読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

のほほんほわほわ

植物擬人化小説『ラベンダーさん』が読めます

第8輪 ローヌ川の憂鬱

ラベンダーさんと黄金のリンゴⅠ サンタの国

大丈夫よ、いままでだって耐えてきたじゃない

 

                 ――ラベンダー

 

川を流れるゴミの写真

 

オレは夕陽に輝くエメラルドグリーンのローヌ川をずっとながめていた。

はあと吐いた息が白かった。

 

香りで体温を温かくしているので、寒さはあまり感じない。

 

「ねえ、なんか良い匂いしない?」

近くを歩いていた金髪の女の子がとなりの体格のいい男の子に話しかけている。

 

ちょっと香りを出しすぎてしまったようだ。

全ての生命の元気の源である太陽のようにエネルギッシュなのに、

それでいて自然に受け入れられる親近感のある香り。

 

ん? もっと女の子受けのする描写でたのむって?

 

オレの好みじゃないんだけどなあ。

 

さっぱりとしてフルーティーで、初恋のように甘酸っぱい香り……。

かーっぺ! こんななよっちい言葉はオレのイメージに合わない。

 

川の流れを見ていると心が落ち着いてくる。

このオレンジさまにもストレスはあるし、不満だってもちろんある。

それなりに自由に生きちゃあいるが。

 

主にだれに対する不満かは言わないでおく。

 

(お前ら人間に決まっているだろ)

 

川を見ていると心が痛むことがある。

投げ捨てられた空き缶やゴミ袋、あとはなんだかよく分からないものが

たまに流れてくるからだ。

 

つい拾おうとベンチから立ち上がってしまったが、すぐに腰をおろした。

 

まあ、精霊の世界にもいろいろとルールがある。

やっていいこと、いけないこと。干渉できること、できないことの

決まりというものがある。

 

だから、オレを責めないでくれ。

 

(やっていいことというのは、代表的なのは

たとえば選ばれた人間の人生を手助けすること。イエスとか、いまオレと仲良しの

はげのおっさんとか。あとは戦争や災害時に被害を最小限に

とどめるようにしたり、予定にない疫病をこらしめたり。

ほっといたら自然界そのものが危なくなってしまう状況だと、

オレたち精霊の出番というわけ。

 

反対にやってはいけないことというのは、人間の抱えた課題に直接手を貸すこと。

たとえば、いまオレたちがゴミを拾いまくったり木を植えまくって問題を解決したら

どうなると思う? 

自分が親だった時、子どもをどんな風に育てるかってことだ。

だから場合によっては疫病でも放置したり利用したりすることもある。

 

それと意外に思うかも知れないが、人間を殺すことは禁止されていない。

良くも悪くもないグレーゾーンだな。

いいかげんにしないとゲンコツが降ってくるのはどこの世界も同じだ)

 

科学ばっかり進歩しやがってなぁ。まったく。

 

「〈ダレカさん〉のせいかもしれないわよ。ごみが流れているのは」

 

後ろから声をかけられた。

 

この香りは……。

 

「はっ、なんで〈ダレカさん〉がそんなことするんだ?

 

「川をごみで埋め尽くせば、自然にごみを捨ててはいけないということを

ニンゲンに伝えられるから?」

 

 「やめてくれよ……その前にオレらが耐えられない」やつの言葉にオレは苦笑した。

 

となりを見ると、あわい紫色の髪の少女が座っていた。見た目は14歳ぐらい。

オレよりも少し年上の姿だ。匂いでわかったがいまはおだやかな気分らしい。

 

水平線に浮かぶ、冬の寒さを吹き飛ばすような夕陽が少女を照らし

顔を星色に輝かせる。

その笑顔は、どんな画家にも描けない芸術を見ているようだった。

 

……服のすけ具合も含めて。

 

「大丈夫よ、いままでだって耐えてきたじゃない」

 

「どうだろうな。ところで何しに来たんだ?」

 

「さっきのことまだすねてるの?」

 

「さっきのこと? オレはローヌ川が見たくてここに来ただけだ」

 

「そう? じゃあほら、帰ろ。夕飯の支度できてるよ」 

 

立ち上がり手招きするので、オレとラベンダーは歩き出した。

 

「今日は何が出てくるんだ?」

 

「グレゴリアックハンマーのポワレとオレンジの香りをまとったMs.ベパチョと

シナモン風味のタイタンタルト・ゼウスンチョコレート添え」

 

「グレ……ベパ……? なにそれ」

 

「味は保証する」

 

「料理の腕前は知ってるけど、それハマってんの?」

 

「名前が長いとなんかおいしそうに感じるでしょ」

「いや、わからん」

「わかれよ」

「わからん」