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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第16輪 豪雨の中で

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

オレンジはどこだ?

 

             ――三太

 

雨の中を飛ぶ鳥

 

オレンジは、体をかたむけ落ちていくニワトリの姿を見た。

「マズい!」

翼を下に向け急いで後を追うオレンジ。

後ろにいる三太に「マノンだ!」と状況を伝え、追いかけてゆく。

「オレンジ、止まれ!」

 

目の前を〈ドコドコさん〉が通り、オレンジの体が硬直する。

「――!!?」

 

しかし誰かが作った工作だとわかると、

オレンジは怒りのままに拳をにぎり爆破した。

 

マイナデスアルコールが反応して爆発する恐れがないとは言えなかったが、

この空間ではマイナデスアルコールの量はさっきの元サンタ界よりも

少ないとわかっていたので、オレンジは多少の躊躇をしながらも力を出した。

 

誰が捨てたのかわからないが、作り物の〈ドコドコさん〉に

時間を取られたオレンジはマノンを見失いかける。

「どこだ!?」

ようやく遠くに小さなニワトリを見つけたオレンジは、

レイラインを流れる物質に行く手を阻まれつつも、

徐々に距離を縮めていき――

 

「マノン!」

 

翼を伸ばしてマノンの体を――

 

確実に捕まえられる、そうオレンジが思ったとき。

 

オレンジの翼はかすった。急にマノンの体がオレンジの手をよけたのだ。

オレンジは吸引力が強くなったのを感じた。

マノンと自分の体が世界にひっぱられている。

視界がぶれ、円を描いているような、巨大な光が近づいてきた。

 

体を世界にひっぱられながら、なんとかマノンの体を捕まえると、

念力を使って後ろに思いっきり小さな箱を投げた。

とうとう白い光がふたりの体を包んだとき、

マノンを抱きこみオレンジは衝撃に備えていた。

 

 *:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ*:..。ōℱ

 

一文字の光が見えるとマノンは目を覚ました。

雷の轟音が鳴り、ビクっと体を震わす。

 

豪雨の音を聞きながら、天井の棒状に垂れ下がっている岩を見つめていると

声をかけられた。

「起きたか?」顔を向けるとオレンジがいた。

 

あわいベージュのジャケットを着ており、首元のボアが暖かそうだ。

下にはデニムパンツを履いている。

「どうして洞窟に?」

言いながらマノンは段々と意識がはっきりしてきて、何があったか思いだした。

 

「オレンジ!」

 

洞窟の奥へ一歩後ずさりするマノンに、オレンジはニヤついた。

「調子はどうだ? 気分はすぐれないようだな」

「! わたしだってわかってたんじゃないの!?」

かすれたうなり声が洞窟にこだました。

ホオジロザメのように凶悪な歯がズラリと並んだコンゴウインコに

食べられた恐怖がよみがえり、マノンはオレンジを責めたてた。

「わたしがいなくなれば、オレンジはラベンダーとずっと一緒に

いられるもんね!!」

 

攻撃的に言い放つマノンにオレンジは一瞬顔を引きつらせる。

 

「オレがわかってて攻撃したっていうのか?

オレがマノンに?」

「――……」マノンは何か言いかけたが、口を半開きにしたまま黙った。

顔には後悔の色が浮かんでいた。

「おまえはオレがラベンダーと一緒にいたいから、

あの変なニワトリをマノンだと知りつつも襲ったと言いたいわけだ!

おまえにとってオレは――つまり、オレはおまえにとって、

そういうことをするヤツだと思われているわけだ!」

「ごめなさい」

マノンの顔が赤点のテスト用紙のようにくしゃくしゃになりかけていたが、

オレンジはかまわず怒りに身を任せた。

「オレはおまえのことを買いかぶっていたらしい。

人間にしては賢いと思っていた。だが、やっぱりただの14歳だ。子供だ。

サンタ界の安否が定かでない状況で、行方を探していて

後ろから誰かにつけられていたら、サンタ界を陥れた犯人だと思うのが普通だろう。

相当な手練れだ。勝てる見込みがない。

それなのに、こっちは手負いのサンタとアロマ連合の下っ端ひとり!

