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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第17輪 地球人類総合支援法

やったぁぁぁぁ! ねえ、いま見た!? ねえラベンダー!

 

           ――マノン・ガトフォセ

 

 

 

YHAAAAAAAAAA ニンゲン、ニンゲン、死ねニンゲン

                ――ラヴァーレ

 

オリエント・アロマ・アカデミー文化祭、および 

富士神界――シルバーフォックス賞受賞式にて

 

ライブ会場で盛り上がる観客

 

「やっぱりラベンダーか」

 

洞窟で休んでいたマノンは、突然のオレンジの一言に息を止めた。

洞窟に戻ってからというものオレンジは、マノンのことを褒めてばかりいた。

マノンもただ純粋に、自分のことを褒めてくるオレンジに気を良くしていた。

 

「まさかここまで来ることができるとはな。幽体離脱か?」

「うん」

「マノン……おまえの年齢でそこまでできるやつは人類史の――……

いや、第七文明の中でも何百人かだぞ」

「それってすごいの?」

「すごいことだ。マノン、おまえはまちがいなく天才だ。

上の次元に来るだけでなく、変身までできる。そんな人間他にいるか?」

「えっへっへっへ」

「だが、変身が甘いな。あのニワトリはトサカや翼が変だった。

よくあんな姿でオレたちを追えたな。ちゃんと変身できれば、

オレの攻撃も避けられただろうに」

「しょうがないでしょ、まだ練習して数年よ。できるわけないわ」

 

オレンジはにやりとした。

 

「だが、霊視こそしなかったが、ひと目見てもおまえだとわからなかった。

そこはグッドだ」

「すごい?」

「すごい」

「うへへ」

「念力の解除のやり方や幽体離脱はどれぐらい練習してるんだ?

だれかに教わったのか?」

「……全部独学よ。お風呂に入っているときや眠たいとき、

頭に情報が流れてきて、こうしたらこういうことができるって、

なんとなく教えてくれるの」

「やっぱりラベンダーか」

「ちがうわ!」

「ラベンダーは、心の防御の仕方までは教えてくれなかったようだな」

「!? わたしの心を読んだのね、ズルいわ!」

「べつにズルくはない」

 

マノンは悲しい気持ちになった。

オレンジが褒めてくれたことが、本当にうれしかったからだ。

だが、嘘だった。ラベンダーとわたしの秘密を暴くために言っていたのだ。

 

「わたしをおだてて情報を引き出そうとしなくたって、

最初から心を読めばいいことだわ!」

「オレは、おまえの心を読んではいないよ」

「ウソ!」

「ああ、ウソだ。カマをかけただけだ。

あとはおまえが教えてくれた」

「あ――!?」

 

しまったという顔をしたマノンの胸に、

オレンジに裏切られた想いがこみあげてくる。

マノンは幼いころからラベンダーに指導してもらい霊能力の特訓に

励んでいたが、それはだれかを守るためだ。決して悪用するためではない。

精霊に霊能力を指導してもらうことが、

地球人類総合支援法に違反することもラベンダーに聞かされて知っていた。

 

「ラベンダーがおまえに霊能力の稽古をつけていることは、

地球人類総合支援法違反だ。むやみやたらに個人の霊能力を伸ばしてはいけない」

「どうする気?」

「……本部に報告する」

「ラベンダーはどうなるの?」

「上が決めることだ。オレにはわからない」

 

沈黙が訪れる。ただ聞こえるのは、激しい雨の音だけだ。

 

マノンは不満と怒りでいっぱいになりながら思った。

ラベンダーは地球の状況や歴史も教えてくれたわ!

それなのに、その変な法律を守れっていうの? 

こんな戦争だらけの星で自分やだれかをどうやって守れって言うの!?

 

「まってオレンジ、わたしが頼んだことなの、もっと自分の能力を伸ばしたいって。

ラベンダーは悪くないわ」

「マノン。どうして人間に霊能力を指導したらいけないかわかるか?」

「さぁ? 人間が嫌いだから?」

「ちがう。理由は挙げればキリがないが、人間はこの地球の管理者という

立場にある。いまはまだ発展途上人類として分類されているが、

やがてはこの星の代表になっていくんだ。

 

(いまは代表だなんてとてもとても……。

なんか虫ケラがいるなぁぐらいに思われているだろうな。

なので地球外部との交渉はアロマ連合、富士神界などが主に請け負っている

by オレンジ)

 

そのためには、介入しすぎてはいけないんだ!

自分たちの頭で考えて、自分たちの足で行きたい場所へ行き、その手で

夢をつかみ取らなければならない。

オレたちは間接的にいろいろ支援をするが、直接的な支援は基本NGだ。

いろいろと計画や、進行具合というものがある」

 

オレンジはいったん言葉を切り、マノンの青い瞳を見つめた。

炎のように危なげに見える赤い髪とは対照的に、水のように透きとおっている。

オレンジはマノンの心拍数、周波数、表情のひとつひとつを精査すると、続けた。

 

「それに、だれかれ構わず霊能力を伸ばすと、能力者と一般人で

戦争が始まることがわかっている。いずれその時代はやって来る予定だが、

人類の反抗期のいま、その戦争を起こしてはマズい。

だから地球人類総合支援法で厳しく取り締まられているんだ」

 

マノンはまぶたをゆっくり閉じた。

自分の息の音が聞こえる。オレンジの暖かい香りが好き。

オレンジの言っていることはきっと正しい。 

どうしていけないことなのかが理解できたし、事の重大さも

想像しやすく説明してくれた。

ラベンダーがしてくれた地球人類総合支援法の説明も似たような説明だった

と思うが、オレンジのほうがより詳しい。

本当はこういう法律があるということも、教えてはいけないことなのではないか

とマノンは直感的に思った。実際のところどうかはわからないが、

それでも詳しく教えてくれたオレンジには、とても誠意を感じた。

それに、心を読めばわかることなのに、わざわざわたしを騙すなんて

手間のかかることまでしてくれた。

その行為に納得はしていないが、それでもやっぱり誠意は感じる。

謝りたい。

オレンジの説教をしている目は、怒っていて気まずいが。

 

「……ご――」

 

マノンが何か言いかけたとき――耳が震えて心臓が悲鳴をあげた。

 

突然音楽が鳴り出したからだ。

洞窟内に響き渡る大音量の楽器とラベンダーの声に

マノンの胸の鼓動もドラムのように鳴り止まない。

びっくりした。

このロックな曲は聞いたことがある。

ラベンダーが昔やっていたケメティック・ウーマンというバンドの、

「アトラス・パンチ」という曲だ。

 

オレンジはポケットからスマートフォンを取り出した。

「おう、遅かったな三太。……そういえば雨も止んできたな。

洞窟で休んでいる。わかった、じゃあな」

 

そう言ってスマートフォンと呼ばれる機械をポケットにしまうと、

オレンジはマノンに言った。

「これからレイラインへ行く。三太と合流だ」