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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第7話 『日の昇る評議会』

ラベンダーさんと征服の草Ⅰ アトランティスへの不満


 いたたただだだだ、やめ、タイム、タイム! そう、いい? 

 タイ――いたただだだッ
        ――若き日のミンテ

 

 『日の昇る評議会』――植物界の今後の方針の決定や、各次元、世界間での連携。三次元における人類の問題。現代の地球が抱えている環境問題含め、今までの文明がしでかしてくれた核爆弾、原発による放射能や汚染物質が、自然や次元、救済対象の魂などに与える影響の後始末。人災、実験のせいで亡くなった動物霊や海洋生物たちの魂の説得。第六文明完全崩壊の影響で表に出てしまった魔物と悪魔の処理、封印作業、地盤の再強化、土地の浄化。『魔界の根』パピポピプラに囚われた魂などの、リトリーバルプロジェクトといった様々な難題や案件。地球さんの体にたまってしまったストレスやトラブルの解消。星が無くなり、輪廻転生できなくなった魂の難民の受け入れ問題。数千年単位での地球の計画の見直しと、それに対する懸念要因の検証。宇宙連合との共同作業、敵性宇宙人に対する対処法など、など!
 …………地球に与えられた実に多種多様すぎる課題について取り組む、アロマ連合もとい植物界の最高意志決定機関だ。
 ミルラは思った。


 ――やることが多すぎて、枝がいっぱいいっぱいだ


 ここは植物界なんだから、植物界の問題にだけ取り組めばいいじゃないか、なんて人間みたいなことを考えてしまうが、そうも行かないのが現実という奴だ……
 三次元だろうが四次元だろうが、五次元だろうが、それが変わることはない。
 そもそも植物界の抱えた問題とは、三次元上に存在している様々な土地の問題、そしてその土地の他の次元領域などの見えざる世界も含めた上での、環境問題だ。自然環境の問題とはつまり、この星、地球の問題に自ずとなってくる訳で、結局――地球が抱えている問題は、植物界の問題に、なってしまうのだ。

 ――宇宙人含め、人間さんの後始末は辛いぜ
 
 特別会議場と呼ばれる大広間の、中央にあるオレンジ色の円卓テーブル。
 そこには評議員として選ばれた、アロマ連合の主要マスターたちが席に着いて話し合っている。
 私の後ろ、会議場の奥にあるいくつかの巨大な一枚ガラスからは、激しい議論など縁遠い、空中庭園の美しくのどかな風景が見えていた。
 アカデミー前の噴水広場は見えないが、その先の第二区画、第一区画、城壁を超えた外の様子を一望することができる。
 もっとも第二区画は大部分が森なので、真ん中の参道や庭園、それから神社、道場、屋敷以外はあまりよく見えないのだが――おっと、学生たちが動かしているゴーレムなんかも、見ることができたな。
 黄金の、夕日に染まる、空の下。
 部活動に励む学生、生徒諸君は、キラキラと輝かしい青春の波動を発しており、微笑ましい限りだ。
 不始末を押しつけられ、苦労するのはいつも我々精霊だが、せめて彼らの未来が……明るいことを願う。
 私は隣を見る。
 私の隣の席に座っているのは、もちろん――アロマ連合の長、グランド・マスター『真の薫香』だ。
 彼は今、円卓テーブルの真ん中にはめ込まれている水晶パネルから、宙に映し出された立体模型や情報について話している。
 円卓テーブルを囲むように、コの字に置かれた緑色の傍聴席には、オブザーバーとして、ミカエルやウリエルたちの天使グループ、それから龍が十数人、トトとアヌビス、魔王ケガ、例のあの人、遥か遠くの銀河の暗黒卿、ゼンマイ仕掛けの騎士団からの使節、オベロン夫人、ロキ一家、ハーデスといつものパピーが二匹――いや六頭か?(このパピーがあの有名な、冥府の番犬ケルベロスだな。今は三つ首の人の姿をしてハッ、ハッ、ハッ、ハァッ、と言いながら主人とじゃれ合っている。確か名前はタロー、ヨーダ、ジロー、もう三頭はハチ、シルヴェスター、ポッター。ちなみに名づけ親は私とミンテ)ゼウス被害者の会代表(この団体は本当に迷惑だ。いろんなところへ行ってはゼウスの粗を探している。だが、植物界の最高議会の場である『日の昇る評議会』に、犬を連れて来ないだけ、ハーデスよりまだマシと言える)、三途の川の渡し人、ムーやレムリア、アトランティス時代のシャーマンと巫女たち、不動明王、千手観音、見習いあまてらす(千手観音の手が邪魔そうだ)、秋山一誠、弁天さん、ヤマタノオロチの――長女と末っ子だったかな? 世界ヒロシ、ビッグ・サンタ、人魚、ヴォジャノーイ、ケンタウロスのケンちゃん、ミノタウロスの御ノ門太郎、ペガサス、ユニコーンなどなど、あらゆる神や精霊たちが入り乱れて座っている(人がもしこの場にいたら、とんでもない波動レベルの高さに魂が壊れてしまうだろう)。
 他にも、読者の価値観をブッ壊すぐらいなヒトたちがいっぱいいて(ロクな奴がいないって? 良く言えばキュートさ)、もっと詳細に説明してもいいが――いや、これぐらいにしておこう。

