のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

銀狐と藤 ――とある時代の1コマ――

日の本の国。

 

聖霊の住まう世界、富士神界には――

 

香草院と呼ばれる花の聖霊の学校があった。

 

広大な敷地内にある建物はみな、

太古のムー文明からずっと受け継いできた日本の

伝統と趣を凝らした造りだったが、

ひとつだけとても質素な建物があった。

 

必要最低限の広さの庵(いおり)は

無駄な機能を一切はぶいており、

さっき建てましたとでも言わんばかりの簡単な設計だった。

 

「オー! リー! バー! ナー! ム~~~!」

 

顔をまくらにうずめながら、ついでに足をバタバタさせちゃったりして

いるのは、この香草院で一番偉い霊の銀狐だ。

 

着物が乱れるのも構わず、彼は寝っ転がってもがもがと叫んでいる。

 

「オー! リー! バー! ナー! ム~~~!」

 

ふたたび枕に、口から放たれた鬱屈とした衝動が吸収された。

こもった響きの叫びを聞いて、藤が苦笑する。

 

「オリバナム殿がどうかしたんですか?」

 

しかし銀狐は無視した。

 

「オー! リー! バー! ナー! ム~~~!」

 

息を食らった枕がブババと音をたてる。

 

「……」

「……」

「いや、オリバナムは何もしていない。

ただオリバナムって叫びたかっただけ」

 

よだれを若干たらしそうになりながら銀狐は言った。

 

チリーン。鈴が鳴る。

 

「銀狐殿、失礼いたします」

 

柳がしょうじを開けると、

なぜかたたみに書類が散らばっておりその中央に枕が転がっていたのだが、

 

銀狐と藤は何も起こっていないかのようにじっとこちらを見据えている。

背筋を伸ばし、なぜか正座してこちらを見ている。

 

「さて、報告を聞こうか」

 

銀狐の重たい口が開くと、柳は疑問を飲みこみ重要な案件について話し始めた。

 

「徳川幕府の終了時期ですが……」