のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第13話 バトルプー VS ラヴァーレ(裏)


 この上に浮いてる文字(タイトル)も、すげえ技術だよなァ。昔じゃ考えらんねえよ。
 みんなの世界で言う、ヘミシンクぐれえ画期的な技術なんじゃねえか?
                        ――シナモン

 

 急に道場を飛び出し、はだしのまま中庭を走るラヴァーレ。
「ラヴァーレ!」
 檻を破壊して吹き飛ばしたバトルプーにラヴァーレが突撃していく。
「止めなきゃ!」
「待ってミンテ、様子がおかしい」と言ってくるのは、さっきまでラヴァーレの霊体の調整をしていた麻子だ。「なんだかおかしい、神気を感じた」
 神気を? あの子が? 本当に? 精霊として、雑草もいいとこよ?
 見ると、地面を派手に転がりながら、こっちのほうへバスケットボールみたいにバウンドしてくるラヴァーレが目に入った。
「あんな調子なのよ、枯らされちゃう!」
 瞬時に跳躍してバトルプーをブッ飛ばそうとするが――私の体は、動かなかった。この金縛りの感じは――
「オリバナム!」
「ミンテ、よく見なさい。もうすでに隣にカモミールがついておる。何かあれば寸前で止めるじゃろう(ティータイムが来なければ)」
 なるほど。確かに霊視してよく見れば、姿を消したカモミールがいる。
ラヴァーレのすぐ隣で見守っている。
「でも、私がやるわ、あの子の親だもの」
「そんな状態でできるのか? 冷静になれ。さっき麻子も言ったとおり、わしも今、あの子には違和感と呼べるぐらいの何かを感じるようになった。このモヤの正体を見極めたい。耐えがたいだろうよ――でも耐えろ、親ならな」
 〝親〟という単語を引き合いに出して、うまいこと揺さぶってくる。人間からしてみたら説得力のありそうなこと言っているけど、私からしたら姑息にしか感じない。
「もっと他にやり方があるはずよ!」
「選んだのはあの子じゃ、それにテストは難しいから意味がある。簡単であれば潜在能力は引き出せん。カミーユがすぐ隣におるんじゃ、心配せんでも――」
「前前前前!!」
「うわ――」ビュン。
「ちょっ、解いて解いて!?」自分だけ逃げないで! 金縛り解けぇぇ!! 
 来る来る来るッ!!

 グシャガラドガラシャベギ

 …………。

 は、は~~~っハッ、ぶねえええ!!
 バトルプーが、道場の屋根ごと大きくめりこんできたのだ。
 間一髪、サンダーがバリアを張って飛んでくる木片や瓦礫から守り、シンくんが私を抱きかかえ逃がしてくれた。ついでに金縛りを解いてくれる。
「オリバナム~~~っ」胸ぐらをつかんだら、照れていた。
「いや~、スマンのう」
「ふざけんな! 何回おんなじことやってんだ! 許されるか! 伝統芸か!? いつものことといえばっ! いつものことだけど! 過去編を読んできた読者なら、成長しねえなって笑うとこだけど! 私にとっては危ないとこだったじゃない!! 初めてそれやってから一万年経とうとしてんだからな! 学習しろよ!!」 
 するとオリバナムがいきなり神妙な面持ちになったので、何事かと思うと、耳打ちをしてきた。うん、うん。
「馬鹿かテメェは!? お約束回収じゃねえよ! 初めて読んだ読者は分かんねえだろーが!!」 
「バカやってる場合ではないぞミンテ」
「お前だよ!!」
「投げ飛ばされたバトルプーを見たじゃろ! やはりあの子には、何かある」
 そうよ、それよ! あの子のどこにバトルプーを投げ飛ばす力があるのよ! 非物質の存在なんだから、できて当然といえば当然だが、そんなことができる技術はもちろん教えていない。
 ラヴァーレのすぐ近くにいるカモミールも驚いている。
 あの子に一体何が起こっているの!?
 私は深呼吸して、リラックスする。自分の意識を遠くして、変性意識になると、第三の目でラヴァーレのことを観察する。
 変わったものは何も視えない。
 ただ、道場に囲まれた長方形の庭で疑似太陽の明かりの下に、ぼーっとチョウなんて眺めている姿が視えるだけだ。
 なにしてんの、来るわよ!
 すると砂を蹴り上げ目をくらました後、一瞬のスキにバトルプーの背中に飛び乗り、香りを振りまき始めた。
 どこでそんなヤンキーみたいなこと覚えたの!? 
 過去世の記憶を思い出したという感じには見えないし、戦う技術をあらかじめ持って生まれたとか、そんな子ではないのだ。出会った時は本当に、しゃべるのもやっとの状態だった。クレッセントの森からだって、三ヵ月前まで一歩も出たことはなかった訳だし……あの子に何が起こっているのか、まったく理解できない。
 ガンガンと柱や屋根に打ちつけられるラヴァーレを見るのは、拷問に近かった。
 安全面を配慮しているとはいえ、こんなテストはすぐに中止すべきだ。しかし、バトルプーを投げ飛ばしたり、香りを振りまいたりと、しぶとく戦い続けているのも事実だ。すぐに終わると思われたテストは、予想に反して長引いている。
 辛いけど、ここはオリバナムの言うとおり、見極めるべきなのかもしれない。
 私がそう思っているとラヴァーレは、屋根から転んで落ちそうになったところを、噛まれてそのまま地面に叩きつけられてしまった。

