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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第10話 ハーデス、パピー、待ってくれ!

ラベンダーさんと征服の草Ⅰ アトランティスへの不満


 ミルラ、ミンテ、見てごらん。ほら、かわいい赤ちゃんだろ? 今朝生まれたんだ。
 もし良かったら、名前をつけてくれないかな?

              ――ハーデス

 

「『銀の狐』の名において命ず――消え失せろ」


 パンッ


 柏手をひとつ、『銀の狐』がした時には、ハーデスを含む周りの変なのは、全部消えていた。
「ここは『日の昇る評議会』――地球の環境を見守る場だ。評議会の邪魔をする者は、この星の邪魔者。神であろうと精霊であろうと、邪魔者は容赦なく消す。無論、〝至上主義者〟共もな!」


 ――――――――は?


 時間が止まった。     え?     なんだ?   
           
                            何をしたんだ? 
     。          。                  
                                、
     何やってるんだ――。      ?    
                                         。。
    『銀の狐』殿!?             
                       何をしているんですかッ!?
        誰かが    ??
                   。             え   
         
         の    叫んでる          悲鳴
               きゃああああぁぁぁぁ     、       
  ハーデス?  ケルベロス?

   今、詠唱をして……
                         思考を止めろ!     
考えるな私!!
      止まれ!         ハーデスッ!!!     嘘だろ!!!!


「わ、何を、お前、神を――」

 ――――汗が、鼓動が、え、? なんだこれ?  え? 頭が、止まれッ考えるな!!

 ――私の脳裏に文明の沈む大陸のクローン奴隷の遺伝子交配の核兵器の飢え死にの原子炉の凍りついた大地の真昼なのに赤くなる空の、『魔界の根』パピポピプラの、『ガソリンツリー』の、あの恐ろしい光景が一気にフラッシュバックする。
「うっ―――」
「ミルラ、大丈夫か!?」  
 『真の薫香』、いや、オリバナムが、私の、背中に、手を当てて、ヒーリングをして、くれる。
 私は、思い知った。これがアロマ連合のサブ・グランド・マスター、『銀の狐』という、男だった。
 ある意味恐ろしいのは、〝植物至上主義者〟でもなく、人間でもなく、疫病でも、パピポピプラでも、レプティリアンでもなく。
 悪魔でもルシファーでもなく、『ガソリンツリー』でもなく――…………――

 ――――コイツだ……
 
 今、倒れるわけにはいかない……っ。 
 はっ、はっ、く、動悸が、くッ、治まれ、治まれ! イメージしろ! 緑を! ピンクをイメージしろ! 私は、私を愛している!!!

