のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第20輪 狂気のサンタ界

連れていってくれるって約束したのになぁ

 

      ――マノン・ガトフォセ

 

ナポレオンの写真

 

血で真っ赤に染まったような服を着たサンタ共が三太を襲っている!

 

なんてこった! マイナデスアルコールが充満してサンタ界は堕ちたんだから、

中にいるサンタだって正気を失っているに決まっているのに。

どうして気づかなかったんだ!

 

三太は現在、サンタ――マイナスサンタとでも命名しようか――に

襲われて、拳や剣を避けるのに精いっぱいだ。

ギリギリのところでかわしてはいるが、三太はまだ大人の姿に変身できるほど

体力が回復していないはずだ。

相手は大人のサンタ共。それも十数人。子供の姿では圧倒的に不利だ。

 

オレは急いで飛んでいき、三太の頭上でナポ公の姿になった。

 

(ナポ公とはもちろん、ナポレオン・ボナパルトのことだ。

なつかしいな、あいつ元気にしてるかな。

昔はピーピー泣いてたひよっこだったのに、

あっという間に立派になって。あいつにレディの扱い方を教えてやったのは

このオレだ。やつはオレさまの女性に対する心得を

みるみるうちに吸収してゆき、見事、オレンジ勲章準2級を受章した。

ニワトリぐらいには成長したんじゃないか。

だがやつは慢心した。最後はケンカ別れになっちまったが、

根は……うーn、人間だな。

ちなみに妻のジョセフィーヌが飼っていたフォーチュンというパグは、

オレと会話ができるほど霊感が強く、いけ好かないヤツだった。

あいつは犬の中でもかなりの悪たれだ! もし人間だったらその悪名は

後世に語り継がれただろうに、残念だ by オレンジ)

 

下降中に火炎玉を作ろうと手のひらにエネルギーを送り込んだが、

途中で気づく。

そうだった、いまこの世界で火はマズい。

ナポレオン・ボナパルトはタッと着地した。

ちょうど三太に殴りかかろうとしていたサンタを踏み倒し

少し背が高くなった皇帝は、無心で隣の三太と目が合った。

 

「……」

「……何してんの?」

「おまえを助けようと思って」

「上から攻撃して蹴散らせば――」

「危ない!」

ナポレオン・ボナパルトの皇帝パンチだ!

喰らえ! 三太の背後から襲い掛かってきたハダカのサンタの

ほおに命中した皇帝パンチ。しかし俺のイメージとはむなしく、

ハダカのサンタはダウンせずそのままオレにつかみかかってきた。

おぉ、こんにゃろ!

倒されたオレはサンタの腹に足を入れ、後ろへ蹴り飛ばした。

 

急いで起き上がると、三太は大人の姿に戻っていた。

7人に囲まれているが、ふたりは仲間割れして殴り合っているので、

5人のサンタとやり合っている。

いまふたりを日本刀で気絶させたが、残りの3人は難しそうだ。

3人のサンタが持っているのはチェーンソー、札束、RPGーTだ。

全員ゾンビのように不規則な動きをしており、三太は苦戦していた。

特に厄介なのがRPGーTを持ったやつだ。

RPGーTはトト社という非物質界の有名企業が開発した対UFO携帯兵器で、

肩に担げるサイズなのにもかかわらずUFOを撃ち落とす威力を

持っている。

 

三太は必死でRPGーTの軌道から外れようと、躍起になって

暴れている。

助けに行きたいが、こっちもそれどころじゃない。

10人ほどのサンタ共が次々に

このナポレオン・ボナパルトに襲いかかってくるのだ。

半分ぐらいは素手だが、銃口を向けるやつ、スタンガンを持つやつ、

槍を持つやつ、スマホを持つやつ、帽子をくるくる回すやつ、

赤い帽子をパンツの中に入れ、犬みたいに四つん這いでくるくる回っているやつ、

自分の顔を殴りまくっているやつ、いろいろいる。

 

(まったく、もし人間だったら不敬罪だぞ!)

 

悲しいことに、オレの実力で真正面からこのサンタたちを倒すのは難しい。

だが、オレは機転を利かせた。

相手は酔っている。正気じゃないならなんとかなるはずだ。

オレは元の姿に戻ると自分の香りと念で分身を作った。

そしてオレ自身は体のエネルギーの流れや動きを止め、

がんばって気配を消した。

 

(呼吸を止めているとイメージしてくれれば、

どれだけ苦しいか分かるだろ? 

エネルギーの流れや動きを止めるということは、

裸のように無防備だから、いま攻撃されたらオレはおしまいだ)

 

オレの予想通り、サンタ共は分身を攻撃し始めた。

オレとそっくりというわけではないが、

等身大のオレンジ色の光はオレと同じ周波数のエネルギーの塊だ。

まともに霊視できないやつには、オレと同じように見えてるだろう。

 

よし、三太を助けよう!

 

見ると三太は、チェーンソーを日本刀で真っ二つにしたものの、

後ろから襲ってきたボコボコ顔の黒い服を着たサンタに

羽交い絞めにされて、札束でビンタされていた。

いまちょうどRPGーTは発射準備が完了した!

マズい!

そんなものヒトに打ったらどうなると思ってるんだ!

オレは携帯空間から銃を取り出してRPGーTを持つサンタに狙いを定めた。

間に合ってくれ!

指に力を入れるが、耳に不穏な音が聞こえたせいで

引き金を最後までしぼることができなかった。

 

シュボっという音が気になって、オレは後ろを振り向いた。

オレの視線の先では、人差し指から火を出したイカれたサンタが、

手に持ったダイナマイトの導火線に火をつけようとしていた。

 

おい、やめろ!!!

 

 

 

マノン・ガトフォセは小さな火炎が森から噴出したのを見た。

なんか火が出たなと思っていると、

瞬く間に太陽のように丸くて巨大なオレンジ色の光になり

熱風を全身に受け吹き飛ばされた。