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のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第11輪 サンタの現実

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

サンタクロース? あっははは! そんなもんいないいない。

ニンゲンが作った偶像さ

 

               ――マノン・ガトフォセ

         1999年――日本人少年に対しての発言

        (『ラベンダーさんとマノン・ガトフォセ』より抜粋)

 

五人のサンタの写真

 

バッキ―――ンと、金属製のものが割れるような高い音が響き渡った。

念力を破る音だ。ラベンダーの部屋のドアが開かれた。

 

「は、っは、開いた……」

 

部屋の入り口には疲れ気味のマノンがいた。

 

オレは驚いた。「どうやって開けたんだ!?」

 

「がんばったら開いた」

「がんばってって――がんばって開くものじゃないぞ」

 

本気でドアを封じていないとはいえ、本来人間に開けるのは不可能だ。

マノンめ。以前よりも霊能力が強くなっているな。

 

「ねえ、ラベンダーは? その人はだれ?」

「えーと、ペール・ノエルだ」

「おい、言うなよ」サンタがにらんできた。

「これぐらいべつにいいだろ」

 

(ペール・ノエルというのはフランス語でサンタを意味する言葉だ。

日本語に訳すとクリスマスおじさん by オレンジ)

 

「え、クリスマスおじさん!?」

「そうだぞ。こいつがあの超世界的有名人、クリスマスおじさんだぞ!」

「やめてくれよ」サンタは顔を赤らめながらも、まんざらでもなさそうだった。

 

しかし、次のマノンの言葉を聞いてサンタは顔をしかめる。

 

「うっふふふ、からかうのはやめてよ。

そのヒトがクリスマスおじさんなわけないでしょ」

 「お嬢さん、どうしてそう思うんだい?」

「だって赤い服着てないし、そもそも年が若いわ。

本物のクリスマスおじさんだったら、もっと年がいってるはずよ」

 

「ぷ、っくくくくくハッハッハッハッハ、これは傑作だ!!」

 

オレさまの笑い声を聞いたサンタは、さっきとはべつの種類の赤い顔になった。

「その赤さなら、今度はクリスマスおじさんだと思われるだろうぜ」

「うっせーよ!」

 

ぽかんとしているマノンにサンタはムリヤリ笑顔を作った。

 

(マノンは14歳という年以上に賢いので周りの子供より大人びて見えるが、

こういう話題でぽかんとする姿は子供らしい。

それもあって、紳士なオレンジさまは大人げもなく笑ってしまったのだ)

 

「い、いいかいお嬢さん、サンタだって

いつもあんな赤い服を着ているわけじゃないんだ。

それに赤い服というのは人間の勝手なイメージで、ヒトによって

好きな色の服を着ているよ」

 

「そうなんだ」

 

「そもそも、これは出会った霊能力者全員に言っていることなんだけど、

サンタだっていっぱいいるんだから、年だって若いヒトから年配の方まで

いっぱいいるよ」

 

「そうだったんだ」

 

 「それにさ、みんなクリスマスにプレゼントされるとか思ってるケド、

クリスマスっていうのはあくまでイベントであって、

その前から霊界から君たちにプレゼントを届けているんだよね。

クリスマス当日の――しかも子供たちが夜眠っている間に

地球中にプレゼントを届けろって、相当なブラック企業だよ?

ぼくだったら労働基準法違反で訴えるね」

 

「……………………………………………」赤髪の少女は口を堅く結んだ。

 

マノンが、あのマノンが、うなだれて瞳から光を消している。

子供らしい一面もあるんだなぁ。

「子供の夢を壊すサンタって、最低だな」

「ごめん、そんなつもりじゃ……

ただ、本当のサンタを知ってもらいたくて」

 

 

 

三太の耳に聞き取れるぎりぎりの音量で、消え入るように、

それはつぶやかれた。

クリスマスおじさんなんてダイッキライ。

 

停止した機械のように動かなくなった三太にオレンジは油をさした。

 

「おい、まだ時間はあるのか? めんどうごとはとっとと終わらしちまおうぜ」

「あ、ああ、そうだね」

「サンタ界が大変って、どういう意味なんだ?」

「じつは、サンタ界のあった空間がなくなっているんだ」

「空間がなくなっている? どういうことだ」

「それがわからないから困っているんだ。俺が別件から帰ってきてサンタ界に

戻ろうとしたら、あるはずの場所にサンタ界がなかったんだ!」

「みんなおまえのことが嫌いだから、引っ越しちまったんじゃないか?」

「そんなことはない!」

 「簡単に言うと、世界がまるごとなくなっちまったってことか……

だが、そんな話は聞いたこともないぞ」

「だけど、本当なんだ。詳しくは話せないけど、

サンタ界はいま本当に忙しくて、大事な時期なんだ。

もしかしたら、だれかのしわざかもしれない」

「だれがそんなことするんだ?」

「サンタ界が潰れてよろこぶ連中なんて、腐るほどいるだろ――」

 