 ハーデス、パピー、待ってくれ! 
 偉大な神がひとり、消えた。霊体が傷ついたとか、倒れたとか、じゃなく、ただ、無に消えた。
 あとかたもなく、消滅した。
 冥府の頂点に立つ神だぞ!? いくら実力があるとはいえ、なぜそんなことが出来るんだ!!? しかも、礼名詠唱だけで!!
 天使たちがバタバタと気絶して、龍たちすらも、彼の行動には唖然としていた。
 事態を呑みこんだ者から、どんどん不安に襲われていく。
 会議場中が、アロマ連合サブ・グランド・マスターの狂気の沙汰に、騒然としていた。
「きゃあああああああ」
「こ、殺――」
「は、ハーデスさま!?」
「冥王さまあああ!!」
「『銀の狐』殿! 何を考えているんですか!?」
「ッ!! ――うっえッ」
「貴様ァアアアアアア!? 殺すッ!! 殺す!!」
「ほう。やれるものなら掛かって来なさい」
 女性のけたたましい叫び声が耳をつんざき、事を理解した冥府の官僚たちがパニック状態になった。
 特別会議場はもう、議論の場ではなくなっていた。
 ひとりの神が殺される。一体誰が、そんなこと、予想できただろうか。
 しかも、よりにもよって、『日の昇る評議会』で、あのハーデスが……!!
 もう、評議会を続けるべきではない。それどころではない。
 私がそう判断し、どうやってこの騒動を収めるべきか思案を巡らせた時――
「静まらんかあああああ!!」
 慌てふためき理性を失っていた精霊たちが、一瞬にして制止した。
 大声の主は私の隣――オリバナムだ。
「『銀の狐』、やり過ぎだ! なにもハーデスを、殺すことはなかっただろう!」 
 オリバナムが『銀の狐』を強く睨む。
「『真の薫香』殿、私は殺してなどいませんよ。ただ彼らの魂を、宇宙の根源へと返しただけです」
「それを殺すと言うのだ!」
「? 何を怒っているのですか? まあ、個性という意味では確かに殺しましたが、魂は死なない。ただ、宇宙の根源へと返しただけですよ?」
 『銀の狐』は、何がおかしいのか分からないという風だ。
 悪びれている訳でも、怒っている訳でもなく、ただ、子供のように困った顔をしている。
「この大切な評議会の場で――地球の今後、奴隷解放、疫病共、〝植物至上主義者〟の問題を話し合っている最中に! ずっと! 犬と戯れていた。今の地球がどういう状態なのか、そんなことも分からず緊張感すら持たない神なら、とっとと根源へと還したほうが地球のためです」
 私はもう、コイツという精霊が信じられなかった。
 今まで何かと対立してきたし、激しい論戦を繰り広げぶつかってきたが、それでも心のどこかでは、この美しい星を守る同志だと思っていた。
 しかし、過激すぎる。
 彼は傍聴席から円卓テーブルまで、大広間にいる神、精霊をぐるりと見まわした。
「もう、七度目の文明になってしまった。人類は何度滅びてもやり直せるが、この地球という星が無くなったら、どうするつもりですか? 他の罪のない生き物まで巻き添えになるんですよ!? 物質界で生きる人類は、また地球と同じ環境の星を探すことになるんですよ!? 運よく見つけたとしても、そこに先住民がいたら? 争うのですか? 馬鹿馬鹿しい! 意識の低いものは、何をされても文句は言えまい」
 冥府の王として、死後の魂の行き先や輪廻転生先を斡旋する神、ハーデス。
 動物好きで、温かい人柄で、部下からも慕われてて。原子力発電や核エネルギー、核兵器に対しての危険性も、各神界で本当に熱い講演会を開いていて。
 そんな、評議会中に犬と遊んでて殺されたなんて、彼の部下たちになんて言えばいいんだ!? 確かにハーデスも悪いが、やり過ぎだ!
「俺ァやっぱりミルっちを支持するぜ!」
「私も『没薬』殿を支持する」
 そこで、気心の知れた仲間たちの声が聞こえてきた。なんだかずいぶん昔のように、懐かしく感じるな。
 評議会がこんな状態だっていうのに、まだそんなこと言っているのか。相変わらず空気の読めないやつらだ。私にもそのふてぶてしさ、分けて欲しいよ。
「俺たちゃ植物なんだぜ? 疫病共を衛生班に任せて放っとくならまだしも、力を借りて問題を解決? おいおい、てめぇら何ヘタれたこと言ってんだよ! そんな情けねえこと言ってるようじゃ、〝至上主義者〟だって疑われてブッ枯らされても、文句ァ言えねえよなァ?」
「『魔法の粉』の言うとおりだ。悪を正すために、ポックスやチュバキュローシスのような憎悪の塊を利用してぶつけていては、なんの解決にもならない。それどころか、より大きな憎しみが生まれるだけだ。今の地球人のレベルはまだ幼稚園児レベルなんだから、愛を持って優しく、諭すようにせんといかん」
 シナモン! サンダー! ありがとう。
 でも今は議会中だ、シナモン。そんな恥ずかしい呼び方するんじゃない。ミンテといいお前といい、どうして私の後輩は……まったく。
「ぼくも『没薬』殿の考えに賛成だ。〝植物至上主義者〟を甘く見てはいけない。それにしても、疫病を利用して民族問題を解決ねぇ? 『銀の狐』、『海賊』、本気で言ってるの? ぼくたちは植物だよ? そんな方法枯れてもヤダね。それと『退魔の草』。キミは、苦しんでいるから早く疫病を中に入れるべきだと、言っていたね。馬花なの? 甘い考えはミルラじゃなくて、お前だよ。苦しみなくして成長なんかできない、植物も人間もね。踏まれれば踏まれるほど、強く育っていくんだ。ぼくたちが一生懸命水や肥料をあげれば良いってもんじゃない、解決するのは――自分たちを救うのは、あくまでユダヤ人自身だ」
 カモミール!! 
 連合の心強いマスターたちが私に賛同してくれた。さっきの『銀の狐』の暴挙もあってか、次々と私の迎撃案に賛同してくれる精霊たちが現れ始めた。


