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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第14輪 サンタとオレンジとマイナデスアルコール

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

ラベンダーぁ。ここ、ここすわって

 

            ――マノン・ガトフォセ

 

バーベキューの炎の写真

 

「これは大問題だ! とっとと各世界に知らせるべきだ!」

「そんなことをすればサンタ界の信用がなくなってしまうだろ!!」

 

ま、お察しのとおりオレはこの哀れなサンタと言い争いをしていた。

 

(あ、代わる? by オレンジ)

 

「何が信用だ! もうサンタ界はどこにも存在していないじゃないか!」

「世界がまるごとなくなるなんてありえない! 

きっと何か理由があるんだ、視えなくなっているとか、移動したとか、

魔術か化学か、何かで壊されたように見せかけられてるんだ」

「霊視しても変わらない、現実を受け入れろ!」

「もっとすごいヒトを呼んで、ちゃんと霊視して調査しないとわからないだろ!」

「だからアロマ連合やゼンマイ仕掛けの騎士団、冥府、各神界に連絡しろと

言ってるだろ!」

「それができないからラベンダーに頼もうとしたんだ!

“サンタ界が消滅した”なんて言ってみろ! いまにテロが起こりまくるぞ!

俺は植物界が一番信用できない。それに他の世界だってどうだ!?

植物至上主義者じゃなくても、ニンゲンを殺す霊はいっぱいいるぞ!!

もともとおまえみたいな下っ端に頼むつもりじゃなかったんだ!」

「なんだと、ラベンダーじゃなくて悪かったな! 

それにニンゲンって――差別用語だぞ!」

「ラベンダーだったら理解するのも速いし、

各世界に連絡しろなんて愚策は言わない!」

「おまえがラベンダーの何を知っているんだ!? あァ!?

あの女はうだうだ文句を言って、“わたしの仕事じゃない”って

オレと同じことを言うだろう! 世界がひとつ消滅しているんだぞ!?

周りの世界がもし同じ目に遭ったらどうするつもりだ!?」

「だから三次元じゃあるまいし、ひと目で消滅したかどうかなんてわからないだろ?

それに面倒くさがりつつも、なんだかんだ言って最後には救ってくれるのが

ラベンダーだ! おまえこそ、ラベンダーのことをわかっていない!」

「じゃあオレたちだけでなんとかするってのか!?

いったい何をどうするってんだ? えェ? 付き合いきれないね」

「だったらラベンダーにおまえのストーカー行為を言うまでだ」

「ぐぐっ――そもそも、サンタ界が消滅している時点で契約は破綻している!

契約内容は、オレがサンタ界を救ったあかつきに秘密をだれにも教えないという

ものだったはずだ」

「消滅していないと言っているだろうがァ!!

もういい、俺ひとりでサンタ界を探す! きっとどこかにあるはずなんだ。

おまえはどっか行ってろ!」

 

このっ、下衆の極みサンタがぁぁぁぁ。

こんな現実を受け入れられないイカれたサンタに付き合っていたら、

魂がいくつあっても足りない。

あの愚かしい礼名契約のせいで、オレさまはこんなトラブルに

巻きこまれてしまった!

 

冗談じゃない! 世界がひとつ消えたんだぞ!

週刊ドコドコを読んでいただけでラベンダーにストーカー扱いされるのは

我慢ならないが、こんなヤバい件に首をつっこんで枯れるのもごめんだ。

何らかの自然現象でサンタ界が消滅したということも考えられるが、

可能性としては植物至上主義者あたりが大きい。

 

そもそも、あのラベンダーに来た依頼と知った時点でとっとと降りるべきだった。

一時の恥を気にして、契約を結ぶんじゃなかった。

だが……やはり、ラベンダーにストーカー扱いされるのも嫌だ。

 

しかしサンタ界は消滅してしまった。

救いようがない。

 

つまり、オレは契約を果たすことができないから、

このサンタに協力しようとしまいとサンタはラベンダーに

秘密をばらせるのだ。

だったら……。

 

