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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第10輪 サンタの三太

私が子供だったら、アンタにだけはプレゼントの配達はやめてほしい。

だって、ミスしそうだもん 

             ――ラベンダー

 

 海を背景に仕事する男性

 

「助けてくれラベンダー、サンタ界が大変なんだ!」

 

「へ? なんだって?」

 

突然現れたスーツ姿の男は、どうやらだいぶ混乱しているようだ。

言い終わってからオレがラベンダーでないことに気づいた。

 

「だ、誰、ですか?」

「いや、おまえこそ誰だよ。ここはラベンダーの部屋だぞ」

「それは失礼しました。私はサンタの三太と申します」

 

なに……こいつ、サンタだったのか。

スーツを着た黒髪のアジア系男性は、サンタというよりも

発展途上国のそこそこやり手のビジネスマンといったほうがしっくりくる。

暮らしに苦労していて、仕事の現場も工夫に工夫を重ねて

やっと回っているところで働いていそうだ。

 

それにしてもサンタの三太って名前!

バウムクーヘン州知事とかプレジデント〈ドコドコ〉ぐらい

インパクトがあるぞ。

 

三太はなぜかオレのことを注意深く見ていた。

 

「ああ、オレはオレンジ、よろしく」

「え、オレンジの花だったのか」

 

オレはいまの言葉に花が高くなった。

 

(植物の精霊は花として扱われると気分をよくする。

マヌケそうなやつだと思っていたが、なかなかマナーを知っているらしい。

ちなみに植物の精霊を怒らせるのは簡単だ。

“ニンゲンみたい”なんて言えば簡単に怒る。

数える時も、ひとりふたりじゃなく1輪2輪と数えたほうがいい。

気にしないやつもいるが、それで激怒する花もかなりいる。

ひとりふたりという数え方をするのは精霊だけじゃなく人間もするからな。

人間とは区別したいんだってよ by オレンジ)

 

「いや、ちょっと待って」

「どうかしたのか?」

「きみは、どうしてラベンダーの部屋にいるの?」

 

さてと、ふむふむ……どうしてオレがラベンダーの部屋にいるかだと!

こいつ! 痛いとこをついてくるな。疑うようにオレを見ている。

 

どうやって言い訳しようか悩んでいると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「ラベンダー? 帰ったの?」

 

マズい、マノンだ! このサンタが派手に転げまわったせいで、ラベンダーが

帰ってきたと思ったのか。

 

このままマノンに部屋に入られれば、それこそおしまいだ。

もう二度と週刊ドコドコを読めなくなるし、

最悪ラベンダーに変態扱いされる。

 

オレは片手を上げ、ドアに念力をかけて封じた。

「あれ? 開かない」

 

「あれは誰?」サンタが静かな声でたずねた。

「人間だ」

「なら、どうしてドアを封じる必要がある? 姿は見えないだろ」

「霊視ができるんだ」

「なんだって!」

「人間に姿を見られて大丈夫か? 

おまえの様子から察するに、緊急事態なんだろ?」

 

アジア系サンタは心底困り果てた顔になる。

四十代になったばかりのサラリーマンのようだ。

 

よし、もうひと押し! オレは若干迷いながらも、トドメの一撃をおみまいした。

 

「オレはアロマ連合のナイトだ。

ラベンダーは仕事で当分帰ってこない(と思う)が、

どうだ? オレで良かったら協力するぞ?」 

オレは手のひらから宙にアロマ連合のエンブレムである

フラワー・オブ・ライフを出現させた。

 

「……」

 

サンタは辛酸をなめるような、苦渋に満ちた表情で自分の足元を見ている。

しばらくして、オレの顔をじっくり見たあと、また自分の足元を見て、

オレの顔を見て、足元を見て、というのを何回も繰り返した。

 

そんな光景を見せられているオレの気持ちにもなってほしい。

神様、どうか、たのむ! こいつにイエスと言わせてくれ!

その代わりに、オレがラベンダーの部屋にいることをどうか黙らせてほしい。

 

とうとう顔を上げたサンタは、コクンと顔を縦に振った。

 

よっし!