 ――話し過ぎるのは、華がないよな

(一応、現代に生きる読者のために不肖ミルラ、説明させて頂こう。精霊や神はいがみ合ったりなど基本しない[君たちの時代にまで残された神話や、この物語の中ではもちろんするぞ。しないとお話にならないし、神話に登場するのは結局、本物の神ではなく当時はただの人間だからな]。上の次元では宗教の境なく、皆、手を取り合って頑張っている。それに、君たちの時代になる間に教えを歪められてしまった宗教など、後の人間が勝手に解釈したものでしかないからな。心の教育面では機能しているんだろうが、霊的な真実はある程度隠されてしまっただろうし、こちらとしても計画があるから、全部本当のことを教えている訳ではない。魂を磨かせるために、あえて嘘を教える場合もある。布教したり、教えを伝える側も、正しくコンタクトできるレベルの高い霊能力者が、極端に少なくなってしまっているんだろうな……。政治だろうと宗教だろうと、どこの世界にも意識の低い人のほうが遥かに多いのは、世の常だ。ちゃんと心身を磨いていれば、別だろうが。立場はあれど、人間も神も私たちも、魂は皆平等だし、同じものだ。だから従う必要はまったくない。というか、慕ってもいいのだが、従われるのは本当に困る。依存になり、自分の意志を放棄しかねないからな。仲の良い先輩や、友達ぐらいの関係でいいんだよ――って言っても抵抗ある人もいるだろうが……。あと、最低限礼儀はちゃんとしてくれよな。親しき仲こそ礼儀ありだぞ。怒っているヒト、けっこういるぞ)

 私は手元の進行表を見た。次は……っと、やれやれ、やっと私の心情と、今回の評議会で何が話し合われているのかの描写か――ってこれ別の進行表だ!?
 私は手元にあるいくつかの紙束をめくり始め、そして――探していた報告書を見つける。

 〝おりえんとにおけるちゅばきゅろーしすとぽっくすのせいりょくけんまとめ〟

                  ――作成者*見習いみかえる 監修*大天使田中
 
 そう、これだこれ! 
 今、オリエントが抱える切迫した問題はこれだ! チュバキュローシス、ポックスのダブルパンチ!!
 太古から我々や人類を苦しませてきた厄介な疫病たち! それが今、このケメトの地のすぐ側までとうとう接近を許してしまった!
 数々の諸問題に追われ本業をないがしろにしてしまうなんて、植物界もふがいない――とはさすがに言えまい。どこの世界、次元も、今はヒト出不足だからな。
 私たちの仕事を手伝える霊能力者が、もっといれば良いんだけどな、なんて泣き言も言ってられんか。ヘタクソなくせにかきまわされても困るしな。
 しかし、本来ならこれほどの事態はまずありえない。本来ならな! それに特化したヤツが、ウチ(連合)にはいる。
 こういう疫病の問題は、アロマ連合きっての武闘派アロマ兼、対疫病スペシャリストに任せておけばいいのだが、そのスペシャリスト、『征服の草』ことマスター・ミンテがなァ! 

 私はある日の彼女のデスクに置かれた、文香の匂いを思い出す。


 故郷に帰らせて頂きます(*´ω`*)

                ――『征服の草』より


 400年にも及ぶ長い年月、休暇を取ってしまったのだ。私だって気持ちは分かるし、それだけならばまだ良いのだが――

 ――あの野郎、三ヵ月もタラタラしやがって! おかげでここまで疫病の侵入を許してしまったじゃないか! 