 私も『没薬』殿に賛成です


               僕も『没薬』殿に                
    
           俺も           僕らも                 
     アタシも
              ぜひ撃退しましょう!                                              
                                      私も      
     
         『没薬』殿に賛成             

                         『没薬』殿に  
       この案には明日がある、賛成です             作者も


     あなたのやり方を信じます       我々もあなたの案に賛成です

    『没薬』殿の案、九理あるね。賛成だ
                私たちも、この案を支持します
僕らも『没薬』殿の案が良いです

      未来――それは、成すがままでしょうなぁ、賛成です
                   しょうがない、俺も賛成だ

            バカなくらい甘い案だけど、賛成
  この雰囲気、ビックリだわ、私も賛成
            アッハッハッ、アタシもうほんっとムリ、耐えられない!
               
   みんなずるいヨ、私も。ニンジンだけど――あっ、ゴメンぶたないで作者さん
    俺は、なにも言えな……あ、大混生ぶほッ
                  ふぅー、骨が折れたよ、おかげで胃腸が痛ガッ
                                お前は我慢しろ!


 円卓テーブルのマスターたちだけでなく、オブザーバーの精霊や神たちまで、私の支持を表明してくれた。
 はぁ~っ。力んでた力が一気に抜ける。
 な、なんとか、迎撃案に持って来れたっ。           
「もうだいぶ意見も出そろったようじゃな。一応訊いておくが、まだ迎撃案に異議のあるものはおるかの?」オリバナムが声を張り上げる。
 この状況に『銀の狐』は、かなり不服そうだった。そりゃそうだ。
 野球でたとえれば(知らない人はゴメンな)、8点持ってて勝ちの決まった試合だったのに、最後の九回裏で10点も取られて逆転負けしたようなもんだ。まあ、クローバーだったらきっと、300点ぐらいは取れそうだな。あっはは――――はぁ~~~。
 よかった。寿命が縮んだというか、魂がいくつあっても足りない議論だ。本当に……
 そしてさすがの『銀の狐』も、オリバナムの声には黙ったままだった。この状況を覆すのは無理だと判断したらしい。 
「では――『没薬』の迎撃案に、決定とする!」
 よっしゃァ!
 オリバナムがそう締めくくり、世界大戦、いや、地球大混乱時代、いや、銀河大戦(誇張かな? でもそれぐらいドス黒い内容だったよ)のような長くひどい議論に、ようやく終止符が打たれた。
 ミカエルやウリエルたちが、とてもハッピーな表情でこちらを見てくる。
 おいおい、よしてくれよ。惚れちまいそうだぜ!
 シナモン、サンダー、カモミール、オリバナム、天使たち。それから他の精霊たちも、ありがとう。会議場中の空間が、なんだか温かい黄色に染まっているみたいだ。
 あ~~~、ほっと――してる場合じゃない!
 ダンッッッ!! 勢いづけてテーブルを叩く。
「待て! コイツは、『銀の狐』はハーデスを――神をひとりと精霊をふたり殺した(あと犬二匹、または四頭)。しかるべく処罰するべきだ」私は向かいにいる『銀の狐』を睨む。
「その件ですが」
 私の叫びに答えたのは、連合の長オリバナムでも、『銀の狐』でもなかった。だが、声の主を確認して安心する。
 声の主は――傍聴席にいる神、トトだ。
 人の姿にトキという鳥の頭をしていて(この姿が、好きみたいだ)、聡明な雰囲気を纏っている。
 アトランティス時代からの古い付き合いで、私が最も信頼を寄せる神だ。彼の言葉以上に、魂に響く言葉を発せられるヒトはいないだろう。

 ――しかし次の言葉を聞いて、私は耳を疑った

「『銀の狐』は確かにハーデスを殺しました。宇宙の根源へと還してしまいましたが、『日の昇る評議会』でのハーデスの行動に、問題があったことも確かです。『銀の狐』の言い分にも一理あるので、この件は不問とします。『銀の狐』、軽はずみな行動は今後、慎むように」

