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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

子供と信頼関係を結ぶには、部分的でもいいからまずは信じてあげること。

ぼくと赤オニちゃん

昨日は大火くんが来た。

朝のミーティングの時、スタッフは絶対にひとり大火くんに

ついてくださいと管理者から言われた。

衝動的に何をするのかわからないし、誰かがケガをしてしまうかもしれないし、

壁か何かが壊れるかもしれない。

 

だが、そんな事態にはならなかった。

昨日の大火くんはむしろ、その逆だった。

 

一昨日の来室時に大火くんはモンスターハンターが大好きという

ことを知り、意識したわけではないが(むしろ忘れていた)、

ぼくは自然と大火くんとその日会ったときから、モンハンの話をして

盛り上がっていた。

 

教室に着いてもずっとモンハンの話を1対1で

ぼくと大火くんはして、その日は終わった。

大火くんの目はキラキラしていて、機嫌がすごく良かった。

 

なにより感動したのは、悪いことだとわかっていても

衝動的に人を傷つけてしまう大火くんが、

春くんとシャチくんの喧嘩を仲裁したことだ。

事の始まりはこうだ。

 

春くんはひとりで人生ゲームをして楽しんでいた。

そこにシャチくんが入ってきて、オレもやりたいと

春くんのコマを勝手に取ってスタート地点に戻してしまったのだ。

小学1年生の春くんは「ぁあ~、やだ~!」

小学3年生のシャチくんは「だめ! はじめっからやるの!」

シャチくんは名前のとおり無邪気で元気がありあまっているし、

年齢的にもシャチくんは力が強いので、力ずくのケンカになったら

春くんは一方的にやられてしまう。

ぼくがモンハンの話をやめてケンカを止めようとしたら、

5年生の大火くんがサッとこういう言ったのだった。

「おい春は一年生なんだからやめろよ!」

 

うぉぉぉおおおおおおおおお!!!

感動したよ大火くん!!

 

いっくんは間違ってた!! いっくんが悪かった!!

そういうことができる子だったんだ!!

ぇぇぇぇええええ!!

ごめん大火くん、本当にいっくんが間違ってた!!!

うわぁぁぁぁぁぁ。

もうごめんなさい!! 反省します!!

いっくんは気づきました!

 

子供と信頼関係を結ぶには、まずは信じてあげることだと!

 

考えてみれば、ぼくは施設という限られた空間、決まった時間内での

大火くんしか知らない。

施設内だけでしかその子のことを知らないのに、

(それでだいたい――いや、半分以上まで理解できる子もいるけど)

理解した気になってたよ。

 

気づかせてくれてありがとう!

(でも、女の子の前でチンコ出したりマンションの管理人に

ケンカ売るのはやめて。かなり目をつけられているから)

 

ではもう一度感動の言葉を繰り返してみよう。

大火くん「おい春は1年生なんだからやめろよ!」

 

その言葉を妖精ちゃんにも言ってあげればなぁ……。

妖精ちゃんというのは「にゅ」が口癖の1年生の女の子。

大火くんがバットを勢いよく振り回したり、

部屋の半分を占領したドッジボールで

飛んできたボールがかすめたり、

大火くんの暴れっぷりに刺激されたりして

しょっちゅう泣いてしまう女の子。

 

大火くん「へ! 泣き虫妖精!! おまえってすぐ泣くよな!」

いっくん「まだ妖精ちゃん1年生なんだよ!?」

大火くん「知らないね。知らなーい」

 

あの大火くんが、

「おい春は1年生なんだからやめろよ」

いや感動だわ。感動しかないわ。

 

 

 

でもこの日、大火くんは本当はもっとイライラを周りにぶつけていても

おかしくはなかった。

 

この日ぼくは、管理者の車に同乗して1年生の春くんと星くんを

学校に迎えに行っていた。

そして施設へ戻る途中、社用携帯が鳴った。

他の教室の人からだ。

どうやら人出不足で、同乗にひとり貸してほしいと。

基本的にはドライバーだけで子供たちを送迎することはない。

もし子供たちがケンカになった場合、何かイタズラをした場合、

止める人がいないからだ。

ただこの業界は人手不足なので、児童の特性をみて

静かな子たちなら、やむなくひとりだけで行く場合もある。

(ホントはダメだし、できるならスタッフがもうひとり同乗する

べきだが、しょせん理想である)

 

そしてぼくの所属する施設のエリアには、同じ会社の他の教室も

密集しているので、車を節約するために各教室で、

他教室の子もいっしょに車にのせて、それぞれの施設へ連れて行くのだ。

 

