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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第18輪 サンタ界の落下地点

本当にラヴァンドゥラをやるのか? 顔色悪いぞ、大丈夫か? 

 

         ――三太(『――が悪の華』より抜粋)

 

ハロウィンの女性の写真

 

「待たせたな三太」

「遅いぞオレンジ!」

「おいおい、こっちはマノンを連れているんだぞ!」

 

反対を見れば熱帯気候の暑い空気がゆがめた背の高い木々。

もう片方を見れば、ほとんど水しぶきで下の川が見えなくなった滝。

長い半円状の滝はかなり高い所から落ちており、もくもくと宙へ舞い上がる水しぶき

がこちらまで飛んでくる。

 

「それにしてもどうしてそんなにびしょ濡れなんだ?」

「べつにいいだろ」と三太は慌てて答えた。

「なるほど、つまりこういうことか、オレが渡したアドレスのことを忘れて

あの豪雨の中を探していたな?」

「うるさい、帰れ!」

「あ、わかった、もう帰る」

「戻ってこい! サンタ界を救え!!」

「ワガママか!」

「うるさい!」

 

オレと三太のやりとりを見てあきれているマノンに、オレは

話しかける。

「マノン、サンタ界に一緒に行くか?」

「え?」

 

そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。

マノンはデメキンみたいな目でこちらを見てくる。

正直、その顔はかわいいとは思えないな。

「足手まといだけど、ぼくもそのほうがいいと思う」

三太の言葉に一瞬すごい顔を見せたマノンは、

なんとか感情を押さえてオレに訊いてきた。

 

(具体的にどういう顔かというと、目をグレイのように大きく開き、

レプティリアンのようにぎょろつかせ、今にも飛び掛かりそうだった。

女は怒らせるべきじゃない by オレンジ)

 

「どうして? 危ないからダメなんじゃないの?」

「相当危険だから、本当は帰ってほしいと思っている。

だがマノン、おまえをひとりで元の人間界に帰らすほうがいまは危険なんだ」

「どうして?」

「サンタ界の状況がわからない以上、サンタ界を見つける時間を長引かせるのは、

得策じゃない。だからオレたちはおまえにひとりで帰ってほしいんだが、

サンタ界を陥れたやつ、あるいはその仲間に人質に取られる可能性がある。

いざというとき、オレたちはおまえを見捨てなければならない」

「……」

「危ないって最初に言われただろ?」

「うん」

「おまえに拒否権はないが、

オレは紳士だから、一応おまえの顔を立てることにするよ。

オレと一緒にサンタ界へ来るか?」

 

赤い髪の未熟な小娘は、自分の無力さゆえ恥ずかしいのか、

ただ単純にうれしいのか、顔を赤らめながら、うんとうなずいた。

 

「わたし、一緒に行く。覚悟を決めるわ。

世界を救うって、そういうことよね。

女の子をやめるわ! 女になる!」

 

きょとんとしたオレと三太は互いに顔を見合わせながら、

大笑いした。

「なんで笑うのよ!!」

 

ノドが潰れそうな声でうなるマノンは不服そうだ。

将来こいつは、どんな花を咲かせるんだろうな――っと。

そういや人間だったな。惜しい逸材だ。

 

ふたたびコンゴウインコとハヤブサ、ニワトリに変身したオレたちは

この世界の出口を探してレイラインにもどることにしたが、

その途中で恐ろしい光景を目の当たりにすることになった。

 

最初オレたちは、付近で一番大きな遺跡へ向かって飛んでいた。

「オレンジ、ここはどういう世界だと思う?」三太が訊いてきた。

「そうだな、パラレルワールドか異世界だろうな。地球であることは確かだが、

地域まではわからない」

「遺跡があるってことは、原住民もいるのかな?」

次はマノンが訊いてくる。

あいかわらず翼がよれたニワトリの格好で、飛ぶのに苦労している。

やれやれ、これじゃあ、レイラインを飛んでいるうちに溶けて転生ルートだな。

マノンは次は何に生まれ変わるんだろうな?

一旦ガトフォセ家にもどってマノンを置いてきたほうが早いか?

 

時間は惜しい。

オレたちの未来も、人間界の未来も、なかなかにして不安定だ。

 

「それもわからない。あたりから人の気配を感じないからな。

ひょっとすると、すでに滅んじまったりしてな」

 

オレはイジワルに翼をひらひらさせ、笑いながら後ろのマノンを見た。

マノンは予想通り怒った顔になって目を背けた。

 

「あっはっはっはっは!」

「枯れちまえ!」

「うわ、ひどい、オレはただ、人間さまが滅んじまったって言っただけなのに」

「うるせー!」

「ま、日頃の行いが悪いから、浄化されちまったんだろうなぁ」

「死ね!! 枯れちまえ!! アンタなんかダイッキライ!!!!!」

 

ちょっとふざけただけじゃん、人間はすぐ泣くからイヤだ。

オレたちがおまえらから受けた痛みに比べたら、蚊に刺されたぐらいじゃん。

人間はおおげさ。オーバーリアクション。

 

「オレンジ!!」

三太が声を荒げている。

なんだよ、世界の危機でも、女の子といちゃいちゃするぐらい

べつにいいだろ。緊張のしすぎはパフォーマンスの低下を招くんだぞ!