一瞬でもスキを作れば命取りなのに、それでもおまえは――

 

霊視にエネルギーを割いて、

あのニワトリをおまえと判断すればよかったと言うのか?」

 

空気が悲しくふるえた。

「わた、し、がっ、バカ、でした。ごめんなっさい」

 

「そもそも、オレはおまえがここにいること自体がおどろきだ。

三太に言われたことを覚えていないのか?

才能のある霊能力者は自信過剰だと三太が言っていたが、本当だな」

 

「……」

 

「いい勉強になったんじゃないか。

オレたちはおまえたち人間のためにがんばってんだ。

人間は自分のことだけ、目の前の人生だけ考えていればいい。

ジャマしないでくれ。雨が止んだら帰れよ、じゃあな」

 

「ま、まってっ」

 

洞窟から雨の中へ消えたオレンジを追い、マノンも洞窟を出たが……

滝のような豪雨に、数歩先すら見えない……

息をするのも苦しく、激しい水が、全身から出た鼻水と涙のようにマノンは感じた。

取り返しのつかないことをしてしまった。

 

どうしてオレンジにあんなことを言ってしまったんだろう。

オレンジに襲われたとき、本当に怖かった。体が動かなくて死ぬかと思った。

でも、だからといって……。わたしはひどいことを言ってしまった。

なんてバカなんだろう。

あのサンタの言うとおり、家でおとなしくしていればよかったのに、

どうして出てきてしまったんだろう。

霊体の傷だって治っている。オレンジが治してくれたのに……

オレンジに謝りたいと思っても、もうオレンジはいない。

どうやって帰ればいいんだろうとマノンが思ったとき、

ふたたび彼女を恐怖が襲った。

 

自分が住んでいる世界とは明らかに空気がちがうとわかる。

魂がそう感じている。

異世界? 異次元? ここはどこ? どうすれば帰れるの?

 

途方に暮れてしばらく立ち尽くしていると、背後に何かの気配を感じた。

雨が急に止んだと思ったら――

ガッと肩をつかまれる!

 

「キャァアアァ!?」

「ふっははは、おどろいてやんの」

 

そこにいたのはオレンジだった。

「反省したか?」

「――!?」

 

言葉を失ったマノンは瞬時に理解した。三次元を超えてから一番早い速度で。

「だましたのね!」

「怒っている割には安心してる。心は正直なようだ」

「この女ったらし!」

「そんなこと言っていいのか?

――どうしてオレンジにあんなことを言ってしまったんだろう。

オレンジに襲われたとき、本当に怖かった。体が動かなくて死ぬかと思った」

「わあああ!」

「でも、だからといって……。わたしはひどいことを言ってしまった。

なんてバカなんだろう」

「やめて!」

「あのサンタの言うとおり、家でおとなしくしていればよかったのに、

どうして出てきてしまったんだろう」

「もうっ、どうしてそういうイジワルするの!?

人の心を読まないで!」

「ふっははははは、けっこう似てんだろ?」

「似てない! このっ、このっ、このっ、このっ!」

 

バシバシとオレンジの胸を叩くマノンの顔は怒っていたが、

うれしそうにも見えた。

 

ふと胸を叩く手を止めたマノンは、にやりと笑顔になった。

オレンジがいぶかしむと。

「そうやってからかうのなら、わたしにも考えがあるわ」

「考えって?」

「ラベンダーに、オレンジが部屋に勝手に入ってたって言う」

「おい、マジでやめろ! さっきのはだな、オレなりの気づかいだよ。

オレだって感情的になってたし、言いすぎた。気まずいのはイヤだと思ったんだよ」

「わかってるよ。オーレ。反省してる。

ラベンダーには言わないし、帰るよ」

 

オレンジの顔が強張ったのを見て、マノンは不安になった。

「実はだな……オレもわからないんだ」

「は?」

「オレたちがこの世界に出たときのレイラインは、流れが速すぎて利用できない。

この世界への入り口としてしか機能していないから、他に出口を探すしかない」

「じゃあ、大変ね」

マノンの顔はなんともいえないものになっていた。

 

オレンジとマノンはオレンジ色のうすい膜に包まれており、

その膜のおかげで豪雨もしのげていたし、中は暖かかった。

 

「とりあえず、雨が止むまで洞窟にいようぜ」