そこまで言いかけて三太は涙を流した。

自分の言葉に、胸がしめつけられてしまったのだ。

もしサンタ界が潰れて跡形もなくなってしまっていたら――。

そのことを考えただけで、ゾッとする。

だれかを助ける立場のはずの自分が、泣いてしまうとはみっともない。

 いままで真面目に業務に取り組んできたベテランサンタの三太は、

恥ずかしさと悔しさで涙が止まらなくなっていた。

 

 しかし、三太に一筋の光明がさす。

「だいじょうぶですか? わたしでよかったら力になりますよ」

聖母マリアが助けに来てくれたように三太は感じた。

さし出されたタオルはまるで、慈愛でできているようだ。

タオルを顔につけると、ラベンダーの匂いがした。なつかしい匂いだ。

気分がだいぶ落ち着いてきて、勇気とエネルギーが体の中からわき出てくる。

「ありがと――……」

そして冷静になったひとりのサンタは、自分のミスに気がつくのだった。

 

タオルに顔をうずめたまま、静かな声で三太はつぶやいた。

「オレンジ……」

 

「どうした?」

「いま、この部屋には、だれがいる?」

オレンジはにやにやしながら答えた。

「オレと、おまえと、マリアさまみたいに優しい女の子がいるな」

 

「……何てことをしてくれたんだおまえは!!」

「べらべらと勝手にしゃべったのはおまえだろ! ヒトのせいにすんなよ」

「ま、まあいい、どうせ聞いたって理解できないだろう」

 

三太のそでを、マリアさまみたいに優しい女の子がひっぱった。

「あの、ラベンダーから聞いたんですけど、

人間がこれからの人生で必要なものを、霊界の世界で間接的に

届けているんですよね? もしその、サンタ界?

――っていうのがなくなっているんだったら、それって……その、

ヤバくないですか? これからプレゼントが届かなかったら…………」

 

三太は、まさかラベンダーからサンタについて聞いているとは思わず、

マノンがひとことひとことしゃべるたびに、どんどん顔を青くしていった。

 

「きみは何も心配しなくていい。安心したまえ!

なに、ちょっとしたトラブルだよ、人生にはつきものだろ?

私とそこのオレンジさんとで解決できる問題だから、クリスマスには間に合うよ。

それと、いま聞いた話はだれにも言ってはいけない。

もし知れ渡れば混乱が起きて、本当にクリスマスどころじゃないからね」

 

 マノンの両肩をつかんでそう言うと、今度は三太はオレンジの腕をつかんだ。

「さあ行くぞオレンジくん、出発だァ!」

オレンジが口外しないと誓った秘密がばれてしまったからか、

三太のテンションは変だった。

 

「ちょっとまってください、わたしも連れて行ってください!」

「いや、ダメだ」

「どうして!」

「きみは人間だ。そもそも霊界に来ることはできない」

 

マノンにはいまの三太の言葉がウソだとわかっていた。

なので、三太のことを試してみることにした。

 

「ウソ! あなたほどの精霊だったら、

人間が霊界に行く方法も知っているんでしょう?」

「危険だからダメだと言っているんだ!」

「たしかに危険かもしれないけど、役立てることだってあるはずだわ。

人間だから――女の子だから弱いと決めつけているんでしょう!

わたしだって霊能力者よ! さっきだってあの念力がかけられたドアを

開けることができたわ。あなたとオレンジだけが特別だと思わないで!」

 

 

 

「ほう、なぜあれが念力だとわかったんだ?」

オレは怒鳴ろうとするサンタを制し、真剣な声音でマノンに訊いた。

 

「そ、それは……」

「マノン、おまえ――」

しかしサンタが割って入ってきた。

「念力を破ってドアを開けられたぐらいなんだ!

そんなこと誰だってできる。この件はね、きみには関係がないの。

子供は子供らしく宿題でもやって、クリスマスを待ってなさい!」

 

ピシャリと言い放つとサンタはオレの手をひっぱっていく。

 

「お、おい、いまのは言い過ぎだ!」

 

サンタはこれ以上話し合ってもらちが明かないとばかりに

オレをひっぱり、絵画の前に立った。

 

絵画はサンタが部屋にやってきた時と変わらず、雪道の絵だった。

絵画のポータルに入るサンタとオレの背中に、悲痛な叫びが刺さる。

 

「関係ないことなんかないわ!」