 わたしも多忙すぎて対応できなかったし、幸いまだケメトに被害は出ていないが、そうそうに手を打たないことには大惨事になるぞ! 
 もうっ許さん許さん許さん許さん!!!!! 
 あいつの勝手病にもほとほと困ったものだ! こればっかりは連合きっての武闘派アロマ兼、対疫病スペシャリストであり、数々の歴戦を潜り抜けてきた英雄『征服の草』でも、どうにもならないらしい。   
 あnの愚草! 本当に今までどこで道草食ってたんだ!? 

 ――……ミンテの家を訪れてから三日経った頃。
 あれ? 遅いな、と思っていたが一週間経ってもまだ来ない。
 こちらから出向かおうと思ったが、小癪なことに気配を消しておりサーチもできないし、それなら万能忍者・ガジュ丸に頼もうと思ったが、任務中、いちいちこんな理由で呼び戻されている場面を多く見てきたので、不憫だと思いやめた。精霊の無駄遣いだ。
 おいおい、疫病さんが、とうとうケメトの国境付近にまで近づいてきたぞ、と唸りながら仕事をしていたある日のこと。ハヤブサが文香を届けに来た。
 私が封を切り、中から香木を出して匂いを嗅いでみると――


 ゴメン、三ヵ月待って、三ヵ月だけ(。・?_?・。) ←先輩の今の顔

                  ――あなたの可愛い後輩より
                    
              P.S.地中海ってほんっとキレイね


 枯れちまえ!(我々は死ねという表現があまり好きではない)
 香木には地中海の映像と、エキゾチックな潮風、爽やかな海の匂い、癒しの波動とさざ波の音も香りに込められていたので、私もつい、あー、何百年ぶりだろうなぁ、心が洗われるな、なんて思ったが――違うッ!!
 勢いあまり香木をコナゴナに粉砕してしまった。
 遊んでないではよ来い!!!
 何してんだ馬花野郎! 
 ケメト中に疫病が蔓延してしまったら、次はヨーロッパだぞ!! 
 事態を分かっているのか!?
 ――……今もだが、あの時はあまりのイライラで枯れそうだった。キツツキに穴を開けられるより、キツいストレスだ。

 さっきガジュ丸が〝至上主義者〟に関する調査報告に来て、ついでに門番からひどいクレームが事務所に入ったと言うから、話を聞いてみれば、どうやら愛しの愛しの可愛い後輩がやって来たらしい。
「これにて御免仕る」と消えようとするガジュ丸に伝言を頼んだのだが、いまだ来る気配はない。あれからもうずいぶん経つぞ……
 遅い! 遅い! おせェ! 何してるんだ一体!? 

 私の維管束はもう、煮えくり返っていた。

 ふと、近くに座っているミカエルが、怯えた表情をしているのに気が付いた。
 ?
 数々の悪魔を闇から救ってきた天使長が、一体何を怖がっているんだろうか? 
 あ、そうか、私か。波動を読み取ったのか。表情は包帯で隠れているから読み取れないもんな。

