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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第20話 いつでも微笑みを 

ラベンダーさんと征服の草Ⅰ アトランティスへの不満


 ファンタジーだと思ったか? 馬鹿め、現実だ
              ――オリバナム

 

 バイオレットに手を握られながらラヴァーレは、西に沈む太陽を横に、夕陽の中を歩いていた。北にたたずむ大きな大きな建造物――アカデミー本館へと続く第二区画の参道には、ふたりと同じく、本館や第三区画へ帰っていくアカデミー生たちが多くいる。
暖かく乾いたケメトらしい風が、ラヴァーレの髪を乱暴にかき乱すと、いろいろな香りが混ざった匂いが鼻腔をくすぐって逃げていく。
 参道の横に目を向ければ和風庭園が広がっており、クレッセントやケメトの人間界では見られない種類の木々たちが、絵具を塗られたように夕焼け色に朱く染まっていた。あまり主張しない奥ゆかしさにミステリアスを感じて、心が奪われていたのだが、不気味な白い何かが集団でうごめいていたのでラヴァーレは怖くて顔を前に向ける。
 ヴィオに尋ねようとも思ったが、別に知りたいわけではないので、何か他の話題で気をまぎらわすことにした。
「ねえ、ヴィオ」
「んー、なにラヴァーレ?」 
「ロックって、どーゆう意味?」
「岩でしょ」
「岩の会長なの?」
「あ、そっちか。〝Rock〟っていうのは、学生たちによる自治組織のこと」
「……」
「このアカデミーにおける様々な組織と連携を図り、運営や諸問題について取り組みアカデミー全体の質の向上――」
「……」
「……えーと、簡単に言うと、アカデミー生の生活をより良くするための、集まりってこと」
「へー……楽しいの?」
「おっほ」バイオレットは困ったように微笑んだ。「まあ、楽しいっちゃあ、楽しいね。楽しく感じなきゃ、できないお仕事だしね」
「なんでロックって言うの?」
「それはねー、私もあまり、詳しくは知らないんだけど、信頼性が高いって意味だと思う」
「? なんでロックだと、信頼性が高いって意味なの?」
「岩って硬いし頑丈でしょ。だから、そこから転じて(岩だけに転じるのよ)信頼性が高いとか、パワーがあるとか、いろんな意味で使われるんだよね。褒め言葉でも使われるし。最高とか、似合ってるって(もうひとつあるけど、これは教育上よろしくないよね)」
「それって、ややこしくない?」
「あっはは、確かにそーかも。でも、世の中にはもっといろんな意味で、ロックって言葉を使うヒトたちがいっぱいいるんだよね」
「たとえば?」
「〝ロックは定義できるものじゃないから、ロックなんだ〟とか」
「え、どーゆうこと? 言葉なんだから、意味があるんだよね?」
「〝成功したからロックは歌えない〟とか」
「歌うモノなの? 成功したら歌えないの?」
「〝ロックは死んだ〟とかっ!」バイオレットは調子に乗りだし、悪ふざけし始めた。
「生き物なの!?」
「〝ロックが死んだなら、そりゃロックの勝手だろ〟と、か」笑いをこらえるので必死だ!
「え、自殺なの!?」
「〝ロックはゴミくず〟なんてっ、意見も、あるよ」ふふっふふ、ふ。バイオレットは、がんばってこらえている。
「死んだヒトにそんなこと言うなんて、ひどいよ!」
「〝ピーマンが嫌い。ロックじゃないから〟なんて言われることも、ああっ、あるよっ」バイオレットの頭の中で、小浜さんのアドバイスは完全に削除された。だって、この子、おもしろっ、いんだもんアハハ!
「……ピーマンには、ロックさんの代わりは、務まらないよ……」
 わははは、ヴィオ、おまえ、何やってんだよ! 話進めろっ、よな! ふふっ、アッハッハッハッハッハ!
「〝ロックより優秀な者はもう、いない〟っ、んだって」フフッフ、フッ。
「わたしも、ロックさんに、会ってみたかった」ラヴァーレは、大切なものをどこかに落っことしてしまった年上の精霊と作者とは違い、純粋だった。
「〝ロックってやつが、オレは大好きなんだ〟ってヒトも、ちゃんと、いるよッ。あん、しん、してッ」ん、ふふっふ。
 作者は思った。最低だなコイツっ、フフハハ!
「よかった、よかった!」
 ラヴァーレは、ロックさんを好きなヒトがいてくれてよかったと、心から、安心、した。見たこともフ、ない、ロックさんっ、のことがアハハ、もう気になって気になって、しかたなかった。すでに亡くなったヒトらしいが、多くから、その死を悼まれる優秀なロックさんに、自分も会ってみたかったとフフッ、想いをはせる。
「ま、簡単に言うと、ロックさんは哲学家ね」勘違いする読者が多いと思うが、厄介なことに、確かにバイオレットは間違ったことは言っていなかった。実際そのとおりだ。
「ロックさんは、てつがくかなのか……」
 哲学家の意味も、ロックさんのことにしても、ラヴァーレが真実を知る日はそう遠くないだろう。年数はかなりかかるが、巻数で言えばすぐだ。
「でもさ、自治組織の名称を〝Rock〟にした花って、とても気が利いてて、洒落てると思わない? 私たちは植物なのに、〝岩〟って」
「……それってもしかして、作者のこと言ってるの?」
「おー!? っほほ!」バイオレットはすっとんきょうな声をあげた後、姿勢を正して、まじめな顔をする。「……ンン! ラヴァ―レ。あなたはまだ幼いけど、言葉には気をつけなさい。あなたのそのうかつな発言のせいで、続編が出なかったらどうするつもり? このあとまだ三国志みたいに、キャラクターがいっぱい登場するのよ! 彼らが登場できなくなったら、あなた、責任取れるの? 取れないでしょう?」
「……はい……ごめんなさい」
「分かればよろしい」
「――でもヴィオ、ヴィオも今、とんでもないこと言ったよ」
「?」
「この時代、まだ三国志ないもん」
「お……」
「ふ……」
「お、おーほほほほほほ」
「あははははははははは」

 二輪の花は、お腹を抱えて大笑いした。参道中に響きわたる笑い声が、今回の物語の終焉をあざやかに彩り、初々しくも華を添える。まだ『征服の草』すら完結していない状態だが、果たしてこの『ラベンダーさんシリーズ』がどのような終わりを迎えるのかは、読者の方はもちろん、作者にも分からない。完結する前に作者が殺されないか。それだけが心配である。

『ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ』へ続く