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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第16話 愛ってなんだろう

ラベンダーさんと征服の草Ⅰ アトランティスへの不満


 おーいオリちゃん! こっちこっち――ちょ、待てって、怒んなよ。
 なあ、もし今、人類に何か伝えられるとしたら、なんて言う?
                        ――シナモン

 

 ほら、キノコ取ったよーーー
 こっちの服のほうが、おしゃれだよ
 あ、わたしもそれ食べたい
 スパイス・ボーイズって、カッコイイね
 わかったから、クレイジーミンテはやめて
 お洋服どかーん
 キャアアア! あはは、ビックリしたでしょ?
 ぎゃああああああああああ
 ミンテ、たいへん、ローチが出た
 追うんですよミンテさん、捕まえなさい
 ごめんなさい
 ブロッコリー……キライなんだもん
 うわぁぁぁぁぁぁん
 わたしの勝ちぃぃぃ! あ、ちょっと!?
 ずるいずるいずるい!
 ガシャーーーン! …………わっはっは! 若気の至りです(キリッ)
 イタいイタいイタい
 いいなぁ、わたしも〈ドコドコさん〉、いつか見たいなぁ。会いたくはないけど。
 ピーマンってさ、かわいそうよね。だって、わたしにたべられない落ちこぼぼがぼば!?
 これ、なんて言うの? ばうむくーへん? 夜ごはんもこれにしようよ
 男の子って、実際にいるんだね。絵本の中だけかと思った
 ニンゲンって、なんかヤダな。怖いよ
 ここが地球だよ、ミンテ
 たのむ、たすけてくれ、たすけてくれぇ
 この星を消す!! あっはははイテッ
 ミンテ、わたしね、クマ倒したの。えらいでしょ? ミンテみたいに強い女になったよ

 ミンテーーー
 ミンテーーー
 ミンテーーー

「みん…………て……」

 わたしね、すっごくつよくなったんだよ! だから、虫さんやお花さんや、ミンテのことも、わたしがまもってあげるね
 ほら見てミンテ! ? ……ミンテ? あ、まってよ、どこ行くの? ねえ、おいてかないでよ、はやいよ
 ミンテ、どうしたの! まってよ! ミンテ、ミンテ、ミンテッ、どこ行くの、教えてよ!? 待ってったら!
 ミンテぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
 
「待ってよ!!」
 …………はっ、あっ、はっ、っあっ、ハッ、は。
 胸がっ、くるしいな。お腹も痛い。わたしは……
 わたし?
 わたしってだれだ?
 あれ、おれ? おれだっけ?
 おれ? わたし? あれ? …………おれか。
 おれって、誰? おれ? なんだろ? なんだ?
「あ、気づいたみたいね」
 ビクッ。
 なんだ!? だれだ!?
「私、バイオレット。気分はどう? ラヴァーレ」
 …………? らヴぁーれ…………――――ラヴァーレ!
 おれ、いや、あたい、じゃなくて、わたし、ラヴァーレだった!
「ミンテ!!」
 ミンテ! 良かった! どこにも行ってなかった!
 わたし、しんぱいしたんだよ!
「ちょっ、ちょっと、私、ミンテ先生じゃないよ!」
「……ミンテ、なに言ってるの? …………!!?」うわっ、だれだこのヒト!?「ごご、ごめんな、さい」
「うん、別にいいよ」
 …………知らないヒトだ。気まずいな、ヤバイ、どうしよう! なんか、言ったほうが良いのかな?
「良い、お天気ですね」
「? 室内だけど」
 ミスった。わたし、まだぜんぜん調子が――あれ、わたしって……なんでここに? あと、ミンテは?
「あの、ミンテは?」
「ついさっき、お仕事に行ったよ」
「……いつ戻ってくるの?」
「……さあ? でも、しばらくはー……戻ってこないんじゃないかなぁ」
「しばらくって、どれくらい?」
「う~ん……あの花気まぐれだからなー」
 やっぱり誰から見ても、そうなんだ。
「あ、そうそう! 伝言を頼まれてたんだった」
 黒い髪の女子が、んん、と咳ばらいをして、わたしにミンテからの伝言を伝えてくれる。
「愛するラヴァーレへ。これから数百年ほど、あなたはこのオリエント・アロマ・アカデミーで生活を送ることになるから、しっかり勉強しなさい。私のことは、気にしなくていいから。さよなら――だって」

 。。。

 ――は?

