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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第12輪 消滅したサンタ界

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

サンタ共が忙しい時はロクなことにならないわ 

 

               ――ラベンダー

 

サイケデリックな絵画の写真

 

オレとサンタは雪道を歩いていた。しんしんと降る雪の中を。

 

本来なら、赤いレンガ屋根の家が立ち並び――とか、

買い物をすませた婦人が急いで帰ろうと、馬のような表情で走っている――とか、

月の光が雪に反射して、銀色の世界を見事に作り出していた――とか、

宮殿へ向かう馬車の中、オレさまはお姫さまと楽しくおしゃべりしていた――とか、

オレさま好みの現実があるわけだが、残念ながらそうもいかない。

 

ここはサンタ界の入り口へ通じる道。オレとこのサンタ以外には

何もない、ただの雪道だ。木の一本さえ生えちゃいない。

それにこの道から落ちたらおしまいだ。道路ぐらいの幅はあるが、

宙に浮かんでいるからな。

 

(オレたちが住んでいる次元は、

非物質界、精霊界、霊界、他にもさまざまな呼ばれ方をされているが、

雑な言い方をするとどれも同じものだ。

人間たちがせかせかと暮らしている次元とは構造がちがうため、

道が橋みたいに宙に浮かぶことも可能ってわけだ。

え? 天国と地獄はあるのかって?

あると言えばあるし、ないと言えばないな。

しゃくぜんとしない顔だな……。

そういうのは何をもって天国と言うか、地獄と言うのかにもよるから

難しいんだ。人によってそれぞれイメージがちがうだろ?

いいか? 行き先を決めるのはいつだって自分だ。だれかじゃない。

死後の世界だろうといまの人生だろうとな。

フゥ、オレさま超カッコイイこと言った!

ちなみに死後の世界そのものを否定しているヤツは、しばらく無になる。

世界も自分すらも、全てが何もないと思っているから無の世界へ行くんだ。

ここにあるんだ、いるんだと、気づけるまでずっと。

この期間もそいつ次第だな。

あれはとなりで見ていて滑稽だし、恥ずかしいぞ! んくくっ。

おっと、思いだしちまった。

そういうことにならないように宗教があるのに……マヌケだな。

ま、それはそれでいい経験なんじゃないか by オレンジ)

 

「なあ、いくらなんでもあれは言い過ぎだ」

「いや、あれぐらいキツく言ったほうがいい。

マノンちゃんだっけ? ああいう霊能力が高い子は、特別な体験をしすぎて

自信過剰になる傾向がある。

今の内からキツく言っておくべきだ」

(部分的には)意外とよく考えてしゃべっているんだなと思い、黙っていたオレに

 このサンタはサンタ界の事情を話し始めた。

 

「さっきはあいまいなことしか話せなかったけど、

サンタ界はいま本当に忙しいんだ。もしサンタ界が消滅していて

プレゼントが配れないなんて事態になれば、恐ろしいことになる」

「どう恐ろしいことになるんだ?」

「それは世界機密だから言えないけど、人間にとって不味いことになる」

「ふ~ん」

サンタが横目でオレをみる。

「そうなったら、植物界にだってとばっちりがくるんだぞ」

 

(ま、人間さまの気分が悪い時はたいてい自然界は大打撃を受けているが

……もう慣れた)

 

「サンタ共が忙しい時はロクなことにならないって言葉があるが、

本当なんだな」

 

(サンタっていうのは精霊界で配達業者を意味する言葉。

だが、人間界ではどうやら聖人を意味する言葉になるんだから、

面白いだろ? タダでプレゼントをくれるわけだから、

人間からしたら聖人と変わらないんだろう。

そうそう、日本語で道路を反対から読むと、英語で同じ意味の言葉になる。

不思議だよな。なんでそうなったかオレは知ってるケド。

話が脱線しちまったな。

植物界や人間界といった各世界への配達がサンタの仕事で、もちろん人間には

子供だろうと大人だろうと届けてくれる。

どの世界への配達が忙しいかにもよるが、人間界への配達が忙しいという

うわさがたつと……

オレの周りの精霊はみんなげんなりしていた。

大きな戦争とか、歴史的な大事件が起こると言われているらしい。

考えたくもない)