 私がミンテに対して怒りを募らせている間に、いつの間にか評議会では『銀の狐』殿が話していた。
 『銀の狐』――立場上はアロマ連合のサブ・グランド・マスターなので私よりも上だが、実質『真の薫香』と同等か、それ以上に力を持つ精霊だ。
 しかし普段は連合本部にもオリエントにもいない。連合支部のある遠くの国の学院で、後進の指導や、国造りにあたっての細かい調整を担っているからだ。
 大混乱時代から知っているが、油断ならないやり手の大精霊だ(読者の君たちにだけは打ち明けるが、正直言って苦手なタイプだ。仕事じゃなければあまり顔を合わせたくない。この気持ち、分かるだろ?)。
 『銀の狐』は言う。
「では〝至上主義者〟が、今回の疫病の一件に絡んでいると?」
 冷ややかで、灼熱の国ケメトも凍りついてしまいそうな声だ。
 彼はちょうど反対側の位置に座る、『真の薫香』を見る。
「断定はできん、まだ可能性の話だからの」
 すると、円卓に座ったひとりの精霊が声をあげる。
「ほ、ほっといても、良いんじゃ、な、ないですか? ここ、困るのはっ、人々だし」
 それに賛同するように、次々と声があがった。
「疫病をなんとかしている間に、今すぐ対処せんといかん問題を放ったらかしにして全部パアになるのに比べたら、しょせん一生の苦しみだしな。毎度毎度助けていても成長できんし、いくらでも次の人生が用意されているのだから、今は見放すこともありだと私は思うぞ」
「『銃火器』殿。その意見、九理ぐらいあるね」
「『魔法の粉』殿は?」
「俺ァサンダーと同じ意見だ、衛生班に任せとこうぜ。それに、いちいち俺たちが介入してたんじゃキリがねえし、成長しねえっつんだよ! たかが疫病にやられてるようじゃ、今後が思いやられる。オリちゃんの予言だと、世界大戦だって何度か勃発するそうじゃねえか。自分たちの面倒ぐらい、自分たちでなんとかさせようぜ。こっちだって人類が滅びねえように、他の問題を片付けるので必死なんだからよ」
「『魔法の粉』、ここは禁煙だぞ!」
「いいじゃねえかオリちゃん、害はねえんだから」
「わしはそういうことを言っとるんじゃない、議会中だから吸うなバカモン! あと、今は礼名で呼べ!」
「へいへい、バカモンじゃなくてシナモンですよっとぉ」
「アイタタタッ、座りっぱなしで腰が」
「大丈夫かい? トゥモロー。アンタは腰が脆いんだから、もっと深く座りなよ」
「ありがとう、『貴族の花』殿」
「ハッ、ハッ、ハッ、ハァッ」
「う~む、成すがままなのでしょうか? 『癒すもの』殿」
「うーん、おびき寄せたのも結局は、他人や世界の苦しみに無関心で生きてきた、自分たちだからねえ」
「そんなバカな! 肉体を持って生きるだけでも大変なのに、それでも純粋に頑張っている人々もいるのですよ! 彼らまで見捨てるんですか!?」
「人類は一蓮托生。自業自得なんだ、しょうがないよな」
「では、放置という方向で? そうなればオリエント一帯は大混乱でしょう」
「ケメト人からしてみれば、ビックリよね」
「え? 今ニンジンって言ったアルか!」
「『没薬』殿は、どう思われますか?」
 一同の視線が一気に私に注がれた。私はテーブルの上に両手を組んだままの姿勢で、固く結んでいた口を、ほどいた。
「ンンンッ! 私も、んふ、同じように思うよ、別に放っといても、良いんだがなッ――ケメト王朝も腐敗し、人々の間でユダヤ人差別があたりまえになってしまっている現状、我々は我々で、他にも成すべき仕事がいっぱいあるし――」「『没薬』殿の仰るとおりです」
 そこで『銀の狐』が割って入ってきた。私の意見を遮り、自分に有利なよう取りこむ形で。
「我々には、対処すべき問題が山程あります。それに比べ、時間も人材も充分ではありません。ですからこの際、警戒態勢を解き、あえてポックスとチュバキュローシスをケメトの中へ招き入れる――というのは、どうでしょうか?」
 どよめきが起こった。
「うまく彼らを利用できれば、ユダヤ人たちを救うきっかけになるかもしれません」
 これはまずい、私は猛烈に反対する意志を示した。ダンッッッ!!!
 ミカエルがビクッと震え上がる。――ごめん。
「ダメだ! 私もそのアイディアはあったが、〝至上主義者〟が絡んでいる可能性が出てきた以上、事がうまく運ぶとは考えにくい。危険だ! それに! ――」
 また横槍を入れられないよう、それに! と牽制し、一瞬のスキに私は頭を最高速度で回し気息を充填。今、連合が取るべき姿勢を口から発射した。
「疫病共がケメトに蔓延してしまえば、次はヨーロッパだ! そうなれば、今後の計画にも支障をきたすことになる。〝至上主義者〟がバックにいるのなら、これは植物界の沽券に関わる問題だ。介入すべき、撃退すべき義務が、私たちにはある!」
「いえ、元はと言えば〝至上主義者〟を生んだのだって、人類の責任です。我々のせいではない」
 私の反論を意にも介さず、無感情な冷たい声で淡々と話す『銀の狐』は、死人のようだった。
 虚空を感じさせる白い肌、銀色の髪。何もないように思えてそのくせ、やたら金色に光る鋭い眼光は、あのシナモンやサンダーをも震え上がらせるほどだ。
 これだったらミンテの大好きなOBAKE、〈ドコドコさん〉のほうがまだ可愛げがある。もちろんそんなもの、絶対にいないけどな。ただのオカルトだ。
 彼はレムリアの――じゃなかった。今はもう……日本文化だったな。
 日本神界の和服をさらりと着流している。どこのオールドショップかは知らんが、雪のように真っ白いだけのものなのに、一目で上等だと分かるぐらいの一級品だ。
 私はあまり、服に関しては……残念なことに詳しくないのだが、ミンテ風に言うならば、首元と袖から見える中の黒い服が、きっとお洒落なのだろう――ってそんなこと思ってる場合じゃない!
 『銀の狐』は続けていた。
「それに、たとえ背後に〝至上主義者〟が付いていようが、疫病たちを呼んでしまったのは、彼らです。彼らの自分たちさえ良ければいいという、腐った意識です。日常で、ユダヤ人の差別が頻繁に起こっているにもかかわらず、自分たちは、ああならなくて良かったという腐った安堵! それが、今のこのケメトの問題です」
 この流れは非常にマズい! まず『銀の狐』の意見がド正論だということがマズい! 反撃しにくい上に、他のマスターたちも大方『銀の狐』と同じ意見だろう。
 疫病をケメトに招き入れる。毒を持って毒を制すということだ。理解はできるし確かにその方法は効果的だが、私はできるなら薬で良くしたい派だ。人類を甘やかしているだけなのかもしれんが、『没薬』の名に懸けてなんとしてでも彼のやり方は止めねばならんッ!
 私が攻めあぐねていることを良いことに、『銀の狐』は続けて言う。席を立ち、特別会議場にいる神、精霊たちを見まわしながら――
「ここにいる誰もが知っている、あのアトランティス文明の――」それを持ち出すのか!?
コイツっ!! 「『銀の狐』、やめろォ!」
 立ち上がり叫んだが。
「輪廻転生制度を無視した奴隷システムを、まさか忘れた訳ではないでしょう? 工場でクローンを大量生産して、成長エネルギーを吸い尽くす。植物から作ればいいのに、莫大なエネルギーを得たいがために、わざわざ同じ人間から、搾取する。せっかくこちらがアトランティスを救おうと、極めて能力の高い優秀な魂を送っても、奴隷として生まれてしまい、機械のように制御され、己が使命を全う出来ぬまま、感情も意思もなくただエネルギーを吸い取られ……死んでゆく!」
 私はっ、コイツのことが大ッ嫌いだッ!!! 私が、アトランティスのことを、どんな想いで見ていたかを! 救えなかったかを! 理解した上で! 話して!! 引き合いに出している! しかも、正論なのが、ほんっとうに厄介だ!!   ッ  。 