「え、意味がワカンナイんだけど」淡々としすぎでしょ!? あの花らしいっちゃらしいけど……
「これから疫病を祓いに行くって聞いたから、たぶん、しばらくは帰って来ないんだと思う。でも、きっとまたすぐ、会えると思うよ」
 ……え、つまり、どーゆうこと? 
「それで、これからのことなんだけど――あ、ゴメンね、病み上がりなのに……」
 ミンテがお仕事に行った……会えないって、こと? わたしを――
「とりあえず、私のクランで生活することになったから、よろしく。まだ来たばかりで、緊張しっ放しだろうけど、楽しいところだから安心して」
 ――置いていった!?
「まだ体のほうは安静にしてないとダメだから、しばらくは、ここで休むことになるだろうけど――あ、ちょっと!?」
 ――行かなきゃ! 
 行かなきゃ、ミンテがどこかへ行ってしまう! あの女、どうしていつも、自分勝手なんだろう! 
「こら、どこ行くの!」
 行かなきゃ! ミンテが、いなくなっちゃう! やだ! 待って! いなくならないで! ひとりにしないで!

 ラヴァーレは寝ていた木の根から飛び降りると、靴を履くのももどかしく、はだしのままに駆け出した。
 森の中では、少しばかりの精霊たちがラヴァーレと同じように、泡のバリアで包まれた大木の根元で眠っていた。
 ラヴァーレは思う。ここは、さっきミンテを追いかけて通った場所だ。だから、きっと、あ、どこへ行けばいいんだろう? ミンテは、アカデミーの外に行くはずだから、きっと、石像の門を通るはず。そこへ行こう。
 だが、どこへどう行けば、その門にたどり着くのかが分からない。すぐそばの森にいるはずなのに、じれったい。空を見上げれば、何か分かるかもしれない。
 そして空を見上げたが、空が見えない。
 おかしいな。
 なんだか空が、かすんでよく見えない。木の葉で隠れて見えないというわけでもないのに。……もういいやとあきらめたラヴァーレは、適当に走っていれば参道に出るだろうと思い、とりあえず闇雲に走ることにした。
「~~ガッ~」
 だが、ラヴァーレの体は悲鳴を上げる。最低限の回復はしたものの、本来なら、あと一年は絶対安静にしていなければならない状態なのだ。
 それなのに走ろうとすれば、やっと塞がり始めた内臓や筋肉が、また破裂してしまう。
 ズキズキと痛む臓物、体中の痛みを無視し、少女はとにかく走った。
 やがて、小さな道に出る。右か、左か、どっちだ?
 悩むラヴァーレは、右側の宙に浮かぶ標識が目に入った。
 右だ。右へ行けば、なんとかなるっぽいかも。
 たくさんの星々のようなシャボン玉が空中をただよい、薄い膜にゆらりと色を反射させて美しかったが、今のラヴァーレにそんなものを見ている余裕はなかった。早く行かなければ、ミンテにもう会えないかもしれない! そんな予感が頭をよぎる。
 長いようで短かった100年という年月で、ラヴァーレにとってかけがえのない存在に、ミンテはなってしまっていた。
 彼女の存在なくしてラヴァーレは、ひたすら厳しく過酷な地球の環境下(誰かさんたちのせいで。やっちまったことをグダグダ考えてもしょうがない、ポジティブに行こうぜ!)で、生きることができない。
 言葉にはできなくても、自分ではまったく分かっていなくて、そんなこと思っていなくても、ラヴァーレの心はそう感じていた。
 走っていると、壁とドアが見えてきた。
 アカデミーの外に出るための門に向かうのだから、建物には当然入るわけがない。今ラヴァーレが探しているのは、アカデミーの中央にある長い参道なのだ。
 しかし、壁が見渡す限り横に広がっており、邪魔をする。もしかすると、反対方向に来てしまったかもしれないと慌てて来た道を振り返ったが、残酷なまでに道がまっすぐ伸びており、遠くには暗闇が広がっている。
 ……一刻も早く、ミンテより先に、門にたどり着かねばならない。しかし、自分の今いる位置さえ分からない。
 あまり訊きたくないが、恥ずかしがっている場合ではない。誰かに道を尋ねるために、仕方なくドアを開け、建物に入る。建物の中は白い廊下が広がっていた。誰かいないかと、ラヴァーレが走ろうとした時――ぐらっと意識が飛び、廊下に派手に転んでしまう。
「アァアアアァアァアァァ!!!!!!!!!!!!!!!」
 その結果、激痛が体中を駆け抜け、イモムシのようにもがき苦しみ、のた打ちまわることになってしまった。しばらく動けなくなりつつも、ビクッ、ビクッ、と、痙攣するようになってしまった体を、なんとか、抑え、無理矢理に立ち上がる。
 ラヴァーレの体はもう、動かしてはいけないものだった。しかしそれでも、植物特有の根性でなんとか頑張ってしまった。
 お腹の中でピチャピチャと、何かが漏れている気持ち悪い感覚はあるが、無視する。
 もうヤバイと自分でも分かっていたのだが、走った。死ぬ覚悟を決める。