 ――ああ、ラヴァーレ!? ああ!!

 あの野郎! その子を枯らしてみろ! てめぇの息の根っこを止めてやるからな!! 
 私は、精霊なのに寿命が縮まるような、心臓に悪いストレスに襲われていた。胃がギュッと締めつけられる。
 ああ! 今度こそトドメを刺される!! 
 息を呑みこみ、青ざめていると。
 ビクッッッ――と。激しくバトルプーがすくんだように見えた。
 ……なんだ?
 今、何をしたんだ? 
 何か、尋常じゃない神気を感じた。ラヴァーレ? 
 ラヴァーレの姿が、おかしい。揺らめいて、ブレて視える。
 どうもうまく視えないな。コンタクトレンズの度が合ってないみたいにぼやけて、陽炎みたいになっている。
 霊視しているのに、これほど視えにくいことがあるなんて……ずいぶん久しぶりだわ。
 私は第三の目(頭の中にある松果体のこと。霊的なものを感じる器官で、実際に私の額に目があるわけではないわ。……あるヒトもいるけど)のレンズの度数を、限界まで上げてみた。
 キュィィィィィィィィィィィィィィン
 かなり、ビリビリする。これ以上はヤバ――痛っっっ。
 段々、と、ピントが合うように、なってくる、と、ブレている曲線や影が重なり……始めて、誰かが、ラヴァーレに、憑依? して――「ガッ」
その瞬間――バチンと私の体が弾け飛んだ。
道場の奥の壁まで一直線に飛ばされ叩きつけられる。
「あ、はっ、~~~ぅ」
「ミンテ、大丈夫か!?」すぐ、に、先、輩が、飛んできた。 
 いってぇrrr、くっそ、誰だよあの神。うっすらと、透明な輪郭しか視えなかったから、顔もよく分からなかったけど、雰囲気は笑っていた。笑いながら、こっちに念力を飛ばしてきやがった! 痛いなもう! なんなんだよ! 視ようとしただけじゃんか!!
 どうやらカモミールも、もう気付いているみたいだ。
「先、輩……今の、感じた?」
「ああ。絶対に、降りてきているな」
 マジか! だとしたら、今までのラヴァーレの行動も納得できるが、どうも不可解な点が多い。
 オリバナムなら何か分かるかも。
「オリちゃん、何が視える?」
「神が憑依していると見て、間違いなかろう。じゃが、どこの誰かまでは特定できん。次元が遠すぎる……。透明な輪郭しか視えんが、雰囲気は……紫かのう。それぐらいしか読み取れん」
 さすがはオリバナム――と言いたいところだけど、雰囲気が紫って、それだけじゃ特定は難しい。あのオリバナムでも、それだけしか分からないのか……
「ひとつ分かったことは――やはりテストをして正解であった。違和感の正体は、これだったようだの」
 確かに、そう言われればそうだ。テストをしなければ、とてつもない才能を見落とすところだった。でも、なんで、あの子が。そんな…………
「それにしても不思議じゃ。念力でミンテを吹き飛ばすパワーがあるんだから、とっとと蹴りをつければ良いとは思わんか? どうしてそうせんのかが、分からん」
 そのとおりだわ。倒そうとすれば、すぐにでも倒せるはずじゃないの? なのになぜ、いまだ戦っているの?
 あの子は、激昂したバトルプーのよどみない猛攻を避けるので、いっぱいいっぱいという感じだ(直撃を避けているだけでも、十分すごいのに)。