 ――――包帯を巻いていて、よかったよ
 
「同じ惨劇が今、このケメトの地でも起こっているのです。疫病をケメトに入れて、奴隷解放の手助けをするべきです。もっとも、リアルタイムで、アトランティスのあの忌まわしい奴隷システムを見ていた『没薬』殿が、また同じ経験をしたい、と言うのであれば、話は別ですが。自分たちがまいた種なのだから、彼ら自身で疫病も、〝至上主義者〟も、なんとかさせるべきです。今、私たちが取るべき態度は、ケメトの人々を見れば、それは火を見るより明らかでしょうに」
「っ。しかし、だ」声よ、正常に出てくれ。「――誇張が過ぎるぞ! 今のケメトには、アトランティスのような化学力はない! 奴隷システムと言っても全然違うぞ!」
「ですが、やっていることは同じではありませんか? 人を人とも思わず、ユダヤ人を、自分たちの利益のためだけに労働させている。一般人も見て見ぬ振り、何も変わりませんよ。ただ、神をも恐れぬ化学力が……あるかないかの、違いだけです」
「疫病をケメトに招き入れれば、そのユダヤ人たちも、巻き添えを喰うんだぞ!」これは、どうだ!?
「多少の犠牲は付き物です。全体を助けるためのね。人間だって、収穫を得るために作物の苗を間引くでしょう? あとは我々が、あまりユダヤ人に被害が及ばないように近くで護衛して、疫病を誘導して王朝を懲らしめればいい」
「ダメだ、それは〝至上主義者〟が、いなければの話だ! 何度も言うが、そううまくいくとは思えない。疫病はケメトには入れず根絶やしにする、ユダヤ人の問題も、何とか解決の糸口を探す!」
「それは要領が悪い」
「そっちこそ、横着だ!」
「お~うよしよしよし、顔は舐めないでくれよヨーダっつッハハハ、ポッター、お前もかあッはっは」
 ――くっ、いつも以上に激戦だ。それも私が絶対的に不利だが、そんなことは百も承知だ。駄々をこねているだけなのだから。
 地球を守る、しかもそれなりの立場にいる精霊のくせに、情を傾けてしまっている――そうだよ、悪いか! もう嫌なんだ。
 地球が滅びてもいいのかと迫られたら……Noと言わざるを得んが、コイツがそこまで極端なことを言わないことを祈り、私は、抵抗する姿勢を示す。
「なんであれ、私は意志を曲げるつもりはない!」
 自分で言っていて思うが、何とも頼りない言葉だ。『日の昇る評議会』で、他のマスターたちを説得する材料も何もないのに、言っているんだもん。ヘソ曲がりも、老害もいいとこだ。
 『銀の狐』は仰々しく、年下だからという理由で相手を見下す大人のように、嘆息していた。
 これだから聞き分けのない子供は困る、とでも言いたげな顔だ。知るかバーカ!
「まるで埒が明きませんね……――どうでしょう? せっかくこれだけの方々が評議会に集まっているんです。私の疫病を招き入れる案に賛成か、『没薬』殿の迎撃案に賛成か、皆さんの意見も聞きましょうよ」
 そこで辺りを見まわし始める。
「龍の方々は、どうお思いでしょうか?」そう来るよな、絶望的な状況だ。
 『銀の狐』の声に、東洋風の黒い着物を纏った、スキンヘッドの黒人男性が立ち上がった。
 龍は浄化を司る一族であり、彼らにとって一番大事なのは地球だ。今度こそ、トドメを刺される!
「『銀の狐』殿の意見、『没薬』殿の意見、双方に理があると思うが、どちらに転ぼうが一向に構わぬ。私たちは、浄化が必要なら動くだけだ」
 蒸散して、力が抜ける。茎の皮一枚だが、まだ繋がった(それ繋がってるの? と思う読者もいるかもしれんが、植物は強いからな。私の後輩なんか、人にとって首だけの状態から簡単に復活したりするぞ。私もミンテのように、この状況を覆したいものだ。それに私たちからしてみれば、首の皮一枚という人のほうがおかしい。まあ、例外な人も確かにいるが)。
「成程。では、他に意見のある方は?」
 あまり感情を表に出さないコイツにしては、珍しく不快そうだ。私を仕留めきれなかったことが、悔しいと見える。ざまあみろ――って思ってる場合でもないか。