「ああそうかい、だったらオレは帰らせてもらう。

次におまえに会う時は『日の昇る評議会』か、富士神界か、冥府のどれかだろうな。

“自分の所属している世界の信用が一番大事な愚かなサンタに礼名契約を結ばされて、

報告できなかったんですぅ”と上に話したオレは解放され、晴れておまえは

オーストラリア送り! それかタルタロス送りだ!!」

 

ふははと高々に笑うオレにサンタがつかみかかってくる。

「この野郎、やるのか!」思いのほかサンタの力が強く苦しかったので、

オレはついサンタを、炎の波動を送って燃やしてしまった。

まあ気にしないけど。

火だるまになったサンタをほっといて、

こんな壊れた世界からとっととおさらばしようとオレは歩き出した。

 

まったくとんだ時間のムダだった。

これで可愛い女の子をナンパしそこねたら、どう責任を取ってくれるんだ。

そう思ってオレは木を抜いていた。背後で何かが光ったかと思うと――

 

シュッ――ドドォォオオンドッドッドッドッドドォォォォォオオ!!!

 

何かに点火したような音がすると、大爆発がいくつも起こった。

空気がうずまき、世界を構成する細胞のひとつひとつが膨らんでは弾けていく、

そんな感じの音だ。大爆発から生まれた火炎が一直線に雪道を走る。

爆風で吹っ飛ばされたオレは地面に積もる雪に頭から突っこんだ。

いったい何が起こったんだ!?

 

あわてて体を起こし、周囲を観察する。サンタは爆発の中心にいたらしい。

ひどい焼け傷を負って倒れている……。

おお、かわいそうに。

 

(もちろんそんなことはこれっぽっちも思っていないが。

ちなみにオレも爆発のせいで現在、サンタのように火だるまになっている。

因果応報というやつだが、オレには炎はあまり効かない)

 

サンタへの哀れみの感情とは裏腹に、オレさまの体は素早く反応して動いていた。

オレはいま立っていた場所から瞬時に数メートル離れ、雪道から空宙へ飛び出した。

火の鳥に変身すると勢いよく雪道の下へもぐる。

どうやらオレの予感は当たったらしい。

もう少しよく考えておくべきだった。

サンタ界が消滅したのなら、消滅させた犯人が近くに潜んでいる可能性を。

 

いまは亡きサンタ界をあると信じ、冷静に物事を考えられなかったサンタは

口封じのために敵に殺されてしまった。

 

(もちろんオレさまもそうならないように、いまから

超がんばって敵を倒さなければならない)

 

本当に哀れなサンタだ。次に転生するときは、オレさまのように

カッコイイ、機転の利く霊に生まれるといい。

 

さてと。音から察するに、頭上の雪道の炎は止む気配がない。

敵はどこに隠れているんだろうか?

雪に変身しているのか、霧としてただよっているのか。炎にまぎれているのかも。

 

このまま雪道の下を飛行して守りに入っていると、隙を突かれて不利になる。

そう判断したオレは、雪道の下からさっと出ると空高く舞い上がった。

高速で辺りを旋回しながら霊視するが、おかしなものがまるで見当たらない。

爆発が起こった時、オレはサンタに背を向けていたため、

どの方向からサンタが攻撃されたのかわからない。

くそ、どこにいるんだ?

 

オレの霊視では視えないほどの実力者ということも考えられたが、

もしそうなら、サンタ界の入口へ来る途中でとっくに枯らされていたはずだ。

 

どこだ? どこにいる? 

 

火の鳥は攻撃されないようにさらに高度を上げて、

広くなった視野で霊視したが、とうとう敵を見つけることができなかった。

 

……

 

時間ばかりが過ぎていく。

 

火の鳥は試しに雪道に降り立ってみた。しかし、敵に攻撃される様子はまるでない。

霊視したとおり、だれもいないようだ。でもだったら、あのサンタはだれに

攻撃されたっていうんだ?