 体は傷だらけになり、立っているのも辛そうな顔をしている。見てるこっちは胃腸が痛いわ。本当に木が木でない(それにしてもカモミールのヤツ、器用にティーなんか飲みながら、よくラヴァーレの隣で一緒に猛攻を避けていられるわ。こぼれちまえば良いのに。でもこぼれたらきっと、あのバトルプーの命はないんだろうな)。
「がんばってぇぇぇ!」
「今だ! よし! かわせ!」
「ファーイトおおお!」
「頑張れえええ!」
「がんばれえええ!」
「行けっ、そこだ!」
「ポップコーンはいかがっスか~」
「これは、良い記事のネタになりそうな匂い」
「おー、なんかやってんなー」
「なんだこの騒ぎは!? おい、ヴィオ呼んで来い!」
「これ、新入生のテストらしいぜ」
「は? だってあいつ、今年の難行の……何番目か忘れたけど、最初のほうのやつだろ? 前にクリアしたから覚えてるけど、新入生のテストにしちゃあ、やり過ぎじゃね?」
「いや、先生たちがあそこにいるから大丈夫だ」
 中庭を囲む四方の道場に、いつの間にか集まっていたアカデミー生たちの集団が、カモミールにはまったく気付かず、凶悪なモンスターと戦う幼気な少女を応援していた(どうしてこいつらは、こうもマイペースなのだろうか……)。
 軽く二千人(アカデミー生全体の内のわずかな一部)ぐらいは、集まっているんじゃないかしら? 内緒にしてたはずなのに……。ネットって怖い。
 あ、そうだ! 私たちとは畑が違う銀狐なら、きっと、あの子についてまた別のものが視えているかもしれないわ。
 私は、オリバナムたちとは離れたところにいる、銀髪の和服の男性に近づいた。相変わらずスキのない香りだわ。いつ襲撃を受けても対処できそう。
「『銀の狐』殿。あの子の状態、どう思われますか?」
 金色の鋭い眼光が、私を見据えてくる。一瞬、枯らされるんじゃないかとヒヤヒヤした。
おっかない、敵じゃなくて良かった……
「……。そうですねぇ……実のところ、私もよく分かってないんですが――なんというか、男性性が強いなと」
「男性性が?」
「ええ。性別をつけるとしたら、今は……男性でしょうね。それもかなり気骨あふれる、荒々しい感じの」
「(つついてみるもんだわ、出てくる出てくる)もっと詳しく、分かりますか?」
「水のように捉えどころがないですね。雄々しくもあり、猛々しくもあり、でも凛としていて柔軟で、非常に恰好よいですね。きっと、さぞや聡明な神でしょう」
 なんだろう、なんだか、自慢話でも聞いているようだ。そんなわけないか、別人だもん。
「男性で、水のようで、雄々しく、猛々しく、凛としている。……柔軟、格好よくて、聡明……」
 なるほど。この様子がオリちゃんには紫として視えたのか。
「あとは、無邪気に遊んでいるようにも感じますねえ」
「……(けっこう出てきたな)流石はアロマ連合のサブ・グランド・マスター、『銀の狐』殿。名前を聞けば、鬼や悪魔すら泣いて逃げまどう地球きっての大神霊。知覚能力も大変素晴らしいですね。次のグランド・マスターの座も、そう遠くないのでは?」
「――『征服の草』! 私に分かるのはそれぐらいです!」
 ピシャリと言われた、それもカーテンを勢いよく閉めるようにだ。もっと知っているんじゃないかと情報を引き出そうとして、せさみんのマネまでしたのに。癪に触ったようだ。
 眉間にシワを寄せ、ぐわっと私を睨みつけると、向こうへ行けと手を振った。女の子にする顔じゃないわ!(悪いの私だけどさ)端正な顔立ちの分、余計に怖い。そんな怒らなくてもいいのに……。よっぽど、せさみんのことがキライみたいね。
