバシを閉じようとしたところで――

 

「やめてオレンジ! キャァァ――」

 

クチバシの中で嫌な味がした。

 

…………

 

コンゴウインコは急ブレーキをかけたクチバシを急いで開けて、

中のニワトリを吐き出した。

 

体が赤く染まってしまったニワトリを見て

オレの顔は驚きのあまり、少しだけ縦に長くなった。

「なんで、ここにいるんだ……?」

 

ニワトリは疲れきった表情をしている。

羽ばたきにも力がなく、弱々しい。

 

「どうしてここにいるんだと聞いているんだ、マノン!!」