 ――ミンテに会えなくなるぐらいなら、死んだほうがマシ

 ラヴァーレは、今から約3300年後のどこかの国(あなたの国じゃないかもよ?)のように、自分の体のたくさんの痛みと訴えを無視し、とにかく強制的に体を走らせた。
 どうして、誰もいないの!? 
 あ! 
 通りがかった壁に掛けられている館内マップを見て、ラヴァーレの体に衝撃が走る。
 するとまた、体を構成する物質がバラバラにズレていくような、激しい痛みに襲われる。驚いただけで、これほどの痛みに襲われるのだ。
 ラヴァーレが知った事実、それは――自分が今いる場所が、アカデミー本館の第一層ということだった。てっきり、自分は第二区画の森の中にいるものだと思っていたが、どうやらそれは違ったらしい。
「そん、な…………」

 ――このまま走っていけば、すぐ門に着けると思ってたのに……

 伐採のような絶望感が、ラヴァーレの胸を激しく打つ。
「どうした? 何かあったのか」そこへ白衣姿の学生が、曲がり角からやってきた。
「すいません! ワープするには、どこへ行けばいいんですか!?」
「は?」
 白衣の学生は最初、ラヴァーレが何を言っているのか分からなかった。冗談でも言っているのかと思った。しかし鬼のような形相に気圧され、服を捕まれ、たじろいでしまう。
「早く、教え、て、ださい! ワープづるっ、場所をさが、してンです!」 
 ラヴァーレはイライラした。あろうことか、自分はアカデミー本館にいたのだ! 一刻の猶予も許されない、早くミンテを追いかけねば!
 対して学生は必死に頭を動かしていた。この子は何を言っているんだろう? ふざけているようにも思えない……
「ワープって、なんのこと?」
「ふざけんな!」
 ラヴァーレは本当に頭に来ていた。どうしてイジワルするのだろうか! ただ訊いているだけではないか。

 ――早く、ミンテを追いかけなきゃ……

「君さ、何がなんだかよく分からないけど、年上にそーゆう態度は良くないんじゃないかな」
「ワープする場所を教えてって、ぐっ、言ってる、だけじゃ、ないですか」
「そのワープが分からないんだよ。ワープって、魔法陣のこと言ってるの?」
「まほーじん? ……なんか、四角い……やつ。部屋の、扉を開けたら、場所が、変わるって……ゆーか……」
 ……四角いやつ? ……部屋の扉を開けると、場所が変わる……「……エレベーターか?」
「……えれべーたー?」
「……どこへ行きたいんだ?」
「外」
「じゃあ、そこを左に曲がってまっすぐ行けば、あるよ」
 するとラヴァーレはとっとと走り去ってしまった。フラつきながらも。
「なんだよあいつ、礼ぐらい言えねーのかよ。こっちは当直明けで疲れてんだから……あれ? …………え」
 そこで学生は、青ざめた顔になってしまった。
 しかし残念ながら、彼の青ざめレベルでは、オリエント青ざめトーナメントは予選落ちだろう。

 ――今の女の子は、まさか!!

「ローマぁぁぁン!! その子、捕まえて!」
 白い廊下の向こうから、バイオレットが走ってくるのが見える。男子学生の予感は的中してしまった。ローマンと呼ばれた精霊は急いで踵を返したが、残念なことに、ちょうどエレベーターの扉は閉ざされた。  
「ヴィオ、しまった。あの子、俺にぶつかったぞ!」
「――!? 何やってんのよ、も~う!」
「……」
「……」
 ふたりの背骨を下からドドドッと、勢いよく悪寒が駆け上がった。
 崖上の吊り橋を、追ってから逃げるように崩しながら。