 私と銀狐のやりとりに、銀狐の隣の女性、藤が笑った。
私もちょっとうれしく――なってる場合じゃない!
 錦狐から少し距離を取り、ラヴァーレを見てみると、もう隅まで追い詰められている。
ヤバイ!(カモミール、キャ~じゃない! 楽しむな!)
 なんとかカモミールと一緒に足の間を潜り抜けて(今のラヴァーレを、ラヴァーレって呼んでいいのかしら? 彼女もカモミールの存在に気付いてるみたい。二輪で楽しそうに仲良く駆けている)バトルプーから距離を取ると、あくびをして棒立ちしている。
 余裕だな(あたりまえか、ずいぶんと上の神らしいんだから)、と思っていると、バトルプーはイラついたように強くうなり声をあげ、庭の真ん中あたりまで一気に飛ぶと力強く空振りした。あまりの威力に、ここまで突風が来る。
 ? 何してるんだろう、ラヴァーレはそこにはいないのに。
「バボオオオオオオオオ!!!!!」
 なんだか喜んでいるように見える……。様子がおかしい。ラヴァーレはラヴァーレで、なんだか呑気だし。あくびなんかしながらぼ~っとしている。
 バトルプーは雄叫びを上げた後、ラヴァーレに興味をなくしたように背を向けてしまった。あれ、さっきまでの戦闘意欲はどこへ行った?
 敵対心むき出しで憎悪の塊のように戦っていたのに。ラヴァーレにはもう興味がないという風に、行ってしまった。
 どこ行くんだよ。
 ラヴァーレはラヴァーレで、またあくびしている。どんだけあくびするんだよと思っていたが、何か違和感を感じる。なんだろう? よく霊視してみた。
 すると、どうやら霊体の内部を自分でヒーリングしているようだった。
 ?
 何しているんだろう? どうしてあくびに見せかけて手を口元に当て、ヒーリングなんかしているのだろうか。そんなメンドくさいことせずとも、堂々とヒーリングすればよくないか? しかも、ヒーリングしているのは自分の体の内部だけで、外見の表面的な裂傷、打撲痕などは、器用に見かけだけ残している。
 さっきから、やっていることの意味がまったく理解できない。終わってからでもできることを、なぜ今するんだろう? せっかくのチャンスなんだから、とっととブッ飛ばせばいいのに、じれったいな。
 一方バトルプーは、ラヴァーレに背を向けたまま何かに夢中になっている。食べ物でも食べているみたいだ。だが何もない。空気中の気を食べて回復しているのか?
 そしてラヴァーレは、枝を持って地面に何か描き始めた。
 何をしてるの? 魔法陣? 今のうちに呪術でもバトルプーにかけるつもりだろうか。
そんなことぜずとも、念力や物理で倒せるでしょ! 見ていてイライラする戦い方だ。
 呪術をかけるために複雑な図形を描くぐらいなら、向こうはスキだらけなんだから、今のうちに倒せばいいのに! どうしてそうしないの! パワーを持っているくせに、どうもさっきから変なことばかりしている。
ひょっとしてラヴァーレに憑依している神は、次元が高すぎて、頭がお花畑なのかなと思った。
 すると、線を描くのをやめ、ラヴァーレは私を睨んできた。
「イダダダダダダ」や、め、脳がねじれる!! 
「ミンテ、どうした!」
 先輩とオリバナム、サンダー、シンくんが、怪訝な目を向けてくる。
 念力で、こんなことが、でき、るんだから、とっ、ととと倒せばいいのに――なんなんだよもう! 何がしたいのかまったく分からんわ!?
 