 伐採のような絶望感が、体中を蝕む。窮地は変わらない。

 ハッ、ハッ、ハッ、ハァッ。 
 緊張感の海にいるようだ。『銀の狐』の射殺すような鋭い眼光に睨まれ、誰も口をつぐんでいる。
 コイツは――いや彼は、別に間違ったことをしている訳じゃない。むしろ精霊として、とても正しい。私も……本当は、それが正しい、やり方だと……思う。 
 だから、援護は、期待できないだろう。

 ――――終わった。私以外に反論する精霊がいない。それは、彼の意見が採用されたということだ

 私が深くため息をついたその時――
 私の右手の傍聴席に陣取っている天使グループ――たくさんいるミカエルやウリエルたちの中から、ゆっくりと、代表のミカエルが立ち上がる。
 ――先ほど私が怖がらせたり、驚かせてしまった男のミカエルだ。私は彼を佐藤エルと呼んでいる。
「私たちは、人は苦しみなくしては成長できないことを、知っています。個人はともかく、人類全体の意識としては、ドン底のギリギリまで追い込まれないと決断できない、学ばない、分からないということを、経験として知っています」
 さすがミカエルの代表だ。私のように選択を誤らない、立派だ。
「ですが、体験する必要のない苦しみからは、なんとかしてあげたいのです。私たちは『没薬』殿を支持します」
 馬鹿かお前!? 甘やかして成長できると思っているのか! それでよく天使長が勤まるな!?
 すると、ミカエルたちから一斉に極秘回線で頭に念話(テレパシー)が来た。

[何をやっているんですか!? 自分の立場を忘れないでください! 今ですよ!]
 はっ、そうだった。
[――サンキュー、ミカエル! 愛してるぜ!]
 