 は? え、嘘だろ!? な――――

 本当に、あのトトの言葉か? 誰かが偽ってトトに化けているんじゃないかと思い確認したが、間違いなくトトの魂の波動だ。本物だ。
「だ、そうですよ、『没薬』殿? 残念でしたねえ」
 この野郎!!? ニヤニヤと楽しそうに笑いやがって! ハーデスをッ! ハーデスを!
 今すぐ枯らしてやろうと思ったが、それはダメだ、周りへの影響がある。力を持ってるって、不便だ。しないけど、復讐するんだったら、弱いほうがよかった。
 ハーデス、ごめん。仇は取れなかったよ。
 せめて神話だけは、少し変えて後世に残してあげよう。三次元(人間界)の歴史や神話なんて偽りばかりだが(微妙に的を得ていたり、少ないが真実もある)、評議会中に犬と戯れてて殺された冥府の王なんて、あんまりだ。転生しても浮かばれないだろう(あのハーデスが転生とは、皮肉なもんだ)。

 ――任せておけ、カッコイイ神話にしてやるよ

 ミンテは――このことを知ったら、どうするんだろうな。あいつのことだ、すぐにでも『銀の狐』を枯らそうとするだろう、やりかねん。

 『征服の草』VS『銀の狐』  

 この両者が激突したら、周りへの影響が計り知れん。オリバナムや私、カモミールたちで仲裁するにしても、大規模な災害は免れんだろう。
 悔しいが、黙っておこう。
「ハーデスは、顔のそっくりなハーデスを新たに立てましょう。彼の一件につきましては、上のほうでも調整をしますので、今、『日の昇る評議会』にご出席中の皆さま方には、口外することを固く禁じます。よろしいですね?」
 なるほど、トトの真意を理解した。確かにそうだ、この件が冥界の精霊たちに知れれば、世界間での連携に乱れが生じる。そうなれば、地球とか、人類とか言ってる場合じゃない。
 しかし、『銀の狐』に注意だけでなんのお咎めもなしとは。これは奴のサブ・グランド・マスターという立場や、日本の今後を担っていることも関係があるのだろうな。  
 ぐッ。
 ケメトだけではなく、他の神界でも一目置かれている神、トト。彼の言葉に皆、同意を示し、ハーデスの件は幕を閉じたのであった。

 ――だがハーデス、私はお前を忘れないからな

「さて『没薬』殿、迎撃案が可決されましたが、具体的にはどうするおつもりですか? すでに衛生班をいくつか派遣して、このザマでしょう?」
 この野郎この野郎この野郎この野郎! まるで何事も無かったかのようにッ!! 澄ましやがって! トトが許しても、私は許さんからな!!!
「もうすぐ『征服の草』が帰ってきますよ」自分でも、冷静な口調で言えるのが不思議だった。
「『征服の草』だけで解決できると? 『黄金のリンゴ』殿も呼び戻したほうが良いのではありませんか?」
 ヤツの、どこまでも花を見くびった態度にイライラする私に、オリバナムが枝を貸してくれた(本当に枝を貸してくれた訳じゃないっていうのは、分かるよな?)。ブッ刺してやりたい気分だ、しないがな!
「いや、『銀の狐』、それには及ばん。『黄金のリンゴ』は今、アジア諸国を平定しておる、呼び戻す訳にはいかん。『征服の草』に指揮をとらせるとしよう」
「ふむ。その『征服の草』は、またどこぞで油を売っているようですね。先程の『締め殺しの木』の報告によれば、すでにアカデミー内にはいるようですが。今まで400年以上も休暇を取っていた花ですよ? そんな花が、働けるのですか? 『没薬』殿は確か、仲がよろしいですよね?」
 『銀の狐』のたっぷりと愛のこもった視線を受け流し、勢いのままに私は答える。
「もうすぐ来ますし、あいつは、やる時はやる女です。以前の大戦でも、そうだったでしょう?」

 そこで入口の大扉が開く音がした。

 ほらな。

 ――噂をすれば花が咲くというやつだ

 (これで違うやつだったら、恥ずかしいな……)