 バトルプーとラヴァーレ。ふたりはもう、戦う気がないのだろうか?

 そう思っていたらバトルプーが、こちらのほうに口を高くかかげているのが目に入った。
 変な開き方をしている。なにか物でも入っているような開け方だが、どれだけ観察しようとも、何もくわえていない。牙の自慢でもしているんだろうか。
 そのまま変な姿勢で周囲のアカデミー生たちに口を見せびらかすように、庭の真ん中でのっそのっそと、ぐるりとまわっている。
 意味不明なんだけど。疲れないの、その姿勢? 
 すると急に勢いよく口を閉じた。満足そうなニヤケ面をしている。
 …………。
「あれ、何してるのかしら?」
「こうならないよう、良い子は歯みがきするんだぞ――ってことではないのか?」
「ああ! サンダー頭良い」意外と良いやつだわ。
「いや、こうも考えられるぜ! 口をずっと開けてると、疲れるから気をつけろってな」
「シンくんそれは、あたりまえすぎない?」
「違う! あれはおそらく、幻術にかけられているんだ! 今は戦っているんだぞ、幻のラヴァーレを枯らして、頭を噛み潰したんじゃないか?」
「!」
「!」
「!」
 ゾクッとした。得体の知れないモノに、首の後ろから入られたような気持ち悪さを感じる。先輩の言うとおりだ。あの野郎! 実のところ私もそう思っていたけど(ホントよ)、やっぱり嫌なヤツじゃない!
 
 ――そうか、幻覚を視せているのか! でも、もっと早く視せればいいのに、なぜこれだけ時間をかけたんだろう? 
 
 ラヴァーレは、さっきから一生懸命地面に描いていた図形を、やっと完成させたみたいだ。ひと仕事したぜ、って顔で額の汗をぬぐっている。
あまり魔法陣のようには見えないな。なんだろう? 長方形の図形みたいだが、そんな図形で魔法をかけられるのか?
 図形からは特に変わった波動は感じないが、あのオリバナムでも、あまり知覚できない神の描いた図形だ。だから、一見するとなんのパワーもない図形だが、もしかすると何かすごい効果があるのかもしれない。
 ラヴァーレの描いた図形は直線を何本も引っ張ったような、ごく単純なものだ。
 私たちの次元では魔法陣は複雑なものだけど、遥か上の次元では、これぐらい簡略化されているものなのかもしれない。
 これについても疑問がある。
 幻覚を視せているのに、わざわざ魔法陣を描いたのはどうして?
 戦いを有利にするため……ではないだろう。だったら、幻術にハメた時点で十分だし、そもそも幻術なんか使わずとも余裕で倒せるはず。この戦いは分からないことだらけだ。一体ラヴァーレに乗り移った神は、何がしたいのだろう?
 いつからラヴァーレに憑依していたのか分からないが、なぜ早く勝負を決めないのか? これだけ長引かせる理由は何? 私から見れば、本当にイライラする戦い方だ。
殺し合いではないにしろ、命のやり取りをしてるんだぞ! 分かってんのか!?
 どうやらラヴァーレを枯らしたように思っているバトルプーは、次なる獲物をアカデミー生に定めたようだ。
 ……生徒ならまだしも、学生たちも大勢いるのだ(本当にいつの間にこんなに集まったのやら)。これでも無駄に年を重ねているだけのことはある凶暴なモンスター共だ。勉強すべきことではなく、知らなくてもいいことだけやたら詳しい彼らにかかれば、ボッコボコよりもヒドい目にあわされるのがオチだが、それは知らぬが花だろう。
 (楽しそうに)慌てふためく(フリをしている)アカデミー生たちのほうへ向かうバトルプー。そこへラヴァーレが、後ろから何か声をかけたみたい。
 お。バッと振り返る。けど、バトルプーは目の前のラヴァーレを無視して、再び正面を向いてアカデミー生のほうへ進んでいく。
ラヴァーレは今度は、体を叩いてみた。ぽんぽん、とかわいらしい仕草だ。バトルプーが怪訝な顔で振り返る。そのスキに、たったった、と堂々と後ろへまわりこみ、蹴りを入れる。