 

雪道の火はもう、わずかにパチパチと燃えるばかりだ。

焦げ臭い匂いと雪のしめった匂い、それに分断された世界のよどんだ匂いがする。

そこで違和感に気づいた。

 

この匂いは――

 

雪道と灰色の空に浮かぶオーロラ以外に何もない世界からは

とうてい想像できない匂いだ。なぜここでこんな匂いがするのか……。

 

甘ったるい糖にガソリンが混ざったような、不快な匂い。

これはアルコールだ。

 

しかもただのアルコールじゃない。マイナデスアルコールだ。

本で読んだから知ってるぞ。

 

(このマイナデスアルコールはマジカルアルコールとも呼ばれ、

感知するのが難しい上に解明されていない部分が多い。

いきなり空気中に出現するとか、

二度と転生できないほど魂が傷ついた霊のなれの果てとか、

キラキラとカラフルに光り出す時があって、

それを飲むと体に良いとかいう説もある。

オカルトだな。

主な特性としては、どれだけ飲んでもその場ではちっとも酔わないが、

体内に入ってから潜伏期間を過ぎると霊を泥酔状態にさせること、

同じ条件下でも、火に反応して爆発したりしなかったりする

気まぐれ屋さんであることが挙げられる。

また、空間や霊の周波数を極端に下げる性質を持つことから、

現在、霊が三次元上に物質化するのに利用できないかと研究が

進められている――とかないとか。

オレも本で読んだりテレビで観たりしただけだから、

あとでオレンジのウソつきとか言わないでくれよ?)

 

オレは周囲をふたたび霊視してみた。景色は何も変わらなかった。

今度はマイナデスアルコールに焦点をしぼり、霊視してみる。

するとどうだろうか、この世界にマイナデスアルコールの気配が

うっすらと視えた。色でいうと汚れた緑色。

高濃度ではないと思うが、オレはその手のプロではないから、

またいつ火に反応して爆発するかわからない。

火の鳥から元のかっこいいオレンジさまの姿に戻ったオレは、

前方、元々サンタ界があったであろう、ちぎれた世界の断面付近に

転がるサンタが目に入った。

 

……

 

………………

 

………………………………。

 

つまり、サンタはサンタ界を滅ぼしたやつに攻撃されたのではなく、

――そういうことだな。

 

オレだったのか!?

 

ちょっと待ってくれ、言い訳だが、あの時、サンタにつかみかかられた時は

本当に苦しかったんだ。おまけにあの、愛する世界を失いついでに正気も失った

サンタの狂気の目! 怖かった! だれだって燃やそうと思うだろ?

 

おいおいまさか死んでないよな? 

まあ、死んだら死んだでまた転生するから殺したってべつに構わないが

――だから安心して人間を殺す龍もいるしな。

ま、龍は元々人間とは思考がちがうが――

 

(世の中ってのは善悪では計れない。究極的に言えば、

地球の味方か、人間の味方かだろう。え? オレはどっちだって? さあな)

 

アロマ連合のナイトがサンタをひとり殺害なんてニュース番組で小倉さんに

報道されたら、アロマ連合の不祥事になっちまうぜ。

それはマズい! なんとしてもそれは避けなければ、

植物至上主義者をつけ上がらせることになる。

ついでだが、オレも少しだけ後味が悪い。

 

オレは急いでサンタに駆け寄った。

良かった、まだ息はある。重症だが、治療すれば助かりそうだ。

敵に襲われて死んだならラッキーぐらいに思ったが、

オレがやってしまったのならしょうがない。

オレはおでこに青筋を浮かべながらも、愛する気持ちを高めてヒーリングした。

伸ばした手からサンタに、太陽のようにほとばしる強いエネルギーが入っていく。

すると、サンタの体についた焦げ臭い血やひどい傷跡が消えてなくなり、

破けたスーツも元通りになった。

スーツの背中には特別仕様でオレンジさまの紋章を入れてやった。

 

むくりとサンタが起き上がる。

「おれは……」

病み上がりでエネルギー節約のためか、サンタは子供の姿になっていた。

「おまえは敵に攻撃されて、爆発に巻き込まれたんだよ」

「オレンジ、もしかして治してくれたのか……?」

 

子供の姿になっているせいか、なんだかかわいく思えてくる。

「ありがとう!」

サンタが抱きついてきた。

 

やれやれ。疲れた。こいつあったかいな。

 

だが、これでハッキリした。

マイナデスアルコールを爆弾として使ったとしても、

世界なんて巨大なものを破壊するのはいくらなんでも不可能だ。

サンタ界はまだ、あるのかもしれない。