「『銀の狐』殿。天使界は、私の意見を尊重してくれるようですが?」
 天使たちの支持を得た! どうだろうか? 押し返せるか!?
 『銀の狐』は、特に気にした風もなく冷静だった。「他に意見のある者は?」と再び呼びかける。
 すると円卓にいる一輪の女性が、恐ル、恐ル、手をあげた。
「『待つもの』、申しなさい」『銀の狐』が促す。
「わ、たしは、疫病たちを、ケメトに、ぎ、『銀の狐』殿の意見、に、賛成、ですッ」
 あれは『待つもの』――レバノンだ。かなりビクビクしていて、今にも折れてしまいそうだ。そうか、彼女は…………向こうに付いたか……べつに責めないが。
「ばーお~ばーぶ~~」
 レバノンに次いでもう一輪、声をあげた。
 レバノンの隣で車椅子に座る、目が虚ろな老人姿の花だ。
 『銀の狐』は、かなり困った顔をしていた。彼のここまで困り果てた顔は、なかなか見られるものではない。
 本当に困ったという表情だ。私も、彼の気持ちは痛いほどよく分かる。
「『待つもの』、『星の王子』の言葉を、皆に伝えてくれますか?」
「ば、バオは、バオバブ、『星の王子』は、も、『銀の狐』、殿を、支持すると、い言っていまつッ、す」
 ……バオバブの言葉は、彼と魂の波長が合うものにしか、分からない。今この場でバオバブの言葉が分かるのは、レバノンだけだ。
 元々は、それは素晴らしい精霊だったと聞いている。
 アロマ連合のツートップ――『真の薫香』オリバナム、『銀の狐』銀狐。この二輪すらも彼にとっては、遠く足元にも及ばないと言われる大精霊。
 だったが。
 大昔に、心に酷いトラウマを負ってしまい、今のような状態になってしまったそうだ。
 植物界一のヒーラー、『癒すもの』カモミールのヒーリングでも、彼にはまったく歯が立たなかった(まあ、バオバブは木だから歯なんか立たんけどな)。
 カモミール曰く、心を完全に閉ざしていて、レバノン以外にはほとんど懐かないらしい。
 …………
 あまり見ていて、良いものではないな。今では面影すら残っていないが、彼ほどの偉大な大精霊の末路が、これとは。木の毒過ぎる。
 激しい復讐心と怒り、憎しみ、憎悪、殺意で、心がいっぱいだ。もう、本当にやめてくれっ。
 
[ミルラ、ダメです。前を向いて下さい! 人類を、救うと決めたんでしょう?] 
 
 佐藤エルだ。念話の極秘回線から、私だけに聞こえる声で、呼びかけてくる。 

 ッッ!! 

[……本当に私のやっていることは、正しいのだろうか?
 レバノン。バオバブ。この二輪のことを想うと、〝至上主義者〟のほうが正しく思えてくる]

[――ミルラ! 過去に囚われてはいけない、今を見るのです! あなたの夢を思い出しなさい。あなたの夢は――]

[――……そうだ。もうあんな惨劇は、二度とごめんだ。ありがとう、佐藤エル]

 しかし私の気持ちとは反対に、状況はどんどん悪くなる一方だ。このままではケメトに疫病を招き入れることになってしまう。
 レバノンとバオバブが『銀の狐』側に付いたことをきっかけに、『銀の狐』の意見に賛成する精霊たちが、どんどん現れたのだ。
 べつにもう、招き入れてもいいんじゃないかと私も思うが、ミカエルやウリエルたちがすごい勢いで、そのくせバレないように愛と勇気のエネルギーを送ってくるから(すごい芸当だ)、もう少しだけ頑張ってみよう。
「俺は『銀の狐』の意見に賛成だ。むしろ、『没薬』の意見に賛成の奴は、相当にオツムが足りないんだろうなあ」
 あの麦わら帽子の赤髪の男性は、『海賊』――オリザだ。
 彼は円卓テーブルに足を乗せ、ひねくれた態度で言う(足おろせよ。いつもこのテーブル誰が拭いてると思ってるんだ!)。
「たかが〝至上主義者〟共が絡んでいるかもしれないっつーだけで、疫病をケメトに入れられない腰抜けに、天使共はよく賛成なんかできるぜ! 状況本当に分かってんのか? 疫病をケメトに入れれば、王朝も懲らしめられるし、ユダヤ人たちも解放できるんだぜ? 一石二鳥じゃねえか。『没薬』さんよう! さっき疫病共を根絶やしにするとか抜かしてやがったが、そんなことしている間に、ユダヤ人のほうこそ根絶やしになっちまうんじゃねえのか? ああ?」
「――しかし」反論しようとしたが。
「調子に乗った奴から滅びる、それがこの世界の掟だ! 俺は、レバノンのことも、バオバブのことも、忘れねぇ。ケメト人はもう、年貢の納め時なんだ。アンタだって本当は分かってんだろ? 若い芽がどんどん育ってきている今、次の世代が立派な精霊として咲く時代まで、こんな問題は残してちゃいけねえ」
 オリザはうつむいており、麦わら帽子でその表情は、あまりうかがうことができない。
 トゲはあるが言っていることは、まったくそのとおり、筋が通っている。
「精霊である以上、やり返すことはあっちゃァならねえが、尽くして尽くして、最後まで我慢して溜めこんだ結果がこの二輪だ! 違わねえか?」
 何も、返す言葉が見つからないな…………なんにもない……
「アタシもダンナの――『銀の狐』殿に賛成です。戦争の絶えない野蛮な星なんてレッテルを張られ続けるのは、もう御免なんで。厳しく行きましょう」
 あの女性は『貴族の花』――藤だ。日本の着物を纏っている。

[佐藤エル、これでもまだ私に、人類を救えと言うのか?]