 うふ、何やってるのよホント。

 なにか様子がおかしいと気付いたバトルプーは、豪快に爪を振りまわすが、ラヴァーレはそんなところにはいない。けどすぐ近くで、くすくす楽しそうに笑っている。
 遊んでる……。子供って残酷だ。まあ、憑依状態が分からないから、ラヴァーレ自身がやってるのか、神がやってるのかは分からないけど。
 ラヴァーレは勢いつけてジャンプすると、バトルプーの頭に飛び乗った。バトルプーは、自分の頭の上にあの子がいることに気付かず、ぐるぐると激しく暴れまわっている。
 自分の頭の上にいるんだから、そんなジタバタしたって、当たるわけないでしょ。
 あの子もあの子で、器用にバランスを取りながら、おかしそうに笑っている。周囲のアカデミー生に手なんか振って、中庭は笑い声で満ちていた。
 誰もがこの、ラヴァーレにもて遊ばれるバトルプーを見て、楽しんでしまっている。
正直、あまりよろしくない状況だ。私が言うのも本当になんだが、もっと緊張感を持って欲しい。精霊の芽たちがそんな調子では困る。アカデミー生にはカモミールが視えていないのだから、もっと緊張感を持つぐらいがちょうど良いのに。
 しかしラヴァーレも、うまいこと盛り上げているな。まるで扇動家みたいだ。
 ラヴァーレが何かしたのか、バトルプーの動きがピタッと止まると、あの子は目の前に降り立った。今度はちゃんと認識したみたいだ。バトルプーがおもしろいぐらい滑稽に驚いているのが分かった。
 ラヴァーレが構える。どうやら遊ぶのをやめ、やっと決着をつける気になったようだ。
あの子の体内のエネルギーの流れが活発になり、魂が強く脈打ち始める。
 すると、不思議なことが起こった。訓練場フロアの昼モードが、夜モードに変わったのだ。誰かがスイッチを操作したのかしら? 変ね。

 それを合図に、とうとう反撃の狼煙が上がった。
 
 私は……幻覚を視せられているのは、自分のほうじゃないかと疑った。
 だって、じゃなかったら……納得がいかない。今までの人生で散々自分の価値観をブレイクさせられてきたが……この光景は、なんだ?
 テストが始まってからずっと、きゃっきゃうふふ、という感じで、ド素人もいい動きだったじゃない。それがいきなり、なんだこの差は!!?
 怒涛のラッシュを、バトルプーにあびせ続けている!!
 しかも、ひとつひとつの技の完成度もさることながら、呼吸で上下する胸の動き、頭を揺らして髪の毛を払う、ちょっとした仕草に至るまで、極めて創造性の高い芸術を鑑賞しているかのようだ。いや、今のは言い方は適切ではない。ひとつひとつの仕草ですら、そのレベルなのだ。それが、動作、技となって昇華し、芸術の枠を超えていく。
頭の中で宇宙の概念が視えた。“大いなるすべて”が――。
 精霊に覚醒体験でも、させるつもりか!?
 
 私の魂が熱くなる。
 
 心が、魂が、激しく打ち震える!!

 これが、超高次元の神!
一体どれほどその道の輪廻転生を繰り返せば、達する域なのか、皆目見当もつかない。
 演武のように魅せる技だ。攻撃のための技ではないのだろう。威力そのものは、私たちの足元にも及ばないが(ラヴァーレの体がもう……限界なんだろう)、それでも見ていて心が、魂が揺さぶられる動きだ。涙が出てくる。
 アニメのように一時停止できないのが、残念ね(アニメの作画スタッフさんも、大変よね。頑張ってるのに叩かれたりしてね。それでもキャラクターを愛してくれているあなたたちが、私も大好きよ。どうして私がこう言うか、もう、分かるわね? ファイト! え? なんか悪口が聞こえたケド、きっと木のせいね)。
 地球の――いや、宇宙の誕生から終焉までの無限大かつ極上なストーリーを、凝縮して見ているような、集大成とも言える演目だ(もといネタバレ。ここ30万年の地球史を振り返ってみても、こんなにひどいネタバレは見たことがないわ! 狂ってる! 作者自らここまで手の内を明かした人は、三次元にも、どの異世界や次元にもいなかった。しかも第一巻で。20年後、この子が世界一ネタバレした作家として、ギネスブックに登録されていないことを祈るわ)。

 これに惚れない精霊がいるなら――きっとその子は、運命のパートナーを見つけてるんでしょうね。

 圧巻。そのひとことに尽きる。文字では言い表せないものも、あるのだ。

 むしろ精霊の戦いを、概念や構造が違う異なる次元の様子を、文字で表現しようとすること自体、元々無理があるのだ。

 ラヴァーレの動きはもう、読者の想像力に任せるしかないわ(描写放棄したい時の魔法の言葉。作家を目指している子は、まず手始めにこの呪文を覚えておくといいわ。他にもいろいろとあるけど、それはまたの機会に)。
 