さっき電話をかけてきたスタッフは、そのスタッフの教室の子と、

うちの大火くんを迎えに行く予定なので、

本日の大火くんの様子を考えると、

やはりぼくは天に味方されているらしい。

もしこのとき、ぼくが大火くんを迎えに行っていなかったとなると、

……ま、妖精ちゃんが泣いたり、シャチくんが

チンコ蹴られたり背中に何度も肘鉄喰らったりしていたかもしれない。

 

そしてぼくは15時20分には、大火くんを迎えるために

学校の昇降口に立っていた。

しかし大火くんはなかなかやってこなかった。

……おかしい。確かに送迎表を見る限り、15:20分に大火くんの

クラスは帰りの会を終えるので、出てくるはずなのだ。

しかし来ない。

もう35分を過ぎている。

今日はこの学校が最後だったから良かったものの、

もしまだ他の学校に迎えに行かなければならなかった場合、

かなり怖い。

ひまわり学級や仲良し学級だったら先生が児童と手をつないで

出てきてくれるからいいが、

普通級だったらマズい。児童がひとりで門まで来て、車を待つからだ。

ケースとしては、待ちくたびれた児童が

そのままどこかに行ってしまうこともあるらしい。

あるいは、今日は何もない日だと勘違いして家に帰るとか。

 

けっきょく大火くんが出てきたのは、

40分近くになってからだった。

大火くんと一緒に出てきた先生に訳を聞くと、

5時間目の授業を一切受けず、ずっとチャンバラごっこをしていたらしい。

それでキツく叱られた上に、

ちゃんと帰りの挨拶ができるまで残らされたと。

お―――い!!大火ァ! なにやってるんだぁぁぁ!??

 

大火くん「言っとくけど遅れたのこいつのせいだからね、オレ悪くない」

いっくん「先生に向かってこいつって言わない!(おまえはオレか!)」

先生「本当にすいません」

いっくん「ほら、先生にバイバイって言って(言葉間違えちゃった)」

大火くん「バイバイ」

いっくん「さようなら」

 

そしてぼくらは、

5分間はタダになるコインパーキングに出たり入ったりしていた

車へと向かった。

(会社からちゃんとお金は出るのだが、1か月の療育活動で使える

お金が2000円と決まっているため、こういうところで

うまくやりくりしているのかもしれない。

だから折り紙もビーズもガムテープも、

子供たちにあまり多くは使わせてあげられない)

 

そして車の中で大火くんとぼくはモンハンの話をしていた。

大火くんはモンハンの4を近所のゲームショップで

10個も大人買いしたらしい。

ひとつ560円だから、約5600円。

遊んでいるときに友達に貸して、通信するんだと。

賢い。

しかもいまのモンハンは、40人のプレイヤーでモンスターを討伐に

行けるらしい。ぼくが高校生の頃は4人までだったのに。

最近はすごいなぁ(ぼくがこんなセリフを言うとは)。

マンションの入り口を入ってエレベーターに乗り、2階の施設に

行くまでの間、大火くんとは絶対に手を離さないように

管理者から言われているが、ぼくは大火くんと

手を繋がなかった。

車の中でモンハンの話をしていた時間は15、6分ぐらいだけれど、

大火くんを信用するには十分な時間だった。

それに大火くんも夢中になって、

マンション内でモンハンの話をしていたので、

ぼくは手を繋がなかった。

犬みたいに彼を繋いでおくのはもうイヤだからだ。

もちろんこれで大火くんが急に走り出して何かイタズラを

したら、ぼくのせいになるけど、

児童との関わりはケース・バイ・ケース。

そのときの状況やその子の特性にもよるし、

あえて自由にさせてみることも大切だと思ったのだ。

あれもダメ、これもダメでなにもかも縛りつけたら、

反発もすごいよ。そりゃあ。

できるところまでは、自由にさせてあげたいと感じた。

 

そして教室に着いたぼくたち。

ちなみに今日の療育活動はおやつ選びで、

テーブルの上に並べられたおやつを4つ選ぶことができる。

大火くんは列に並んでいるときも、問題を起こすことはなかった。

ぼくは大丈夫かなと心配したけど。

そして帰るまでの1時間、ぼくたちは、モンハンの話をした。

今どきのモンハンって、進撃の巨人の調査兵団みたいに

ワイヤーで空を飛んだりできるらしい。それすごくね!?

 

帰りのあいさつをするとき、妖精ちゃんがこう言った。

妖精ちゃん「今日は遊べなかったね」

ぼく「そうだねー、ごめんね(君が泣かなくてよかったよ)」

妖精ちゃん「あしたは遊ぼう?」

ぼく「うん、あした遊ぼうね(ごめんね、明日も大火くんに付きっ切りなんだ)」

 

児童が帰ったあとに、

先輩スタッフたちからぼくは褒めちぎられた。

「今日は大火おとなしかったね、なんで!?」

「いっくんすごーい!!」

ぼくはもちろん調子に乗ったとさ。

 

おしまい。

 

大火かわいい!