[私はミルラの優しさを知っています。あなたを信じています。ただ、それだけです]

「私も『銀の狐』殿に賛成です」
 あの女性は『退魔の草』――麻子だ。可愛いな。
「今すぐ警戒態勢を解いて、疫病たちを中に入れるべきです。今こうしてる間にも、ユダヤ人はもうこれ以上にない苦しみを味わっています。撃退をしている暇はありません、もう苦しんでいるんです。『没薬』殿、皆さま方も、甘い考えは捨てご英断ください」
「我々も『銀の狐』殿を支持する。彼はとても素晴らしい精霊だ、地球の今の状況をよく理解している。地球人共のえげつない行いで! 実験で! 生贄で! どれだけの同胞たちが犠牲になったか、それを理解している。『待つもの』殿、『星の王子』殿。御二方の心中、動物界一同、心よりお察し申し上げまする」
 あの三メートルの筋肉隆々のキモいの(失礼、上半身はだかの牛頭)は、カウボーイだ。
 茶色く光る、テカテカのぷるっとした張りのある霊体をしていて、あまり側に寄りたくない(差別したくはないが、私はムリ。キモイもんはキモイ! 文句があるならまず服を着ろ。ないなら包帯を貸してやる。いや、もうやる)。
 動物霊たちのグループは、皆一様に気難しい顔をしている。あちらの世界も、相ッ当に根深い問題が、山のようにあるからな。
 以前の第六文明の最後の文明、アトランティスでもこの問題があり、まだ引きずっているのだが(ほんっと、歴史というのは繰り返すよな)、捨てられたペットの問題とか、虐待とか。残忍極まりない実験で、犠牲になった魂の問題がな!
 それにしても、奴隷売買とペットショップ……どう違うんだろうな。保健所に行けば、動物たちはいっぱいいただろうに……
 わざわざショップで高い金払って、サインして、命を買って、捨ててゆく。
 一番タチの悪いのは、捨てたクセに同情することだ。死んだ後、また新しく生まれ変わろうとしているのに、同情するという行為が、死後の世界でも鎖に繋いでしまうということが、まるで分かってない! カウボーイたちも、そりゃこうなるわ!
 宇宙連合も、問題児地球人のために重い腰を上げたようだし、これからどうなっていくんだろうな……

 もう結果は出ているだろうに。『銀の狐』は、徹底的に私を潰したいらしい。
 いまだ意見を出せない中立の曖昧な者たちに、「他に意見のある者は?」と聞いている。
 根の深い問題だ(植物だけにな。え? いや、ふざけてなんかいないさ。ただ、冗談のひとつでも飛ばさないと、やってられない)。私と彼、どちらの案に賛成かは、そう簡単に決められるものじゃない。シナモンやサンダー、カモミール、オリバナムでさえ、悩みに悩んでいるのだから。
 しかし、『待つもの』、『星の王子』、『海賊』、『貴族の花』、『退魔の草』。それに動物界。これだけの精霊たちの賛同を得ているんだから、もう彼の案で決まりなのにな。
 変なところでフェアな奴だ。勝者の余裕というやつだろうな、ちょっとムカつく。

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 どれくらい時間が経っただろうか。
 冥界のような重たい沈黙だけが、空間を支配していた。みんな自分の思考の中に閉じこもってしまったようだ。
 静まり返った特別会議場では、ハッ、ハッ、ハッ、ハァッ、とあえぐパピーと、幸せそうにパピーをわしゃわしゃしている、飼い主もとい冥府の王の楽しそうな声が聞こえるだけだった。

 ――さっきからうるせェなこいつら! 帰れよッ!! 何しに来たんだ一体!? 私にも触らせろよ!! っていうかとなり見てみろ! あのロキ一家がドン引きだぞ!? 

 あ、暗黒卿待て、ここでブォンブォン振りまわすのは危ない!  
 あっ、パピィイイイイイイイ!?
 シュコー、シュコー。「ミーと、ユーはァ、ともだちィィィBrrrrrrr」

 ……なに言ってんだコイツ?

「お手をするのだポッター」
 うわ、またなんか来た。
「ビビデバビデブ(死の呪文)」ビチバチバチッ!!
「ポッタアアアアアァァァ」ハーデスは激しく泣いた。

 

「『銀の狐』の名において命ず――消え失せろ」