 

サンタは真面目な顔になる。

「地球人類の未来と関わっている仕事だから。

話したくても言えないことがたくさんあるんだ。悪いね」

「……オレたちはひたすら我慢して、人間がやらかしすぎないように見守り、

おまえたちは次の時代へ人間をサポートする。なんだか、悲しいよな」

オレが寂しそうにグチを言うと、サンタはうすく笑った。

 

「言うなよ」

「ま、人間から一番蹂躙されている割に、

周りの世界に一番迷惑かけているのも植物界だけどな!」

「アハハハハ!」

オレのおどけた言葉にサンタは大笑いした。お、意外といける口か?

 

(ここだけの話、サンタの笑い声は心地よかった。

オレの周りの精霊――ラベンダーとかペパーにあんなこと言ったら、

顔をゆがめられたからな。ティーツリーに言ったら泣いちまったし、

ゼラニウムはなんだかよくわからない反応だった。

けっこういい冗談だと思うんだけどな。

だから植物界のグチを言ってこのサンタが大笑いしてくれたのは、

かなり心地よかったし、ストレスが発散された)

 

「今回も君たちのせいじゃないとイイけどね」

サンタは攻撃的におどけてみせた。

肉食獣のように歯を見せ、しわを作り笑った顔にはオレも大笑いしたかったが――

「そう切り返されると、正直……申し訳ないと思う」

「いや、俺のほうこそごめん、オレンジ」

 

しばらくおたがい黙ったまま、雪道を歩いた。

気まずくはなかったし、ラベンダーの部屋にいた時よりもこのサンタとは

打ち解けた気がする。ま、木のせいだけどな。

なんとなくこのサンタは気にくわない。

 

オレたちが歩く雪道は一直線に伸びていたが、

他にも何本かの雪道があり、上がり坂だったり下り坂だったり、

くねっていたり、カーブしていたり、いろんな雪道があった。

だが、近くの雪道からはどれもヒトの気配は感じられなかった。

 

灰色の世界の上空には、緑色、ピンク色、紫色やオレンジ色など

色あざやかなオーロラがカーテンのように揺らめいており、美しい。

オーロラの、ドレスの女性が歩くような、まるで誘っている動きに

見とれていると、どうやら目的地の場所へ着いたようだった。

 

サンタが立ち止まり、こちらを振り返る。「ここだ」

 

オレの中で危険を察知する警報がビービーわめいている。

ラベンダーに来た依頼という時点で、

やはりとっとと降りるべきだったのかもしれない。

 

オレたちの前には、ムリヤリ引きちぎられた空間があり、

その先の世界がなくなっている。

 

実物を見てもらったほうが読者にもわかりやすいとは思うが、

実際にそうとしか言えないのだからしょうがない。

 

ちょっとちがうかもしれないが、

水面に広がる波紋とか、割れたガラスを想像してもらえれば

わかりやすいかもしれない。

 

とにかく空間がぶっ壊れ、究極的にひずんでいて、

これ以上進めない状況になっていた。

 

オレの体温は雪の寒さを感じるほどに下がっていた。

「……サンタ……サンタ界はもう……消滅している」

 

サンタの目は色を失っており、うつろだった。

「まだ、わからないだろ、ちゃんと調査して確認しないと――」

「ここにはもうサンタ界は、存在しないことは、

ひと目でわかる。だれかに頼んでも、どうにもならない」

 

オレが現実を突きつけると、サンタはヒザから崩れ落ち――

 

「アぁああっぁぁぁぁぁぁぁああぁああああああァァァァ」