 

「手伝ってもらう前に言っておくが、口外しないと誓えるか?」

「ああ、もちろんだとも。誓うとも。

なんなら礼名詠唱で契約を結ぼうか?」

 

「……ああ、たのむ」

 

オレは急に怖くなった。

礼名詠唱で契約を結ぶというのに、いまだにオレのことを疑い深くジロジロ見てくる

こいつもそうだが、なにやら本当にヤバい雰囲気がある。

オレの頭の中のセンサーが警報を鳴らし始めた。

関わるのは危険だ。そう言っている。

いい……のか? 引き返すなら、いまだ…… 

 

「どうした? 契約、しないのか?」

サンタ野郎は差し出した手をぶらぶらさせながら、顔を傾げてニヤけている。

 

!? こいつ、明らかにオレのことを試してやがる! ナメやがって。 

オレは速攻でクソサンタと握手した。

 

 「『天界の果実』の名において誓う――オレさまオレンジは、

いまからこのサンタから聞く緊急事態の内容について、

方法の如何を問わずいっさい口外しない」

 

握手した手の周りがパァっと輝くと、光の鎖がおたがいの手から出てきて

相手の手に絡みつくと消えた。

 

契約は済んだと言わんばかりにサンタが手を引き抜こうとするので、

オレは堅く手をにぎる。飛びっきりの笑顔でほほえんでやった。

今度はこっちの番だぜ!

 

「なにやってるんだ? 早く手を離してくれ」

「今度はおまえが誓う番だ」

「なぜ俺が誓わなければいけない? 手を離せって」

「まあ聞けよ。オレはいまからお前が話す内容については確かに

口外しないと誓ったが、手伝うかどうかは別だ」

 

サンタの表情が強張る。眉根をよせて強くにらんでくる。

「……脅しか? 何が目的かは知らないが、それならもうおまえには頼まない。

ラベンダーが来るまでここで待つ」

 

「急いでいるんじゃないのか?」

「おまえは信用できない。しばらくここで待っても来ないなら、

アロマ連合本部に行ってラベンダーを呼ぶ!」

 

ラベンダーがいつ帰ってくるのかは知らないが、もし

この部屋にオレがいたことがバレるととにかくマズい!

必死に頭をまわらせて、このサンタがされたくないことを

思いつく限りまくしたてた。

 

「オレの話を聞いてくれ。

オレはお前がここに来たことについては

好きに言いふらすことができる。

サンタの三太がラベンダーを慌てて頼ってきたこと。

サンタ界が大変だと助けを求めてきたこと。

それから、これからお前が話す内容について口外しない

ことを誓ったこと。

いま言ったことをアロマ連合の『真の薫香』に報告する」

 

「言えばいい。俺は困らない」

 

オレは手を離し早々に連合本部へ向かおうとした。

が、三歩と歩かないうちにサンタがオレの腕をつかむ。

 

「わかった! わかった!! 俺の負けだ!

本当に緊急事態なんだ、たのむ」

 

冷や汗がびっしり出てきた。内心ダメかとあきらめていたが、

最後まで行動してよかった。

 

「俺はなにを誓えばいい?」

「オレがラベンダーの部屋にいることを口外しないと誓ってくれ」

「おまえ、ストーカーか!?」

「断じてちがう」

「くそ! こんな状況じゃなかったらこんな契約なんかッ――」

「しないならしないで構わんぞ。『真の薫香』に報告するから」

「するよ『迷い仔――」

「絶対にオレがこの部屋にいることを誰にも教えないという

契約内容になるよう、結べよ? もし詠唱にあいまいな表現があってみろ!

連合本部にあることないことまで言うからな」

 

(契約というのは大切だ。自分ではちゃんと誓ったつもりでも、

もしあいまいな表現をしてしまえば好きに解釈されてしまう。

どういう言葉を使うかで、自分の立場を有利にも不利にもしてしまうから、

一番気をつけなければいけないことのひとつだ。

読者のみんなも精霊と契約する時は気をつけろよ。

ま、賢い諸君ならそんな愚行はしないと思うが)

 

「……ちょっと言葉を考えさせて」

しばしの間サンタは目をつむり、思考にふけった。

そして、呼吸を整える。

 

息の音が聞こえた。サンタがオレの手をつかむ。

 

「『迷い仔の目印』の名において誓う――サンタの三太は

植物の精霊オレンジが協力してサンタ界を救ってくれたあかつきに、

植物の精霊であるラベンダーの部屋に侵入していた事実を誰にも教えず、

死後の次元まで持って帰ることを誓う」

 

ふたたび光の鎖が現れて、オレとサンタの手を結んで消えた。

 

「ふむ、いいだろう」

目をつむって聞いていたが、まあ悪くない詠唱だ。最初のフレーズを除いて。

「この変態野郎」

「おい、言葉には気をつけろ。オレはまだおまえの話を聞いていないからな。

好きなように解釈して、サンタ界の危機的状況をねつ造して報告できるんだからな」

 

(契約内容の穴とはこういうことだ。こういう風にして契約相手を

追い詰めていくことができる。よし、学んだな?)

 

「そっちこそ、協力しないとどうなるか、わかってるんだろうな?」

 

サンタが言い終わるか終わらないかのうちに、恐ろしいことが起こった。

 

バッキ―――ンと、金属製のものが割れるような高い音が響き渡った。

念力を破る音だ。ラベンダーの部屋のドアが開かれた。