わかってるのか三太!

小さなこどもサンタに逆に注意してやろうと思ったが、

三太はどうやら、ふざけている場合じゃないと注意してきたのではなかった。

心を読んだ限りでは、どちらかというとマノンが泣いて、清々しているようだった。

こんなふたりとパーティーを組まなければいけないとは、

マノンの人生は少しだけハードモードらしいな。

 

(能力のある人間の人生は、少しだけハードモードに設定されているらしい。

以前会った輪廻転生システム技術担当者から聞いたことがある。

それを乗り越えることで成功を得るとか得ないとか。

……正直なところ眠かったからあまり聞いてなかった。

悪いな。オレはいつも仕事で疲れてるんだ。寝れるときには寝たい。

人間が輪廻転生する仕組みを夢の中で見学に行ったこともあったが、

起きたら全部忘れた。寝ている時まで仕事なんて、バカらしいだろ?

なんで上の次元にわざわざ出向いて、勉強しないといけないんだか。

睡眠中ぐらい休ませてくれよ。

あ――ちなみにオレさまの人生は、宇宙レベルでメジャーリーグに行けるぐらい

過酷って、上の次元のヒトに言われた……いますぐ転生しようかなぁ by オレンジ)

 

「あれ!? あれ!!? あれェ!!」

「うるさいぞ三太、なん――」

 

だと…………

 

目的の遺跡はあった。あそこに出口のレイラインが流れている。

問題はその裏だ。

遺跡のちょうど後ろから、見える範囲すべての土地が、無くなっている。

まるで崖のように深い闇に覆われているが、問題は規模のでかさだ。

左から右まで、見える範囲すべてがぴったり遺跡の後ろからなくなっている。

 

……。

 

穴が、穴が開いているなんてレベルじゃない。

海だ。黒い海のように見渡す限り、何もない。

 

「なんだこりゃ」

 

オレの胸に思いっきり恐怖が押し寄せてきた。

しかし、オレさまはなんてったってオレンジの精霊だ。

そんなもんは効かない。

通常ならここで、読者が身をよじるような恐ろしい心情描写を

いっくんが書くだろうが――原発、原子爆弾、魔女狩り、黒死病、世界大戦、

銀河大戦、ニンゲンに対する神霊たちの不満級のストレスを読者に

ぶちかますだろうが、オレンジさまには恐怖はあまり効かないのだ。

昼ドラ大好きな諸君、残念だったな。

ラベンダーとか、ペパーのばあちゃんとか、他の精霊に期待してくれ。

 

 「どんな自然現象があったらこうなるんだよ!?」

あまりの光景に三太がパニック状態になりかけている。

 

マノンに関しては、声すら出せないほど頭が真っ白になっている。

 

オレは香りをふりまいて三太とマノンを落ち着かせると、言った。

「サンタ界だ」

 

ふたりはオレの顔をじっと見た。

「いま霊視したが、マイナデスアルコールがただよっている。

偶然にも、オレたちはサンタ界が落ちたルートを発見したわけだ」

 

そこで言葉を切り、マノンを見つめた。まだ涙を流している。

「ありがとうマノン。偶然だが、おまえのおかげでサンタ界の

行き先がはっきりわかった。おまえが来てくれて、良かった。

ありがとう」

マノンとオレは見つめ合った。

 

「いや、マイナデスアルコールの匂いをたどっていれば、

すぐわかったことじゃん」

三太はしれっと言った。

 

このガキっ……!

せっかくオレが、泣いてしまったマノンをなんとかしようとしていたのに!!

まったく余計なことを……!

そんなことはオレだってわかっている!

だが、言い方を変えればマノンを慰められるだろうが!!

女心がわからんのかい!!

 

「三太、いまおまえに対してマノンがなんて思っているか、教えてやろうか?」

「死ねばいいのに! でしょ?」

「ふたりとも、ヒトの心を勝手に読まないで!」

「すまんがマノン、オレたちは霊なんだ! 

頑張らない限り、心の情報が入ってくる」

「がんばれよ!」

「めんどうくさい」

「わたしには読めないもん!」

「そりゃだって、閉心術を使っているからな」

「なにそれ! ずるい!」

「ラベンダーに教えてもらえよ!」

「いけないことだってさっき怒ったじゃない!」

 

「ねえケンカしてないで急いでよ!! 

サンタが全滅したらおまえら全生恨むからな! この先何に生まれ変わっても!」

 

三太の言葉に我に返ったオレたちは、全速力――とはいかなかったが、

それなりの速度で降下していった。マノンがいるせいであまり急げない。

 

さあ、次回はいよいよサンタ界突入か?

サンタ共、全滅してないといいがな。

もしそうだったら、これから霊能力者にサンタはいるのかと質問されたとき、

ちょっと前に滅んだって答えなくちゃならない。