 空間が、きれいだ。心が、生まれたての赤ん坊のように清く澄みわたっている。私たちでは、できない浄化の仕方だ。香りではなく、武でそれを成すなんて。

 粋な神様だと思った。

 きっとあの魔法陣も、これのためだったのね。変ちくりんな戦い方も、なにかしら意味があったのよ。疑ってごめんなさい。ひとつひとつのことに、ちゃんと意味があることを、私は忘れていた。

 

 満月のライトに照らされて、ステージの上にて踊り咲く

 ふたりの夜を誘うように、蛍たちが金色に華を添えて

 いついつまでも、歌いたい。夢見心地な幻想曲

 

 今ここにいる誰もが、固唾を飲んで見守っている。こんな光景、そう見られるものではない。何万年かに一瞬の奇跡じゃないかしら。
 私はこの光景を、全生の想い出として、大切に大切に、心の宝箱に入れることにした。
 ハッと気がつけば、訓練場フロアが振動していた。いや、これはもしや…………オリエント・アロマ・アカデミーが振動している!?
 世界が、地球が、感動しているみたいというのは、誇大妄想かしら?
 どこからともなく響いてくるメロディーが、視覚化されて、見えるようになっている。川のように流れる音符が、龍みたいにゆったりうねりながら、私の前を通っていく。女子生徒らが、ドキドキしながら音符の流れに手を入れて遊んでいた。ボボボンと弾け飛んだメロディーに、キャ~と喜んでいる。
 手のひらサイズの小さなフェアリーたちも、どこから出てきたのかしら。金粉を散らしながら飛んでおり、アカデミー生と同じか、それ以上いっぱいいた。
 ラヴァーレとバトルプーの周りに集まって、踊る子たち、歌う子たち。空中に整列して、楽器を吹きながら行進していくマーチングバンドの子たち。赤と白の衣装が超キュートだわ! それから花火を打ち上げる子たち。ヒュ~、最近の花火は凝ってるわね~。アカデミー生にイタズラしている子たち。世界ヒロシの衣装を着て、マジックを披露する子たち。ラベンダーさんごっこをして遊ぶ子たち(やめなさい! そのシーン、アニメだったらネタバレになるわよ!)。それからポップコーンを配っている子たちまでいる。ありがとう、ひとつもらうわ。
あ、この味は――TOTO社の虹色キャンディー味だ。私、これ一番好きなやつなのよ~~~。あなた、分かってるわねぇ♪ 
 大人になってしまったら、忘れてしまうものがある。子供だった頃には分かっていたことも、できていたことも、いつの間にか、別の生き物になったように、全部変わって、無かったことになってしまうのだ。
 同じ非物質世界の住人なのに感極まってしまう、フェアリーたちの幻想的で神秘的な、音楽とパフォーマンスに酔いしれて、私は嫌なことを全部忘れてしまった。
 何のために生きているのか、自分が今まで何をして来たのか。今だけは、全部忘れてしまった。全部忘れて、全部忘れた。
 生きること、働くことのしがらみから解放されて、ただ純粋に、このパフォーマンスを楽しんでいた。
 悪だと思っていた人(ヒト)も、憎んでいた人(ヒト)たちのことも、その時の相手の気持ちを理解して、今この瞬間だけなら全部……許せる気がした。良かれと思ってしてきたことでも、傷ついてしまう人がいる。そういう人たちにも、心の底から謝って、許しを乞うことができる気がした。
 ああ! 人や霊、神であろうと関係なく、みんながみんな、知ってか知らずか、意識してかしないでか、傷つけた相手を許して、自分も許しを乞うことができれば、宇宙はもっと平和になるのに! 争いがなくなるのに!(ね、そう思うでしょ? あなたたちの世界ではもう2000年代なんだから――おっと、君にとっては3000年代か。そろそろ考えようぜ? ぶっちゃけるケド、いろいろと遅い。いろいろなことが、かなァァァり――遅れてる。言いたいことはたくさんあるけど、キリがないから、私たちから見て、本当にイライラするとだけ言っておくわ)

 一万年前のあの光景が、私の頭にバババッと流れた。